社会保険

同月得喪とは?設立した月に社保をやめると厚生年金保険料は戻る

結論

同じ月に厚生年金の資格を取得して喪失し、その月に国民年金(第2号被保険者を除く)または別の厚生年金の資格を取得した場合、先に喪失した厚生年金保険料の納付は不要になります。報酬月額54万円なら労使合計9万6,990円が対象で、残るのは国民年金保険料の月1万7,920円です。健康保険料に同じ取扱いがあるかは、公表資料から確認できませんでした。

  • 原則はその月の厚生年金保険料が必要。納付不要になった場合は年金事務所から会社へ還付の通知が届き、本人負担分は会社から本人へ返す
  • 標準報酬月額の上限は健康保険が139万円、厚生年金が65万円。報酬月額118万円から健康保険の1か月分が厚生年金を上回る
  • 資格喪失届は事実発生の日から5日以内、国民年金第1号への届出は資格喪失日から14日以内

会社を設立して社会保険に入り、同じ月のうちに資格を失う。一人社長では、設立直後に個人事業へ戻したときや、報酬を支払わないと決めたときに起こります。この同月得喪では保険料が1か月分だけ発生し、条件を満たすと厚生年金保険料は納めなくてよくなります。どこまでが戻り、どこからが戻らないのかを分けて確認します。

原則は、その月の厚生年金保険料が必要になる

社会保険の保険料は日割りではなく月単位で動きます。日本年金機構は、厚生年金保険の資格を取得した月の月末以前にその資格を喪失した場合は、厚生年金保険料の納付が必要になると案内しています。入った月に抜けても、その月は1か月分として扱われます。

一人社長でこの状態になるのは、たとえば次のような場面です。

  • 設立した月に事業の継続を見直し、個人事業へ戻した
  • 設立した月に役員報酬を支払わないと決め、被保険者の資格を失った
  • 設立した月に別の会社に雇われ、そちらの社会保険に入った

役員報酬をゼロにしたときに資格がどう扱われるかは、役員報酬0円と社会保険で別に扱っています。法人成りの月をどちらの保険で払うかという論点は法人成りの月の保険料は国保か社保かが主題です。この記事は、取得と喪失が同じ月に起きたときの精算に絞ります。

その月に国民年金へ入れば、納付は不要になる

日本年金機構のFAQには、厚生年金保険の資格を取得した月にその資格を喪失し、さらにその月に厚生年金保険の資格または国民年金(第2号被保険者を除く)の資格を取得した場合は、先に喪失した厚生年金保険料の納付は不要となると書かれています。

個人事業へ戻れば、その人は国民年金の第1号被保険者になります。会社を抜けた月のうちに第1号になっていれば、この例外に当たります。別の会社に雇われて厚生年金に入り直した場合も同じです。

手続きの流れは機構の案内どおりで、自動で完結するものではありません。

  1. 年金事務所から、対象の会社宛てに厚生年金保険料の還付に関するお知らせが届く
  2. 会社が還付を受ける
  3. 還付のうち被保険者負担分を、会社から元の被保険者へ返す

一人社長の場合、会社と本人が実質的に同じでも、法人の口座に入った還付のうち本人負担分は本人へ戻す処理が必要です。給与から控除して帳簿に預り金を立てたままにしないでください。

届出の期限は5日と14日で、別々に動く

社会保険の資格喪失届は、事実発生の日から5日以内に、事務センターまたは管轄の年金事務所へ提出します。資格喪失日は退職日の翌日です。役員が退任した場合も同じ考え方で、3月31日付けの退任なら資格喪失日は4月1日になります。

国民年金の第1号被保険者としての届出は、資格喪失日から14日以内に、住所地の市区町村の国民年金担当窓口または年金事務所へ出します。会社側の5日と個人側の14日は別の期限です。会社の届出だけ済ませて個人側を放置すると、厚生年金保険料の納付が不要になる条件(その月に国民年金の資格を取得していること)を満たした記録が残りません。

1か月分はいくらか。報酬月額別に出した

同月得喪でいったん発生する保険料を、報酬月額別に計算しました。数値は当サイトの計算エンジン(scripts/doutsuki-tokusou-hitori-shacho.mjs)で令和8年度の料率から出しています。

報酬月額健保の標準報酬月額厚年の標準報酬月額厚生年金保険料(労使合計)うち本人負担健康保険料(労使合計)うち本人負担
月10万円98,000円98,000円17,934円8,967円9,878円4,939円
月20万円200,000円200,000円36,600円18,300円20,160円10,080円
月30万円300,000円300,000円54,900円27,450円30,240円15,120円
月42万円410,000円410,000円75,030円37,515円41,328円20,664円
月54万円530,000円530,000円96,990円48,495円53,424円26,712円
月65万円650,000円650,000円118,950円59,475円65,520円32,760円
月80万円790,000円650,000円118,950円59,475円79,632円39,816円
月100万円980,000円650,000円118,950円59,475円98,784円49,392円
月118万円1,210,000円650,000円118,950円59,475円121,968円60,984円
月139万円1,390,000円650,000円118,950円59,475円140,112円70,056円

※ 東京支部(健康保険料率9.85%+子ども・子育て支援金率0.23%)・40歳未満(介護保険料なし)・厚生年金保険料率18.3%/2026年(令和8年)分基準 ※ 労使合計の金額。会社はこのほかに子ども・子育て拠出金(厚年の標準報酬月額×0.36%、事業主のみ負担)を納める

法人化の判定でよく出てくる報酬月額54万円なら、厚生年金保険料は労使合計9万6,990円、本人負担は4万8,495円です。会社はこれに子ども・子育て拠出金1,908円を加えて納めます。この拠出金は事業主だけが負担する制度で、健康保険料と一緒に労使折半で徴収される子ども・子育て支援金(0.23%)とは別のものです。

同じ月に国民年金の第1号になった場合、その月に納めるのは国民年金保険料の1万7,920円(令和8年度)です。報酬月額54万円の厚生年金保険料は、その約5.4倍にあたります。いったん出ていく金額としては無視できないので、資金繰りの上では還付の時期を見ておく必要があります。

戻る側は上限で止まり、戻るか分からない側は伸びる

この表には、直感と逆の動きが出ています。標準報酬月額の上限は、健康保険が139万円、厚生年金が65万円で、2つの制度で別です。厚生年金は報酬月額63万5,000円以上がすべて同じ65万円の等級に入るため、同月得喪で発生する厚生年金保険料は1か月11万8,950円で頭打ちになります。

一方の健康保険は139万円まで等級が続きます。計算すると、報酬月額118万円(標準報酬月額121万円)から健康保険料の1か月分が12万1,968円となり、厚生年金保険料の11万8,950円を上回ります。報酬を高く設定していた社長ほど、納付不要の案内がある側が止まり、案内が確認できない側が伸びるという形になります。

厚生年金の上限は令和9年9月から段階的に引き上げられる予定で、その影響は厚生年金の上限が75万円へで別に計算しています。上限が動けば、この逆転が起きる報酬月額も動きます。

健康保険料には、同じ案内が見当たらない

全国健康保険協会は、保険料は被保険者である期間の各月について納付すると説明していますが、一般の被保険者について同月得喪の取扱いを示した記述は確認できませんでした。日本年金機構のFAQも、納付が不要になる対象として挙げているのは厚生年金保険料だけです。

関連して確認できるのは、任意継続被保険者についての協会けんぽのFAQで、保険料は月単位で計算されるため日割りでの納付はできないこと、加入した日と資格を喪失した日が同月の場合はその月の保険料が必要であることが書かれています。ただしこれは任意継続被保険者の話で、会社の被保険者としての同月得喪とは別の制度です。

したがって、この記事では健康保険料が戻るかどうかは判断しません。健康保険料の1か月分は戻る前提で資金を組まないほうが安全です。実際の精算額は、管轄の年金事務所と協会けんぽの支部に確認してください。

設立した月に抜けることになった原因も、数字で見ておく

同月得喪は、法人化の判断そのものが早かったときに起きやすい現象です。参考に、売上から経費を引いた事業所得別の比較を載せます。計算の前提は計算の根拠にまとめています。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)判定
400万円303.1万円274.5万円月28万円−48.6万円個人のまま有利
600万円427.3万円409.7万円月42万円−37.6万円個人のまま有利
800万円540.7万円536.6万円月54万円−24.1万円個人のまま有利
1,000万円657.1万円662.4万円月54万円−14.7万円ほぼ互角
1,200万円774.2万円787.6万円月54万円−6.6万円ほぼ互角
1,500万円928.2万円972.0万円月54万円+23.9万円法人化が有利
1,800万円1082.1万円1149.1万円月90万円+47.0万円法人化が有利
2,100万円1232.0万円1332.6万円月95万円+80.6万円法人化が有利
2,500万円1395.0万円1551.1万円月100万円+136.1万円法人化が有利
3,000万円1599.6万円1816.8万円月100万円+197.2万円法人化が有利

※ 経費200万円・東京23区(特別区統一保険料率)・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額

この条件では、事業所得800万円でも実質差額は年−24.1万円で、個人のままが有利です。1,000万円から1,200万円がほぼ互角の帯で、法人化が数字で有利になるのは1,500万円からです。設立した月に抜ける判断は、互角の帯より下で法人を作った場合に起きやすいことが表から読み取れます。社会保険の厚みや厚生年金の将来価値を加味すれば結論は変わり得ますが、単年の手取りで見るとこの位置関係になります。保険料の水準そのものは一人社長の社会保険料で報酬額別に整理しています。

会社をたたまずに残す場合は、法人住民税の均等割が赤字でも年7万円かかります(法人住民税の均等割は赤字でも年7万円)。同月得喪の精算が終わっても、この固定費は会社が残っているあいだ続きます。

一般論の金額ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。判定ツールでは、売上・経費・自治体・年齢区分を入れて個人のままと法人化の手取りを比較できます。

まとめ

  • 厚生年金の資格を取得した月に喪失した場合、原則としてその月の厚生年金保険料が必要になる
  • 同じ月に厚生年金または国民年金(第2号被保険者を除く)の資格を取得した場合は、先に喪失した分の納付は不要になり、年金事務所から会社へ還付の案内が届く
  • 報酬月額54万円の1か月分は厚生年金が労使合計9万6,990円、国民年金1か月は1万7,920円
  • 標準報酬月額の上限は健康保険139万円・厚生年金65万円で、報酬月額118万円から健康保険の1か月分が厚生年金を上回る
  • 一般の被保険者の健康保険料について同じ取扱いは公表資料から確認できなかったため、戻る前提で資金を組まない

よくある質問

設立した月のうちに会社をたたんでも、厚生年金保険料は1か月分かかりますか?

原則はかかります。ただし同じ月に国民年金(第2号被保険者を除く)または別の会社の厚生年金の資格を取得した場合は、先に喪失した分の納付は不要になると日本年金機構が案内しています。

納付が不要になったお金は、誰に戻るのですか?

年金事務所から会社宛てに還付のお知らせが届きます。会社が受けた還付のうち被保険者負担分は、会社から元の被保険者へ返すことになります。給与から控除していた場合は返し忘れないようにしてください。

健康保険料も同じように戻りますか?

日本年金機構と全国健康保険協会の公表資料で確認できるのは厚生年金保険料の取扱いだけで、一般の被保険者の健康保険料に同じ取扱いがあるかは確認できませんでした。管轄の年金事務所と協会けんぽ支部に確認してください。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。