社会保険

厚生年金の適用事業所数の推移。16年で1.7倍、増加の9割は加入指導

結論

厚生年金保険の適用事業所数は、2009年度末の175万3,964から2025年度末の295万6,243へ1.69倍になりました。ただし2012年度末から2025年度末の増加119万8,051のうち、年金事務所の加入指導で適用された事業所は累計111万2,658で、増加の9割を超える規模です。同じ期間の法人数の伸びは小さく、2016〜2024年度で法人数は32万増、適用事業所数は77万増でした(当サイト集計)。

  • 2009〜2012年度末の3年間は4,228しか増えていない。増え始めたのは、国税庁の源泉徴収義務者情報を加入指導に使い始めた2015年度前後から
  • 加入指導による適用は2010年度の4,808から2015年度の92,550へ19倍。2016年度以降も毎年7.7万〜11.5万事業所
  • 事業年報にも業務実績にも、法人と個人事業所の内訳はない。法人成りが何件あったかは、この統計からは分からない

厚生年金の適用事業所数は、16年でおよそ120万増えました。数字だけ見ると「法人成りが増えたから」と読みたくなります。ところが日本年金機構の業務実績と突き合わせると、増加の大半は、もともと存在していた未加入の事業所が、年金事務所の加入指導で加入させられた分でした。

当サイトでは、厚生労働省の事業年報(e-Stat)の年度末の値と、日本年金機構の業務実績報告書の加入指導の件数、国税庁の会社標本調査の法人数を、同じ年度の軸に並べて再集計しました。

適用事業所数は2015年度前後から急に増えた

厚生年金保険(第1号)の適用事業所数を、年度末の値で並べます。新規適用・加入指導・全喪(事業所が適用から外れること)は年度中の件数です。

年度末適用事業所数前年度末から新規適用うち加入指導で適用全喪
2009年度1,753,964————
2010年度1,748,578−5,38667,3004,808—
2011年度1,745,027−3,55169,7196,685—
2012年度1,758,192+13,16574,6778,322—
2013年度1,800,619+42,42791,45719,099—
2014年度1,867,185+66,566113,43039,704—
2015年度1,974,655+107,470157,18492,550—
2016年度2,109,345+134,690182,422115,10539,957
2017年度2,227,353+118,008165,00799,06441,644
2018年度2,336,872+109,519157,818100,72741,414
2019年度2,435,755+98,883146,53391,34242,279
2020年度2,509,333+73,578120,89899,68240,314
2021年度2,598,341+89,008133,305104,22538,769
2022年度2,687,900+89,559134,72696,12039,260
2023年度2,790,958+103,058153,85794,54844,717
2024年度2,881,028+90,070143,71283,27046,410
2025年度2,956,243+75,215137,28177,22256,136

※ 単位は事業所。適用事業所数は年度末(翌年3月末)現在。船舶所有者を含む ※ 2009〜2024年度末は厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業年報」、2025年度末と2016年度以降の内訳は日本年金機構「令和7年度業務実績報告書」別表4、2010〜2015年度の内訳は厚生労働省「社会保険の適用促進対策について」(平成29年3月) ※ 2016〜2024年度末は事業年報と別表4、2010〜2015年度末は事業年報と厚労省資料の値が一致することを確認済み

2009年度末から2012年度末までの3年間は、4,228しか増えていません。2010・2011年度はむしろ減っています。増え方が変わるのは2013年度からで、2015・2016年度には1年で10万を超えて増えました。

加入指導で適用された事業所の件数が、ちょうど同じ時期に跳ね上がっています。2010年度の4,808が、2015年度には92,550。19.2倍です。

増え始めた理由は国税庁の情報

厚生労働省が2016年12月の社会保障審議会年金事業管理部会に出した資料は、この変化の理由を説明しています。年金機構は以前から雇用保険の事業所情報(2002年度〜)や法人登記簿の情報(2012年度〜)で未加入の事業所を探していました。しかし登記簿には休眠法人やペーパーカンパニーが多く含まれ、効果が限られていました。

転機は、2014年12月に国税庁から源泉徴収義務者の情報の提供を受けたことです。2015年度からこれを加入指導に使い始めました。源泉徴収義務者は、実際に給与を払っている事業者です。休眠法人を含む登記簿と違い、加入すべき法人を絞り込めるようになりました。

法人の事業所は、従業員がいなくても強制適用です。日本年金機構は法人の事業所を「事業主のみの場合を含む」と明記しています。社長1人の会社でも、役員報酬を払えば税務署には源泉徴収義務者として把握されます。年金機構が国税庁から受け取っているのは、この源泉徴収義務者の情報です。

年金機構は、加入指導に応じない事業所に立入検査を行い、職員の認定で加入手続きをすることがあると公表しています。厚生年金保険法には立入検査の拒否などへの罰則もあります。

法人数の伸びでは説明できない

では、法人そのものはどのくらい増えたのか。国税庁の会社標本調査の法人数と、適用事業所数を同じ期間で比べます。

項目2016年度2024年度増加増加率
法人数(国税庁 会社標本調査)2,658,4802,981,629+323,14912.2%
厚生年金の適用事業所数(年度末)2,109,3452,881,028+771,68336.6%

※ 会社標本調査は各年度に終了した事業年度の法人数(標本調査による推計値・単体法人)。適用事業所数は年度末現在

8年間で法人は32万増えました。適用事業所はその2.4倍の77万増えています。仮に新しくできた法人がすべて加入していたとしても、増加の半分以上は説明がつきません。

残りを埋めるのが加入指導です。2017〜2024年度の8年間の累計を並べます。

2017〜2024年度の累計事業所数
新規適用1,155,856
うち加入指導で適用768,978
加入指導以外の新規適用386,878
全喪334,807
加入指導以外の新規適用 − 全喪+52,071

加入指導で適用された76万8,978は、適用事業所数の増加77万1,683とほぼ同じ大きさです。 新設法人や法人成りが自分から加入した分は「加入指導以外の新規適用」に含まれますが、同じ期間に廃業などで外れた全喪とほぼ同じ規模でした。

期間を2012年度末〜2025年度末に広げても傾向は同じです。適用事業所数の増加119万8,051に対し、2013〜2025年度の加入指導による適用は累計111万2,658。増加の9割を超える規模です。

ただし、この比較は内訳の足し算が完全には合いません。2017〜2024年度の「新規適用 − 全喪」は82万1,049で、実際の増加より4万9,366多くなります。別表4は差の内訳を示していないため、ここでは規模の比較にとどめます。また、加入指導で適用された事業所のなかには、5人以上を雇う個人事業所も含まれます。

法人と個人の内訳は統計にない

適用事業所数から「法人成りがどれだけ増えたか」を読み取れるかも確かめました。結論から言うと読み取れません。事業年報にも業務実績報告書にも、適用事業所を法人と個人事業所に分けた内訳はありません。分かるのは、強制適用と任意包括適用の別だけです。

年度末強制適用任意包括適用任意包括の割合
2009年度1,660,39088,3335.1%
2012年度1,667,49585,8194.9%
2015年度1,891,61878,3004.0%
2018年度2,243,51788,6193.8%
2021年度2,496,12397,6633.8%
2024年度2,769,962106,6363.7%

※ 厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業年報」。船舶所有者・任意単独を除く

任意包括適用は、強制適用に当たらない事業所(従業員4人以下の個人事業所や、非適用業種の個人事業所など)が、従業員の半数以上の同意を得て認可を受けたものです。伸びたのは強制適用のほうで、2009〜2024年度末の15年で約111万増えています。任意包括は1.8万増にとどまりました。

強制適用には法人のほか、5人以上を雇う適用業種の個人事業所も入ります。その内訳が公表されていない以上、「強制適用の伸び=法人の伸び」とは書けません。法人成りの件数を知りたい場合は、法人の側の統計(登記統計や会社標本調査)を見る必要があります。法人数の推移は合同会社は9年で3.3倍に増えたで集計しています。

加入指導の対象は減り、増え方は鈍っている

年金機構が「厚生年金の適用の可能性がある」として把握している適用調査対象事業所は、2016年度末の51万3,332から、2025年度末には13万7,825まで減りました。加入指導の母数が小さくなったぶん、加入指導による適用も2016年度の11万5,105から2025年度の7万7,222へ減っています。

2025年度の適用事業所の増加は7万5,215で、2020年度以来の小ささでした。全喪は5万6,136で、前年度の4万6,410から1万近く増えています。全喪が増えた理由は報告書からは読み取れないため、ここでは事実だけを記録します。

適用調査対象事業所は、9年で約4分の1(26.8%)まで減りました。これから法人化する人にとって、社会保険に加入しない前提で法人化を考える余地は、制度の上でも把握の仕組みの上でもほとんどありません。

未加入のまま年金事務所に把握されたときの遡及額は、法人なのに社会保険未加入。遡及加入は最大2年で試算しています。

法人化したら社会保険料はいくらかかるか

法人化の損得は、社会保険料を払う前提で比べる必要があります。当サイトの計算エンジンで、売上1,200万円・経費200万円の一人会社が役員報酬を変えたときの手取りと社会保険料を出しました。

売上1,200万円・経費200万円(事業所得1,000万円)の場合

役員報酬手取り合計役員個人の手取り法人に残る額社会保険料(労使計)
月10万円632.5万円102.8万円529.6万円33.4万円
月20万円642.4万円196.3万円446.1万円68.1万円
月30万円650.8万円289.1万円361.6万円102.2万円
月40万円654.8万円378.8万円276.1万円139.6万円
月50万円659.7万円468.6万円191.1万円170.3万円
月54万円 ←最適662.4万円504.8万円157.6万円180.5万円
月60万円653.6万円547.8万円105.8万円200.9万円
月70万円646.8万円625.4万円21.4万円228.6万円
月80万円615.8万円704.8万円-89.0万円238.3万円
月90万円570.0万円784.4万円-214.4万円249.2万円
月100万円519.7万円860.2万円-340.4万円261.3万円

個人事業主のままの手取りは 657.1万円。最適な役員報酬は月54万円で、そのときの手取り合計は 662.4万円。

※ 経費200万円・東京23区(特別区統一保険料率)・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人に残る額は、退職金・配当で引き出す際のコスト20%を控除した後の金額

最適な役員報酬でも、社会保険料は労使計で年180.5万円かかります。それを払ったうえでの差は年5.3万円です。社会保険に入らない前提で法人化の得を見積もると、この差を大きく見誤ります。

まとめ

  • 厚生年金の適用事業所数は、2009年度末の175万3,964から2025年度末の295万6,243へ1.69倍になった
  • 増え始めたのは2013〜2015年度で、国税庁の源泉徴収義務者情報を加入指導に使い始めた時期と重なる
  • 2016〜2024年度の増加77万1,683は、法人数の増加32万3,149の2.4倍。加入指導による適用の累計76万8,978とほぼ同じ大きさ
  • 統計には法人と個人事業所の内訳がなく、法人成りの件数は読み取れない
  • 法人化の損得は、社会保険料を払う前提で比べる必要がある

社会保険料は役員報酬の決め方で大きく変わります。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

厚生年金の適用事業所はいくつありますか?

2025年度末(2026年3月末)で295万6,243事業所です(日本年金機構 令和7年度業務実績報告書)。事業年報で確定している直近は2024年度末の288万1,028事業所です。

適用事業所が増えたのは法人成りが増えたからですか?

統計からは法人成りの件数は分かりません。ただ、2017〜2024年度に新しく適用された115万5,856事業所のうち76万8,978は年金事務所の加入指導によるもので、同じ期間の法人数の伸び(32万3,149)よりも、加入指導の累計のほうが適用事業所数の増加(77万1,683)に近い大きさです。

法人なのに社会保険に入っていないと、年金事務所に分かりますか?

日本年金機構は2014年12月から国税庁の源泉徴収義務者情報の提供を受け、給与を払っている法人を把握して加入指導に使っています。加入指導に応じない事業所には立入検査を行い、職員の認定で加入手続きをすることがあるとしています。

適用事業所数を法人数で割れば加入率になりますか?

なりません。適用事業所は事業所単位で、支店ごとに別の適用事業所になることも、本社でまとめて一括適用することもあります。個人事業所や国・自治体の事業所も含みます。会社標本調査の法人数は会社単位なので、比をとっても加入率にはなりません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。