設立の手続き
旅行サービス手配業の登録は法人成りで引き継げない。会社で新規登録
結論
旅行サービス手配業の登録は個人に与えられたもので、旅行業法には会社へ地位を移す承継の規定がありません。会社は主たる営業所の都道府県知事の登録を新しく受け、個人は事業の全部を譲渡した日から30日以内に届け出ます(35条1項)。知事の登録には登録免許税がかからず、費用は都道府県の手数料(東京都1万5,000円、大阪府1万6,000円)です。旅行業と違い、営業保証金・基準資産額・有効期間はありません。
- 登録免許税法の別表には9万円の欄があるが、施行令24条3項が知事の行う登録を除いており、手配業の登録は全て知事が行う(旅行業法施行令5条2項)
- 会社の登録がないまま手配業務を始めると無登録営業になり、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方の対象(74条6号)
- 東京23区・経費1,800万円・第1種5%の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円。個人事業税がかからない扱いなら2,277万円まで上がる
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
ランドオペレーターとして、海外や国内の旅行会社から依頼を受けてホテル・バス・ガイドを手配している個人事業主は、旅行サービス手配業の登録を受けています。法人化すると、**この登録は会社へ移らず、会社で登録を受け直します。**ただ、旅行業と比べると取り直しの負担はかなり軽い部類です。
この記事では、承継の規定がないことを条文で確かめたうえで、登録が空白にならない順番、登録の実費、取扱管理者の選任、旅行業との違いを整理し、最後に損益分岐を計算エンジンで出します。
登録先は主たる営業所の都道府県知事
旅行業法2条6項は、旅行サービス手配業を、報酬を得て旅行業を営む者(外国の旅行業者を含む)のために、運送・宿泊などのサービスや運送等関連サービスについて、提供する者との間で代理・媒介・取次ぎをする事業と定めています。23条は、これを営もうとする者に登録を求めています。
条文上は観光庁長官の登録ですが、その事務は主たる営業所の所在地を管轄する都道府県知事が行います(旅行業法施行令5条2項)。旅行業のように業務範囲で登録先が分かれることはありません。
登録が要らない行為もあります。本邦外のサービスの手配と、全国通訳案内士・地域通訳案内士が行う通訳案内の手配などは、2条6項の対象から除かれています(施行規則1条)。自分の業務が登録の対象かどうかで、法人成りの手続きの要否が決まります。
承継の規定はなく、会社で新規登録を受ける
旅行サービス手配業の節(23条〜39条)には、事業を譲り受けた者が地位を承継するという規定がありません。代わりに35条1項は、事業を廃止したとき、事業の全部を譲渡したとき、分割で事業の全部を承継させたときに、その日から30日以内に届け出ることを求めています。届出があると、登録は抹消されます(38条1項)。
個人事業主が自分の会社へ手配業を丸ごと移す法人成りは、この「事業の全部の譲渡」に当たります。会社は個人の登録を引き継げないので、23条の登録を新しく受けます。登録事項の変更届(27条)で名義だけ会社に変える、という手続きもありません。27条の対象は氏名・住所や営業所など、登録を受けた者自身の登録事項の変更だからです。
同じように「事業の全部の譲渡」を届出事由にしているだけの許認可は、ほかにもあります。業種ごとの承継の可否は法人成りで許認可は引き継げるかにまとめています。
会社の登録が先、譲渡の届出が後
順番を誤ると、手配業務を止める期間ができます。会社の登録がないまま会社名義で手配業務を始めると、無登録営業として1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方の対象です(74条6号)。
観光庁の通知は、手配業の登録の標準処理期間を60日としています。東京都の案内書は、受付から登録まで30〜40日(受付件数により守られないことがある)としています。会社を設立したら早めに申請し、会社の登録が下りてから事業を譲渡し、個人は30日以内に事業譲渡届出書を出す、という順番が安全です。
事業譲渡届出書には、譲渡の年月日、譲り受けた者の名称・住所、譲渡の理由を書きます(施行規則53条2項)。大阪府は、添付書類として事業の全部譲渡の契約書の写しを挙げています。
登録免許税はかからず、実費は都道府県の手数料
登録免許税法の別表第一142号(三)には、旅行サービス手配業の登録について「一件につき九万円」の欄があります。ただし対象は「政令で定めるもの」に限られ、登録免許税法施行令24条3項は、旅行業法施行令5条2項により都道府県知事が行う登録を除くとしています。前の節のとおり手配業の登録は知事が行うので、通常の新規登録では登録免許税はかかりません。
かかるのは都道府県の条例で決まる登録手数料です。
| 都道府県 | 新規登録の手数料 | 根拠 |
|---|---|---|
| 東京都 | 1万5,000円 | 旅行業法関係手数料条例(登録のときに徴収) |
| 大阪府 | 1万6,000円 | 大阪府の新規登録申請の案内 |
※ 各都道府県の公式ページ・条例で確認した額。その他の都道府県は所管課の案内で確認が必要
東京都は、登録通知書を受け取るときに手数料を納める流れです。会社の申請では、定款・登記事項証明書、旅行サービス手配業務に係る事業の計画と組織の概要、欠格事由に当たらないことを証する書類を添えます(施行規則43条1項1号)。
定款の目的と商号に注意する
東京都の案内書は、法人で申請する場合、定款と登記事項証明書の目的に「旅行サービス手配業」または「旅行業法に基づく旅行サービス手配業」と入れること、既存の登録業者と類似する商号を避けるため事前に確認することを求めています。**設立登記の後で目的を変えると、変更登記の手間と費用が増えます。**定款を作る段階で入れておくのが確実です。設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。
旅行サービス手配業務取扱管理者は社長本人でもよい
手配業者は、営業所ごとに1人以上の旅行サービス手配業務取扱管理者を選任します(28条1項)。手配業務を扱う者が1人だけの営業所にも適用され(28条3項)、他の営業所の管理者との兼任はできません(28条4項)。営業所ごとに管理者を確実に選任すると認められない者は、登録を拒否されます(26条1項5号)。
管理者になれるのは、欠格事由に当たらず、次のいずれかを満たす人です(28条5項)。
- 登録研修機関が行う旅行サービス手配業務取扱管理者研修の課程を修了した者
- 国内の旅行だけを扱う営業所なら、総合または国内旅行業務取扱管理者試験の合格者
- それ以外の営業所なら、総合旅行業務取扱管理者試験の合格者
個人のときに社長本人が管理者だった場合、会社でも本人を管理者に選任できます。注意したいのは研修の時期です。手配業者は管理者に5年ごとに研修を受けさせる義務があり(28条6項、施行規則47条)、東京都の案内書は、研修修了が申請日前5年以内であること、それより前の人は継続研修を修了していることを求めています。個人で登録した当時の修了証のままだと、会社の申請時に5年を過ぎていることがあります。
東京都は、管理者が常勤専任であること、従業員10人以上の営業所では複数を選任することも求めています。申請時には管理者本人の来庁も求められます。管理者を選任しなかった場合は30万円以下の罰金の対象です(79条17号)。
旅行業の法人成りとは、負担の重さが大きく違う
旅行業の登録を持つ個人事業主の法人成りは、旅行業の法人成りは新規登録で扱っています。どちらも会社での新規登録ですが、会社が満たすべき要件の重さが違います。
| 項目 | 旅行サービス手配業 | 旅行業(第2種・第3種・地域限定) |
|---|---|---|
| 登録先 | 主たる営業所の都道府県知事 | 主たる営業所の都道府県知事 |
| 財産的基礎(基準資産額) | 登録拒否事由にない | 必要 |
| 営業保証金・弁済業務保証金分担金 | 制度がない | 必要 |
| 登録の有効期間 | 定めがない | 5年(6条の2)。更新の登録が必要 |
| 管理者 | 旅行サービス手配業務取扱管理者 | 旅行業務取扱管理者 |
手配業の登録拒否事由(26条1項)は、旅行業の拒否事由(6条1項)のうち欠格に関する号と、管理者の選任を準用・規定するだけで、財産的基礎の号を含みません。資本金を基準資産額に合わせて積む必要はなく、預け金の承継に悩むこともありません。有効期間もないため、会社で登録を受けた後の更新もありません。
会社で旅行業の登録を取る予定がある場合は、手配業の登録は要りません。旅行業者は手配業の登録を受けずに手配業務に当たる行為を行えるからです(34条1項)。
代理業・周旋業としての個人事業税と損益分岐
東京都主税局が示す個人事業税の法定業種の一覧に、「旅行サービス手配業」という名前の業種はありません。旅行会社のために代理・媒介・取次ぎを行う業務は、第1種事業(5%)の代理業・周旋業・仲立業などに当たり得ますが、どの業種に当たるかは都道府県が事業の実態で判断します。自分が個人事業税を納めているかは、都道府県から届く納税通知書で確かめられます。
ホテルやバス会社への支払い、現地スタッフの外注費などで経費を年1,800万円と置き、東京23区・40〜64歳の条件で、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。初年度には東京都の登録手数料1万5,000円を乗せています。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −34.0万円 | −45.5万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −18.9万円 | −30.4万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −10.0万円 | −21.5万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −4.3万円 | −15.8万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +26.1万円 | +14.6万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +65.8万円 | +54.3万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 1800 --business type1 --age 40to64 --fee 15000 --note '代理業・周旋業など(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費1,800万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は代理業・周旋業など(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円と許認可の取り直し費用15,000円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,243万円、初年度が1,356万円です。登録手数料は1万5,000円なので、初年度の差の大半は設立費用10万円から来ています。
個人事業税がかからない扱いなら、損益分岐は2,277万円
同じ条件で、個人事業税がかからない扱いだった場合も計算しました(同じスクリプトを --business exempt で実行)。損益分岐は2年目以降2,277万円、初年度2,420万円です。事業所得2,000万円でも2年目以降は年−19.7万円で、法人化の差はマイナスのままです。
第1種5%の扱いとの差は1,034万円あります。法人化で消える税があるかないかで、判断の目安がこれだけ動きます。業種区分の考え方は個人事業税がかからない業種があるを参照してください。計算の前提は計算方法にまとめています。自分の売上・経費と個人事業税の有無を入れて、判定ツールで確かめてください。
まとめ
- 旅行サービス手配業の登録には承継の規定がなく、法人成りでは会社が主たる営業所の都道府県知事の登録を新しく受ける。個人は事業の全部を譲渡した日から30日以内に届け出る(35条1項)
- 会社の登録前に手配業務を始めると無登録営業になる。登録を受けてから事業を譲渡する順番にする
- 知事の登録には登録免許税がかからず、実費は都道府県の手数料(東京都1万5,000円、大阪府1万6,000円)
- 社長本人を管理者に選任できるが、東京都は研修修了が申請日前5年以内であることを求める。定款の目的に「旅行サービス手配業」を入れておく
- 東京23区・経費1,800万円の試算で、損益分岐は第1種5%なら2年目以降1,243万円、個人事業税がかからない扱いなら2,277万円
よくある質問
個人の旅行サービス手配業の登録番号を、会社でそのまま使えますか。
使えません。旅行業法には旅行サービス手配業者の地位を承継する規定がなく、事業の全部を譲渡したときは30日以内に届け出て(35条1項)、届出があると知事は個人の登録を抹消します(38条1項)。会社は新規に登録を受け、新しい登録番号になります。
社長が自分で旅行サービス手配業務取扱管理者を兼ねられますか。
兼ねられます。管理者の要件は、欠格事由に当たらず、登録研修機関の旅行サービス手配業務取扱管理者研修を修了したか、旅行業務取扱管理者試験(国内のみの営業所は国内または総合、それ以外は総合)に合格したことです(28条5項)。東京都は、研修修了が申請日前5年以内であること(それより前なら継続研修の修了)と、常勤専任であることを求めています。
会社で旅行業の登録も取る予定です。手配業の登録は別に要りますか。
要りません。旅行業者は、旅行サービス手配業の登録を受けなくても手配業務に当たる行為を行えます(34条1項)。ただし旅行業の登録には基準資産額や営業保証金(または弁済業務保証金分担金)の要件があり、手配業の登録よりも負担が重くなります。
出典
- e-Gov法令検索 旅行業法 第2条第6項(旅行サービス手配業の定義)・第6条の2(旅行業の有効期間)・第23条(登録)・第24条(登録の申請)・第26条(登録の拒否)・第27条(変更届出)・第28条(旅行サービス手配業務取扱管理者)・第34条・第35条(事業の廃止等)・第38条(登録の抹消)・第74条・第79条(罰則)
- e-Gov法令検索 旅行業法施行令 第5条第2項(都道府県が処理する事務)
- e-Gov法令検索 旅行業法施行規則 第1条(法2条6項から除かれる行為)・第43条(新規登録の添付書類)・第47条(研修の期間)・第53条(事業譲渡届出書)
- e-Gov法令検索 登録免許税法 別表第一 第142号(三)(旅行サービス手配業の登録)
- e-Gov法令検索 登録免許税法施行令 第24条第3項(旅行サービス手配業の登録で課税するものの範囲)
- 東京都 旅行業法関係手数料条例(旅行サービス手配業登録手数料1万5,000円)
- 東京都産業労働局 旅行サービス手配業 新規登録申請案内書(令和5年3月現在)
- 大阪府 【旅行サービス手配業】新規登録の申請(手数料16,000円)
- 大阪府 事業の廃止・譲渡等の届出
- 観光庁 旅行業法における申請に対する処分の審査基準及び標準処理期間について(観観産第622号)
- 東京都主税局 個人事業税(法定業種と税率)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。