設立の手続き
有料職業紹介の法人成りは許可の取り直し。資産要件500万円は資本金で
結論
職業安定法には許可を承継する条文がなく、厚労省の職業紹介事業の業務運営要領も「個人事業主が法人化する場合は新規の許可申請」としています。法人の実費は手数料5万円+登録免許税9万円の14万円(2事業所目から手数料1か所1万8,000円増)。財産要件の基準資産額500万円・現預金150万円は、設立直後なら会社成立時の貸借対照表で見られるので、資本金500万円で1事業所の基準に届きます。資本金1,000万円以下なので均等割は年7万円のままで、東京23区・経費300万円の試算では損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度は設立費用と許可の実費を乗せて1,479万円です。
- 業務運営要領は、個人事業主の法人化を新規許可とし「許可後は直ちに従前の事業を廃止させる」とする。廃止届は廃止の日の翌日から10日以内
- 基準資産額は500万円×事業所数、現預金は150万円+60万円×(事業所数−1)。派遣業の2,000万円・1,500万円より低く、1事業所なら資本金1,000万円以下に収まる
- 個人事業税の扱いで損益分岐は大きく動く。第1種(5%)なら1,243万円、課税なしなら2,277万円(2年目以降)
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
人材紹介の法人成りで効いてくるのは、許可の手数料より純資産をどこに置くかです。個人の青色申告の貸借対照表で満たしていた財産要件を、法人の貸借対照表でもう一度満たす必要があります。
この記事では、許可の扱いを職業安定法と厚生労働省の業務運営要領で確認し、取り直しの実費が実質差額と損益分岐をどれだけ動かすかを計算エンジンで出します。同じく許可を取り直す労働者派遣事業は財産要件が4倍あり、派遣業の法人成りは許可の取り直しで扱っています。古物商・建設業などほかの許認可は法人成りで許認可は引き継げるかにまとめています。
職業安定法に承継の条文はなく、要領は「新規の許可申請」
有料の職業紹介事業を行う者は、厚生労働大臣の許可を受けなければなりません(職業安定法30条1項)。許可の有効期間は許可の日から3年で、更新を受けると以後は5年です(32条の6)。
同法には、許可を他の者へ移す条文がありません。事業を廃止して届け出ると許可は効力を失います(32条の8)。
厚生労働省の「職業紹介事業の業務運営要領」は、この点をはっきり書いています。第7の「事業組織の変更に関する手続等」で、現に許可を受けている個人事業主が法人化する場合は、新たな事業組織による新規の許可申請を行わせ、許可後は直ちに従前の事業を廃止させる、という扱いです。
同じ第7には、許可を取り直さなくてよい組織の変更も挙がっています。読み比べると、何が「別の事業主」と見られるかが分かります。
| 場面 | 業務運営要領の扱い |
|---|---|
| 個人事業主が法人化する | 法人が新規許可申請。許可後は直ちに個人の事業を廃止 |
| 合名・合資・合同会社の間の種類の変更、持分会社から株式会社への組織変更 | 要件を欠かなければ名称等の変更届 |
| 吸収合併で、許可のない会社が許可のある会社を吸収する | 存続する会社が新規許可申請(合併日と同日付けの許可が可能になるよう事前に申請) |
| 新設合併 | 新設会社が新規許可申請 |
| 個人事業の代表者の死亡 | 許可は消滅。10日以内の死亡届で1か月間は継続でき、その間に新規申請 |
法人成りでは事業主が個人から会社へ変わるため、組織変更ではなく新規許可の側に入ります。一方、いったん会社を作った後に合同会社から株式会社へ変える場合は、変更届で足ります(合同会社から株式会社への組織変更)。
許可の実費は、1事業所で14万円
| 項目 | 根拠 | 金額 |
|---|---|---|
| 許可手数料 | 職業安定法施行規則18条9項 | 5万円+1万8,000円×(事業所数−1) |
| 登録免許税 | 登録免許税法 別表第一 81号(一) | 1件9万円 |
| 更新手数料 | 同規則22条2項 | 1万8,000円×事業所数 |
1事業所なら14万円、2事業所で15万8,000円です。手数料は収入印紙で納め、納付した後は返還されません(同規則18条10項・11項)。
派遣業の許可(手数料12万円+登録免許税9万円)と比べると、手数料は半分以下です。登録免許税は同じ81号の中で、どちらも1件9万円です。
法人の許可の有効期間は、法人の許可の日から3年です。個人の許可が5年周期に入っていた人も、法人では3年後に最初の更新を迎えます。更新の申請は有効期間が満了する日の3か月前までです(同規則22条1項)。
財産要件は、設立時の貸借対照表で見られる
許可基準のうち財産的基礎(法31条1項1号)は、事業主単位で次の2つを満たす必要があります。
| 要件 | 内容 | 1事業所 | 2事業所 | 3事業所 |
|---|---|---|---|---|
| 基準資産額 | 資産(繰延資産・営業権を除く)− 負債 | 500万円 | 1,000万円 | 1,500万円 |
| 事業資金 | 自己名義の現金・預貯金 | 150万円 | 210万円 | 270万円 |
事業資金は事業開始後3か月程度の運営を賄うためのもので、基準資産の一部として現金・預貯金で持つものに限られます。
設立後最初の決算期を終えていない法人は、会社法435条1項の会社成立時の貸借対照表だけで審査を受けられます。設立直後の会社の資産は出資された財産だけなので、実際には資本金で500万円を用意することになります。
個人のときは事業の貸借対照表、法人では会社の貸借対照表
個人の申請では、青色申告決算書の貸借対照表(資産負債調)から資産と負債を合計して基準資産額を出します。白色申告などの場合は、預金残高証明書や不動産の評価額証明書から算定します。
個人の事業用口座に500万円以上あった人も、法人を作ればその預金は個人のものです。会社の基準資産額にするには、出資して会社の純資産にする必要があります。
社長からの借入金では、基準資産額は増えない
会社に500万円を入れる方法は、出資と貸付けの2つがあります。貸付けにすると、会社の預金が増えるのと同じ額だけ負債も増えます。基準資産額は資産から負債を引いた額なので、役員借入金では増えません。
後から増やすときは、法人のほうが証明が重い
決算の数字より基準資産額や現預金が増えたと申し立てる場合、法人は公認会計士または監査法人の監査証明を受けた中間決算・月次決算に限って認められます。個人は、預金残高証明書などで増加後の額を認めてもらえます。
個人のときは預金を積み増して残高証明書を出せば済みました。法人では、設立時の資本金で足りないまま申請を始めると、決算期末を待つか監査証明を取るかになります。
1事業所なら、資本金は1,000万円以下に収まる
派遣業の法人成りでは、基準資産額2,000万円を満たすために資本金が1,000万円を超え、均等割が年7万円から18万円に上がります。有料職業紹介は1事業所500万円なので、この問題が起きません。
| 事業所数 | 必要な基準資産額 | 資本金をその額にしたときの設立費用(合同会社) | 均等割(東京23区・従業者50人以下) |
|---|---|---|---|
| 1 | 500万円 | 10万円(登録免許税6万円) | 年7万円 |
| 2 | 1,000万円 | 11万円(登録免許税7万円) | 年7万円 |
| 3 | 1,500万円 | 14.5万円(登録免許税10.5万円) | 年18万円 |
※ 設立費用は当サイトの前提(合同会社の設立費用10万円)に、資本金×0.7%の登録免許税が最低額6万円を超える分を足した値
2事業所の1,000万円はちょうど境目です。均等割の区分は資本金等の額が1,000万円以下なら年7万円ですが、資本金が1,000万円以上の会社は消費税の新設法人の特例で1期目から課税事業者になります。求人企業への請求が中心の人材紹介は、個人のときからインボイス登録をしている人が多いはずです。その場合は資本金に関係なく法人も課税事業者なので、特例で失うものはありません(インボイス登録済みの法人化では2年間免税にならない)。資本金の決め方の全体は資本金はいくらにするかで扱っています。
資本金ちょうどだと、更新時に割り込むおそれがある
要領は、基準資産額は常時満たす必要はなく、新規の許可申請時と有効期間の更新申請時に満たせば足りるとしています。新規の時点は会社成立時の貸借対照表なので、資本金500万円で足ります。
注意が要るのは3年後の更新です。その時点の決算で純資産が500万円を下回っていれば、基準を欠きます。設立費用や許可の実費を費用にした年に赤字を出し、資本金500万円ちょうどだった場合が典型です。役員報酬を高く取って法人に利益を残さない設計にするなら、資本金に余裕を持たせておく考え方があります。
取り直しの実費が、差額と損益分岐をどれだけ動かすか
一人で営む人材紹介は、売上の大半が紹介手数料で、経費は求人媒体・データベースの利用料や事務所家賃が中心です。経費300万円で固定し、事業所得を動かして当サイトの計算エンジンで実質差額を出しました。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用+許可の実費) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −34.0万円 | −58.0万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −18.9万円 | −42.9万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −10.0万円 | −34.0万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −4.3万円 | −28.3万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +26.1万円 | +2.1万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +65.8万円 | +41.8万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(scripts/shokai-jigyo-houjinnari.mjs で再生成)で算出。経費300万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社(資本金500万円)、個人事業税は第1種(5%)。法人の税理士報酬年35万円・個人15万円。初年度は設立費用10万円と許可の実費14万円を差し引く。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。2026年(令和8年)分基準の概算
資本金500万円では均等割が変わらないため、2年目以降の差額は通常の法人化と同じです。許可の取り直しで上乗せされるのは初年度の一時費用24万円だけです。
個人事業税の扱いで、損益分岐は1,000万円以上動く
地方税法の第1種事業の列挙に「職業紹介業」という業種名はありません。東京都主税局の法定業種の一覧にもその名はなく、周旋業・代理業などに当たるかは事業所のある都道府県が判断します。そこで、課税される場合とされない場合の両方で損益分岐を出しました。
| 個人事業税の扱い | 2年目以降 | 初年度(設立+許可) |
|---|---|---|
| 第1種事業(5%)として課税 | 1,243万円 | 1,479万円 |
| 課税なし | 2,277万円 | 2,516万円 |
※ 損益分岐は事業所得(青色申告特別控除前)。前提は上の表と同じ
法人化で消える個人事業税が5%なのか0円なのかで、損益分岐は1,000万円以上違います。業種の当てはめを一般論で決めず、自分の個人事業税の通知書で、課税されているかを確かめてから判定ツールに入れてください。業種ごとの税率の考え方は個人事業税は業種でいくら変わるかで扱っています。
個人の許可を止める日と、職業紹介責任者・求人契約の切り替え
要領は、法人の許可が下りた後は直ちに個人の事業を廃止させるとしています。法人の許可が出るまでは個人の許可で紹介を続け、許可が出たら切り替える順番です。個人の廃止届は、廃止の日の翌日から10日以内に、全事業所の許可証を添えて事業主管轄の労働局へ出します(同規則24条)。
許可そのもの以外で手間がかかるのは、次の3点です。
- 職業紹介責任者講習の受講日を確認する。 職業紹介責任者は、許可申請なら申請の受理日前5年以内に講習を修了している必要があります。社長本人(法人の役員)が責任者を兼ねることは差し支えありませんが、個人の許可のときの受講が5年より前なら受け直しです
- 手数料表と業務の運営に関する規程を法人名義で作り直す。 手数料表を持つこと、法の各条文の内容を含む業務運営規程・個人情報適正管理規程を持つことは許可基準そのものです
- 求人企業・求職者との契約を結び直す。 個人と結んだ紹介手数料の契約は、そのままでは会社との契約になりません。成約前の案件をどちらの名義で請求するかも、切り替え日に合わせて決めます
取引先との契約の地位を会社へ移す一般的な扱いは法人成りで取引先との契約は移らない、個人事業の廃業届は法人成りの廃業手続きで扱っています。
労働者派遣事業の許可を同時に申請する場合や、既に派遣の許可を持っている場合は、職業紹介の財産要件は派遣の要件の範囲内として審査が簡略化されます。派遣と紹介を兼ねる人は、資本金を派遣の基準(2,000万円)に合わせることになります。
許可の取り直しの実費は小さく、法人化の損得はほぼ所得水準と個人事業税の扱いで決まります。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で判定ツールを回して確かめてください。
まとめ
- 職業安定法には許可の承継の規定がなく、業務運営要領は個人事業主の法人化を新規許可とし、許可後は直ちに個人の事業を廃止させる
- 実費は手数料5万円(2事業所目から1か所1万8,000円)と登録免許税9万円で、1事業所14万円。有効期間は法人の許可の日から3年で数え直し
- 基準資産額500万円×事業所数・現預金150万円+60万円×(事業所数−1)を、設立直後は会社成立時の貸借対照表で満たす。役員借入金では基準資産額は増えない
- 1〜2事業所なら資本金1,000万円以下に収まり、均等割は年7万円のまま。基準資産は更新時にも見られるため、資本金ちょうどだと割り込むおそれがある
- 東京23区・経費300万円の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円・初年度1,479万円。個人事業税が課税されない場合は2,277万円まで上がる
よくある質問
個人で受けた有料職業紹介の許可番号を、法人でそのまま使えますか。
使えません。職業安定法に許可の承継の規定はなく、業務運営要領も個人事業主の法人化は新たな事業組織による新規の許可申請としています。法人の許可番号は新しくなり、有効期間も法人の許可の日から3年で数え直しです。
法人成りの後で、合同会社から株式会社に変えたら許可は取り直しですか。
業務運営要領は、持分会社から株式会社への組織変更や合名・合資・合同会社間の種類の変更は、許可の要件を欠かなければ名称等の変更届で足りるとしています。個人から法人への切り替えとは扱いが違います。
社長が自分で職業紹介責任者を兼ねられますか。
業務運営要領は、法人の役員を職業紹介責任者とすることは差し支えないとしています。ただし過去5年以内(許可申請なら申請の受理日前5年以内)に職業紹介責任者講習を修了していることが要件なので、個人のときの受講日を確認してください。
出典
- e-Gov法令検索 職業安定法 第30条〜第32条の8(有料職業紹介事業の許可・基準・欠格事由・有効期間・事業の廃止)
- e-Gov法令検索 職業安定法施行規則 第18条第9項〜第11項(許可手数料)・第22条(更新)・第24条(廃止の届出)
- e-Gov法令検索 登録免許税法 別表第一 第24号(会社の設立の登記)・第81号(一)(有料職業紹介事業の許可)
- 厚生労働省 職業紹介事業業務運営要領・様式・各種報告書(令和8年10月1日施行版)
- 厚生労働省 職業紹介事業の業務運営要領 第3 許可基準
- 厚生労働省 職業紹介事業の業務運営要領 第4 職業紹介事業に関する手続き
- 厚生労働省 職業紹介事業の業務運営要領 第7 その他の手続等(事業組織の変更・法人の合併等)
- 東京都主税局 個人事業税(法定業種と税率)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。