社会保険

株の譲渡益を確定申告すると国保が上がる。100万円で年10.6万円、一人社長は0円

結論

特定口座(源泉徴収あり)の株の譲渡益・配当は、確定申告しなければ国保の算定に入りませんが、損益通算などのために申告すると通算後の所得が算定に入ります。東京23区・40歳未満なら申告した所得100万円につき国保は年10万5,800円増え(国保が上限に届いていない場合)、譲渡益300万円・譲渡損50万円の通算では還付10万1,575円に対して国保が26万4,500円増えて差し引き16万円の持ち出しになります。協会けんぽに入る一人社長の健康保険料は報酬だけで決まるため、申告しても変わりません。

  • 令和6年度分から、所得税で申告した株式等の所得について住民税だけ申告不要を選ぶことはできない
  • 事業所得1,200万円(東京23区)のように国保がすでに上限に届いていれば、申告しても国保は増えない
  • 損益通算で得をするのは、譲渡損が通算後の所得の半分程度より大きいとき(還付率20.315%と国保の所得割率の関係)

株で利益が出た年、別の口座の損と相殺すれば源泉徴収された税金が戻ります。会社員ならそれで話は終わりですが、個人事業主は事情が違います。確定申告した株式等の所得は、翌年度の国民健康保険料の計算にも入るからです。還付より国保の増加が大きくなる組み合わせもあります。

申告しなければ入らず、申告すると入る

特定口座で「源泉徴収あり」を選んでいると、株式等の譲渡所得と上場株式等の配当所得は、原則として確定申告が要りません。横浜市はこの場合、国保料の算定にも含まれないと案内しています。

ところが、損益通算や繰越控除を受けるために確定申告をすると、その適用後の所得金額が国保料の算定に入ります。横浜市・北九州市とも、還付や減額より国保料の増加が上回る場合があると注意しています。

以前は、所得税では申告して還付を受け、住民税では申告不要を選ぶことで、国保の算定から外す方法がありました。北九州市によると、令和6年度(令和5年分)からは住民税で所得税と異なる課税方式を選べなくなっています。いまは「所得税で申告した所得は、国保にも入る」と考える必要があります。

申告した所得で国保はいくら増えるか

計算エンジンで、事業所得に申告した株式等の所得を足し、国保の増加額を出しました。

東京23区(40歳未満)

事業所得(青色控除前)申告しない場合の国保株式等の所得 +50万円+100万円+300万円
300万円270,209円+52,900円+105,800円+317,400円
500万円481,809円+52,900円+105,800円+317,400円
700万円693,409円+52,900円+105,800円+262,548円
900万円905,009円+42,958円+50,948円+54,991円
1,200万円960,000円+0円+0円+0円

大阪市(40歳未満)

事業所得(青色控除前)申告しない場合の国保+50万円+100万円+300万円
300万円339,303円+64,200円+128,400円+385,200円
500万円596,103円+64,200円+128,400円+318,902円
700万円852,903円+45,402円+62,102円+93,914円
900万円944,017円+1,400円+2,800円+5,983円
1,200万円950,000円+0円+0円+0円

東京23区(40〜64歳・介護分あり)

事業所得(青色控除前)申告しない場合の国保+50万円+100万円+300万円
300万円334,665円+65,050円+130,100円+390,300円
500万円594,865円+65,050円+130,100円+374,344円
700万円855,065円+61,244円+114,144円+270,892円
900万円1,075,009円+42,958円+50,948円+54,991円
1,200万円1,130,000円+0円+0円+0円

※ 独身・青色申告特別控除65万円。令和8年度の料率(子ども・子育て支援金分を含む)。全国平均の概算では100万円あたり+108,930円。表は scripts/kabu-shinkoku-kokuho.mjs で再生成できる

国保がまだ上限に届いていない所得帯では、申告した所得100万円につき東京23区で年10万5,800円、大阪市で12万8,400円、40〜64歳なら東京23区で13万100円増えます。国保の所得割の料率がそのまま掛かるためです。料率は自治体ごとに違います(国民健康保険料の自治体比較)。

事業所得が大きいほど増え方は小さくなり、上限(賦課限度額)に届いていれば増えません。事業所得1,200万円の人は、株でいくら申告しても国保は変わりません(国保の上限に届く所得)。

損益通算で「損をする」組み合わせ

典型的なのは、2つの証券会社の特定口座で、片方に利益、片方に損が出た年です。申告して通算すると、損の分だけ源泉徴収された税金(所得税15.315%+住民税5%)が戻ります。一方で、通算後に残った所得が国保の算定に入ります。

事業所得(青色控除前)口座Aの譲渡益口座Bの譲渡損還付される税金国保の増加差し引き(個人事業主)一人社長なら
300万円200万円100万円203,150円+105,800円+97,350円+203,150円
300万円300万円50万円101,575円+264,500円−162,925円+101,575円
700万円200万円100万円203,150円+105,800円+97,350円+203,150円
700万円300万円50万円101,575円+254,558円−152,983円+101,575円
900万円300万円50万円101,575円+54,991円+46,584円+101,575円
1,200万円300万円50万円101,575円+0円+101,575円+101,575円

※ 東京23区・40歳未満。還付額は譲渡損×20.315%の概算。国保の増加は通算後の所得(益−損)を算定所得に足した差

益300万円・損50万円の組み合わせでは、戻る税金は10万円なのに、国保は通算後の250万円に対して26万円増えます。差し引き16万円の持ち出しです。

目安は、還付率20.315%と国保の所得割率(東京23区で約10.6%)の比です。譲渡損が通算後の所得のおよそ半分より小さいと、国保の増加が還付を上回ります。損を翌年以降に繰り越すための申告でも、繰越控除を使った年に残った所得が国保に入る点は同じです(純損失の繰戻し還付と国保)。

一人社長なら保険料は動かない

法人化して協会けんぽに入った一人社長の健康保険料は、標準報酬月額(役員報酬)だけで決まります。株の譲渡益や配当を確定申告しても、健康保険料も厚生年金保険料も変わりません。上の表の右端の列のとおり、損益通算の還付はそのまま手元に残ります。

ただし、これは社長個人の名義で投資している場合の話です。会社の名義で株を持つと、譲渡益や配当は法人の所得になり、法人税等がかかります(法人で株式投資すると税金は20.315%より高いか)。

法人化の判断への影響

個人事業主のまま株式投資をしている人にとって、国保は「申告するかどうか」で変わる見えにくいコストです。法人化すると、このコストが消えます。とくに、事業所得が国保の上限に届かない帯(東京23区で事業所得900万円未満あたり)で、毎年まとまった株式等の所得を申告している人ほど差が大きくなります。

もっとも、株の申告による国保の増加は年数万〜数十万円の話で、法人化の判断を決めるのは事業そのものの所得と社会保険料・税金の総額です(国保が高いから法人化、は所得次第で逆効果)。まずは事業の売上と経費で法人化の差額を確かめ、そのうえで株式等の申告の有無を上乗せして考えてください。

まとめ

  • 特定口座(源泉徴収あり)の所得は、申告しなければ国保の算定に入らず、損益通算・繰越控除のために申告すると適用後の所得が入る
  • 令和6年度分からは、住民税だけ申告不要にして国保から外すことはできない
  • 国保が上限に届いていなければ、申告した所得100万円につき東京23区で年10万5,800円増える
  • 益300万円・損50万円の通算では、還付10万円に対して国保が26万円増え、16万円の持ち出しになる
  • 協会けんぽに入る一人社長は、株式等の所得を申告しても保険料が変わらない

よくある質問

特定口座の源泉徴収ありなら、国保に影響しませんか。

確定申告をしなければ、特定口座(源泉徴収あり)の株式等の譲渡所得と上場株式等の配当所得は国保の算定に入りません。損益通算や繰越控除のために申告すると、その適用後の所得が算定に入ります。

住民税だけ申告不要にすれば国保に入らないのでは。

令和6年度(令和5年分)からは、住民税で所得税と異なる課税方式を選べなくなりました。所得税で申告した株式等の所得は、住民税と国保の算定にもそのまま入ります。

NISAの利益は国保に影響しますか。

NISA口座の譲渡益・配当は非課税で確定申告の対象にならないため、国保の算定にも入りません。NISA口座の損失は損益通算・繰越控除ができません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。