役員報酬

死亡保険金の受取人は法人か個人か。役員3年目なら619万円の差

結論

死亡保険金3,000万円・相続人2人の設例では、個人契約で配偶者が受け取ると家族側に残る額は2,680.0万円です。法人で受け取って死亡退職金と弔慰金で払い出すと、役員3年目では退職金の損金の目安が486万円にとどまり、残りに法人税等694.5万円がかかって2,061.2万円、差は618.8万円です。役員20年なら2,728.6万円で法人のほうが多くなります。

  • 死亡保険金と死亡退職金の非課税限度額はどちらも500万円×法定相続人の数で、別々に計算する。個人と法人に分けて受け取ると枠を2つ使える
  • 法人が受け取った保険金は益金。遺族へ出せるのは損金にできる死亡退職金の目安と弔慰金の枠までで、在任年数が短いほど法人に残る
  • 設例では個人1,000万円・法人2,000万円に分けると税の合計が159.3万円で、全額個人の320.0万円より小さい

一人社長が死亡保険に入るとき、契約者と受取人を個人にするか法人にするかを決めます。保険料が損金になるかどうかで選ばれることが多いのですが、保険金を受け取った後の税の流れがまったく違います。

個人で受け取った保険金には、相続税の非課税枠がそのまま使えます。法人で受け取った保険金は、いったん法人の利益になります。家族に渡すには死亡退職金か弔慰金として払い出す必要があり、そこには損金にできる額の目安があります。その目安は、役員として何年働いたかで決まります。

受取人で、かかる税が3通りに分かれる

国税庁No.1750は、死亡保険金にかかる税を、被保険者・保険料の負担者・受取人の組み合わせで分けています。

被保険者保険料の負担者受取人かかる税
社長社長配偶者相続税
社長配偶者配偶者所得税(一時所得)
社長配偶者子贈与税

個人契約で社長自身が保険料を払い、配偶者を受取人にすれば相続税の対象です。このとき国税庁No.4114により、相続人が受け取った保険金は500万円×法定相続人の数まで非課税になります。

法人契約で受取人が法人なら、この表には乗りません。保険金は法人の益金になり、法人税の世界に入ります。家族の手に渡るのは、法人が遺族に払う死亡退職金と弔慰金です。

法人が遺族に渡せる額には、2つの枠がある

法人から遺族へ払うお金の非課税枠は、死亡退職金・弔慰金の非課税枠で詳しく扱っています。ここでは保険金の受け皿として見ます。

相続税の非課税枠法人が損金にできる額
死亡退職金500万円×法定相続人の数(死亡保険金とは別枠)不相当に高額な部分を除く。目安は最終報酬月額×在任年数×功績倍率
弔慰金業務外の死亡:普通給与の半年分同じ範囲

2つの非課税枠のうち、死亡退職金の枠は死亡保険金の枠と別に計算します(国税庁No.4117)。相続人2人なら、保険金で1,000万円、死亡退職金で1,000万円、合わせて2,000万円まで非課税にできます。

一方、法人が払える額は非課税枠とは別の物差しで決まります。役員退職金は、法人税法34条2項で不相当に高額な部分が損金になりません。目安としてよく使われる功績倍率法は、最終報酬月額×在任年数×倍率です。倍率に法令上の数値基準はなく、この記事では3.0と仮に置きます(考え方は役員退職金の功績倍率)。

法人成りした社長は、個人事業の期間が在任年数に入りません。 法人化して数年で亡くなると、保険金が3,000万円入っても、目安どおりに払える死亡退職金は数百万円です。

保険金3,000万円を、在任年数別に計算した

事業所得1,200万円(売上1,400万円・経費200万円)の一人社長で、当サイトの計算エンジンが出す最適な役員報酬は月54万円です。業務外の死亡なら、弔慰金の枠は半年分の324万円になります。保険金以外の課税価格を5,000万円、法定相続人を配偶者と子の2人としました。

受け取り方死亡退職金家族に現金で届く額法人に残る分の法人税等法人に残る額(持分に乗る)相続税の総額税の合計家族側に残る額
個人契約(受取人=配偶者)—3,000.0万円0.0万円0.0万円320.0万円320.0万円2,680.0万円
法人契約・役員3年486.0万円810.0万円694.5万円1,495.5万円244.3万円938.8万円2,061.2万円
法人契約・役員5年810.0万円1,134.0万円585.6万円1,280.4万円212.0万円797.7万円2,202.3万円
法人契約・役員10年1,620.0万円1,944.0万円313.6万円742.4万円224.3万円537.9万円2,462.1万円
法人契約・役員20年2,676.0万円3,000.0万円0.0万円0.0万円271.4万円271.4万円2,728.6万円

※ 保険金3,000万円・保険金以外の課税価格5,000万円・法定相続人2人(配偶者と子1人)・業務外の死亡・功績倍率3.0(仮置き) ※ 売上1,400万円・経費200万円・東京23区・40〜64歳・配偶者あり・合同会社の最適報酬(月54万円)/2026年(令和8年)分基準。相続税は配偶者の税額軽減前の総額 ※ 法人に残る分の法人税等は、法人の通常の利益(454.3万円)に上乗せした差額。法人に残る額は純資産価額で持分の価額に1対1で乗ると置いた。計算は scripts/shibo-hokenkin-uketorinin.mjs

役員3年目では、死亡退職金の目安が486万円、弔慰金と合わせて810万円しか家族に届きません。残る2,190万円は法人の利益に上乗せされ、法人税等が694.5万円かかります。家族側に残る額は2,061.2万円で、個人契約の2,680.0万円より618.8万円少なくなります。

在任年数が延びると差は縮み、役員20年で逆転します。目安が保険金を上回り、全額を死亡退職金と弔慰金で払い出せるからです。このとき弔慰金324万円は相続税の枠の外にあるため、相続税は個人契約より48.6万円小さくなります。

法人に残ったお金は、そのまま家族のものにはならない

表の「家族側に残る額」は、法人に残った額も家族の財産として数えています。持分を相続するので、帳簿上はそのとおりです。ただし現金として使うには、法人から取り出す必要があります。

取り出す方法は、役員報酬、配当、清算時の分配などです。どれを選んでも、個人側で所得税や社会保険料がかかります。当サイトの判定ツールは、法人に残した利益を取り出すコストを20%と置いて「法人に残る額」を評価しています。この前提を当てはめると、役員3年目の1,495.5万円は実質1,196.4万円程度の価値にとどまり、差はさらに開きます。

相続の場面でも、法人に残った現金は持分の評価額を押し上げます。持分の評価方法は法人化すると相続税評価は下がるのかで扱っています。

個人と法人に分けると、枠を2つ使える

死亡保険金の枠と死亡退職金の枠は別枠です。これを両方使う組み方を、同じ条件で計算しました。

受け取り方家族に現金で届く額法人に残る額相続税の総額税の合計家族側に残る額
個人契約3,000万円3,000.0万円0.0万円320.0万円320.0万円2,680.0万円
法人契約3,000万円・役員10年1,944.0万円742.4万円224.3万円537.9万円2,462.1万円
個人1,000万円+法人2,000万円・役員10年2,944.0万円43.0万円146.3万円159.3万円2,840.8万円

分けた場合、個人で受けた1,000万円は保険金の枠に収まり、法人から払う死亡退職金1,620万円のうち1,000万円は退職金の枠に収まります。弔慰金324万円も枠の外です。税の合計は159.3万円で、全額個人の320.0万円のほぼ半分になります。

ポイントは、法人で受け取る額を「その時点で払い出せる額」に合わせることです。死亡退職金の目安(ここでは1,620万円)と弔慰金の枠(324万円)の合計を超える部分は、法人税がかかってから法人に残ります。在任年数が延びれば払い出せる額も増えるので、法人契約の保険金額は年数に応じて見直す対象になります。

保険料の側は、この表に入っていない

ここまでの計算は、保険金を受け取った後だけを比べています。保険料の払い方も違います。

個人契約の保険料は、所得税・住民税を払った後のお金から出します。控除は生命保険料控除の上限までです(生命保険料控除は法人化でどう変わるか)。法人契約の保険料は、保険の種類と解約返戻率によって損金にできる割合が決まります(法人保険は全額損金にならない)。

保険料の段階で法人が得をしても、在任年数が短いうちに保険金が入ると、受け取る段階で法人税がかかります。保険料の損金算入だけを見て契約形態を決めると、この後半を見落とします。

まとめ

  • 個人契約(社長が保険料を負担)の死亡保険金は相続税の対象で、500万円×法定相続人の数まで非課税
  • 法人が受け取った保険金は益金。遺族に渡せるのは損金にできる死亡退職金の目安と弔慰金の枠までで、法人成り直後は数百万円にとどまる
  • 保険金3,000万円・相続人2人の設例で、役員3年目の法人契約は家族側に残る額が個人契約より618.8万円少ない。役員20年では逆転する
  • 保険金と死亡退職金は別枠。個人1,000万円・法人2,000万円に分けると税の合計は159.3万円で、全額個人の半分になる

法人化の判断そのものは、年間の手取りの差で決まります。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で最適な役員報酬を出し、その月額と在任年数から、法人で受け取る保険金がいくらまでなら払い出せるかを確かめてください。

よくある質問

保険料を払った人と受取人が同じだと、相続税ではなく所得税になりますか?

はい。国税庁No.1750では、被保険者が亡くなり、保険料の負担者と保険金受取人が同じ人の場合は所得税(一時金なら一時所得)の対象です。相続税になるのは、亡くなった被保険者自身が保険料を負担していた場合です。

相続人でない人が死亡保険金を受け取った場合、非課税枠はありますか?

ありません。国税庁No.4114は、相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税の適用がないとしています。相続を放棄した人も、ここでいう相続人には含まれません。

法人が受け取った死亡保険金を、全額死亡退職金として遺族に払えますか?

払うこと自体はできますが、役員退職金のうち不相当に高額な部分は損金になりません。損金にならない部分には法人税がかかるため、在任年数と最終報酬月額から見た目安を超えて払うと、法人税を払ったうえで遺族に渡すことになります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。