設立の手続き

薬局の法人成りは開設許可の取り直しと遡及指定。事業税で分岐点が倍に

結論

薬機法には薬局開設許可を承継する規定がなく、法人成りでは会社が開設許可を受け直し、保険薬局の指定も新しく申請します。指定の空白は、令和8年9月適用の厚労省通知の「所在地移転を伴わず開設者のみの変更」として遡及指定を受ければ埋められ、薬局はこの型に開設者の範囲の限定がありません。一方、個人の薬局は保険調剤の収入が個人事業税の総収入金額に算入されないのに、会社(株式会社・合同会社)はその所得にも事業税がかかるため、損益分岐は1,243万円ではなく2,277万円になります(東京23区・40〜59歳の試算)。

  • 遡及指定の「基本的には認める要件」は、調剤録の引継ぎ、患者の調剤の継続、管理薬剤師が同一人、開設者を除く職員の引継ぎなど(保医発0605第2号)
  • 会社は薬剤師ではないので、薬事に従事する薬剤師の中から薬局の管理者を指定する(薬機法7条2項)。社長本人の薬剤師が管理薬剤師を続ければ遡及の要件を満たしやすい
  • 地方税法72条の49の12は、薬剤師業を行う個人が社会保険診療で受け取った金額を事業税の総収入金額に算入しない。法人で同じ扱いを受けるのは医療法人などに限られる

調剤薬局を個人で開設している薬剤師が法人化すると、手続きは2つの法律にまたがります。薬機法の薬局開設許可と、健康保険法の保険薬局の指定です。どちらも会社へは引き継がれません。

ただ、薬局の法人成りで本当に効いてくるのは手続きよりも税金です。個人の薬局は保険調剤の収入に個人事業税がかかりませんが、会社になると事業税がかかります。この記事では、手続きの順番と遡及指定の要件を確認したうえで、事業税の差が損益分岐をどれだけ動かすかを計算エンジンで出します。

薬局開設許可は、会社が受け直す

薬局は、所在地の都道府県知事(保健所を設置する市・特別区では市長・区長)の許可を受けなければ開設できません(薬機法4条1項)。許可は6年ごとの更新制です(同条4項)。

薬機法で「承継」の条文があるのは、医薬品・医療機器の製造販売の承認取得者などに限られます。薬局開設許可には承継の規定がなく、許可は申請者に与えられます。個人の薬剤師と、その人が設立した会社は別の申請者なので、法人成りでは会社が新たに開設許可を申請します。個人の薬局は廃止し、30日以内に届け出ます(10条1項)。

会社の申請書には、代表者の氏名と、薬事に関する業務に責任を有する役員の氏名を書きます(4条2項)。この役員は、許可取消しから3年を経過しない者、薬事関係法令の違反から2年を経過しない者などの欠格事由を審査されます(5条3号)。

会社の薬局では、管理者を「指定」する

個人で開設していたときは、開設者本人が薬剤師なので、原則として自ら薬局を実地に管理していたはずです(7条1項)。会社は薬剤師ではないので、薬事に従事する薬剤師の中から薬局の管理者を指定します(7条2項)。

社長本人を管理者に指定すれば、管理する人は個人のときと変わりません。これは次に見る遡及指定の要件にも直結します。なお管理者は、原則としてその薬局以外の場所で業として薬事の実務に従事できません(7条4項)。

保険薬局の指定は、遡及させて空白を埋める

保険調剤を行うには、地方厚生局の保険薬局の指定が要ります。開設者が会社に変われば、指定も会社が新しく受けます。通常、新たに指定を受ける場合は申請した翌月の1日が指定日になるので、そのままでは保険調剤ができない期間が生じます。

この空白を埋めるのが遡及指定です。令和8年9月1日から適用された厚生労働省の通知(保医発0605第2号)は、旧薬局の廃止日の原則同日または翌日にさかのぼって指定する扱いを3つの型に整理しています。法人成りが当たるのは2番目の型です。

型対象手続き
① 開設者死亡等個人開設者の死亡・病気で、勤務する薬剤師等が引き継ぐ緊急の申請
② 至近の移転・開設者のみの変更2km以内の移転、または所在地移転を伴わず開設者のみの変更予定届出書による事前相談は不要
③ その他2km超の移転、移転と開設者変更の同時実施など原則として遡及を希望する日の3か月前までに予定届出書

②の「開設者のみの変更」には、病院・診療所については「個人から、当該個人を代表者(理事長)とする法人へ」などの限定が付いています。ところが薬局にはこの限定がありません。通知は限定を「病院及び診療所については」と書いているためです。薬局の法人成りは、店舗を動かさなければ②に入ります。

医療機関側の手続きは医療法人化と保険医療機関の遡及指定で詳しく扱いました。

薬局の「基本的には認める要件」

②の型では、次の要件をすべて満たせば基本的に遡及が認められます。

  • 1つの薬局の廃止と1つの薬局の開設を伴う事例であること
  • 調剤録等の引継ぎが行われ、旧薬局の患者の調剤に関する問い合わせに新薬局が対応すること
  • 旧薬局の患者への調剤が、新薬局で引き続き行われること
  • 新薬局の管理薬剤師が、旧薬局の管理薬剤師と同一の薬剤師であること
  • 所在地移転を伴わず開設者のみ変更する場合は、原則として開設者を除く全ての職員が引き続き雇用されること

社長本人が管理薬剤師を続け、従業員の薬剤師・事務員を全員会社で雇い直せば、法人成りはこの要件にそのまま当てはまります。逆に、法人化を機に管理薬剤師を別の薬剤師に替えたり、スタッフを入れ替えたりすると要件から外れます。人の入れ替えは、指定が出たあとに回すのが無難です。

遡及は地方社会保険医療協議会で認められた場合の例外的な扱いです。期限や必要書類の詳細は地方厚生局ごとに定めるとされているので、事前に管轄の厚生局へ確認します。

保険調剤の所得は、個人なら事業税ゼロ、会社なら課税

ここからが薬局の法人化で最も見落とされやすい点です。

地方税法72条の49の12第1項ただし書は、医業・歯科医業・薬剤師業などを行う個人が社会保険診療につき支払を受けた金額は、事業税の総収入金額に算入しないと定めています。健康保険などによる調剤はこの社会保険診療に含まれます。つまり個人の薬局は、売上の大半を占める保険調剤について個人事業税がかかりません。

法人の事業税にも社会保険診療の特例はあります(72条の23第2項)が、対象は医療法人などに限られます。株式会社・合同会社の薬局は、保険調剤の所得も含めて法人事業税の対象です。

個人の薬局会社の薬局(株式会社・合同会社)
保険調剤の所得にかかる事業税かからない(72条の49の12)かかる(法人事業税・特別法人事業税)
OTC医薬品の販売などの所得課税(事業主控除290万円あり)課税

「法人化すると個人事業税が消える」というのが、多くの業種で法人化が有利になる理由の1つです。保険調剤中心の薬局では、そもそも個人事業税がほとんどかかっていないので、この利点がありません。それどころか、会社になると事業税が新たに生じます。

損益分岐は1,243万円ではなく2,277万円

医薬品の仕入れ・人件費などの経費を年6,000万円と置き、保険調剤だけの薬局(個人事業税がかからない)として、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。

事業所得(売上−経費)最適な役員報酬2年目以降初年度(設立費用込み)
600万円月42万円−49.5万円−59.5万円
800万円月45万円−44.4万円−54.4万円
1,000万円月45万円−45.5万円−55.5万円
1,200万円月54万円−49.8万円−59.8万円
1,500万円月54万円−34.4万円−44.4万円
2,000万円月90万円−19.7万円−29.7万円

※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 6000 --business exempt --age 40to64 --note '保険調剤だけの前提で非課税(社会保険診療の収入を総収入金額に算入しない)' で再生成)で算出。経費6,000万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は保険調剤だけの前提で非課税。法人側は法人事業税・特別法人事業税を課税。初年度は合同会社の設立費用10.0万円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算

事業所得2,000万円でも、法人化は年19.7万円の持ち出しです。損益分岐(事業所得・青色申告特別控除の前)を、個人事業税の扱いで比べると次のようになります。

個人の薬局の個人事業税2年目以降初年度(設立費用込み)
保険調剤だけで非課税2,277万円2,416万円
仮に全額に5%課税された場合1,243万円1,341万円

※ 上と同じスクリプトで --business type3_standard(第3種・5%)に変えて算出

一般的な業種の分岐点(1,243万円)を前提に法人化を判断すると、保険調剤中心の薬局では分岐点を1,000万円以上見誤ることになります。OTC医薬品や自費の売上が多い薬局ほど、実際の分岐点は2つの数字の間に入ります。

判定ツールでは、詳細設定の業種区分(個人事業税)で「法定業種外」を選ぶと保険調剤中心の薬局に近い条件で試算できます。自分の売上と経費で判定ツールに入れて確かめてください。業種ごとの個人事業税の扱いは個人事業税は業種でいくら変わるかに、計算の前提は計算方法に、設立の手順は会社設立を自分でやる手順にまとめています。

薬剤師国保に入っている薬局は、法人化の時期に健康保険の適用除外承認(14日以内)も重なります。承認を受けて残れるかどうかで法人化の損得がどう変わるかは薬剤師国保のまま法人化すると分岐点は動かないで計算しています。

まとめ

  • 薬局開設許可には承継の規定がなく、法人成りでは会社が許可を受け直す。会社は薬剤師の中から管理者を指定する(7条2項)
  • 保険薬局の指定も会社が新しく受ける。通知の「所在地移転を伴わず開設者のみの変更」型で遡及指定を受ければ空白を埋められ、薬局はこの型に開設者の限定がない
  • 遡及の要件は、調剤録・患者・管理薬剤師・職員の引継ぎ。人の入れ替えは指定後に回す
  • 個人の薬局は保険調剤の収入に個人事業税がかからない(72条の49の12)が、株式会社・合同会社は法人事業税の対象になる
  • 保険調剤中心の薬局の損益分岐は、東京23区・40〜59歳の試算で2,277万円。一般の業種の1,243万円とは1,000万円以上違う

よくある質問

薬局を会社にすると、保険薬局のコードは変わりますか。

開設者が個人から会社に変わると、保険薬局の指定は会社が新しく受けます。通常の指定日は申請した翌月の1日ですが、通知の要件を満たして地方社会保険医療協議会で認められれば、旧薬局の廃止日の原則同日または翌日にさかのぼって指定を受けられます。

社長の薬剤師が管理薬剤師を兼ねてもよいですか。

兼ねられます。会社は薬剤師ではないので、薬事に従事する薬剤師の中から管理者を指定します(7条2項)。社長本人を指定すれば、個人のときと同じ人が管理薬剤師を続けることになり、遡及指定の要件「新薬局の管理薬剤師が旧薬局と同一の薬剤師であること」も満たします。管理者は原則としてその薬局以外で薬事の実務に従事できません(7条4項)。

医療法人のように、会社でも保険調剤の所得に事業税がかからない扱いはありますか。

ありません。地方税法72条の23第2項の社会保険診療の特例を受ける法人は、医療法人などに限られます。株式会社・合同会社の薬局は、保険調剤の所得も含めて法人事業税の対象です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。