役員報酬

一人会社の役員報酬は、株主総会のみなし決議と議事録で決める

結論

株主が社長1人の株式会社でも、取締役の報酬額は定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます(会社法361条)。総会を開く代わりに、取締役か株主が提案し、株主全員が書面または電磁的記録で同意すれば、可決の決議があったものとみなされます(319条)。3月決算なら、この同意の日を6月30日までに置くことで、改定後の報酬が定期同額給与の期首3か月の要件を満たします。

  • みなし決議の議事録に書くのは、決議があったとみなされた事項の内容・提案者の氏名・みなされた日・議事録を作成した取締役の氏名の4項目(会社法施行規則72条4項1号)
  • 同意の書面は、決議があったとみなされた日から10年間本店に備え置く(319条2項)。議事録も総会の日から10年間(318条2項)
  • 合同会社には361条に当たる規定がない。業務執行社員と会社の関係には民法の委任の規定が準用され、報酬は特約がなければ請求できない(593条4項)

一人会社の役員報酬は、社長が決めた額をそのまま払えばよいように見えます。しかし会社法は、取締役の報酬を取締役自身ではなく株主総会に決めさせています。株主と取締役が同じ1人でも、この区別は残ります。そして法人税の側では、その決議の日付が損金になるかどうかを分けます。

取締役の報酬は、定款か株主総会で決める

会社法361条1項は、取締役の報酬・賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益(報酬等)について、定款に定めがないときは株主総会の決議で定めるとしています。額が確定している報酬なら、決めるのは「その額」です。

取締役が自分の報酬を自分で決めることにならないよう、決定権を株主の側に置いた構造です。一人会社では株主と取締役が同一人物なので利害の対立は起きませんが、手続きとしての株主総会決議は省略できません。

決め方には、大きく2つあります。

決め方決議する内容一人会社での使いやすさ
定款に書く報酬の額そのもの額を変えるたびに定款変更の決議が要り、扱いにくい
株主総会で決める額、または取締役全員の報酬総額の上限一般的。上限を決めておけば、その範囲で個別の額を決められる

上限額を決議しておく方法では、個々の取締役の額をその範囲内で決めることになります。取締役が1人なら、上限額と実際の額を同じ決議で決めてしまうほうが、記録としては分かりやすくなります。上限額の決議は、一人社長の過大役員給与で扱った「形式基準」の根拠にもなります。

総会を開かずに決める「みなし決議」

株主総会を実際に開く方法は2つあります。招集通知を出して開くか、株主全員の同意を得て招集手続を省略して開くか(会社法300条)です。一人会社なら株主1人が同意すれば招集手続は要りません。

もう1つ、総会そのものを開かない方法があります。会社法319条1項の決議の省略です。

  1. 取締役または株主が、株主総会の目的である事項について提案する
  2. その事項について議決権を行使できる株主の全員が、書面または電磁的記録で同意の意思表示をする
  3. その提案を可決する株主総会の決議があったものとみなされる

一人会社では、社長が取締役として「役員報酬を月額◯円とする」と提案し、同じ社長が株主として同意書に署名すれば足ります。319条5項は、定時株主総会の目的である事項のすべてについてこの方法で可決されたときは、その時に定時株主総会が終結したものとみなすとしています。決算の承認と報酬の改定を、まとめてこの方法で済ませることもできます。

同意の書面または電磁的記録は、決議があったとみなされた日から10年間、本店に備え置かなければなりません(319条2項)。

議事録に書く4つの項目

みなし決議でも、議事録は作ります。会社法318条1項が株主総会の議事について議事録の作成を求め、会社法施行規則72条4項1号が、319条で決議があったとみなされた場合の記載事項を定めています。

記載事項一人会社での書き方の例
決議があったものとみなされた事項の内容取締役◯◯の報酬を、令和◯年◯月支給分から月額◯円とする
提案をした者の氏名または名称取締役 ◯◯
決議があったものとみなされた日令和◯年◯月◯日(株主の同意の意思表示があった日)
議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名取締役 ◯◯

実際に総会を開いた場合は、記載事項が変わります。開催の日時と場所、議事の経過の要領と結果、出席した取締役の氏名、議長の氏名などです(施行規則72条3項)。議事録は総会の日から10年間、本店に備え置きます(318条2項)。

法人税の面で効いてくるのは、3つ目の「みなされた日」です。 次の節で見るように、この日付が期限の内側か外側かで、報酬が損金になるかどうかが分かれます。

決議の日付が、定期同額給与と事前確定届出の期限を動かす

役員報酬を損金にするには、法人税法34条の要件を満たす必要があります。毎月同額の報酬(定期同額給与)の額を改定するなら、原則として事業年度開始の日から3か月を経過する日までに改定しなければなりません(法人税法施行令69条1項1号イ)。賞与を払うなら、事前確定届出給与として税務署に届け出ます。

3月決算の会社で、報酬を改定するみなし決議の日をずらした場合を並べました。

みなし決議の日定期同額給与の改定期限(6月30日)との関係事前確定届出給与の届出期限
5月25日期限内6月25日
6月28日期限内7月28日
7月5日期限後(特別の事情などがなければ増額分は損金にならない)7月31日

※ 事業年度4月1日〜3月31日。事前確定届出給与の届出期限は、決議の日(職務執行の開始の日がそれより後ならその日)から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日(7月31日)のいずれか早い日(国税庁 No.5211)。決議の日に職務執行を開始したものとした

6月28日と7月5日の差は1週間ですが、結果は大きく違います。7月5日の決議で月30万円から月50万円に増額すると、増額分の月20万円は定期同額給与に当たらず、損金になりません。期中に増額した場合に損金にならない額の計算は役員報酬を期中に増やした場合で扱いました。

一人会社のみなし決議は、提案と同意を同じ日に1人で済ませられます。手続きが簡単なぶん、日付を後から動かせるように見えてしまうのが落とし穴です。同意書・議事録の日付、報酬の支給記録、会計帳簿の計上が互いに整合していることが、税務調査で報酬の改定時期を示す材料になります。

設立1期目は、改定ではなく最初の決定になります。期限は設立日から3か月を経過する日です。1期目の日付の数え方は設立1期目の役員報酬はいつまでに決めるかにまとめています。

合同会社には、361条に当たる規定がない

ここまでは株式会社の話です。合同会社では、報酬の決め方の根拠が変わります。

合同会社などの持分会社では、社員は定款に別段の定めがある場合を除き業務を執行し(会社法590条1項)、社員が2人以上なら業務は社員の過半数で決めます(同条2項)。株式会社の361条に当たる「報酬は株主総会で決める」という規定はありません。

代わりに、業務を執行する社員と会社の関係には、民法の委任の規定(646条から650条)が準用されます(会社法593条4項)。民法648条は、受任者は特約がなければ報酬を請求できないと定めています。合同会社の社員に報酬を払うには、定款の定めや社員の決定という形で、報酬を払う旨とその額を決めておく必要があります。

社員が1人の合同会社では、その社員の決定を書面に残すことになります。法人税の定期同額給与・事前確定届出給与の要件は株式会社と同じなので、決定の日付を残す必要がある点も変わりません。株式会社と合同会社の違いは合同会社が増えている理由でも触れています。

報酬の額そのものは、手続きとは別に決める必要があります。判定ツールに自分の売上と経費を入れると、月5万〜100万円の役員報酬を総当たりして手取りが最大になる額を確かめられます。決議にはその額を、期首3か月以内の日付で書き込んでください。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 株主が社長1人の株式会社でも、取締役の報酬は定款に定めがなければ株主総会の決議で決める(会社法361条)
  • 総会を開かずに、取締役か株主が提案し株主全員が書面・電磁的記録で同意する「みなし決議」(319条)が使える。同意書は10年間本店に備え置く
  • みなし決議の議事録には、決議事項の内容・提案者・みなされた日・作成した取締役の4項目を書く(施行規則72条4項1号)
  • 3月決算なら、報酬を改定するみなし決議の日を6月30日までに置く。7月5日なら増額分は原則として損金にならない。事前確定届出給与の届出期限も決議の日から動く
  • 合同会社には361条に当たる規定がなく、業務執行社員の報酬は特約がなければ請求できない(593条4項・民法648条)。報酬を払う旨と額を決定し、日付を残す

よくある質問

一人会社でも、株主総会の議事録は作らなければいけませんか。

必要です。会社法318条は株主総会の議事について議事録の作成を求め、319条のみなし決議の場合も会社法施行規則72条4項が議事録の記載事項を定めています。株主が1人でも、この義務は変わりません。

報酬の額を毎年決議し直す必要はありますか。

会社法361条は、決議した額の有効期間を定めていません。ただし法人税の定期同額給与では、額を改定するならその事業年度開始の日から3か月を経過する日までに改定する必要があるため、改定する年は期首3か月以内の日付で決議を残します。

みなし決議の同意は、メールやPDFでもかまいませんか。

会社法319条1項は、書面のほか電磁的記録による同意の意思表示を認めています。電磁的記録で同意した場合も、その記録を決議があったとみなされた日から10年間、本店に備え置く必要があります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。