役員報酬
役員借入金のDESで債務免除益は消えない。債務超過なら額面と時価の差に課税
結論
役員借入金をDESで資本金に振り替えても、債務超過の会社では債権の時価が額面を下回り、その差額が債務消滅益として益金になります。1,000万円・時価0円・繰越欠損金なしの設例(東京23区)では、債権放棄の法人税等246.9万円に対し、DESは均等割の上昇と登録免許税で264.9万円と18.0万円重くなります。
- DESで増える資本金等の額は債権の時価。額面と時価の差が債務消滅益になる(国税庁の文書回答、法人税法施行令8条1項1号)
- 資本金が1,000万円を超えると、資本金等の額が増えなくても均等割の区分は資本金+資本準備金で判定され、標準税率で年7万円→18万円
- 繰越欠損金が債務消滅益を上回れば法人税等は増えない。差が出るのは均等割と登録免許税(増加資本金の0.7%、最低3万円)
役員借入金が膨らんだ債務超過の会社で、「債権放棄だと債務免除益が出るから、DES(デット・エクイティ・スワップ)で資本金に振り替えればよい」という話を聞くことがあります。
ところが、平成18年度の税制改正以降、DESで会社の資本金等の額が増えるのは振り替えた債権の時価までです。額面と時価の差は債務消滅益として益金になります。この記事では、役員借入金1,000万円の設例で、債権放棄とDESの税額を計算エンジンで並べます。
DESで増えるのは「債権の時価」まで
DESは、社長が会社に対して持っている貸付金債権を会社に現物出資し、代わりに株式(持分)を受け取る取引です。会社から見ると、負債の役員借入金が消え、純資産が増えます。
国税庁の文書回答事例は、DESをした会社の資本金等の額の増加額を次のように説明しています。
- 資本金等の額の増加額は、法人税法施行令8条1項1号により「給付を受けた金銭以外の資産の価額」になる
- DESでは金銭の払込みがないので、結果として自己宛債権の時価が増加額になる
- 額面のうち資本金等の額にならなかった部分、つまり額面と時価の差額が債務消滅益になる
債務超過の会社は、社長への借入金を全額返す力がありません。そのため債権の時価は額面を大きく下回り、極端な場合は0円に近づきます。時価が0円なら、1,000万円のDESで1,000万円の債務消滅益が立ちます。これは同額を債権放棄したときの債務免除益と変わりません。
「DESなら益が出ない」という説明は、債権を額面で評価する考え方から来ています。額面で評価すれば負債と資本が同額で入れ替わるだけなので、益は生じません。しかし現行の取扱いは時価評価です。債務超過の会社ほど、この差が大きくなります。
債権放棄とDESの税額を並べる
役員借入金1,000万円を処理する場合を、計算エンジン(src/lib/corporate.js の法人税等の計算)で比べました。
前提は次のとおりです。
- 東京23区の会社、資本金100万円、従業者50人以下
- 当期の本業の損益は0円。債務免除益・債務消滅益だけが課税所得の源泉
- DESの債権時価は0円(債務超過で回収見込みがない)とし、債務消滅益は1,000万円
- 青色欠損金は中小法人等として所得の全額まで控除
- 均等割は標準税率(資本金等1,000万円以下7万円、1,000万円超1億円以下18万円)
- 法人税等の内訳は法人税・地方法人税・法人税割・事業税・特別法人事業税・均等割
| 繰越欠損金 | 債権放棄 | DES(時価0円) | 差 |
|---|---|---|---|
| なし | 246.9万円 | 264.9万円 | 18.0万円 |
| 600万円 | 92.4万円 | 110.4万円 | 18.0万円 |
| 1,000万円以上 | 7.0万円 | 25.0万円 | 18.0万円 |
DESの欄には、均等割の上昇分(年7万円→年18万円)と、増資の登録免許税7万円(1,000万円×0.7%)が入っています。債務消滅益に対する法人税等は、両者で同じです。
時価が低い債権のDESは、債権放棄より税負担が軽くなりません。 繰越欠損金で益を吸収できる会社でも、DESでは資本金が増える分の固定費が残ります。
繰越欠損金の控除期限は10年です。相殺を当てにするなら、その欠損金がいつの事業年度に生じたものかを先に確かめてください。法人の欠損金は10年、個人は3年で、青色申告の要件と期限をまとめています。
期限切れ欠損金を優先できるのは限られた場面
国税庁の文書回答は、DESの債務消滅益について、債権放棄の債務免除益と同じく期限切れ欠損金を青色欠損金より優先して控除できると説明しています。
ただし、これは法人税法59条が適用される場面の話です。会社更生・民事再生などの手続きを前提にしています。社長1人が自分の会社への貸付金を任意にDESする通常の例では、使えるのは青色欠損金の繰越控除です。期限切れの欠損金で益を消せると考えて計画を組むと、想定外の法人税が出ます。
資本金等の額が増えなくても均等割は上がる
DESの時価が0円なら、税務上の資本金等の額はほとんど増えません。それでも均等割が上がるのは、区分の判定に下限があるためです。
東京都主税局の均等割チェックコーナーでは、法人税法上の資本金等の額に無償増減資等の加減算をしたうえで、貸借対照表の資本金と資本準備金の合算額と比較する手順を示しています。資本金等の額が合算額を下回れば、合算額で区分を判定します。
DESで資本金を1,000万円増やすと、設例では資本金が1,100万円になります。資本金等の額が増えなくても、均等割は1,000万円超の区分に入ります。
| 項目 | DES前 | DES後 |
|---|---|---|
| 資本金 | 100万円 | 1,100万円 |
| 資本金等の額(時価0円の場合) | 100万円 | 100万円 |
| 均等割の区分の判定額 | 100万円 | 1,100万円 |
| 均等割(標準税率) | 7万円 | 18万円 |
この均等割の上昇は1回限りではなく、資本金を減らさない限り毎年かかります。資本金を1,000万円以下に収める方法としての資本準備金の扱いは、資本準備金で資本金を1,000万円未満に抑えるで扱っています。準備金も合算額に入るため、DESの振替先を準備金にしても均等割の判定額は下がりません。
返済能力がある会社のDESは何が変わるか
債務超過ではなく、借入金を返せる会社がDESをする場合は事情が違います。債権の時価が額面と同じなら、資本金等の額が額面だけ増え、債務消滅益は生じません。
この場合の負担は、登録免許税と均等割です。設例の1,000万円なら、登録免許税7万円と、均等割の上昇(年7万円→年18万円)です。
一方で、同じ会社が債権放棄をすれば、1,000万円の債務免除益が立ちます。繰越欠損金がなければ、設例では法人税等が246.9万円です。返済能力のある会社にとっては、DESの方が債権放棄より税負担が小さいという関係になります。
ただし、返せる会社なら元本を返済する選択肢もあります。元本の返済は会社の経費にも社長の所得にもなりません。利息と元本の扱いは役員借入金を返しても税金0円で計算しています。
債権の時価はだれが決めるのか
債権の時価について、国税庁の文書回答は企業再生税制が適用される場面を前提に、合理的に見積もられた回収可能額に基づいて評価することが妥当としています。資産評価に基づいて作成した貸借対照表と、再生計画の損益見込みから回収可能額を見積もる方法です。
中小企業の一人社長が任意にDESをする場面の評価方法は、国税庁の資料では示されていません。時価を額面に近く置けば債務消滅益は小さくなりますが、その根拠を説明できる資料が必要になります。評価が争点になりやすいため、実行前に税理士へ確認する価値があります。
社長個人の側で起きること
DESをすると、社長の財産は「会社への貸付金」から「会社の株式」に変わります。
相続の場面では、この違いが効きます。会社への貸付金は、原則として額面で相続財産になります。株式は会社の純資産などをもとに評価されます。生前の債権放棄で相続財産を減らす場合の法人税と相続税、ほかの株主へのみなし贈与の論点は、役員借入金は社長の相続財産で計算しています。
社長個人の所得税の扱い(債権を現物出資して株式を受け取ることの課税関係)は、当サイトでは一次情報で確認できていないため、この記事では扱いません。
会社の手取りに戻して考える
役員借入金が積み上がる原因の多くは、役員報酬と会社の資金繰りの釣り合いです。役員報酬を高く設定し、会社に足りない資金を社長が貸し戻していると、帳簿上は借入金だけが増え、会社は赤字のまま債務超過に近づきます。
DESや債権放棄は、その残高を後から整理する手段です。整理の段階で数十万〜数百万円の税金や固定費がかかるなら、そもそもの役員報酬額を見直す方が効く場合があります。自分の売上と経費で、手取りが最大になる役員報酬額を判定ツールで確かめてください。
まとめ
- DESで会社の資本金等の額が増えるのは債権の時価まで。額面と時価の差は債務消滅益になる
- 債務超過で時価0円の1,000万円のDESは、債権放棄より設例の初年度で18.0万円重い(均等割が毎年7万円から18万円へ上がる分と、登録免許税7万円)
- 均等割は資本金+資本準備金の合算額で区分され、資本金等の額が増えなくても1,000万円超で18万円になる
- 期限切れ欠損金の優先控除は法人税法59条の場面に限られ、任意のDESでは青色欠損金の繰越控除が中心
- 返済能力がある会社では、DESの方が債権放棄より税負担は小さいが、元本返済という選択肢もある
よくある質問
役員借入金をDESにすれば債務免除益は出ませんか?
出ないとは限りません。DESで会社の資本金等の額が増えるのは振り替えた債権の時価までで、額面と時価の差は債務消滅益になります。債務超過で返済の見込みが乏しい会社では時価が低く、債権放棄とほぼ同じ額の益金が立ちます。
返済能力のある会社がDESをすると税金はかかりますか?
債権の時価が額面と同じなら債務消滅益は生じません。ただし資本金が増えるため、増資の登録免許税(増加額の0.7%、最低3万円)がかかり、資本金が1,000万円を超えれば均等割の区分が上がります。
債務消滅益は繰越欠損金と相殺できますか?
青色申告で繰り越している欠損金と相殺できます。中小法人等は所得の全額まで控除できます。期限切れ欠損金を優先して控除できるのは、会社更生・民事再生など法人税法59条が適用される場面に限られます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。