設立の手続き
探偵業の法人成りは届出の出し直し。個人の届出は会社で使えない
結論
探偵業法の届出は「探偵業を営もうとする者」ごとに出すもので、法人成りでは会社が営業所ごとに公安委員会へ新たに届け出ます(4条1項)。期限は営業を始める日の前日まで、個人の廃止届は廃止の日から10日以内です。許可制ではなく届出制で、手数料標準政令にも登録免許税法の別表にも項目がないため、法人化の判断はほぼ税・社会保険の差で決まります。東京23区・経費400万円の試算では、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度1,341万円です。
- 届出をしないで探偵業を営むと6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(18条1号)。個人の届出で会社に営ませるのは名義貸しの禁止(5条)に当たる
- 法人の届出には定款・登記事項証明書と、役員全員の履歴書・住民票の写し・身分証明書・誓約書が要る(施行規則2条3項2号)
- 探偵業務は探偵業者以外に委託できない(9条2項)。外注の調査員も自ら届出をした探偵業者である必要がある
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
探偵業は許可制ではなく届出制です。取り直しといっても審査で待たされることはなく、費用もほとんどかかりません。そのぶん見落としやすいのが、会社で営業を始める前日までに会社の届出を出すという期限と、個人の届出を会社の営業に使えないという点です。
この記事では探偵業法と施行規則で手続きを確かめ、届出の負担が小さい業種で法人化の損益分岐がどこにあるかを計算エンジンで出します。同じ公安委員会の手続きでも認定制の警備業は警備業の法人成り、古物商や建設業などほかの許認可は法人成りで許認可は引き継げるかで扱っています。
届出は「営む者」ごと。会社は自分の名前で届け出る
探偵業を営もうとする者は、営業所ごとに、所在地を管轄する都道府県公安委員会へ届出書を出します(探偵業法4条1項)。届出書に書くのは商号・名称または氏名、営業所、広告に使う名称、法人なら役員の氏名と住所です。
届出の主語は「営もうとする者」なので、個人事業主と、その人が作った会社は別の者です。探偵業法には届出の地位を他の者へ移す条文がなく、変更届(4条2項)の対象も「届出をした者」の商号や役員などの変更に限られます。事業主が個人から会社に変わるのは変更ではなく、会社の新規の届出として扱うことになります。
| 場面 | 手続き | 期限 |
|---|---|---|
| 会社で探偵業を始める | 会社が営業所ごとに開始の届出(4条1項) | 開始しようとする日の前日まで(施行規則2条2項) |
| 個人の探偵業をやめる | 個人が廃止の届出(4条2項) | 廃止の日から10日以内(施行規則3条2項) |
| 会社の商号・役員・営業所が変わる | 会社が変更の届出(4条2項) | 変更の日から10日以内。登記事項証明書を添付する場合は20日以内 |
届出書はいずれも営業所の所轄警察署長を経由して1通出します(施行規則1条の2)。
届出しないで営業したとき・名義を貸したときの罰則
| 違反 | 罰則 |
|---|---|
| 届出をしないで探偵業を営んだ(18条1号) | 6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 自己の名義で他人に探偵業を営ませた(5条・18条2号) | 6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 廃止・変更の届出をしなかった(19条2号) | 30万円以下の罰金 |
21条の両罰規定で、違反した行為者のほか会社にも罰金が科されます。会社を設立しただけで契約を会社名義に切り替え、個人の届出のまま調査を続けると、上の2行目に当たるおそれがあります。
法人の届出は、役員全員が欠格事由の対象になる
個人の届出で添付したのは本人の履歴書・住民票の写し・誓約書・市区町村長の身分証明書でした。法人では次の書類になります(施行規則2条3項2号)。
- 定款と登記事項証明書
- 役員全員の履歴書・住民票の写し・身分証明書(破産して復権を得ない者に当たらない旨の市区町村長の証明書)
- 役員が欠格事由に当たらないことの誓約書
法人は、役員のうちに欠格事由(破産して復権を得ない、拘禁刑以上の刑の執行後5年を経過しない、暴力団員など)に当たる者が1人でもいると探偵業を営めません(3条7号)。家族を役員に入れて報酬を分けるなら、その人も審査の対象になります。
登記事項証明書は会社の設立登記が終わらないと取れません。設立登記の完了日から逆算して、会社の営業開始日を決めることになります。
手数料と登録免許税はかからない前提で計算できる
許可制の業種では、法人成りの実費が初年度の差額を押し下げます。職業紹介なら手数料5万円と登録免許税9万円、警備業なら認定手数料の標準額2万3,000円がかかりました。
探偵業の届出は、地方公共団体の手数料の標準に関する政令の別表に項目がなく、登録免許税法の別表にも載っていません。そこで、この記事の試算では法人成りの一時費用を設立費用(合同会社で10万円)だけとして扱いました。届出に伴って都道府県が独自に手数料を定めていないかは、主たる営業所の警察署で確認してください。
届出のほかに作り直すもの
届出そのものより手間がかかるのは、依頼者に渡す書面と表示の作り直しです。
| もの | 根拠 | 法人成りで変わる点 |
|---|---|---|
| 重要事項説明書 | 8条1項 | 商号・代表者の氏名、届出をした公安委員会の名称を会社のものに |
| 契約締結時の書面 | 8条2項 | 契約の当事者が会社になる |
| 標識の掲示 | 12条2項 | 会社の届出に基づく標識を営業所に掲示 |
| 標識のウェブ掲載 | 12条2項・施行規則6条 | 常時使用する従業者が5人以下か、管理するウェブサイトがなければ不要 |
| 従業者名簿 | 12条1項・施行規則4条 | 会社として備え付ける |
外注先の調査員も「探偵業者」であること
探偵業者は、探偵業務を探偵業者以外の者に委託できません(9条2項)。経費の多くを外注の調査員に払っている事務所では、外注先も自ら届出をした探偵業者であることが前提です。法人成りの前後で、個人の事務所と新しい会社のあいだで業務を回すときも、委託する側・される側の双方が届出済みかを確かめておく必要があります。
探偵業は個人事業税の第1種事業(興信所業)に当たり得る
個人の探偵業で税の判断を大きく動かすのが、個人事業税です。地方税法72条の2第8項31号を受けた地方税法施行令10条の7は、第1種事業(税率5%)に興信所業を挙げています。所在・行動の調査を請け負う探偵業がこれに当たると判定されれば、事業主控除290万円を超える所得に5%がかかります。
業種の判定は都道府県が行うので、自分の課税の有無は前年の納税通知書で確かめるのが確実です。個人事業税は法人化で消える税の1つで、課税されているかどうかで損益分岐は大きく変わります。
経費400万円の試算では、損益分岐は1,243万円
東京23区・経費400万円・単身・40〜59歳の探偵事務所を、計算エンジンで比較しました。役員報酬は月5万〜100万円を総当たりして手取りが最大になる額を選んでいます。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −34.0万円 | −44.0万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −18.9万円 | −28.9万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −10.0万円 | −20.0万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −4.3万円 | −14.3万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +26.1万円 | +16.1万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +65.8万円 | +55.8万円 |
損益分岐(事業所得・青色申告特別控除前)は次のとおりです。
| 個人事業税 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|
| 第1種事業(5%)として課税 | 1,243万円 | 1,341万円 |
| 課税されない | 2,277万円 | 2,416万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(scripts/tanteigyo-houjinnari.mjs で再生成)で算出。経費400万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。2026年(令和8年)分基準の概算。差額はプラスが法人化有利
個人事業税が課税されているかどうかで、損益分岐は1,000万円以上ずれます。 届出の費用がほぼゼロの探偵業では、初年度と2年目以降の差も設立費用の分だけです。判断を分けるのは手続きではなく、個人事業税・社会保険料・役員報酬の組み合わせです。計算の前提は計算方法にまとめています。
ここに出したのは1つの条件の例です。配偶者の有無や自治体、経費の額で数字は動くので、自分の売上と経費で確かめてください。
まとめ
- 探偵業の届出は営む者ごと。法人成りでは会社が営業所ごとに新たに届け出て、期限は営業開始の前日まで
- 個人の廃止届は廃止の日から10日以内。個人の届出で会社に営ませるのは名義貸しの禁止に当たるおそれがある
- 法人の届出では役員全員が欠格事由の対象になり、定款・登記事項証明書が要る
- 届出は手数料標準政令・登録免許税法の別表に項目がなく、法人成りの一時費用は設立費用が中心
- 東京23区・経費400万円の試算で損益分岐は2年目以降1,243万円・初年度1,341万円。個人事業税が課税されなければ2,277万円
よくある質問
個人の探偵業届出証明書を、会社のホームページや契約書に載せ続けてもよいですか。
会社として営業するなら、会社の届出に基づく表示に切り替えます。重要事項説明書には探偵業者の商号と届出をした公安委員会の名称を書く決まりで(8条1項)、個人の届出を会社の営業に使うと名義貸しの禁止(5条)に触れるおそれがあります。
法人成りの後、個人の探偵業はいつ廃止すればよいですか。
会社の届出を営業開始の前日までに出し、会社で営業を始めて個人の営業をやめたら、その廃止の日から10日以内に個人の廃止届を出します(施行規則3条2項)。どちらも営業所の所轄警察署を経由して提出します。
配偶者を役員にすると、届出に何か影響しますか。
法人では役員のうち1人でも欠格事由(破産して復権を得ない、5年以内の拘禁刑など)に当たると探偵業を営めません(3条7号)。役員に加える人の分も、履歴書・住民票の写し・身分証明書・誓約書を添付します。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。