設立の手続き
住宅宿泊管理業の登録は法人成りで引き継げない。登録免許税9万円と家主の変更届
結論
住宅宿泊事業法には住宅宿泊管理業者の地位を承継する規定がなく、個人の登録は廃業の届出をした時点で効力を失います(28条2項)。会社は国土交通大臣の新規登録を受け、登録免許税9万円を納めます。標準処理期間は90日で、委託元の家主は管理業者の変更をあらかじめ都道府県知事等に届け出ます(3条4項)。東京23区・経費1,500万円の試算では、損益分岐は2年目以降1,266万円、初年度は1,452万円です。
- 新設会社は2年の事業経歴を持たないため、宅建業の免許や賃貸住宅管理業の登録の写し、または要件を満たす従業者の資格証の写しなどで「必要な体制」を示す(国交省関係施行規則9条)
- 家主の届出書には管理業者の商号・登録年月日・登録番号・管理受託契約の内容が載っている(施行規則4条2項)。管理業者が個人から会社に替わる場合、家主は事前に変更を届け出る
- 登録免許税9万円は新規登録だけにかかり、5年ごとの更新は手数料1万9,700円(電子申請は1万9,100円)
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
民泊の管理代行を個人で営むには、住宅宿泊管理業者として国土交通大臣の登録を受けています。この登録は**会社に引き継ぐ道がなく、会社で登録を受け直します。**取り直しそのものより、家主側の届出の変更や、新設会社で「必要な体制」をどう示すかが段取りの中心になります。
この記事は、家主不在型の民泊などから管理業務を受託している個人事業主を想定しています。家主として自分の民泊を法人へ移す手続きは民泊の法人成りと届出で扱ったので、ここでは管理業者の側を扱います。
登録が要るのは、家主から委託を受けて報酬を得る管理
住宅宿泊管理業は、住宅宿泊事業者(家主)から11条1項の委託を受け、報酬を得て住宅宿泊管理業務を行う事業です(2条6項)。管理業務には、宿泊者の衛生・安全の確保、宿泊者名簿の備付け、周辺住民からの苦情への対応、届出住宅の維持保全などが含まれます(2条5項)。
家主は、居室数が一定を超えるときや、宿泊させる間に不在となるときに、管理業務を1つの住宅宿泊管理業者に委託しなければなりません(11条1項)。つまり家主不在型の民泊は、**登録を受けた管理業者がいないと営業できません。**管理業者が登録なしで管理業を営むと、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方の対象です(72条1号)。
承継の規定はなく、個人の登録は廃業の届出で失効する
登録は国土交通大臣が行い、5年ごとに更新を受けないと効力を失います(22条1項・2項)。実際の申請先は、主たる営業所の所在地を管轄する地方整備局等です。
住宅宿泊事業法には、事業の譲渡や法人成りで管理業者の地位が移る規定がありません。個人が住宅宿泊管理業を廃止したときは、廃止した日から30日以内に国土交通大臣へ届け出て(28条1項5号)、その時点で登録は効力を失います(28条2項)。届出を怠ると20万円以下の過料です(79条)。
同じ「不動産の管理」でも、賃貸住宅管理業の登録も承継できない型です(賃貸住宅管理業の登録と法人成り)。許認可ごとの型の違いは許認可の引き継ぎ一覧にまとめています。
| 手続き | 根拠 | 期限・費用 |
|---|---|---|
| 会社の新規登録 | 22条1項・23条 | 登録免許税9万円。標準処理期間90日 |
| 個人の廃業の届出 | 28条1項5号 | 廃止した日から30日以内 |
| 会社の登録の更新 | 22条2項・5項 | 5年ごと。手数料1万9,700円(電子申請1万9,100円) |
登録免許税の9万円は新規登録にだけかかり、更新の登録は課税されません(登録免許税法 別表第一 第142号の3)。
新設会社で「必要な体制」をどう示すか
登録の拒否事由には、欠格事由のほかに、財産的基礎がないこと(25条1項10号)と、業務を的確に遂行する体制がないこと(同11号)があります。
財産的基礎は、開業時の貸借対照表で見られる
財産的基礎の基準は、負債の合計額が資産の合計額を超えないことと、支払不能に陥っていないことです(国交省関係施行規則8条)。会社の申請には最近の事業年度の貸借対照表と損益計算書を添えますが、最初の決算期を迎えていない新設会社は、**開業貸借対照表だけで足ります。**法人税の納付額を証する書面と損益計算書も省略できます(民泊制度ポータルサイト)。
体制は、個人のときの経歴をそのまま使えない
体制の要件は、次のいずれかを満たすことです(国交省関係施行規則9条1号)。
- 管理受託契約の締結に関する登録実務講習を修了している
- 住宅の取引・管理に関する契約の締結の実務に通算2年以上従事している
- 国土交通大臣がこれらと同等以上の能力があると認めた
個人で登録したときは、本人の講習修了証、2年以上の職務経歴書、宅地建物取引士証、管理業務主任者証、賃貸住宅管理業法施行規則の登録証明事業の証明書のいずれかで示しました。会社の申請で示す書類は別の並びになっています。
| 会社が出せる書類 | 新設会社での使いやすさ |
|---|---|
| 住宅の取引・管理に関する2年以上の事業経歴書 | 会社自体に経歴がないので出せない |
| 宅建業の免許証、マンション管理業・賃貸住宅管理業の登録通知書の写し | 会社がこれらを先に取っていれば使える |
| 要件を満たす従業者の資格証の写し等 | 新設会社では主にこれで示す |
このほか、法人・個人とも、苦情対応の人員体制図や、遠隔で業務を行う場合の機器の詳細などを出します。宅建業者・マンション管理業者・賃貸住宅管理業者の会社が申請する場合は、定款や決算書などの添付を省略できます。
個人のときの「2年以上の実務経験」がそのまま会社の経歴になるわけではありません。社長自身の資格や経歴を従業者の要件として使えるか、どの書類で示すかは、申請前に管轄の地方整備局へ確認しておくと手戻りを防げます。
家主の届出も、管理業者の変更を事前に届け出る
管理業者が個人から会社に替わる影響は、委託元の家主にも及びます。家主の届出書には、委託先の管理業者の商号・氏名、登録年月日と登録番号、管理受託契約の内容が記載されています(住宅宿泊事業法施行規則4条2項)。
これらの事項は、ほかの変更が「変更から30日以内」に届け出るのと違い、変更しようとするときにあらかじめ都道府県知事等へ届け出ます(3条4項)。つまり会社の登録番号が出てからでないと、家主は変更を届け出られません。
切り替えの順番は次のようになります。
- 会社を設立し、会社で住宅宿泊管理業の登録を申請する(標準処理期間90日)
- 登録が下りたら、家主ごとに会社と管理受託契約を結ぶ。締結前に重要事項を書面で説明し(33条)、締結時に書面を交付する(34条)
- 家主が、管理業者の変更を事前に届け出る
- すべての物件が切り替わったら、個人の廃業を30日以内に届け出る
個人の登録は廃業の届出まで有効なので、会社の登録が下りるまでは個人で管理を続けられます。先に廃業を届け出ると、家主不在型の物件は委託先がなくなり、営業が止まります。
自分の民泊も管理している場合
個人で管理業者の登録を持つ家主は、自分の届出住宅の管理業務を自ら行えます(11条1項ただし書)。家主は個人のまま管理業だけを会社に移すと、この例外が使えなくなります。家主の個人と会社とのあいだで管理受託契約を結び、家主として管理業者の変更を届け出ることになります。
登録免許税9万円を乗せた損益分岐
個人事業税では、住宅宿泊管理業という独立した業種はありません。管理代行が請負業・代理業・周旋業のどれに当たるかは都道府県が認定しますが、地方税法72条の2第8項はこの3つをいずれも**第1種事業(税率5%)**としています。ここでは第1種5%として計算しました。
清掃・リネンの外注費や人件費が大きい業態なので経費を年1,500万円、社長を40歳未満と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を出しました。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −37.6万円 | −56.6万円 |
| 800万円 | 月54万円 | −24.1万円 | −43.1万円 |
| 1,000万円 | 月54万円 | −14.7万円 | −33.7万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −6.6万円 | −25.6万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +23.9万円 | +4.9万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +67.3万円 | +48.3万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 1500 --business type1 --age under40 --fee 90000 --note '請負業・代理業などの第1種事業(5%)として計算' で再生成)で算出。経費1,500万円、東京都・東京23区、単身・40歳未満、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は請負業・代理業などの第1種事業(5%)として計算。初年度は合同会社の設立費用10.0万円と許認可の取り直し費用90,000円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,266万円、設立費用と登録免許税を含む初年度が1,452万円です。登録免許税がなかったと仮定すると初年度は1,364万円なので、取り直しの9万円が初年度の分岐を88万円押し上げています。登録免許税は一度きりの費用で、2年目以降の分岐には影響しません。
この表は登録申請の90日のあいだ個人で管理を続ける前提で、2つの登録の並行期間に生じる事務の手間は含んでいません。自分の管理料と外注費で判定ツールに入れて確かめてください。計算の前提は計算方法に、設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。
まとめ
- 住宅宿泊管理業の登録は承継できず、個人の登録は廃業の届出で失効する(28条)。会社で新規登録を受け、登録免許税9万円を納める
- 新設会社は開業貸借対照表で財産的基礎を示せるが、2年の事業経歴は使えず、従業者の資格証などで体制を示す
- 家主は管理業者の登録番号や契約内容の変更を、変更しようとするときにあらかじめ届け出る(3条4項)
- 会社の登録が下りてから契約を切り替え、最後に個人の廃業を届け出る順番なら、管理業者の空白が生じない
- 東京23区・40歳未満・経費1,500万円の試算で、損益分岐は2年目以降1,266万円、初年度1,452万円
よくある質問
個人の登録番号のまま、会社名に変更届を出せば済みますか。
済みません。変更の届出(26条)は商号や役員、営業所などが変わったときの手続きで、登録を受けた者そのものを個人から会社へ替える仕組みではありません。住宅宿泊事業法には承継の規定もないため、会社は新規に登録を受けます。
会社の登録を待つあいだ、個人の登録で管理を続けてよいですか。
個人の登録は、廃業の届出をするまで効力が続きます(28条2項)。会社の登録が下りて管理受託契約を切り替えるまでは個人で管理を続け、切り替えたあとに廃業を届け出る順番にすると、管理業者が不在の期間を作らずに済みます。廃業の届出は廃止した日から30日以内です。
出典
- e-Gov法令検索 住宅宿泊事業法 第2条(定義)・第3条(届出)・第11条(住宅宿泊管理業務の委託)・第22条〜第28条(登録・登録の拒否・変更の届出・廃業等の届出)・第33条・第34条(管理受託契約の書面)・第72条・第79条(罰則)
- e-Gov法令検索 住宅宿泊事業法施行令 第2条(登録の更新の手数料)
- e-Gov法令検索 国土交通省関係住宅宿泊事業法施行規則 第6条(登録申請書の添付書類)・第8条(財産的基礎)・第9条(必要な体制)
- e-Gov法令検索 住宅宿泊事業法施行規則 第4条(届出事項)・第5条(変更の届出)
- e-Gov法令検索 登録免許税法 別表第一 第142号の3(住宅宿泊管理業者の登録)
- 観光庁 民泊制度ポータルサイト 住宅宿泊管理業者の登録(添付書類・標準処理期間・登録免許税)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2第8項(第一種事業:請負業・周旋業・代理業)・第72条の49の17(個人事業税の税率)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。