設立の手続き
発起人報酬は給与所得。定款に書くと検査役が必ず要る
結論
発起人報酬は、設立中の法人と発起人の従属関係から給与所得とされます(国税庁 質疑応答事例)。会社が負担するには定款への記載が必要で(会社法28条3号)、記載すると検査役の選任の申立てが要ります。現物出資のような500万円以下の免除は発起人報酬にはありません。売上1,200万円の一人会社で50万円を払うと、社長の所得税・住民税が6.6万円増え、法人税等が11.2万円減り、税の合計は4.6万円減ります。
- 会社法33条10項の検査役免除(総額500万円以下、税理士等の証明など)は、現物出資と財産引受(28条1号・2号)だけが対象。発起人報酬(3号)には使えない
- 検査役の報酬は裁判所が額を定め、成立後の会社が払う(会社法33条3項)。法定の定額はない
- 法人側では発起人に支払う報酬は創立費(法人税法施行令14条1項1号)。繰延資産で、償却限度額は繰延資産の額まで
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
株式会社の定款のひな形を見ると、「発起人の報酬」という欄があることがあります。一人で会社を作る人にとって、自分に報酬を払えば節税になるのかが気になるところです。結論から言うと、税金の差は数万円で、その代わりに裁判所の手続きが1つ増えます。
発起人報酬は、給与所得として課税される
国税庁の質疑応答事例(源泉所得税 03/17)は、法人の設立期間中に発起人が受ける報酬で、設立した法人が負担すると定款に記載されているものを取り上げています。回答は「給与所得に該当する」でした。
理由として、発起人報酬は発起人が会社の設立のために提供した労務の報酬であり、設立中の法人(人格のない社団等)と発起人は従属関係にあると解されるから、と説明しています。事業所得や雑所得ではなく、給与所得控除が使える給与所得です。
一人で設立する場合、受け取るのは社長本人です。同じ年の役員報酬と合わせた給与収入に対して、所得税と住民税がかかります。
定款に書かないと、会社に負担させられない
会社法28条は、株式会社の設立で、次の事項は定款に記載しなければ効力を生じないとしています。
| 号 | 定款に書く事項 | 法人成りでの例 |
|---|---|---|
| 1号 | 金銭以外の財産の出資(現物出資) | 車やパソコンで出資する |
| 2号 | 成立後に譲り受けることを約した財産(財産引受) | 設立後に車を買う約束をする |
| 3号 | 発起人が受ける報酬その他の特別の利益 | 発起人報酬 |
| 4号 | 会社が負担する設立に関する費用(定款認証の手数料など法務省令で除くものを除く) | 設立の実費 |
発起人報酬を会社の負担にしたければ、定款に金額と発起人の氏名を書くことになります。
発起人報酬には、500万円以下の検査役免除がない
問題はここからです。会社法33条1項は、定款に28条各号の事項が書かれているときは、発起人は公証人の認証の後、遅滞なく裁判所に検査役の選任を申し立てなければならないとしています。28条各号なので、3号の発起人報酬も含まれます。
検査役が要らなくなる例外は33条10項に3つありますが、どれも対象は「現物出資財産等」、つまり28条1号・2号の財産です。
| 33条10項の免除 | 現物出資・財産引受(1号・2号) | 発起人報酬(3号) |
|---|---|---|
| 定款記載の価額の総額が500万円以下 | 使える | 使えない |
| 市場価格のある有価証券 | 使える | 使えない |
| 弁護士・公認会計士・税理士等の証明 | 使える | 使えない |
法人成りの現物出資なら、500万円以下に収めれば検査役は要りません(法人成りの現物出資、検査役が不要になる500万円の壁)。発起人報酬は、金額が小さくてもこの道がありません。財産引受の扱いは事後設立と財産引受の100万円の線で整理しています。
検査役の報酬は、裁判所が額を定め、成立後の会社が払います(33条3項)。法律で決まった定額はありません。調査の報告を受けた裁判所が、定款の内容を不当と認めれば変更の決定もします(33条7項)。
税金は数万円減るが、設立の手間が1段増える
法人の側では、発起人に支払う報酬は創立費です(法人税法施行令14条1項1号)。創立費は繰延資産で、償却限度額は繰延資産の額そのものなので(同令64条1項1号)、1期目に全額を償却して損金にすることもできます。創立費の任意償却の考え方は法人の創立費・開業費は任意償却で説明しています。
では、社長の所得税・住民税の増加と、法人税等の減少を比べるとどうなるか。売上1,200万円の一人会社で計算しました。
| 発起人報酬 | 社長の所得税・住民税の増加 | 法人税等の減少(1期目に全額償却) | 差引(税の合計の増減) |
|---|---|---|---|
| 30.0万円 | +3.6万円 | −7.0万円 | −3.3万円 |
| 50.0万円 | +6.6万円 | −11.2万円 | −4.6万円 |
| 100.0万円 | +14.7万円 | −21.9万円 | −7.2万円 |
※ 売上1,200万円(税抜)・経費200万円・役員報酬 月40万円(12か月)・東京23区・40歳未満・株式会社。発起人報酬がない場合の社長の所得税・住民税は31.4万円、法人税等は103.3万円
※ 社会保険料は発起人報酬で変わらないとした。社会保険上の扱いは公表資料で確認できていない
※ 差引は各列を1,000円単位で丸める前の値から計算。計算は scripts/hokkinin-hoshu-kyuyo-shotoku.mjs による
税の合計が減るのは、この条件では法人の利益にかかる税率のほうが、社長個人の給与にかかる税率より高いからです。お金を会社に残すより、給与として社長に移したほうが税が軽い状態です。ただし同じことは役員報酬の水準を見直しても起こり得ます。役員報酬の最適額は役員報酬の決め方(最適額の計算)で総当たりしています。
50万円の発起人報酬で減る税は4.6万円です。これに対して、検査役の選任の申立てと、裁判所が定める検査役の報酬が加わります。報酬額は事前に分からないため、損得を数字で言い切ることはできませんが、数万円の税の差のために裁判所の手続きを1つ足す構図になります。
合同会社には、発起人報酬という仕組みがない
発起人と28条は株式会社の設立の規定です。合同会社の定款に書く事項(576条)は、目的・商号・本店の所在地・社員の氏名と住所・出資の目的と価額などで、発起人報酬に当たる項目はありません。
設立の段取り全体と、株式会社と合同会社の手続きの違いは会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)にまとめています。
まとめ
- 発起人報酬は、設立中の法人との従属関係から給与所得とされる(質疑応答事例 源泉所得税 03/17)
- 会社に負担させるには定款への記載が要る(会社法28条3号)。記載すると検査役の選任の申立てが要る
- 33条10項の免除(500万円以下・税理士等の証明など)は現物出資と財産引受だけ。発起人報酬には使えない
- 法人側では創立費で、1期目に全額償却もできる。売上1,200万円の一人会社で50万円払うと、税の合計は4.6万円減る
- 検査役の報酬は裁判所が決めて会社が払う。合同会社には発起人報酬の仕組みがない
よくある質問
合同会社を設立するときも、発起人報酬を払えますか。
発起人報酬を定款に書く会社法28条は株式会社の規定です。合同会社の定款の記載事項(576条)に発起人報酬に当たる項目はありません。
定款に書かずに、設立後の会社から発起人報酬を払ってもよいですか。
会社法28条は、発起人の報酬などは定款に記載しなければ効力を生じないと定めています。定款に書いていない発起人報酬を会社の負担として払う根拠はありません。
発起人報酬に社会保険料はかかりますか。
日本年金機構の公表資料では、発起人報酬の扱いを確認できませんでした。この記事の試算は、社会保険料が変わらない前提で税額だけを比べています。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。