インボイス・消費税

法人成りしても社長個人の消費税は2年残る。会社に貸す事務所家賃が課税に

結論

個人事業者の消費税は、前々年の課税売上高が1,000万円を超えると納税義務があります(国税庁No.6501)。年1,200万円の売上があった個人は、法人成りした翌年も課税事業者のままで、会社へ貸す事務所の家賃や会社へ売る資産に消費税がかかります。法人成りの年に在庫・車などを会社へ売った代金も課税売上に入るため、7月に法人成りして500万円分を売ると、その年の課税売上は1,100万円になり、翌々年まで課税が続きます。

  • 個人は年の途中で事業をやめても課税売上を12か月に換算しない。法人成りの月が遅いほど、その年の課税売上が1,000万円を超えやすい
  • 会社へ貸す事務所の家賃は課税、住宅の貸付けは非課税(国税庁No.6225)。事務所家賃が年180万円なら消費税18万円で、原則課税なら納付もほぼ18万円、簡易課税(第6種)なら10.8万円
  • インボイス登録を残していれば、前々年の売上に関係なく課税事業者のまま。課税売上がない年は申告しなくてよい

法人成りすると、売上は会社に移ります。社長個人の事業は終わったように見えますが、消費税の判定は2年遅れで動きます。個人の納税義務は前々年の課税売上で決まるからです。

法人成りの翌年、社長が個人で会社に事務所を貸したり、残っていた車を売ったりすると、その取引に消費税がかかります。法人成りの年の売り方によっては、翌々年まで続きます。

個人の判定は「前々年」の課税売上

国税庁No.6501によると、個人事業者は、その年の前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下なら、原則として消費税の納税義務が免除されます。逆に前々年が1,000万円を超えていれば、その年は課税事業者です。

ほかに次の場合も免除されません。

  • インボイス(適格請求書発行事業者)の登録を受けている
  • 前年1月1日〜6月30日(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超える(給与等の支払額で判定してもよい)
  • 課税事業者選択届出書を出している

個人の課税期間は暦年です。法人と違い、個人は年の途中で事業を始めたりやめたりしても、基準期間の課税売上を12か月分に換算しません(消費税法9条2項)。この違いが法人成りの年に効きます。

法人成りの翌年は、まず課税事業者のまま

年1,200万円の課税売上があった個人が法人成りした場合、翌年の判定に使うのは法人成りの前年の売上で、その額は1,200万円です。翌年の社長個人は、売上がほとんどなくても課税事業者です。

翌年の個人に残りやすい取引は次のとおりです。

翌年の個人の取引消費税
自宅の一室を事務所として会社に貸す家賃課税(事務所の貸付け)
自宅を社宅として会社に貸す家賃非課税(住宅の貸付け)
個人名義の車・機械を会社に貸すリース料課税
引き継がずに残っていた備品・車を会社や第三者に売った代金課税
土地の貸付け(駐車場など施設利用を除く)非課税

事務所の家賃が年180万円(税抜)なら、消費税は18万円です。個人側に課税仕入がほとんどなければ、原則課税では18万円近くを納めます。簡易課税制度を選んでいれば、不動産業(第6種)のみなし仕入率40%が使え、納付は10.8万円です。簡易課税は適用を受けたい年の前年末までに届出が必要なので(No.6505)、法人成りの年のうちに決めておくことになります。

自宅を会社に貸す仕組みと所得税の扱いは自宅を法人へ貸す家賃は経費で整理しています。

法人成りの年に資産を売ると、翌々年まで続く

翌々年の判定に使うのは、法人成りした年の課税売上です。この年は、法人成りまでの個人の売上に加えて、在庫・車・備品などを会社へ売った代金も課税売上に入ります(法人成りの在庫引継ぎは「売上」)。

年1,200万円の売上がある個人について、法人成りの月と会社へ売った資産の額で計算しました。

法人成りの月会社へ売った資産法人成りの年の個人の課税売上翌年翌々年
4月0万円300万円課税免税
4月500万円800万円課税免税
7月0万円600万円課税免税
7月300万円900万円課税免税
7月500万円1,100万円課税課税
10月0万円900万円課税免税
10月300万円1,200万円課税課税

※ 個人の課税売上は年1,200万円(税抜・毎月均等)。法人成りの月の前月末で個人の売上が止まり、同時に事業用資産を会社へ売るものとした。翌年の判定は前々年1,200万円 ※ 免税は、特定期間(前年1〜6月)の課税売上と給与等がともに1,000万円以下で、インボイス登録をしていない場合 ※ 計算は scripts/houjinnari-kojin-shohizei-nokoru.mjs による

10月に法人成りすると、それまでの9か月の売上だけで900万円あります。会社へ300万円分の資産を売れば1,200万円になり、翌々年も課税事業者です。法人成りの月が遅く、引き継ぐ資産が大きいほど、個人の消費税が長く残ります。

資産を時価で会社に売るか、個人に残して貸すかの判断は、所得税の譲渡所得の扱いも絡みます(法人成りの資産引継ぎ。車・パソコンは時価で売るのか)。

インボイス登録を残すと、売上に関係なく課税

インボイス登録をしている個人は、前々年の課税売上が1,000万円以下でも課税事業者です。法人成りした後も個人の登録を残していれば、事務所家賃などの課税売上は毎年申告の対象になります。

登録を残す理由がない人は、登録をやめる手続きをしておかないと、売上がなくなった後も課税事業者の扱いが続きます。やめ方と期限はインボイス登録をやめるにはで扱っています。逆に会社へ事務所を貸し続け、会社が家賃の消費税を仕入税額控除したい場合は、個人の登録を残す選択もあります。

課税事業者でも、その年に課税売上がなく納付税額もなければ、申告書を出す必要はありません(消費税法45条1項ただし書)。家賃を会社から受け取らない、住宅として貸すだけ、という年は申告不要です。

店じまいの手続きと一緒に決めること

個人事業をやめるときは、所得税・消費税・地方税の届出が重なります(法人成りしたら、個人事業の店じまいに5つの期限がある)。消費税については、次の3つを法人成りの年のうちに決めておくと、翌年以降の負担が読めます。

  1. 会社に事務所を貸し続けるか、資産を残して貸すか(翌年の課税売上が生じるか)
  2. 在庫・車・備品をいくらで、いつ会社へ売るか(翌々年の判定に効く)
  3. 個人のインボイス登録と簡易課税の届出をどうするか

法人側の消費税が設立から2年免税になるかどうかは、インボイス登録済みなら、法人化しても消費税の2年間免税は受けられないで扱っています。会社の側と社長個人の側で、消費税が二重に残る期間があることを前提に、自分の売上と経費で法人化の損得を確かめてください。

まとめ

  • 個人の消費税は前々年の課税売上で判定する。年1,200万円の売上があった個人は、法人成りの翌年も課税事業者
  • 翌年に会社へ貸す事務所の家賃や、会社へ売る資産の代金に消費税がかかる。住宅の貸付けと土地の貸付けは非課税
  • 法人成りの年に会社へ売った資産も課税売上に入る。個人は12か月換算しないので、10月に法人成りして300万円分を売ると1,200万円になり、翌々年まで課税
  • インボイス登録を残していれば売上に関係なく課税事業者。課税売上も納付税額もない年は申告不要
  • 事務所家賃が年180万円なら消費税18万円。簡易課税(第6種)なら納付10.8万円で、届出は前年末まで

よくある質問

法人成りした年の個人の消費税の申告はいつですか。

個人の課税期間は1月1日から12月31日までなので、法人成りした年の分は翌年3月31日までに申告します。会社へ資産を売った代金も、その年の課税売上に含めて計算します。

会社に貸すのが自宅の一部の場合も、家賃に消費税はかかりますか。

契約上も実態上も事務所として貸している部分は課税、住宅として貸している部分は非課税です(国税庁No.6225)。自宅兼事務所を会社に貸す場合は、事務所部分の家賃だけが課税売上になります。

翌々年の判定に使う前々年の売上に、住宅の家賃は入りますか。

入りません。基準期間の課税売上高は課税資産の譲渡等の対価の合計なので、非課税の住宅家賃は数えません。事務所家賃や事業用資産の売却代金は数えます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。