税金の基礎

別の市に事務所がある個人事業主は均等割が2か所。法人化で7万円に

結論

1月1日に住所がない市区町村に事務所・事業所・家屋敷を持つ個人は、その市区町村で住民税の均等割だけを納めます(地方税法24条1項2号・294条1項2号)。額は標準で年4,000円(市区町村3,000円+道府県1,000円)で、森林環境税1,000円は住所地でしか課されないため乗りません。法人化してその事務所を会社のものにすると個人の4,000円は消え、代わりに法人住民税の均等割が最小区分で年7万円かかるため、事務所の所在地で払う額は年6万6,000円増えます(東京23区の例)。

  • 特別区と政令指定都市の区は1つの市とみなされる(地方税法737条)。同じ横浜市内でも、住所と別の区に事務所があれば事務所の区で均等割がかかる
  • 個人の事務所課税は1月1日の状態で1年分が決まり、月割はない。前年の所得が非課税基準以下なら課されないが、法人の均等割は赤字でもかかる
  • 判定ツールは個人側の均等割を住所地の5,000円だけで見込む。別の区に事務所がある人は、実質差額が年4,000円だけ法人化寄りに動く

均等割は「住んでいる市区町村で年5,000円」と覚えている人が多いはずです。ところが、自宅とは別の市や区にオフィスや店舗を借りている個人事業主には、事務所の所在地からも均等割の納税通知が届きます。法人化を考えるときに比べるべきなのは、この事務所側の均等割と、同じ事務所に会社として払う均等割です。

住所のない市区町村でも、事務所があれば均等割だけかかる

地方税法294条1項は、市町村民税の納税義務者を号で分けています。1号が「市町村内に住所を有する個人」、2号が「市町村内に事務所、事業所又は家屋敷を有する個人で当該市町村内に住所を有しない者」です。2号の人には均等割だけが課されます。道府県民税も24条1項2号に同じ区分があります。

東京都主税局の案内は、2号の人を「都内に事務所・家屋敷を持っている方(借りている場合も含むが、貸している場合は除く。)で、当該区市町村内に住所がない方」とし、所得割はかからず均等割はかかる、と整理しています。

事務所・事業所と家屋敷の意味は、横浜市と神戸市の案内がそろっています。

区分自治体の説明例
事務所・事業所自己所有か賃貸かを問わず、事業のために設けた設備で、そこで継続して事業が行われる場所住宅以外に設けた診療所・法律事務所・税理士事務所、店舗、ビルの一室を借りている場合
家屋敷自己または家族が住む目的で住所地以外に設けた独立した住宅。いつでも住める状態なら、実際に住んでいるか、所有しているかを問わない別荘、空き家、マンション、単身赴任中の家族が住む住宅
対象にならない例(神戸市)単なる資材置場・倉庫・車庫、一時的な仮事務所、他人に貸している住宅、法人格を有して事業を行っている場合—

課税の理由について神戸市は、事務所等があることでその場所の消防・清掃・道路などの行政サービスを受けるため、と説明しています。住民でなくても、その土地で事業をしている以上は応分の負担をする、という考え方です。

森林環境税は乗らないので、事務所側は年4,000円

均等割の標準税率は、市町村民税が3,000円(地方税法310条)、道府県民税が1,000円(同38条)です。住所地ではこれに森林環境税1,000円が加わって年5,000円になります。

一方、事務所の所在地では森林環境税がかかりません。森林環境税法3条は納税義務者を「この法律の施行地に住所を有する個人」とし、7条は賦課徴収を「住所所在市町村」が均等割と併せて行うと定めています。森林環境税は国税で、1人に1回、住所地で課す設計です。港区の令和8年度の案内も、区内に住所がなく事務所・事業所・家屋敷がある人は「均等割額のみ課税されます」としており、神戸市は「森林環境税(1,000円)は課税されません」と明記しています。

node scripts/ieyashiki-kintouwari-houjinka.mjs で、事務所の持ち方ごとに年間の均等割を並べました(標準税率、法人は東京23区の最小区分)。

形住所地(均等割+森林環境税)事務所の所在地(個人の均等割)法人住民税の均等割年間合計
個人・自宅(住所地)だけで営業5,000円——5,000円
個人・住所と別の区市町村に事務所1か所5,000円4,000円—9,000円
個人・住所と別の2区市町村に事務所1か所ずつ5,000円8,000円—13,000円
法人化・その事務所を会社の本店に(社長は住所地で課税)5,000円—70,000円75,000円

事務所が2つの市区町村にあれば、事務所課税も2か所です。地方税法24条7項は、2号の人について「市町村民税を均等割により課する市町村ごとに一の納税義務がある」として道府県民税を課すと定めています。同じ県内の2市に事務所があっても、県民税の均等割は市ごとに1回ずつかかります。

法人化して事務所を会社の本店にすると、事務所の所在地で払う額は4,000円から7万円になり、年6万6,000円増えます。均等割の固定費が増える理由の大半は、法人住民税の均等割そのものです。資本金等や従業者数で区分が上がる仕組みは法人住民税の均等割は赤字でも年7万円で扱っています。

23区と政令指定都市は、区が違えば別の市として数える

地方税法737条1項は、道府県民税・市町村民税の規定の適用について、特別区と指定都市の区の区域を「一の市の区域とみなす」としています。つまり「同じ市の中だから関係ない」とは限りません。

横浜市は、鶴見区以外に住む人が鶴見区内に家屋敷等を持つ場合は、鶴見区で均等割を納めると案内しています。神戸市も中央区の例で同じ説明をしています。世田谷区に住んで渋谷区にオフィスを借りる、横浜市青葉区に住んで中区に店舗を持つ、という形はどちらも事務所課税の対象になり得ます。

個人側の均等割にも超過課税があり、自治体で額が違います。各市の公式案内で確認できた額と、法人住民税の均等割(data/rates-2026.json の自治体別の値)を並べました。

事務所のある区個人の事務所課税(市区+都府県)法人住民税の均等割(最小区分)法人化で増える額
東京23区(港区の案内)4,000円(3,000円+1,000円)70,000円66,000円
横浜市5,200円(3,900円+1,300円)74,500円69,300円
神戸市5,200円(3,400円+1,800円)72,000円66,800円

横浜市は令和5年度以前は市民税4,400円・県民税1,800円だった、と注記しています。現在の5,200円にも森林環境税は含まれていません。法人側の自治体差は法人住民税の均等割は自治体で違うに9市の内訳があります。

1月1日で1年分。月割がなく、所得が少なければかからない

個人の事務所課税と法人の均等割は、同じ「均等割」でも決まり方が違います。

項目個人の事務所・家屋敷課税法人住民税の均等割
いつの状態で決まるか1月1日(賦課期日。地方税法39条・318条)事業年度中に事務所等があった月数
途中で開設・廃止したとき月割なし。1月1日にあれば1年分、なければ0円月割で計算
所得が少ないとき前年の合計所得金額が非課税基準以下なら課されない赤字でも課される

所得による非課税は、地方税法295条3項が「この法律の施行地に住所を有する者で均等割のみを課すべきもの」を対象にしています。国内のどこかに住所がある人なら、事務所の所在地でもこの基準が使えます。横浜市は、扶養家族のない人で前年の合計所得金額が「35万円+10万円」以下なら課税されないと案内しています。国内に住所がない人は、所得にかかわらず課税されます。

開業1年目で所得がほとんどない年は、個人なら事務所側の均等割は0円で済み得ます。法人の均等割にはこの扱いがなく、事業の立ち上がりで赤字の期にも7万円が残ります。

法人成りした年は、両方が重なります。7月1日に設立して12月決算とした例です。

法人成りの年(7月1日設立・12月決算)金額
住所地の個人住民税の均等割+森林環境税(1月1日に住所)5,000円
事務所の所在地の個人の均等割(1月1日に個人の事務所。月割なし)4,000円
法人住民税の均等割(第1期6か月の月割)35,000円
合計44,000円
翌年(1月1日に事務所は会社のもの。法人は12か月)75,000円

事務所課税の4,000円は、1月1日に個人の事務所があった時点で、その年度の分が決まっています。年の途中で会社に引き継いでも返ってきません。住所地の住民税が法人成りの翌年まで個人事業の所得で計算される流れは、法人化した年に届く住民税は個人事業の額で確かめられます。

判定ツールの試算にどれだけ効くか

判定ツールは、個人側の住民税の均等割を住所地の5,000円だけで見込んでいます。別の区に事務所がある人は、個人のままだと事務所課税の4,000円が上乗せされ、法人化するとその4,000円が消えます。法人側の均等割7万円は、判定ツールが最初から差し引いています。

売上経費判定ツールの実質差額(3年目以降)別の区に事務所がある場合法人化後の均等割(社長+法人)
800万円200万円−37.6万円−37.2万円75,000円
1,000万円200万円−24.1万円−23.7万円75,000円
1,200万円200万円−14.7万円−14.3万円75,000円
1,500万円200万円+3.6万円+4.0万円75,000円

※ 東京23区・単身・40歳未満・青色65万円(e-Tax)・インボイス登録あり・合同会社・最適役員報酬。実質差額は税理士報酬の差を引いた3年目以降の値(法人化−個人)。2026年(令和8年)分基準。計算の前提は計算の根拠と前提にあります

差は年4,000円で、判定の向きを変えるほどではありません。事務所が別の区にあるかどうかより、法人の均等割7万円が事業規模にかかわらず毎年乗ることのほうが、分岐点に効きます。

事務所を2拠点以上に広げる場合は、法人化後の均等割も拠点ごとに増えます。2都府県・2市区町村に事務所を置くと最小区分でも年14万円になる例は、法人の事務所が2自治体なら均等割も2か所で計算しています。

法人化したら、事務所の所在地にも届け出る

個人の事務所課税は、自治体が申告書で把握しています。神戸市は「住所地外事務所、事業所、家屋敷に関する申告書」の提出を求め、事務所を移転・廃止した場合、法人化した場合、住所変更で住所の区と事務所の区が別々になった場合も速やかに申告するよう案内しています。

法人化後は、会社として事務所の所在地の都道府県・市区町村に法人設立の届出をし、法人住民税の申告をします。個人の事務所課税の申告と法人の届出は窓口も書類も別なので、事務所の使い手が個人から会社に変わったことを両方に伝えます。

事務所の均等割は、個人なら年4,000円前後、法人なら年7万円からです。この差を含めて法人化が見合うかどうかは、一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。

まとめ

  • 住所のない市区町村に事務所・家屋敷を持つ個人は、そこで均等割だけを納める(地方税法24条1項2号・294条1項2号)
  • 事務所側の均等割は標準で年4,000円。森林環境税は住所地でしか課されない
  • 23区と政令指定都市は区ごとに判定する。同じ市内でも区が違えば対象になる
  • 個人の事務所課税は1月1日で1年分が決まり、低所得なら非課税。法人の均等割は月割で、赤字でもかかる
  • 法人化すると事務所の所在地で払う額は東京23区で年6万6,000円、横浜市で年6万9,300円増える

よくある質問

自宅と事務所が同じ市にある場合も、事務所の分の均等割がかかりますか?

かかりません。事務所課税の対象は、事務所等のある市町村に住所を有しない人です。住所地で通常の住民税(所得割と均等割)を納めていれば、同じ市町村の事務所に別の均等割は課されません。ただし東京23区と政令指定都市は区ごとに判定します。

12月に事務所を解約すれば、翌年度の事務所の均等割はかかりませんか?

個人住民税の賦課期日は1月1日なので、1月1日に事務所を持っていなければ、その市区町村ではその年度の均等割はかかりません。反対に1月2日に解約しても、その年度の1年分がかかります。個人の均等割には月割がありません。

法人化した後、社長個人に事務所の所在地から均等割が届くことはありますか?

事務所を会社が使い、社長個人の事業の事務所でなくなれば、社長個人への事務所課税は対象外です。神戸市は、法人格を持って事業を行っている場合を対象外とし、法人化したときは申告するよう案内しています。社長が個人の事業を同じ場所で続けている場合や、そこに家屋敷がある場合は別に判断されます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。