設立の手続き

派遣業の法人成りは許可の取り直し。基準資産額2,000万円は資本金で

結論

労働者派遣法には許可を承継する条文がなく、法人成りでは法人が新規に許可を受け直します(手数料12万円+登録免許税9万円。2事業所目からは手数料が1か所5万5,000円増)。法人は基準資産額2,000万円・自己名義の現預金1,500万円(いずれも事業所数倍)を、設立直後なら会社成立時の貸借対照表で満たす必要があり、実際には資本金で用意します。資本金2,000万円の合同会社では均等割が年7万円から18万円に上がり、東京23区・経費4,800万円の試算で損益分岐は1,243万円から1,351万円に上がります。

  • 厚労省の業務取扱要領は、合併でも存続法人が無許可なら新規許可、新設合併・新設分割も新規許可とし、財産要件も通常どおり審査する
  • 基準資産額1,000万円・現預金800万円の「小規模派遣元への暫定的な配慮措置」は更新時のみで、平成28年9月29日までにこの措置で許可・更新を受けた者に限られる
  • 設立と許可の一時費用は資本金2,000万円の合同会社で計39万円。初年度の損益分岐は1,845万円まで上がる

派遣事業の法人成りで効いてくるのは、税金よりも純資産の置き場所です。個人の許可で使っていた2,000万円の財産要件は、法人の貸借対照表でもう一度満たさなければなりません。

この記事では、許可と財産要件の扱いを法令と厚生労働省の業務取扱要領で確認し、資本金2,000万円で設立したときに実質差額と損益分岐がどう動くかを計算エンジンで出します。古物商・建設業・飲食店の許可が法人へ移るかは法人成りで許認可は引き継げるか、同じく純資産の要件がある旅行業は旅行業の法人成りは新規登録で扱っています。

派遣法には承継の条文がなく、合併でも新規許可になる

労働者派遣事業を行う者は、厚生労働大臣の許可を受けなければなりません(労働者派遣法5条1項)。許可の有効期間は許可の日から3年で、更新を受けると以後は5年です(10条)。

同法には、許可を他の者へ移す条文がありません。事業の廃止を届け出ると許可は効力を失い(13条2項)、16条から22条までは削除されています。許可は個人に与えられたもので、法人は別の事業主として新規に許可を受けます。

厚生労働省の「労働者派遣事業関係業務取扱要領」は、法人の合併や分割のときの扱いまで細かく決めています。読むと、承継のように見える場面でも新規許可が原則だと分かります。

場面業務取扱要領の扱い
吸収合併で、許可のない会社が許可のある会社を吸収する存続する会社が新規許可申請
吸収合併で、許可のある会社が存続する存続会社の許可のまま(変更届)
新設合併・新設分割新設会社が新規許可申請。財産的基礎は通常どおり審査
事業譲渡・譲受け吸収分割に準じる(吸収分割は吸収合併に準じる)
個人事業主の死亡同居の親族等の届出で、有効な派遣契約に限り30日間継続可

吸収合併の場合、要領は許可の空白を避けるため、存続会社に事前に申請させて合併の日付と同日付けで許可できるようにするとしています。事業譲渡もこれに準じるとされていますが、要領のこの項は「法人の合併等」の扱いとして書かれています。個人から会社への事業の譲渡に同じ扱いを受けられるかは、申請前に管轄の労働局へ確認してください。

許可の実費は、1事業所で21万円

項目根拠金額
許可手数料施行令9条1号12万円+5万5,000円×(事業所数−1)
登録免許税登録免許税法 別表第一 81号(二)1件9万円
更新手数料施行令9条3号5万5,000円×事業所数

1事業所なら21万円、2事業所で26万5,000円です。手数料は申請書を受理して印紙に消印した後は返還されません。

法人の許可は有効期間3年から数え直しです。個人の許可が5年周期に入っていた人も、法人では3年後に最初の更新を迎えます。厚生労働大臣は許可にあたって労働政策審議会の意見を聴き、審議会は原則毎月1回開かれます。要領では、原則として前月末までに本省に届いた申請を当月の審議会に諮ります。

財産要件は、設立時の貸借対照表で見られる

許可基準のうち財産的基礎は、事業主(法人または個人)単位で次の3つを満たす必要があります。

要件内容1事業所2事業所
基準資産額資産(繰延資産・のれんを除く)− 負債2,000万円以上4,000万円以上
負債との比率基準資産額が負債総額の7分の1以上——
現金・預金自己名義の現金・預金1,500万円以上3,000万円以上

設立後最初の決算期を終えていない法人は、会社法435条1項の会社成立時の貸借対照表だけで審査を受けられます。設立直後の会社の資産は出資された財産しかないので、実際には資本金(出資)で2,000万円を用意することになります。

社長からの借入金では、基準資産額は増えない

会社に2,000万円を入れる方法は、出資と貸付けの2つがあります。貸付けにすると、会社の預金が増えるのと同じ額だけ負債も増えます。基準資産額は資産から負債を引いた額なので、役員借入金では1円も増えません。

要件を同時に満たすには、出資で純資産を2,000万円以上にし、そのうち1,500万円以上を預金で持つ形が基本です。負債の総額が基準資産額の7倍を超えると、比率の要件も欠きます。

後から増やすときは、法人のほうが証明が重い

決算の数字より基準資産額や現預金が増えたと申し立てる場合、法人は公認会計士または監査法人の監査証明を受けた中間決算・月次決算に限って認められます。個人は、預金残高証明書や固定資産税評価額証明書などで増加後の額を認めてもらえます。

個人のときは預金を積み増して残高証明書を出せば済んだ人も、法人では決算期末まで待つか、監査証明を取るかになります。設立時の資本金で足りないまま申請を始めると、ここで時間か費用がかかります。

小規模派遣元の緩和措置は、新しい法人には使えない

基準資産額2,000万円には、平成27年改正の際に設けられた「小規模派遣元事業主への暫定的な配慮措置」があります。事業所が1つで、常時雇用する派遣労働者が10人以下の中小企業事業主なら、基準資産額1,000万円・現預金800万円で足りるというものです。

ただし業務取扱要領では、この措置は許可の有効期間の更新の要件として置かれています。しかも平成28年9月30日以降は、平成28年9月29日までにこの措置で許可や更新を受けて事業を行っている者などからの申請に限られます。

法人成りで新しく許可を受ける会社は、これに当たりません。個人のままこの措置で更新を続けてきた人が法人成りすると、**財産要件が1,000万円から2,000万円へ、現預金が800万円から1,500万円へ一気に上がります。**法人成りを検討する前に、自分の許可がどちらの基準で更新されているかを確かめておく価値があります。

有料職業紹介事業を兼ねる場合は、職業安定法の許可を別に確認する必要があります。職業紹介事業の業務運営要領の財産基準は、基準資産額500万円×事業所数、現預金150万円+60万円×(事業所数−1)で、派遣より低い水準です。基準資産額の数え方(繰延資産を除く、増加の申立ては法人なら監査証明付きの決算に限る)は派遣と同じです。

資本金2,000万円にすると、均等割と登録免許税が変わる

資本金を2,000万円にすると、財産要件とは別に、会社の固定費が2つ変わります。

項目資本金999万円以下資本金2,000万円
設立の登録免許税(合同会社)6万円14万円(資本金×0.7%)
法人住民税均等割(東京23区・従業者50人以下)年7万円年18万円
消費税の新設法人の特例対象外1期目から課税事業者

均等割の「資本金等の額」には資本準備金も含まれるため、出資の一部を準備金に回しても18万円の区分は変わりません(資本準備金で資本金を999万円に)。従業者が50人を超えると、区分はさらに上がって年20万円です。

消費税は、派遣先の多くが事業者なので、個人のときからインボイス登録をしている人が大半のはずです。その場合は資本金に関係なく法人も課税事業者なので、新設法人の特例で失うものはありません(インボイス登録済みの法人化では2年間免税にならない)。

取り直しの実費と資本金が、差額と損益分岐をどれだけ動かすか

派遣元の売上には派遣労働者の賃金が含まれるため、売上に比べて事業所得は小さくなります。経費4,800万円で固定し、事業所得を動かして、当サイトの計算エンジンで実質差額を出しました。

事業所得(売上−経費)最適な役員報酬資本金999万円の前提2年目以降(資本金2,000万円)初年度(設立費用+許可の実費)
800万円月45万円−18.9万円−29.9万円−68.9万円
1,000万円月45万円−10.0万円−21.0万円−60.0万円
1,200万円月54万円−4.3万円−15.3万円−54.3万円
1,500万円月54万円+26.1万円+15.1万円−23.9万円
2,000万円月90万円+65.8万円+54.8万円+15.8万円

※ 当サイトの計算エンジン(scripts/haken-jigyo-houjinnari.mjs で再生成)で算出。経費4,800万円(派遣労働者の賃金等を含む)、東京都・東京23区、単身・40〜64歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社、個人事業税は第1種(5%)。法人の税理士報酬年35万円・個人15万円。2年目以降は均等割の差11万円を、初年度はさらに設立費用18万円(登録免許税14万円)と許可の実費21万円を差し引く。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。2026年(令和8年)分基準の概算

同じ条件で、差額がプラスに転じる事業所得(青色申告特別控除前)は次のとおりです。

前提損益分岐の事業所得
資本金999万円以下・許可の取り直しなし(通常の前提)1,243万円
2年目以降:資本金2,000万円(均等割18万円)1,351万円
初年度:上記+設立費用+許可1事業所1,845万円

均等割の11万円は毎年かかるため、2年目以降の損益分岐も108万円上がります。初年度は一時費用39万円が乗り、損益分岐は1,845万円です。

純資産2,000万円は、1期目の利益で割り込まずに済むか

資本金をちょうど2,000万円にすると、設立と許可の費用39万円で純資産が2,000万円を下回ります。創立費や開業費として繰延資産に計上しても、基準資産額からは除かれるので結果は同じです。

ただし、最適な役員報酬を取っても法人には利益が残ります。1期目に一時費用を費用処理した場合の、1期末の純資産を計算しました。

事業所得最適な役員報酬法人の税引後利益(1期)1期末の純資産
800万円月45万円+64.5万円2,064.5万円
1,000万円月45万円+221.8万円2,221.8万円
1,200万円月51万円+313.7万円2,313.7万円
1,500万円月54万円+512.3万円2,512.3万円

※ 同じ条件で、法人の経費に税理士報酬35万円・設立費用18万円・許可の実費21万円を含め、均等割の差11万円(損金不算入)を差し引いた値。1期は12か月とした概算

事業所得800万円でも、1期末には2,000万円を上回ります。要領は、初めて許可を受けた事業主の許可取得2年後の資産等の状況を労働政策審議会へ報告するとしており、更新時にも同じ財産基準で確認されます。役員報酬を最適額より大きく取って法人に利益を残さない設計にすると、ここで基準を割るおそれがあります。

個人事業税の業種区分で、損益分岐は1,000万円以上動く

地方税法72条の2第8項の第1種事業の列挙に、「労働者派遣業」という業種名はありません。派遣業がどの法定業種に当たるか(請負業など)は、事業所のある都道府県が判断します。

個人事業税の扱い(2年目以降・資本金2,000万円)損益分岐の事業所得
第1種事業(5%)として課税1,351万円
法定業種外(課税なし)2,416万円

法人化で消える個人事業税が5%なのか0円なのかで、損益分岐は1,065万円違います。自分の個人事業税の通知書で、課税されているかと業種を確かめてから判定ツールに入れてください。

個人の許可を止める日と、派遣労働者・契約の切り替え

法人の許可が下りるまでは、個人の許可で派遣を続けます。法人の許可の後に個人の派遣事業をやめたら、廃止の日の翌日から10日以内に廃止届出書と全事業所の許可証を出します。廃止の届出の後は、有効期間が残っていても許可は効力を失います。

切り替えで手間がかかるのは、許可そのものより周辺の手続きです。

  • 派遣労働者の雇用主が変わる。 個人との労働契約は、そのままでは会社との契約になりません。会社で雇い直し、社会保険・雇用保険の手続きも会社で行います
  • 派遣契約を結び直す。 派遣元は契約を結ぶ前に、派遣先へ許可を受けている旨を明示しなければなりません(26条3項)。派遣先への説明は法人の許可番号で行います
  • 派遣元責任者講習の受講日を確認する。 許可申請には、申請の受理日前3年以内に受けた講習の受講証明書が要ります。個人の許可のときの受講が3年より前なら受け直しです

取引先との契約の地位を会社へ移す一般的な扱いは法人成りで取引先との契約は移らないで扱っています。

資本金2,000万円と年11万円の均等割を乗せても法人化が有利になるかは、売上と経費の水準で大きく変わります。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で判定ツールを回して確かめてください。

まとめ

  • 労働者派遣法には許可の承継の規定がなく、法人成りでは法人が新規に許可を受ける。業務取扱要領は合併や新設分割でも新規許可を原則とし、財産要件も通常どおり審査する
  • 許可の実費は手数料12万円(2事業所目から1か所5万5,000円)と登録免許税9万円。有効期間は法人の許可の日から3年で数え直し
  • 基準資産額2,000万円・現預金1,500万円(事業所数倍)を会社成立時の貸借対照表で満たす。役員借入金では基準資産額は増えないので、出資で用意する
  • 小規模派遣元の暫定的な配慮措置(1,000万円・800万円)は更新に限った経過的な扱いで、新しく許可を受ける法人には使えない
  • 資本金2,000万円の合同会社では均等割が年18万円になり、東京23区・経費4,800万円の試算で損益分岐は1,243万円から1,351万円(初年度1,845万円)に上がる

よくある質問

個人で受けた派遣事業の許可番号を、法人でそのまま使えますか。

使えません。労働者派遣法には許可を承継する規定がなく、法人は新規に許可を受けた別の派遣元事業主として新しい許可番号になります。有効期間も法人の許可の日から3年で、更新後に5年となる周期を最初からたどります。

小規模派遣元の暫定的な配慮措置(基準資産額1,000万円)で許可を更新してきました。法人でも同じ基準で申請できますか。

できません。業務取扱要領では、この措置は許可の有効期間の更新に限った扱いで、平成28年9月30日以降は、同日の前日までにこの措置で許可や更新を受けて事業を行っている者からの申請に限るとしています。新しく許可を受ける法人には、基準資産額2,000万円・現預金1,500万円の通常の基準が当てはまります。

社長からの借入金で、会社の現預金を1,500万円にすれば足りますか。

現預金の要件は満たせても、借入金は負債なので基準資産額(資産から負債を引いた額)は増えません。基準資産額2,000万円は出資による純資産で用意する必要があり、負債の総額が基準資産額の7倍を超えると別の要件も欠きます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。