設立の手続き
医薬品の配置販売業・店舗販売業は法人成りで許可を取り直す
結論
薬機法には医薬品の販売業許可を承継する規定がなく、法人成りでは会社が配置販売業・店舗販売業の許可を新しく受けます。配置販売業は配置する区域を含む都道府県ごとの許可(30条1項)なので、複数の県で置き薬を回していれば県の数だけ申請します。許可のあと、会社の配置員として従事する人は配置従事の届出(32条)と身分証明書の交付(33条)を受け直し、個人の許可は廃止して30日以内に届け出ます。
- 富山県の配置販売業の手数料は新規許可2万9,000円・更新1万1,000円。営業譲渡に伴う申請では、以前に県へ出した同一書類の添付を備考欄への付記で省略できる
- 区域管理者・店舗管理者は薬剤師か登録販売者という個人の資格。会社が社長本人を指定すれば、法人成りの前と同じ人が管理を続けられる
- 東京23区・40〜59歳・物品販売業(第1種5%)・経費1,600万円の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度は1,370万円(許可手数料2万9,000円込み)
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
置き薬は「先用後利」と呼ばれる商習慣で、お客さまの家に薬箱を預け、使った分だけ次の訪問で代金を受け取ります。この配置販売業と、街の小さな薬店にあたる店舗販売業は、どちらも薬機法の医薬品の販売業許可です。
この記事は、置き薬を回している個人の配置販売業者と、一般用医薬品を売る薬店を個人で営む人を想定しています。許可を会社が受け直す理由、配置販売業に特有の「都道府県ごとの許可・配置従事の届出・身分証明書」、管理者を本人が続ける方法を確認し、最後に損益分岐を計算エンジンで出します。調剤を行う薬局の法人成りは薬局の法人成りと保険薬局の遡及指定で扱っています。
販売業の許可は、会社が新しく受ける
薬局開設者か医薬品の販売業の許可を受けた者でなければ、業として医薬品を販売・授与し、販売目的で貯蔵・陳列(配置を含む)してはなりません(薬機法24条1項)。販売業の許可は、店舗販売業・配置販売業・卸売販売業の3種類です(25条)。
| 許可 | 扱える医薬品と方法 | 誰が許可するか |
|---|---|---|
| 店舗販売業 | 要指導医薬品・一般用医薬品を店舗で販売 | 店舗ごとに所在地の都道府県知事(保健所を設置する市・特別区では市長・区長)(26条1項) |
| 配置販売業 | 一般用医薬品を配置により販売 | 配置する区域を含む都道府県ごとに、その知事(30条1項) |
薬機法で「地位を承継する」と定めているのは、製造販売の承認取得者などに限られます。販売業の許可には承継の条文がありません。個人とその人が作った会社は別の者なので、法人成りでは会社が新しく許可を受けます。
無許可で販売すると、3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科の対象です(84条9号)。会社の許可が出る前に会社名義で売り始めないことが、切り替えの大前提になります。
許可は6年ごとの更新制です(24条2項)。会社が新しく受けた許可は、会社の許可として6年を数え直します。高度管理医療機器の販売業も同じ構造で、医療機器の販売業許可と法人成りで整理しています。
配置販売業は都道府県ごとに申請する
配置販売業の許可は、配置する区域を含む都道府県ごとに与えられます(30条1項)。富山県と石川県と福井県で置き薬を回している個人なら、会社は3県それぞれに許可を申請します。店舗販売業の「店舗ごと」とは単位が違うので、県をまたいで回っている事業者ほど手続きの数が増えます。
申請書には、法人なら代表者の氏名、薬事に関する業務に責任を有する役員の氏名、区域管理者の氏名を書きます(30条2項)。添付書類は、法人の登記事項証明書、区域管理者の氏名・住所、勤務時間数と販売従事登録の番号、配置で販売する医薬品の区分などです(施行規則148条3項)。
富山県の手数料と、営業譲渡で省略できる書類
手数料は都道府県の条例で決まります。富山県の案内では、配置販売業の新規許可が2万9,000円、更新が1万1,000円です。
同じ案内は、以前に同一の書類を県へ提出していれば、申請書の備考欄にその旨を付記して添付を省略できるとしています。提出した者と申請する者が違っても省略でき、具体例として「相続、営業譲渡等に伴う申請」が挙げられています。個人のときに出した販売従事登録証の写しなどは、会社の申請で付記による省略を検討できます。
合同会社の場合、責任役員は会社を代表する社員と、薬事に関する法令の業務を担当する社員です(同案内)。一人会社なら社長本人が責任役員になります。
許可のあとに、配置従事の届出と身分証明書
配置販売業に特有なのは、許可とは別に人ごとの手続きがあることです。
| 手続き | 根拠 | 提出先 | 違反したとき |
|---|---|---|---|
| 配置従事の届出(あらかじめ) | 32条・施行規則150条 | 配置販売に従事する区域の都道府県知事 | 30万円以下の罰金(88条4号) |
| 身分証明書の交付・携帯 | 33条1項・施行規則151条 | 従事する人の住所地の都道府県知事 | 50万円以下の罰金(87条11号) |
配置従事の届出事項は、配置販売業者の氏名・住所、従事する者の氏名・住所、従事する区域と期間です(施行規則150条)。配置販売業者が個人から会社に替われば、届け出る配置販売業者そのものが変わるので、会社の配置員として届け出直します。
身分証明書は、配置員が申請するときに配置販売業者との使用関係を証する書類を添えます(施行規則151条2項2号)。社長本人が会社の配置員として回るなら、会社との関係を示す書類を添えて住所地の県に申請します。有効期間は発行の日の属する年の翌年12月31日までです(152条2項)。
配置先の書面と、引き継ぐ医薬品の記録
配置販売業者は、一般用医薬品を配置するとき、別表第一の四の事項を書いた書面を添えます(施行規則149条の10)。記載事項の先頭には、配置販売業者の氏名または名称その他の許可証の記載事項と区域管理者の氏名が並びます。会社に替われば、配置先ごとの書面も会社の名称に替える必要があります。お客さまの数が多い置き薬では、許可の申請よりもこの差し替えが実務の重さになります。
お客さまの家に置いてある医薬品を個人から会社へ譲り渡すと、会社は「譲り受けた」側として、品名・数量・譲受けの年月日・譲り渡した者の氏名などを書面に記載します(施行規則149条の5第1項)。お客さまの名簿(懸場帳)そのものの扱いを定めた条文は薬機法にはなく、事業譲渡の契約で個人から会社へ移すことになります。
区域管理者・店舗管理者は、本人が続けられる
配置販売業者は都道府県の区域を自ら管理するか、その区域で配置販売に従事する配置員の中から指定した者に管理させます(31条の2第1項)。店舗販売業者も、店舗を自ら管理するか、指定する者に管理させます(28条1項)。会社は法人なので、実際には薬剤師か登録販売者を管理者に指定することになります。
区域管理者・店舗管理者は、薬剤師か登録販売者でなければなりません(31条の2第2項、28条2項)。第2類・第3類医薬品だけを扱う区域・店舗なら、登録販売者は過去5年間の従事期間が通算2年以上あることなどが要件です(施行規則149条の2第1項2号、140条1項2号)。
薬剤師の免許も登録販売者の登録も個人に付く資格です。個人の配置販売業者として区域を管理していた登録販売者が、会社の配置員として区域管理者に指定されれば、管理する人は変わりません。従事期間の通算にも、店舗管理者・区域管理者としての業務が含まれます。
店舗管理者は、原則としてその店舗以外の場所で薬事の実務に従事できません(28条4項)。社長が店舗管理者を兼ねつつ別の店舗も見る、という形は、知事の許可がない限り取れない点に注意が要ります。
店舗販売業は店舗ごとに。個人の許可は30日以内に廃止届
小さな薬店(店舗販売業)は、店舗の所在地の都道府県知事、保健所を設置する市・特別区なら市長・区長の許可です(26条1項)。会社の申請書には代表者の氏名と責任役員の氏名を書き、店舗の平面図などを添えます(26条2項・3項)。
切り替えの順番は、配置販売業も店舗販売業も同じです。
- 会社を設立し、登記事項証明書を取る
- 会社が販売業の許可を申請する(配置販売業は県ごと)
- 許可が出たら、会社の事業として販売を始める。配置販売業は配置従事の届出と身分証明書もそろえる
- 個人の許可を廃止し、30日以内に届け出る(38条で10条1項を準用)
廃止の届出を怠ると50万円以下の罰金の対象です(87条1号)。会社の許可が出るまでは個人の許可で個人の事業として売り、出た時点で切り替えれば、販売できない期間は生じません。
設立そのものの手順と実費は会社設立を自分でやる手順に、許認可ごとに承継できるか・取り直しかの一覧は法人成りで許認可は引き継げるかにまとめています。
物品販売業の個人事業税と損益分岐
医薬品の販売は、店舗でも配置でも商品を売る事業なので、個人事業税の物品販売業(第1種事業・標準税率5%)にあたります(地方税法72条の2第8項1号、72条の49の17第1項1号)。事業主控除290万円を超えた所得にかかり、法人化するとかからなくなります。代わりに役員報酬に社会保険料がかかります。
医薬品の仕入れ・車両・ガソリン代などの経費を年1,600万円、社長を40〜59歳と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。初年度には、会社が新しく受ける配置販売業の許可手数料として、富山県の新規許可の額2万9,000円を1県分乗せています。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −34.0万円 | −46.9万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −18.9万円 | −31.8万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −10.0万円 | −22.9万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −4.3万円 | −17.2万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +26.1万円 | +13.2万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +65.8万円 | +52.9万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 1600 --business type1 --age 40to64 --fee 29000 --note '物品販売業(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費1,600万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は物品販売業(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円と許認可の取り直し費用29,000円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,243万円、初年度が1,370万円です。許可手数料を乗せない場合の初年度は1,341万円なので、2万9,000円の手数料で損益分岐が29万円動いています。損益分岐の近くでは、事業所得が10万円増えても法人化の差が1万円ほどしか縮まらないためです。
複数の県で許可を受け直すなら、その県の数だけ手数料が乗り、初年度の分岐はさらに上がります。手数料の額は県の条例で違うので、申請する県の案内で確認してください。自分の売上と経費は判定ツールで確かめられます。計算の前提は計算方法にまとめています。
まとめ
- 医薬品の配置販売業・店舗販売業の許可には承継の規定がなく、法人成りでは会社が新しく受ける。無許可販売は3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金の対象
- 配置販売業は都道府県ごとの許可。富山県の手数料は新規2万9,000円で、営業譲渡に伴う申請では以前の提出書類の添付を付記で省略できる
- 会社の配置員として、配置従事の届出(32条)と身分証明書(33条)を受け直し、配置先の書面も会社の名称に替える
- 区域管理者・店舗管理者は個人の資格なので、社長本人を指定すれば同じ人が管理を続けられる。個人の許可は廃止して30日以内に届け出る
- 東京23区・40〜59歳・経費1,600万円の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度1,370万円
よくある質問
配置先のお客さまの家にある薬箱は、法人成りでどうなりますか。
配置する医薬品には、配置販売業者の氏名または名称などを書いた書面を添えます(施行規則149条の10・別表第一の四)。許可を受けるのが会社に替わるので、書面の配置販売業者の名称も会社のものに替わります。個人から会社へ医薬品を譲り渡したときは、会社が品名・数量・譲受けの年月日などを書面に記録します(施行規則149条の5第1項)。
個人の身分証明書を会社の配置員としてそのまま使えますか。
薬機法には身分証明書を会社に引き継ぐ規定がありません。配置員として交付を申請するときは、配置販売業者との使用関係を証する書類を添えます(施行規則151条2項2号)。身分証明書の有効期間は、発行の日の属する年の翌年12月31日までです(152条2項)。
会社の許可が出るまで、個人の許可で売り続けてもよいですか。
個人の許可で個人の事業として売ることはできます。会社が許可を受ける前に会社の事業として販売すると無許可販売にあたり、3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金(併科あり)の対象です(薬機法84条9号)。会社の許可が出てから切り替え、個人の許可は廃止して30日以内に届け出ます。
出典
- e-Gov法令検索 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第10条(休廃止等の届出)・第24条(医薬品の販売業の許可)・第25条(許可の種類)・第26条(店舗販売業の許可)・第28条(店舗の管理)・第30条(配置販売業の許可)・第31条の2(都道府県ごとの区域の管理)・第32条(配置従事の届出)・第33条(配置従事者の身分証明書)・第37条(販売方法等の制限)・第38条(準用)・第84条・第87条・第88条(罰則)
- e-Gov法令検索 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則 第140条(店舗管理者の指定)・第148条(配置販売業の許可の申請)・第149条の2(区域管理者の指定)・第149条の5(医薬品の購入等に関する記録)・第149条の10(配置販売に関する文書の添付)・第150条(配置従事の届出事項)・第151条・第152条(身分証明書)・別表第一の四
- 富山県 新配置販売業許可に係る手続き(手数料・提出書類・添付書類の省略)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2第8項(第一種事業:物品販売業)・第72条の49の17(個人の事業税の標準税率)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。