設立の手続き

法人成りで社長の車を会社が買う。事後設立と財産引受の100万円の線

結論

株式会社が成立後2年以内に、成立前からあって事業に使い続ける財産を買い、その対価が純資産額の5分の1を超えると、株主総会の特別決議が要ります(会社法467条1項5号、事後設立)。純資産額は500万円を下回れば500万円とみなすので、資本金300万円以下の会社では対価100万円超が境目です。設立前に「成立後に買う」と約束する財産引受は、定款に書かないと効力がありません(28条2号)。合同会社にはどちらの規定もありません。

  • 社長個人の車(180万円)を資本金100万円の株式会社が成立後に買うと、事後設立として株主総会の特別決議が要る。パソコン一式(40万円)なら要らない
  • 財産引受は現物出資と合わせた定款記載額が500万円以下なら検査役の調査が要らない(会社法33条10項1号)。譲渡人である社長自身は、価額の証明をする人になれない
  • 社長と会社の売買は、事後設立の要件に当たらなくても利益相反取引として株主総会の承認が要る(会社法356条1項2号)

法人成りでは、個人事業で使っていた車や機械、パソコンを会社に移すのが普通です。移し方は大きく3つあり、税金の違いは法人成りの資産引継ぎで整理しました。この記事は会社法の手続きの側です。いつ買うかで、定款への記載、検査役、株主総会の決議と、求められるものが変わります。

会社が社長の資産を手に入れる3つのタイミング

タイミング会社法上の呼び名求められる手続き(株式会社)
設立時に、お金の代わりに資産で出資する現物出資(28条1号)定款に記載。総額500万円超なら原則として検査役
設立前に「成立後に買う」と約束する財産引受(28条2号)定款に記載。総額500万円超なら原則として検査役
成立後に、改めて売買契約を結ぶ事後設立(467条1項5号)に当たるか確認2年以内で対価が純資産額の5分の1超なら株主総会の特別決議

現物出資の検査役と500万円の線は法人成りの現物出資、検査役が不要になる500万円の壁で扱っています。ここでは残りの2つ、財産引受と事後設立を見ます。

財産引受:設立前の約束は、定款に書かないと効力がない

会社法28条は、株式会社を設立するとき、次の事項は定款に記載しなければ効力を生じないとしています。その2号が「株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称」です。

法人成りでは、発起人である自分が、自分の車を、これから作る会社に売る約束をすることになります。この約束を定款に書いていなければ、成立前の約束としての効力はありません。

検査役の調査と、その免除

財産引受も、現物出資と同じく原則として裁判所が選任する検査役の調査の対象です(33条1項)。免除されるのは主に次の場合です(33条10項)。

  • 現物出資と財産引受の財産(あわせて「現物出資財産等」)の定款記載額の総額が500万円を超えない場合(1号)
  • 定款記載の価額が相当であることについて、弁護士・公認会計士・税理士などの証明を受けた場合。不動産は不動産鑑定士の鑑定評価も必要(3号)

注意したいのは、500万円の判定が現物出資と財産引受の合計で行われる点です。車300万円を現物出資し、機械250万円を財産引受にすると、総額550万円で1号の免除は使えません。また、3号の証明は、発起人や財産引受の譲渡人自身はできません(33条11項)。法人成りの社長は両方に当たるので、自分で価額を証明することはできません。

事後設立:成立後2年以内の買い取りは、金額で決議が要る

財産引受を使わず、会社が成立してから社長と売買契約を結ぶ方法もあります。こちらは定款への記載も検査役も要りません。その代わり、次の条件をすべて満たすと、効力発生日の前日までに株主総会の承認が要ります(467条1項5号)。

  1. 発起設立・募集設立で成立した株式会社である
  2. 成立後2年以内の取得である
  3. 成立前から存在し、事業のために継続して使用する財産である
  4. 対価として交付する財産の帳簿価額の合計が、純資産額の5分の1を超える(定款でこれより低い割合も定められる)

決議は特別決議です(309条2項11号)。議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が要ります。

小さな会社ほど、境目は100万円に張りつく

5分の1の基準になる純資産額は、資本金・準備金・剰余金などの合計から自己株式などを引いた額です。ただし、その額が500万円を下回る場合は500万円とします(会社法施行規則135条)。小さな会社でも、純資産額は500万円より小さくは計算されません。

会社の状態計算上の純資産額施行規則135条で使う純資産額特別決議が要るのは対価が次の額を超えるとき
資本金10万円(成立直後)10万円500万円100万円
資本金100万円(成立直後)100万円500万円100万円
資本金300万円(成立直後)300万円500万円100万円
資本金1,000万円(成立直後)1,000万円1,000万円200万円
資本金100万円+剰余金600万円(2期目の例)700万円700万円140万円

※ 成立直後の行は、準備金・剰余金・自己株式などをゼロとした場合。2期目の行の剰余金は仮の値 ※ 計算は scripts/jigo-setsuritsu-zaisan-hikiuke.mjs による

資本金300万円以下の会社なら、境目は一律100万円です。資本金100万円の会社で考えると、パソコン・周辺機器一式40万円の買い取りは決議不要ですが、業務用の車180万円は特別決議が要ります。法人成りで個人の車を会社に移すケースの多くが、この線を超えます。

一人会社なら、書面の同意で決議を省略できる

株主が社長1人なら、特別決議の要件は自分の賛成だけで満たします。株主総会を開かず、株主全員(=自分)が書面や電磁的記録で同意すれば、決議があったものとみなされます(319条1項)。やることは、提案と同意の書面を作り、議事録として残すことです。役員報酬の決議と同じ方法で、一人会社のみなし決議で書き方を説明しています。

2年を過ぎても、利益相反取引の承認は要る

事後設立の要件に当たらない場合でも、社長が会社と売買する以上、別の規定がかかります。取締役が自己のために株式会社と取引をしようとするときは、株主総会で重要な事実を開示し、承認を受けなければなりません(356条1項2号。取締役会を置かない会社の場合)。

取引事後設立(467条)利益相反取引(356条)
成立1年目に社長の車を180万円で買う(資本金100万円)特別決議が要る承認が要る
成立1年目に社長のパソコンを40万円で買う要らない承認が要る
成立3年目に社長の車を180万円で買う要らない(2年経過)承認が要る

価格の決め方にも気を配る必要があります。時価の2分の1未満で売ると、所得税では時価で売ったものとみなされます(法人成りで車を会社に安く売ると、時価で売ったとみなされる)。会社法の手続きと税金の時価は別々に見られます。

合同会社には、財産引受も事後設立もない

財産引受(28条)と事後設立(467条)は、どちらも株式会社の規定です。合同会社などの持分会社の定款の記載事項(576条)に、財産引受の項目はありません。467条も株式会社が対象です。

項目株式会社合同会社
設立前に「成立後に買う」約束定款に記載しないと効力なし(財産引受)規定なし
成立後2年以内の買い取り対価が純資産額の5分の1超なら特別決議(事後設立)規定なし
社長(業務執行社員)との売買株主総会の承認(356条)他の社員の過半数の承認。定款で別段の定めも可(595条)

法人成りで個人の資産を多く移す予定がある人にとっては、手続きの負担も、株式会社と合同会社を選ぶときの材料の1つになります。株式会社か合同会社かを含めた設立の全体像は会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)にまとめています。

まとめ

  • 会社が社長の資産を手に入れる方法は、現物出資・財産引受・成立後の買い取りの3つで、会社法の手続きがそれぞれ違う
  • 財産引受は定款に記載しないと効力がない。現物出資と合わせて500万円を超えると原則として検査役の調査が要り、社長自身は価額の証明ができない
  • 成立後2年以内に、成立前からある事業用の財産を純資産額の5分の1超の対価で買うと、事後設立として株主総会の特別決議が要る
  • 純資産額は500万円未満なら500万円とみなすので、資本金300万円以下の会社の境目は100万円。車の買い取りの多くが当たる
  • 合同会社には財産引受・事後設立の規定がない。どちらの会社でも、社長との売買には利益相反取引の承認が要る

よくある質問

事後設立の特別決議を取らずに車を買ってしまったら、どうなりますか。

会社法467条1項は、効力発生日の前日までに株主総会の承認を受けなければならないと定めています。一人会社でも、承認の決議(または全員の書面同意による決議の省略)の記録がない状態になります。取引の効力の扱いは条文に書かれていないため、気づいた時点で専門家に確認が必要です。

2年を過ぎてから買えば、事後設立の手続きは要りませんか。

467条1項5号は成立後2年以内の取得が対象なので、2年を過ぎれば事後設立には当たりません。ただし社長から買う取引は、時期に関係なく利益相反取引として株主総会の承認が要ります。

法人成りで在庫を会社に売る場合も事後設立になりますか。

事後設立の対象は、成立前から存在し、事業のために継続して使用する財産の取得です。販売用の在庫が「継続して使用するもの」に当たるかは条文から一義的には読めないため、金額が大きい場合は登記・法務の専門家に確認してください。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。