設立の手続き

質屋営業の許可は法人成りで取り直し。流質期限3か月の重なりに注意

結論

質屋営業法には許可を承継する規定がなく、法人成りでは会社が営業所ごとに都道府県公安委員会の許可を受け直します。手数料の標準額は1件2万2,000円です。個人で結んだ質契約は流質期限まで受戻しを受ける義務が残り、流質期限は3か月未満にできないため、会社の許可が出たあとも少なくとも3か月程度は個人の許可を残して並行させる段取りになります。

  • 無許可の質屋営業は3年以下の拘禁刑もしくは10万円以下の罰金、または併科(30条)。法人の役員に欠格者がいると会社の許可は出ない(3条1項10号)
  • 個人の廃業は公安委員会へ届け出て、許可証は10日以内に返納する(4条2項・9条1項1号)
  • 東京23区・40〜59歳・金銭貸付業(第1種5%)の試算では、損益分岐は2年目以降1,243万円、許可手数料を含む初年度1,363万円

質屋を個人で営んでいる人が法人化すると、質屋営業法の許可は会社へ移りません。会社が都道府県公安委員会の許可を受け直します。

ここまでは古物商と同じですが、質屋には古物商にない事情が1つあります。個人で預かった質物を、流質期限まで返せる状態で持ち続けなければならないことです。この記事では、承継の規定がない条文の構造、会社で許可を受ける順番、個人と会社の許可を並行させる期間を確認し、最後に損益分岐を計算エンジンで出します。

質屋の許可は「営業所ごと・人ごと」で、承継の規定がない

質屋営業法は、物品を質に取り、流質期限までに返済がなければその質物で弁済に充てる約款を付けて金銭を貸し付ける営業を「質屋営業」と定めています(1条1項)。営むには、営業所ごとに、所在地の都道府県公安委員会の許可が要ります(2条1項)。

法律の中で、許可を受けた者が替わる場面を扱う条文は次の2つだけです。

場面条文定め
質屋が廃業したとき4条2項・9条1項1号公安委員会に届け出て、許可証を10日以内に返納する
質屋が死亡したとき4条3項・9条2項同居の親族・法定代理人・管理者が届け出て、許可証を返納する

事業を譲り受けた人や、合併後の法人が許可を引き継ぐ条文はありません。死亡でさえ、許可は届出と返納で終わる扱いです。個人事業主と、その人が設立した会社は別人なので、法人成りでは会社が新規に許可を申請します。

許可を受けないで質屋営業を営むと、3年以下の拘禁刑もしくは10万円以下の罰金、またはその両方の対象です(5条・30条)。両罰規定があり、会社にも罰金刑が科されます(35条)。

会社の申請では、業務を行う役員が審査される

公安委員会は、法人の業務を行う役員のうちに欠格事由に当たる者がいれば許可をしてはなりません(3条1項10号)。欠格事由は、拘禁刑以上の刑の執行後3年を経過しない者、許可取消しから3年を経過しない者、破産して復権を得ない者などです(同項1号〜7号)。

一人会社なら社長だけの審査ですが、家族を取締役に入れる場合はその人も対象になります。役員の構成は申請前に固めておく必要があります。

保管設備の基準も、会社として満たす

公安委員会は、火災・盗難の予防のため、質物の保管設備の基準を定めることができます(7条1項)。基準が定められている地域では、基準に合う保管設備がないと許可は出ません(3条1項11号)。同じ店舗・同じ蔵を使い続ける場合も、会社の申請で改めて確認されます。

取り直しの手数料は、標準で1件2万2,000円

許可の申請手数料は都道府県の条例で決まりますが、国が標準額を政令で定めています(地方公共団体の手数料の標準に関する政令)。

手続き標準額
質屋営業の許可の申請(営業所ごと)22,000円
営業所の移転の許可12,000円
管理者の新設・変更の許可5,700円
届出に伴う許可証の書換え1,500円
許可証の再交付1,300円

法人成りで払うのは、営業所ごとの新規許可の22,000円です。古物商の許可も持っていれば、その分も別にかかります(古物商の段取りは古物商の法人成りで整理しました)。

個人の質契約は、流質期限まで個人の許可で終える

ここが質屋に固有の論点です。質屋営業法は、質置主が流質期限前はいつでも元利金を払って質物を受け戻せると定めています(17条1項)。そして流質期限は、質契約成立の日から3か月未満で定めてはならないとされています(16条2項。質置主がその品物を扱う営業者である場合は1か月未満)。

個人の許可で結んだ質契約は、個人の質屋が当事者です。質契約を許可業者の間で移す手続きは法律に定めがないので、条文に沿って整理すると、個人で結んだ契約は個人の質屋として受戻しか流質まで扱うことになります。質物の返還や流質物の処分は帳簿に記載し(13条)、帳簿は最終の記載から3年間保存します(14条)。

すると、会社の許可が出た日に個人を廃業することはできません。段取りは次のようになります。

  1. 会社を設立し、営業所ごとに公安委員会の許可を申請する(役員・管理者・保管設備を整えてから)
  2. 会社の許可が出た日から、新しい質契約は会社で結ぶ
  3. 個人で結んだ質契約は、受戻しか流質期限の到来まで個人で扱う
  4. 個人の最後の質契約が片付いたら廃業を届け出て、許可証を10日以内に返納する

流質期限を3か月で運用している店なら、会社の許可が出てから少なくとも3か月程度は個人と会社の許可が並行します。流質期限を長めに設定している店ほど、この期間は延びます。並行期間中は、個人と会社で帳簿・質札・掲示を分けておく必要があります。個別の契約の扱いは、営業所を管轄する警察署に確認してください。

流質物は質屋の所有物になる

流質期限を過ぎると、質屋はその質物の所有権を取得します(18条1項)。個人の契約から生じた流質物は個人の所有物なので、会社の店頭で売るなら、個人から会社への譲渡として扱います。在庫の移し方と税務の扱いは法人成りの棚卸資産の引継ぎを参照してください。

個人事業税と損益分岐

質屋営業は金銭を貸し付ける営業なので、個人事業税の金銭貸付業(第1種事業・税率5%)として試算しました。流質品の販売は物品販売業で、こちらも第1種・5%です(地方税法72条の2第8項)。事業主控除290万円を超えた所得に課税され、法人化するとかからなくなります。代わりに役員報酬に社会保険料がかかります。

人件費以外の経費(店舗・保管設備・警備・保険など)を年400万円と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。初年度には設立費用10万円に加えて、許可の手数料22,000円を差し引いています。

事業所得(売上−経費)最適な役員報酬2年目以降初年度(設立費用・許可手数料込み)
600万円月42万円−34.0万円−46.2万円
800万円月45万円−18.9万円−31.1万円
1,000万円月45万円−10.0万円−22.2万円
1,200万円月54万円−4.3万円−16.5万円
1,500万円月54万円+26.1万円+13.9万円
2,000万円月90万円+65.8万円+53.6万円

※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 400 --business type1 --age 40to64 --fee 22000 --note '金銭貸付業(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費400万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は金銭貸付業(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円と許認可の取り直し費用22,000円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算

損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,243万円、初年度が1,363万円です。

この表には、並行期間の負担が入っていません。個人と会社の両方で帳簿と申告が走る年は、個人の確定申告に廃業までの事業所得が残り、税理士報酬も二重にかかりやすくなります。法人成りの年の個人の申告は法人成りした年の確定申告で整理しました。自分の売上と経費で判定ツールに入れて、分岐点からどれだけ離れているかを確かめてください。計算の前提は計算方法に、設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。

まとめ

  • 質屋営業法には許可の承継規定がなく、法人成りでは会社が営業所ごとに公安委員会の許可を受け直す
  • 無許可営業は3年以下の拘禁刑・10万円以下の罰金(併科あり)。会社の役員に欠格者がいると許可は出ない
  • 許可手数料の標準額は営業所ごとに22,000円。古物商の許可も持っていれば別に取り直す
  • 流質期限は3か月未満にできず、質置主は期限まで受け戻せる。個人の質契約を終えるまで、個人と会社の許可が並行する
  • 東京23区・40〜59歳の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、許可手数料を含む初年度1,363万円

よくある質問

会社を設立したら、個人の質札で預かっている品物は会社に移せますか。

質屋営業法には、質契約を許可業者から別の許可業者へ移す手続きの定めがありません。質置主は流質期限までいつでも元利金を払って受け戻せる(17条1項)ので、個人で結んだ契約は個人の質屋として受戻しか流質まで扱うのが、条文に沿った整理です。個別の契約の扱いは管轄の警察署に確認してください。

社長が営業所を自分で管理しない場合はどうなりますか。

自ら管理しない営業所には管理者を定めます(2条2項)。管理者も欠格事由の審査を受け(3条1項9号)、管理者を新たに置く・替えるときは公安委員会の許可が要ります(4条1項)。標準手数料は5,700円です。

古物商の許可も持っています。こちらも取り直しですか。

古物営業法の許可も個人から法人へ引き継げず、会社で取り直します。手続きは質屋の許可と同じ公安委員会ですが、法律と申請は別です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。