設立の手続き

レンタカー業の許可は法人成りで承継届出。条文にない手続きと9万円の差

結論

道路運送法80条にはレンタカー(自家用自動車の有償貸渡し)の許可を承継する条文がありません。ただし国土交通省の通達は相続・合併などを「特殊な申請」として個別に扱うとし、近畿運輸局奈良運輸支局は相続・譲渡譲受・合併・分割による許可の承継を「承継届出書」で受け付けています。法人成りで事業を会社へ譲渡し、譲渡譲受契約書や登記事項証明書を添えて届け出る形です。新規に許可を取り直すと登録免許税が1件9万円かかるので、まず管轄の運輸支局に承継届出の扱いを確認する価値があります。

  • 奈良運輸支局の承継届出書の添付書類は、譲渡譲受契約書の写し、承継する会社の登記簿謄本、貸渡料金・約款、事務所と車両の一覧、欠格事由の宣誓書、貸渡しの実施計画
  • 貸渡自動車は対人8,000万円以上・対物200万円以上・搭乗者500万円以上の自動車保険に加入する(通達の許可基準)。会社の名義で入り直す
  • 東京23区・40歳未満・物品貸付業(第1種5%)の試算では、初年度の損益分岐は承継なら1,364万円、新規許可(登録免許税9万円)なら1,452万円

レンタカーを個人で営んでいる人が法人化するとき、許可をどう会社へ移すかは、条文を読むだけでは答えが出ません。道路運送法80条には承継の規定がないのに、運輸支局の窓口には承継の届出書が用意されているからです。

この記事では、条文・国土交通省の通達・運輸支局の様式を順に確認し、承継届出で移す場合と新規に許可を取り直す場合の違いを整理します。最後に、取り直しの登録免許税9万円が損益分岐をどれだけ動かすかを計算エンジンで出します。

条文には承継の規定がない

自家用自動車を業として有償で貸し渡すには、国土交通大臣の許可が要ります(道路運送法80条1項)。権限は地方運輸局・運輸支局に委ねられていて、窓口は主たる事務所を管轄する運輸支局です。

道路運送法は、タクシーやバスの一般旅客自動車運送事業については譲渡・譲受の認可(36条)や相続の認可(37条)を置いています。ところが**80条の有償貸渡しには、承継の条文がありません。**同じ法律の中で、運送事業は「認可で移す」と書かれ、レンタカーは何も書かれていない、という構造です。

通達は「特殊な申請」として個別に扱う

条文の空白を埋めているのが、国土交通省の通達「レンタカーの取扱いについて」(自旅第138号)です。運用上の留意事項に、次の一文があります。

許可基準及び申請手続の適用に当たり、事業の相続に伴う申請、法人の合併に伴う申請等特殊な申請については、その内容に応じ、それぞれの特性を踏まえて取り扱うこと。

通達は、相続・合併などの場面を一律に新規許可と同じには扱わず、事情に応じて扱うよう地方運輸局に求めています。その具体的な形が、運輸支局の様式に表れています。

運輸支局は、譲渡譲受による承継を届出で受け付けている

近畿運輸局奈良運輸支局は、レンタカーの手続きを「レンタカー業を始めるには」(新規許可)と「許可を受けたレンタカー業について事業内容の変更等の手続き」に分けて案内しています。後者に並んでいるのが、増車・変更・廃止の届出と、**「事業承継(相続、譲渡譲受、法人の合併及び分割)届出様式」**です。

承継届出書は、「〇〇に伴い、自家用自動車有償貸渡業の許可を〇〇へ承継しましたのでお届けいたします」という文面で、承継人・被承継人・承継の時期・承継の理由を書かせます。添付書類は次のとおりです。

添付書類法人成りで用意するもの
戸籍謄本、譲渡譲受契約書、合併契約書、分割契約書(写)個人から会社への事業の譲渡譲受契約書の写し
承継会社の登記簿謄本(個人の場合は住民票)会社の登記事項証明書
貸渡料金及び貸渡約款会社名の料金表・約款
事務所の名称・所在地・貸渡車両一覧事務所別・車種別の配置車両数
宣誓書会社として1通、役員ごとに1通(欠格事由に当たらないこと)
貸渡しの実施計画運送事業類似行為を防ぐ体制、保険の加入計画

つまり、少なくともこの支局では、法人成りは個人から会社への事業の譲渡譲受として、承継届出で許可を移す扱いです。宣誓書の項目は新規許可の欠格事由と同じなので、会社と役員が審査される中身は変わりません。違うのは、新規許可の申請・処分を経ずに済む点です。

支局ごとに扱いを確認する

承継届出は条文ではなく通達に基づく運用なので、すべての運輸支局が同じ様式・同じ扱いをしているとは限りません。譲渡の日を決める前に、主たる事務所を管轄する運輸支局へ「法人成りに伴う譲渡譲受で承継届出ができるか」を確認しておくのが確実です。届出が受け付けられない支局では、会社が新規に許可を申請します。

新規許可を取り直すと、登録免許税9万円がかかる

80条1項の許可には、登録免許税が1件9万円かかります(登録免許税法別表第一126号)。課税しないのは、試験研究のための貸渡しなど政令で定める許可だけです(登録免許税法施行令20条)。

承継届出は許可の処分ではないので、登録免許税の課税対象に挙がっていません。承継で移せるか、取り直すかで、この9万円の差が生じます。

移し方根拠登録免許税個人の事業
承継届出通達の「特殊な申請」の扱い(支局の様式)なし譲渡の日に会社へ移る
新規の許可80条1項9万円会社の許可後に廃止を届け出る

80条2項は、貸渡しの態様が自動車運送事業の経営に類似していると認める場合を除き、許可をしなければならないと定めています。新規許可の道でも審査は欠格事由・処分歴・保険が中心で、運送事業のような資金や需給の審査はありません。

どちらの道でも、車両の名義と保険が切替えの山場

無許可の有償貸渡しは100万円以下の罰金の対象です(98条17号)。許可には「自動車の貸渡しのため、自己の名義を他人に利用させてはならない」という条件も付きます。会社を設立しただけで、個人の許可のまま会社の名前で貸し出すことはできません。

承継届出の道なら、段取りは次のようになります。

  1. 会社を設立する(定款の目的に自動車の賃貸・レンタカー事業を入れる)
  2. 管轄の運輸支局に、法人成りでの承継届出の扱いを確認する
  3. 個人と会社で事業の譲渡譲受契約を結び、譲渡の日を決める
  4. 譲渡の日に、貸渡自動車の使用者(所有権を移すなら所有者も)を会社に変更し、自動車保険の契約者を会社に切り替える
  5. 承継届出書を、譲渡譲受契約書・登記事項証明書・宣誓書などを添えて提出する

レンタカーの車両は、貸渡人が使用者として登録されている自家用自動車です。台数が多いほど、登録変更が切替えの手間の大半になります。車両を個人から会社へ移すときの税金は法人成りの車の名義変更で、売るか現物出資するかの比較は法人成りの資産引継ぎで整理しました。

自動車保険は、対人1人8,000万円以上、対物1件200万円以上、搭乗者1人500万円以上が許可基準です(通達)。承継届出の実施計画にも保険の加入計画を書くので、会社を契約者とする保険を譲渡の日から有効にしておく必要があります。貸渡簿は貸渡しの終了日から2年間の保存が求められているので、個人の貸渡簿は切替え後も保存を続けます。

物品貸付業の個人事業税と損益分岐

レンタカーは個人事業税の物品貸付業(第1種事業・税率5%)です(地方税法72条の2第8項)。事業主控除290万円を超えた所得に課税され、法人化するとかからなくなります。代わりに役員報酬に社会保険料がかかります。

車両の償却・リース、保険、整備、駐車場などの経費を年800万円と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。

事業所得(売上−経費)最適な役員報酬2年目以降初年度(設立費用込み)
600万円月42万円−37.6万円−47.6万円
800万円月54万円−24.1万円−34.1万円
1,000万円月54万円−14.7万円−24.7万円
1,200万円月54万円−6.6万円−16.6万円
1,500万円月54万円+23.9万円+13.9万円
2,000万円月90万円+67.3万円+57.3万円

※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 800 --business type1 --age under40 --note '物品貸付業(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費800万円、東京都・東京23区、単身・40歳未満、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は物品貸付業(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円を差し引いた額(登録免許税は含まない)。2026年(令和8年)分基準の概算

損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、許可の移し方で次のように変わります。

許可の移し方2年目以降初年度
承継届出(登録免許税なし)1,266万円1,364万円
新規の許可(登録免許税9万円)1,266万円1,452万円

※ 上と同じスクリプトに --fee 90000 を付けて算出

9万円の支出で初年度の分岐点が88万円上がるのは、分岐点の近くでは法人化の差額が所得1万円あたり1,000円程度しか増えないためです。窓口に1本確認を入れるだけで、初年度の損得の見え方がこれだけ変わります。自分の売上と経費で判定ツールに入れて確かめてください。計算の前提は計算方法に、設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。許認可ごとの承継の有無は法人成りで許認可は引き継げるかで整理しました。

まとめ

  • 道路運送法80条のレンタカーの許可には、承継の条文がない(運送事業の36条・37条とは対照的)
  • 国交省の通達は、相続・合併などを「特殊な申請」として個別に扱うとしている
  • 奈良運輸支局は、相続・譲渡譲受・合併・分割による承継を「承継届出書」で受け付けている。法人成りは譲渡譲受契約書と登記事項証明書を添えて届け出る形
  • 運用は支局ごとに確認が要る。新規許可を取り直すと登録免許税9万円
  • 東京23区・40歳未満の試算で、初年度の損益分岐は承継なら1,364万円、新規許可なら1,452万円

よくある質問

承継届出は事前に出すのですか、事後ですか。

奈良運輸支局の様式は「許可を〇〇へ承継しましたのでお届けいたします」という事後の届出の形で、承継の時期と理由を書かせています。ただし運用は運輸支局ごとに確認が必要なので、譲渡の日を決める前に管轄の支局へ相談しておくのが確実です。

会社を作っただけで、個人の許可を会社が使えるようになりますか。

なりません。承継の届出の前提は、個人から会社への事業の譲渡(譲渡譲受契約)です。許可を受けていない者が有償で貸し渡すと100万円以下の罰金の対象で(98条17号)、許可には「自己の名義を他人に利用させてはならない」という条件も付いています。

承継届出が受け付けられない場合はどうなりますか。

会社が新たに80条の許可を申請します。80条2項は、貸渡しの態様が自動車運送事業の経営に類似していると認める場合を除き許可をしなければならないと定めており、審査の中心は欠格事由と保険です。登録免許税は1件9万円かかります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。