設立の手続き

警備業の法人成りは認定の取り直し。空白期間を作らない順番

結論

警備業法には認定を他の者へ移す条文がなく、法人成りでは会社が主たる営業所の公安委員会に新規の認定を申請し直します。個人の認定は警備業の廃止届(廃止の日から10日以内)で効力を失います。認定手数料は政令の標準額が2万3,000円(実額は都道府県の条例)で登録免許税はかからず、東京23区・経費500万円の試算では損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度は設立費用と認定手数料を乗せて1,364万円です。

  • 警備業法12条は死亡と合併のときに届出を求めるだけで、相続人や存続会社にも認定は移らない。個人から法人への切り替えは新規認定
  • 認定を受ける前に警備業を営むと100万円以下の罰金(57条1号)。法人の認定の通知を受けてから個人の廃止届を出す順番になる
  • 法人では役員全員が欠格事由の審査対象になる(3条10号)。配偶者を役員にするなら、その人も審査を受ける

警備業の法人成りで気をつけるのは、費用よりも認定が切れる日を作らないことです。認定は「警備業を営む者」本人に付くので、事業主が個人から会社に変わると、会社が認定を受け直すまで警備業を営めません。

この記事では、認定の扱いを警備業法と施行規則で確認し、取り直しの実費が初年度の差額と損益分岐をどれだけ動かすかを計算エンジンで出します。古物商・建設業などほかの許認可は法人成りで許認可は引き継げるか、同じく取り直しになる人材紹介は有料職業紹介の法人成りで扱っています。同じ公安委員会でも届出制の探偵業は探偵業の法人成りを参照してください。

警備業法に承継の条文はなく、死亡・合併でも届出だけ

警備業を営もうとする者は、欠格事由(3条各号)に当たらないことについて、都道府県公安委員会の認定を受けなければなりません(警備業法4条)。認定の有効期間は認定を受けた日から5年で、続けるには更新が要ります(5条4項・7条)。

同法には、認定を他の者へ移す条文がありません。目を引くのは12条です。認定を受けた者が死亡したときは同居の親族などが、法人が合併で消滅したときは存続会社などの代表者が、届出書を出すと定めています。届出を求めるだけで、相続人や存続会社が地位を引き継ぐとは書いていません。

場面警備業法の扱い
個人事業主が法人化する規定なし。法人が新規に認定を申請
個人の警備業者が死亡する同居の親族等が届出(12条1項1号)。承継の規定はない
法人が合併で消滅する存続・新設会社の代表者が届出(12条1項2号)。承継の規定はない
個人が警備業を廃止する廃止届の提出で認定は効力を失う(10条)
名称・住所・役員・営業所などが変わる変更届(11条)

古物商(古物営業法)も同じ公安委員会の許可ですが、建設業法の17条の2や食品衛生法の56条のような承継の仕組みは警備業法にもありません。個人から会社への切り替えは、新規認定の側に入ります。

認定の実費は、政令の標準額で2万3,000円

項目根拠金額
認定の申請の審査手数料標準政令 101の項2万3,000円
認定の有効期間の更新同上2万3,000円
警備員指導教育責任者資格者証の交付同 102の項9,800円
登録免許税登録免許税法 別表第一課税なし(警備業の認定は列挙されていない)

認定の手数料は都道府県が条例で定めます。政令はその標準額で、実額は主たる営業所のある都道府県の条例で確認してください。登録免許税がかからないので、職業紹介(9万円)や派遣(9万円)より実費はずっと小さくなります。

認定を受ける前に営業すると罰金。順番は「法人の認定→個人の廃止」

認定の申請をしないで、または認定の通知を受ける前に警備業を営んだ者は、100万円以下の罰金です(57条1号)。会社を作っただけで警備契約を会社名義に切り替えると、この条文に当たります。

空白期間を作らない順番は次のとおりです。

  1. 会社を設立する。個人の認定のまま、個人として警備業務を続ける
  2. 会社が主たる営業所の所轄警察署を経由して、公安委員会に認定を申請する
  3. 認定の通知を受けたら、警備契約と警備員の雇用を会社名義に切り替える
  4. 個人の廃止届を、警備業を廃止した日から10日以内に所轄警察署経由で出す(施行規則15条2項)

主たる営業所のある都道府県の外に営業所を設けたり警備業務を行ったりしていた人は、会社としてもその都道府県の公安委員会へ届出(9条)をし直します。個人の廃止届も、それらの警察署を経由して出す扱いです。

認定の通知までの期間は、法律に定めがありません。法人設立日を決める前に、所轄警察署で目安を確認しておくと段取りが崩れません。個人事業の廃業届の側は法人成りの廃業手続きで扱っています。

法人では、役員全員と指導教育責任者が審査に乗る

個人の認定では、欠格事由を見られるのは事業主本人だけでした。法人の認定では、役員のうちに3条1号〜7号(破産者で復権を得ない者、一定の刑から5年を経過しない者など)に当たる人がいる法人そのものが欠格になります(3条10号)。

役員には、業務を執行する社員・取締役のほか、名称を問わず同等以上の支配力を持つ人も含まれます。合同会社で配偶者を業務執行社員にする、株式会社で親族を取締役に入れる、といった設計をすると、その人も審査の対象です。申請書には役員全員の氏名と住所を書きます(5条1項4号)。

指導教育責任者は、資格者証を持つ人を会社が選任する

警備業者は、営業所ごと・警備業務の区分ごとに、警備員指導教育責任者を資格者証の交付を受けている人から選任しなければなりません(22条1項)。選任しないと100万円以下の罰金です(57条5号)。

資格者証は個人に交付されるものなので、社長本人が持っていれば会社がその人を選任すれば足ります。選任した人が欠けたときは、14日間に限って選任しなくてもよいとされています。選任できると認められない相当な理由があると、そもそも認定を受けられません(3条9号)。

警備契約・標識も会社名義に替える

  • 標識:認定を受けたことを示す標識は、主たる営業所に掲示し、原則としてウェブでも公衆の閲覧に供します(6条)。個人の標識を会社で使うことはできません
  • 契約前・契約時の書面:警備業務の依頼者に交付する書面(19条)は、会社の名称で作り直します
  • 既存の警備契約:個人と結んだ契約は、そのままでは会社との契約になりません。契約の地位を会社へ移す一般的な扱いは法人成りで取引先との契約は移らないで扱っています

取り直しの実費が、差額と損益分岐をどれだけ動かすか

警備業は人件費が大きく、経費の水準は事業者で大きく違います。ここでは経費500万円で固定し、事業所得を動かして当サイトの計算エンジンで実質差額を出しました。

事業所得(売上−経費)最適な役員報酬2年目以降初年度(設立費用+認定手数料)
600万円月42万円−34.0万円−46.3万円
800万円月45万円−18.9万円−31.2万円
1,000万円月45万円−10.0万円−22.3万円
1,200万円月54万円−4.3万円−16.6万円
1,500万円月54万円+26.1万円+13.8万円
2,000万円月90万円+65.8万円+53.5万円

※ 当サイトの計算エンジン(scripts/keibigyo-houjinnari.mjs で再生成)で算出。経費500万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社、個人事業税は第1種(5%)。法人の税理士報酬年35万円・個人15万円。初年度は設立費用10万円と認定手数料2.3万円(政令の標準額)を差し引く。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。社長以外の従業員の社会保険は含まない。2026年(令和8年)分基準の概算

認定の取り直しで上乗せされるのは、初年度の一時費用2.3万円だけです。2年目以降の差額は通常の法人化と変わりません。

個人事業税の扱いで、損益分岐は1,000万円以上動く

地方税法の第1種事業の列挙に「警備業」という業種名はありません。請負業などに当たるかは事業所のある都道府県が判断します。そこで、課税される場合とされない場合の両方で損益分岐を出しました。

個人事業税の扱い2年目以降初年度(設立+認定)
第1種事業(5%)として課税1,243万円1,364万円
課税なし2,277万円2,441万円

※ 損益分岐は事業所得(青色申告特別控除前)。前提は上の表と同じ

法人化で消える個人事業税が5%か0円かで、損益分岐は1,000万円以上違います。自分の個人事業税の通知書で課税されているかを確かめてから判定ツールに入れてください。業種ごとの考え方は個人事業税は業種でいくら変わるかで扱っています。

警備員を雇っている人は、社会保険の負担が別に乗る

上の表は社長1人分の社会保険だけを計算しています。法人は従業員が1人でもいれば健康保険・厚生年金の適用事業所になり、常用の警備員も原則として加入の対象です。個人のときに警備員を社会保険に入れていなかった人は、その事業主負担分が法人化で新たに増えます。人数と賃金で変わるので、表の差額からその分を差し引いて見てください。

認定の実費は小さく、法人化の損得はほぼ所得水準・個人事業税・従業員の社会保険で決まります。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で判定ツールを回して確かめてください。

まとめ

  • 警備業法には認定の承継の規定がなく、死亡・合併でも届出だけ。法人成りでは会社が新規に認定を受ける
  • 認定前に営業すると100万円以下の罰金。法人の認定の通知を受けてから切り替え、個人の廃止届は廃止の日から10日以内
  • 法人では役員全員が欠格事由の審査対象。指導教育責任者は資格者証を持つ社長本人を会社が選任できる
  • 実費は認定手数料(政令の標準額2万3,000円)だけで、登録免許税はかからない
  • 東京23区・経費500万円の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円・初年度1,364万円。個人事業税が課税されない場合は2,277万円

よくある質問

個人の警備業の認定番号を、法人でそのまま使えますか。

使えません。警備業法には認定の承継の規定がなく、法人は自らの名称で認定を申請し直します。認定の有効期間も法人が認定を受けた日から5年で数え直しになります。

社長本人が警備員指導教育責任者を兼ねられますか。

警備員指導教育責任者は資格者証の交付を受けている人の中から選任する仕組みで、資格者証は個人に交付されます。個人事業のときに自分が資格者証を持っていたなら、会社がその人を選任すれば足ります。

法人成りの後で合同会社から株式会社に変えたら、認定は取り直しですか。

警備業法は組織変更について個別の規定を置いていません。名称や役員の変更は変更届(変更の日から10日以内、登記事項証明書を添付する場合は20日以内)の対象ですが、組織変更をどう扱うかは事前に主たる営業所の所轄警察署で確認してください。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。