社会保険
自営業主の国民年金、完納は57.8%。法人化すると免除という選択肢が消える
結論
令和5年国民年金被保険者実態調査では、第1号被保険者のうち自営業主の保険料納付状況は完納者57.8%・一部納付者13.2%・申請全額免除者17.2%・納付猶予者1.2%・1号期間滞納者10.3%でした。法人化して厚生年金に移ると低所得を理由にした免除はなく、役員報酬を月5万円まで下げても健康保険と厚生年金で労使合計年26万7,197円が毎月の報酬から差し引かれ、会社が納めます。
- 令和7年度の最終納付率(令和5年度分保険料)は85.6%。第1号被保険者の44.5%は全額免除・猶予を受けている
- 自営業主の完納57.8%は第1号全体(40.8%)より高いが、全額を納めていない人も28.9%いる
- 全額免除の所得基準は単身で67万円以下。判定ツールの損益分岐1,266万円の5.3%で、法人化を検討する所得帯とはほぼ重ならない
このテーマの全体像 一人社長の社会保険料はいくらか
判定ツールは、個人事業主のときの国民年金を毎月満額(令和8年度は月17,920円)払う前提で比べています。けれども厚生労働省の統計では、国民年金の第1号被保険者のうち保険料を全額納めている人は半分に届きません。自営業主に絞ると状況は良くなりますが、それでも3割近くが全額は納めていません。法人化すると、この「払わない・払えない」という選択肢そのものがなくなります。
納付率85.6%は「人の割合」ではない
厚生労働省の「令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況」によると、令和7年度の最終納付率(令和5年度分の保険料を2年後までに納めた割合)は**85.6%**で、前年度から1.1ポイント上がりました。
この数字だけを見ると、ほとんどの人が払っているように見えます。ただし納付率の分母は「納付すべき月数」で、全額免除・学生納付特例・納付猶予を受けている月は最初から外れています。令和7年度末の第1号被保険者の内訳は次のとおりです。
| 区分 | 人数(令和7年度末) |
|---|---|
| 第1号被保険者(任意加入を除く) | 1,336万人 |
| 全額免除・猶予者 | 595万人 |
| うち法定免除者 | 147万人 |
| うち申請全額免除者 | 229万人 |
| うち学生納付特例者 | 160万人 |
| うち納付猶予者 | 58万人 |
| 一部免除者 | 34万人 |
| 未納者(24か月すべて未納) | 67万人 |
※ 厚生労働省「令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況」表1・図1より。未納者は令和6年4月〜令和8年3月の24か月の保険料がすべて未納の人
全額免除・猶予の割合は全国で**44.5%**です。つまり第1号被保険者の半分近くは、そもそも納付率の計算に入っていません。
自営業主は完納57.8%、全額を納めていない人が28.9%
では、法人化を考える側の人たち、つまり自営業主はどうか。業務統計である上の資料には職業の区分がないので、3年ごとに行われる「国民年金被保険者実態調査」(令和5年、令和7年3月公表)を使います。この調査は第1号被保険者に直接アンケートを取り、就業状況と納付状況を突き合わせています。
| 就業状況 | 完納者 | 一部納付者 | 申請全額免除者 | 学生納付特例者 | 納付猶予者 | 1号期間滞納者 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 総数 | 40.8% | 9.6% | 19.5% | 13.0% | 5.1% | 11.9% |
| 自営業主 | 57.8% | 13.2% | 17.2% | 0.2% | 1.2% | 10.3% |
| 家族従業者 | 67.6% | 9.3% | 14.4% | 0.8% | 1.8% | 6.2% |
| 常用雇用 | 48.7% | 15.6% | 7.5% | 0.5% | 2.6% | 25.1% |
| 無職 | 34.7% | 6.9% | 24.9% | 13.2% | 8.4% | 12.0% |
※ 厚生労働省「令和5年国民年金被保険者実態調査 結果の概要」図6のグラフの数値を、当サイトが就業状況別の表に組み直したもの(各行の合計が100%になることを検算)。完納者・一部納付者は令和3〜4年度の納付対象月について、免除・猶予は令和4年度末の状況。1号期間滞納者は令和3〜4年度に1か月も納めていない人
自営業主の完納は**57.8%**で、第1号全体の40.8%より17ポイント高くなっています。事業の収入がある人の集まりなので、当然といえば当然です。
それでも、申請全額免除17.2%、納付猶予1.2%、学生納付特例0.2%、1号期間滞納10.3%を足すと28.9%。一部納付者13.2%まで含めると、2年間すべてを納めきった自営業主は6割に届きません。
この調査では、第1号被保険者に占める自営業主の割合は18.7%です(令和2年調査の19.4%から低下)。集計対象の1,168万8千人に当てはめると約219万人で、その1割が2年間1か月も納めていない計算になります。
法人化すると「免除」がなくなる
国民年金には、前年所得が少ない人のための免除と納付猶予があります。日本年金機構が示す全額免除と納付猶予の所得基準は「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」で、全額免除は本人・配偶者・世帯主、納付猶予は本人・配偶者のそれぞれが基準内であることが条件です。
法人化して役員報酬を受け取ると、社長は厚生年金と健康保険の被保険者になります。厚生年金の保険料には、こうした所得を理由にした免除がありません。免除されるのは産前産後休業と育児休業の期間に限られ、しかも一人社長や代表取締役は育児休業による免除を原則使えないことを、一人社長の育休と保険料免除で整理しています。
もう1つの違いは、払うかどうかを本人が決められないことです。厚生年金保険法82条は、事業主に被保険者の負担分と自分の負担分をあわせて納める義務を負わせています。社長個人の保険料は役員報酬から天引きされ、会社が会社負担分と一緒に納めます。国民年金のように「今月はコンビニで払わずにおく」という選択肢は、制度の上で存在しません。
報酬を最低にしても、年26.7万円は残る
では、法人化した後に払う額の下限はいくらか。役員報酬をごく低く抑えた場合を、計算エンジンで出しました。
| 区分 | 本人負担 | 会社負担 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 国民年金(第1号・満額) | 215,040円 | — | 215,040円 |
| 役員報酬 月5万円(健保58,000円・厚年88,000円) | 131,700円 | 135,497円 | 267,197円 |
| うち厚生年金だけ | 96,624円 | 96,624円 | 193,248円 |
| 役員報酬 月8万円(健保78,000円・厚年88,000円) | 143,796円 | 147,593円 | 291,389円 |
| 役員報酬 月10万円(健保98,000円・厚年98,000円) | 166,872円 | 171,101円 | 337,973円 |
※ 協会けんぽ東京支部・40歳未満。会社負担には子ども・子育て拠出金(0.36%)を含む。国民年金は令和8年度の月額17,920円×12か月
厚生年金の標準報酬月額の下限は88,000円なので、報酬が月5万円でも8万円でも厚生年金の保険料は変わりません。労使合計の厚生年金は年193,248円で、国民年金の満額215,040円より21,792円安いのに、老齢基礎年金に加えて報酬比例の老齢厚生年金が付きます。
ただし健康保険が加わるので、社会保険料の合計は年26万7,197円になります。一人社長の会社では本人負担も会社負担も実質的に同じ財布から出るため、国民年金を免除されていた人にとっては、法人化した月から年26万円台の固定費が新しく生じることになります。報酬別の全体像は一人社長の社会保険料にまとめています。
判定ツールの「満額前提」は、法人化を考える所得帯では効かない
ここまで読むと、「国民年金を免除されている人なら、個人のままのほうがさらに有利になるのでは」と考えるかもしれません。その推論自体は正しいのですが、免除を受けられる所得と、法人化が話題になる所得はほとんど重なりません。
| 扶養親族等の数 | 全額免除・納付猶予の前年所得の基準 | 損益分岐点に対する割合 |
|---|---|---|
| 0人 | 67万円以下 | 5.3% |
| 1人 | 102万円以下 | 8.1% |
| 2人 | 137万円以下 | 10.8% |
| 3人 | 172万円以下 | 13.6% |
※ 損益分岐点は判定ツールの1,266万円(事業所得・青色申告特別控除前。東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済み・合同会社)。基準の「所得」は前年の所得
単身なら所得67万円以下、扶養親族が3人いても172万円以下です。損益分岐点の1,266万円と比べると、高くても13.6%にとどまります。全額免除を受けている人は、法人化しても役員報酬に回せる原資がそもそも小さく、上の表の最低等級の保険料を払うだけで手取りが大きく減ります。
逆に言えば、法人化を検討する所得帯の人は、ほぼ全員が国民年金を満額払う立場です。ツールの前提はこの層の実態に合っています。所得が戻って免除を受けなくなった人は、過去の免除期間の追納と法人化の順番も効いてきます(国民年金の免除と追納)。
滞納している人の場合は事情が違います。払っていないぶん、目先の手取りは個人のほうが多く見えますが、未納の期間は年金額にも受給資格期間にも入りません。法人化すると払う額は増えますが、厚生年金で将来の年金が上乗せされる分は法人化で年金はいくら増えるかで試算しています。
まとめ
- 国民年金の最終納付率85.6%は「納付すべき月数」に対する割合で、第1号被保険者の44.5%にあたる全額免除・猶予者は分母に入っていない
- 自営業主の完納は57.8%。申請全額免除17.2%・滞納10.3%などを足すと、全額を納めていない人が28.9%いる
- 厚生年金には所得を理由にした免除がなく、保険料は会社が報酬から天引きして納める。役員報酬を月5万円にしても労使合計で年26万7,197円かかる
- 最低等級の厚生年金は労使合計で年193,248円と、国民年金の満額215,040円より安い
- 全額免除の所得基準(単身67万円)は損益分岐点の5.3%で、法人化を検討する所得帯とはほぼ重ならない
自分の売上と経費で比べるときは、国民年金を満額払った場合の手取りと、法人化後の手取りを判定ツールで並べてください。
よくある質問
国民年金の「納付率85.6%」は、加入者の85.6%が払っているという意味ですか。
違います。分母は納付すべき月数で、全額免除・学生納付特例・納付猶予の月は含みません。第1号被保険者の44.5%は全額免除・猶予を受けているため、人数で見て保険料を全額納めている人の割合は85.6%よりずっと低くなります。
一人社長が役員報酬を0円にすれば、社会保険料も0円になりますか。
役員報酬を0円にすると健康保険・厚生年金の被保険者ではなくなり、国民健康保険と国民年金の第1号被保険者に戻ります。報酬を払う限り、最低等級の保険料はかかります。
法人化したあとに国民年金の未納期間が残っていたら、払えますか。
国民年金の保険料は納期限から2年以内なら後から納められます。厚生年金に加入したあとでも、加入前の第1号被保険者期間の未納分は2年以内なら納付できます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。