設立の手続き
動物病院の法人成りは開設届を10日以内に。株式会社でよく医療法人は不要
結論
動物病院(飼育動物の診療施設)は許可制ではなく、開設した者が開設の日から10日以内に都道府県知事へ届け出る事後の届出制です(獣医療法3条)。法人成りでは会社が新しい開設者になるので、会社が開設届を、個人が廃止の届出を、それぞれ10日以内に出します。会社は獣医師ではないので、獣医師に診療施設を管理させます(5条1項)。人の診療所と違い動物病院には医療法人の制度がなく、株式会社・合同会社で開設できます。
- 開設届には開設者の名称、診療施設の名称・場所、構造設備の概要と平面図、エックス線装置の型式や従事する獣医師などを記載する(施行規則1条)
- 届出をしない・虚偽の届出、獣医師に管理させない場合は20万円以下の罰金(21条)
- 東京23区・40〜59歳・獣医業(第3種5%)の試算では、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度1,341万円
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
人の診療所は医療法の許可や届出、保険医療機関の指定など手続きが重く、法人化も医療法人という専用の制度を通ります。動物病院はまったく違います。許可は要らず、開設してから10日以内に届け出るだけで、株式会社や合同会社でも開設できます。
この記事では、獣医療法の届出が法人成りでどう変わるかを条文で確認し、人の診療所との違い、損益分岐を計算エンジンで出します。
動物病院は「開設後10日以内」の事後届出
獣医療法は、獣医師が飼育動物の診療の業務を行う施設を「診療施設」と定めています(2条2項)。診療施設を開設した者(開設者)は、開設の日から10日以内に、所在地を管轄する都道府県知事に届け出ます。休止・廃止したとき、届け出た事項を変更したときも同じです(3条)。
届出の事項は施行規則1条に列挙されています。主なものは次のとおりです。
| 届出事項 | 法人成りで変わるか |
|---|---|
| 開設者の氏名・住所(法人なら名称・主たる事務所の所在地)、開設者が獣医師である旨 | 変わる(個人の獣医師→会社) |
| 診療施設の名称、開設の場所、開設の年月日 | 名称・場所は同じでも、開設の年月日は会社の開設日 |
| 構造設備の概要と平面図 | 同じ建物なら内容は同じ |
| エックス線装置の製作者名・型式・台数、放射線障害の防止措置、エックス線診療に従事する獣医師の氏名と経歴 | 装置は同じでも会社の開設届に記載し直す |
開設者が替わるので、会社の開設届と個人の廃止届
届出の主語は「診療施設を開設した者」です。法人成りでは、同じ建物・同じ設備で診療を続けても、開設者が個人の獣医師から会社に替わります。会社は新しく診療施設を開設した者として開設届を出し、個人は診療施設を廃止したものとして廃止の届出をします。どちらも10日以内です(3条)。
届出をしない、または虚偽の届出をすると、20万円以下の罰金の対象です(21条1号)。許可制の業種と違って「許可が出るまで営業できない空白」は生じませんが、切替日から10日の期限を両方の届出で守る必要があります。
会社では、獣医師に診療施設を管理させる
5条1項は、開設者が自ら獣医師としてその診療施設を管理する場合のほかは、獣医師に管理させなければならないと定めています。個人のときは院長本人が開設者兼管理者でしたが、会社は獣医師ではないので、獣医師を管理者として置くことになります。社長である獣医師本人を管理者にすれば、体制は個人のときと変わりません。
管理者を置かない場合も20万円以下の罰金の対象です(21条2号)。
往診専門なら、会社の住所が診療施設になる
往診のみで診療する獣医師や、往診のみで獣医師に診療させる者は、その住所を診療施設とみなして開設の届出をします(7条1項)。往診専門の獣医師が法人化すると、会社が往診診療者等になり、届出の基準は会社の住所になります。自宅で開業していた獣医師が本店を別の場所に置くと、届出先の都道府県が変わることもあります。
人の診療所とは、法人化の前提が違う
人の診療所を営む医師が法人化するときは、医療法人の設立認可を受け、保険医療機関の指定を取り直します(医療法人化と保険医療機関の遡及指定)。動物病院には、この2つがどちらもありません。
| 項目 | 人の診療所 | 動物病院 |
|---|---|---|
| 開設の手続き | 医療法の許可・届出 | 獣医療法の事後届出(10日以内) |
| 法人の形 | 医療法人(設立に都道府県知事の認可) | 株式会社・合同会社でよい |
| 保険制度 | 保険医療機関の指定が必要 | なし(ペット保険は民間の保険) |
| 個人事業税 | 社会保険診療の収入は総収入金額に算入しない | 全額が課税対象(獣医業・第3種5%) |
最後の行が、損得の計算に直接効きます。地方税法72条の49の12は、医業・歯科医業・薬剤師業などを行う個人が社会保険診療で受け取った金額を事業税の総収入金額に算入しないとしています。動物の診療には公的な保険制度がないので、この特例は関係ありません。獣医業は第3種事業(税率5%)として、事業主控除290万円を超えた所得の全額に個人事業税がかかります(地方税法72条の2第10項6号)。
保険調剤が中心の薬局では、個人事業税がほとんどかからないために法人化の分岐点が大きく上がります(薬局の法人成り)。動物病院はその逆で、法人化で個人事業税が丸ごと消える、一般の業種と同じ型です。
獣医業の損益分岐
医薬品・人件費・家賃・機器のリースなどの経費を年2,500万円と置き、院長本人の事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −34.0万円 | −44.0万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −18.9万円 | −28.9万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −10.0万円 | −20.0万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −4.3万円 | −14.3万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +26.1万円 | +16.1万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +65.8万円 | +55.8万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 2500 --business type3_standard --age 40to64 --note '獣医業(第3種・5%)' で再生成)で算出。経費2,500万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は獣医業(第3種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,243万円、初年度が1,341万円です。獣医療法の届出には手数料の定めがないので、届出そのものは分岐点を動かしません。
勤務獣医師や動物看護師を雇っている場合、法人の事業所は人数にかかわらず社会保険の適用事業所になります(厚生年金保険法6条1項2号)。個人のときに適用事業所でなかったなら、法人化で従業員分の保険料の会社負担が新たに生じます。個人事業所がどの場合に適用事業所になるかは個人事業所の社会保険の適用で整理しました。表は院長本人の分だけを計算しているので、従業員の保険料は別に見積もる必要があります。自分の売上と経費で判定ツールに入れて確かめてください。計算の前提は計算方法に、設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。
まとめ
- 動物病院は許可制ではなく、開設の日から10日以内の事後届出制(獣医療法3条)
- 法人成りでは開設者が会社に替わるので、会社の開設届と個人の廃止届をそれぞれ10日以内に出す
- 会社は獣医師に診療施設を管理させる(5条1項)。院長本人を管理者にすればよい
- 人の診療所と違い、医療法人の制度も保険診療の事業税特例もない。株式会社・合同会社で開設でき、法人化で個人事業税(5%)が消える
- 東京23区・40〜59歳の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度1,341万円。従業員の社会保険料は別に見積もる
よくある質問
動物病院を株式会社にしてもよいのですか。医療法人でないといけませんか。
獣医療法は、診療施設を開設する者を獣医師や特定の法人に限っていません。開設者が獣医師でない場合は獣医師に管理させる(5条1項)という形で、株式会社・合同会社による開設を想定しています。医療法人は人の病院・診療所のための制度です。
往診専門の獣医師が法人化するとどこに届け出ますか。
往診のみで診療する獣医師や、往診のみで獣医師に診療させる者は、その住所を診療施設とみなして開設の届出をします(7条1項)。会社が往診診療者等になる場合は会社の住所が基準になるので、本店所在地を管轄する都道府県に届け出ることになります。
開設届は事前に出せますか。
3条は「開設した者」が「開設の日から十日以内に」届け出ると定めており、事後の届出です。会社として診療を始めた日を開設の日として、10日以内に届け出ます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。