税金の基礎
大学の修学支援新制度は法人化で区分が変わる。判定は住民税の課税標準額
結論
売上500万円・経費100万円で、無収入の配偶者と大学生の子が1人いる世帯なら、個人事業のままでは支給額算定基準額が63,500円で支援の対象外ですが、法人化して判定ツールの最適報酬(月28万円)にすると26,700円で第Ⅲ区分に入り、私立大学・自宅外で年53.7万円の支援が付きます。
- 区分は「住民税の課税標準額×6%−調整控除額」で決まる。事業所得には給与所得控除がないぶん、同じ利益でも個人事業のほうが高く出る
- 私立大学・自宅外の年額は第Ⅰ区分161.0万円、第Ⅱ区分107.3万円、第Ⅲ区分53.7万円。入学金の減免は別枠
- 区分は毎年10月に前年の所得で見直される。法人化した年の所得が反映されるのは翌年10月分から
修学支援新制度の区分は、年収ではなく住民税の課税標準額から計算します。文部科学省の目安年収は「給与所得だけの世帯」を前提にした数字です。個人事業主が表を見て「うちは対象」と判断すると、外れることがあります。
同じ事業利益でも、事業所得で受け取るか役員報酬で受け取るかで課税標準額が変わります。その差で区分がどこまで動くのかを計算しました。対象は、扶養する子が3人未満の世帯です。
区分を決めるのは「課税標準額×6%」の式
判定に使う「支給額算定基準額」は、次の式で計算します。100円未満は切り捨てです。
支給額算定基準額 = 市町村民税の所得割の課税標準額 × 6% -(調整控除の額 + 税額調整額)
課税標準額は、所得から社会保険料控除・基礎控除・扶養控除などを引いた後の額です。6%は市町村民税の税率ですから、この式はほぼ「市町村民税の所得割額」を指しています。生計維持者が2人(父母)なら、2人分を合計します。政令指定都市に住んでいる場合は、調整控除と税額調整額に4分の3を掛けます。
合計額で、区分が次のように決まります。
| 区分 | 支給額算定基準額 | 授業料減免(年額) | 給付奨学金・自宅外 | 給付奨学金・自宅 | 年間の合計(自宅外) |
|---|---|---|---|---|---|
| 第Ⅰ区分 | 100円未満 | 700,000円 | 75,800円(年91.0万円) | 38,300円(年46.0万円) | 161.0万円 |
| 第Ⅱ区分 | 25,600円未満 | 466,666円 | 50,533円(年60.6万円) | 25,533円(年30.6万円) | 107.3万円 |
| 第Ⅲ区分 | 51,300円未満 | 233,333円 | 25,266円(年30.3万円) | 12,766円(年15.3万円) | 53.7万円 |
※ 私立大学(昼間制)の上限額。第Ⅱ区分は第Ⅰ区分の3分の2、第Ⅲ区分は3分の1。入学金の減免(上限260,000円)は1回限りなので年額に含めていない
国公立大学なら授業料減免の上限は535,800円、給付奨学金は自宅外で月66,700円です。51,300円以上154,500円未満の第Ⅳ区分は、多子世帯と私立の理工農系に限った区分なので、ここでは扱いません。
所得割が非課税の人は、式にかかわらず0円になります。練馬区の公表する基準では、扶養親族がいる場合、総所得金額等が「35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族の数)+10万円+32万円」以下なら所得割は課されません。夫婦と子1人なら147万円以下です。
個人事業主の数字は、目安年収より厳しく出る
文部科学省の資料には、片働きの夫婦と子1人の世帯で、第Ⅲ区分の目安年収が「約380万円」とあります。ただし資料の注記には「給与所得以外の収入はないものとする」「事業所得の場合は、目安年収が上記と異なる」と書かれています。
違いの出どころは給与所得控除です。給与収入380万円なら、給与所得は380万円から給与所得控除を引いた額になります。事業所得にはこの控除がありません。青色申告特別控除65万円はありますが、これは帳簿の要件を満たした場合の控除で、給与所得控除とは額も性質も別です。
課税標準額を計算する際の控除にも、法人化で入れ替わるものがあります。
| 控除 | 個人事業のまま | 法人化後(役員報酬) |
|---|---|---|
| 所得の計算 | 売上 − 経費 − 青色申告特別控除 | 役員報酬 − 給与所得控除 |
| 社会保険料控除 | 国民健康保険+国民年金(配偶者分を含む) | 健康保険・厚生年金の本人負担分 |
| 扶養控除(住民税) | 大学生の子は特定扶養親族で45万円 | 同じ |
| 配偶者控除(住民税) | 33万円 | 同じ |
社会保険料は実額で控除されます。国保は世帯の人数で均等割が増え、国民年金は配偶者の分も払うので、個人事業のほうが控除額は大きくなりがちです。一方、法人化すると給与所得控除が効きます。どちらが勝つかは利益の額で決まるため、売上別に計算しました。
売上別に比べると、区分が動くのは450万〜550万円の帯
経費100万円・夫婦と大学生の子1人の世帯で、個人事業のままと法人化後を比べました。法人化後は、判定ツールが手取り最大として選ぶ役員報酬を使っています。「支援込みで最大の報酬」は、支援額を足したうえで最も有利になる報酬を1万円刻みで探した結果です。
| 売上 | 事業所得 | 個人:算定基準額 | 個人:区分 | ツールの最適報酬 | 法人:算定基準額 | 法人:区分 | 実質差額(支援なし) | 実質差額+支援 | 支援込みで最大の報酬 | そのときの区分 | 実質差額+支援 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 135.0万円 | 0円 | 第Ⅰ区分 | 月14万円 | 0円 | 第Ⅰ区分 | −4.6万円 | −4.6万円 | 月14万円 | 第Ⅰ区分 | −4.6万円 |
| 350万円 | 185.0万円 | 0円 | 第Ⅰ区分 | 月18万円 | 0円 | 第Ⅰ区分 | −11.5万円 | −11.5万円 | 月18万円 | 第Ⅰ区分 | −11.5万円 |
| 400万円 | 235.0万円 | 9,900円 | 第Ⅱ区分 | 月20万円 | 1,400円 | 第Ⅱ区分 | −17.3万円 | −17.3万円 | 月19万円 | 第Ⅰ区分 | +35.1万円 |
| 450万円 | 285.0万円 | 36,700円 | 第Ⅲ区分 | 月24万円 | 10,600円 | 第Ⅱ区分 | −18.9万円 | +34.8万円 | 月19万円 | 第Ⅰ区分 | +83.3万円 |
| 500万円 | 335.0万円 | 63,500円 | 対象外 | 月28万円 | 26,700円 | 第Ⅲ区分 | −19.0万円 | +34.7万円 | 月19万円 | 第Ⅰ区分 | +132.9万円 |
| 550万円 | 385.0万円 | 90,300円 | 対象外 | 月32万円 | 44,200円 | 第Ⅲ区分 | −20.7万円 | +32.9万円 | 月19万円 | 第Ⅰ区分 | +128.9万円 |
| 600万円 | 435.0万円 | 119,900円 | 対象外 | 月36万円 | 63,100円 | 対象外 | −23.0万円 | −23.0万円 | 月19万円 | 第Ⅰ区分 | +125.4万円 |
| 700万円 | 535.0万円 | 177,700円 | 対象外 | 月42万円 | 92,500円 | 対象外 | −19.1万円 | −19.1万円 | 月19万円 | 第Ⅰ区分 | +123.5万円 |
| 800万円 | 635.0万円 | 231,400円 | 対象外 | 月51万円 | 142,100円 | 対象外 | −16.5万円 | −16.5万円 | 月19万円 | 第Ⅰ区分 | +123.5万円 |
※ 東京23区・40歳未満・配偶者(無収入)と大学生の子1人・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・私立大学(昼間)・自宅外通学/2026年(令和8年)分基準。支援額は授業料減免(上限70万円)と給付奨学金(月75,800円)の年額で、入学金は含まない
この規模では、支援を考えなければ法人化は年5万〜23万円の損です。法人住民税の均等割と税理士報酬が固定費として乗るためです。
ところが売上450万〜550万円では、ツールの最適報酬のままでも区分が1段上がり、差し引き年33万〜35万円のプラスに変わります。 売上500万円の世帯は、個人事業のままだと算定基準額が63,500円で対象外です。法人化すると26,700円まで下がり、第Ⅲ区分に入ります。
売上600万円以上では、最適報酬が月36万円以上になり、算定基準額が51,300円を超えます。ツールの結論どおりに報酬を決めると、支援には届きません。
報酬を下げれば区分は上がるが、家計の現金は減る
表の右側の「支援込みで最大の報酬」は、どの売上でも月19万円に集まっています。夫婦と子1人の世帯では、給与所得が課税標準額0円に収まる上限がこのあたりにあるためです。売上500万円で、役員報酬ごとの中身を分解しました。
売上500万円・経費100万円(事業利益400万円) 個人のまま:手取り284.4万円/事業所得335.0万円/住民税の課税標準額1,199,000円/算定基準額63,500円/対象外/支援0.0万円/社会保険料94.0万円
| 役員報酬 | 給与所得 | 課税標準額 | 算定基準額 | 区分 | 支援の年額 | 個人の手取り | 会社に残る利益 | 実質差額(支援なし) | 実質差額+支援 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 月10万円 | 46.0万円 | 非課税 | 0円 | 第Ⅰ区分 | 161.0万円 | 102.8万円 | 199.8万円 | −41.8万円 | +119.1万円 |
| 月15万円 | 106.0万円 | 非課税 | 0円 | 第Ⅰ区分 | 161.0万円 | 154.0万円 | 145.4万円 | −34.1万円 | +126.8万円 |
| 月18万円 | 142.0万円 | 非課税 | 0円 | 第Ⅰ区分 | 161.0万円 | 184.7万円 | 113.0万円 | −29.3万円 | +131.7万円 |
| 月20万円 | 160.0万円 | 49,000円 | 1,400円 | 第Ⅱ区分 | 107.3万円 | 204.5万円 | 91.4万円 | −26.8万円 | +80.5万円 |
| 月22万円 | 176.8万円 | 183,000円 | 5,400円 | 第Ⅱ区分 | 107.3万円 | 223.8万円 | 69.8万円 | −24.9万円 | +82.5万円 |
| 月25万円 | 202.0万円 | 367,000円 | 13,600円 | 第Ⅱ区分 | 107.3万円 | 251.1万円 | 36.0万円 | −24.6万円 | +82.7万円 |
| 月28万円 | 227.2万円 | 585,000円 | 26,700円 | 第Ⅲ区分 | 53.7万円 | 281.5万円 | 4.9万円 | −19.0万円 | +34.7万円 |
| 月30万円 | 244.0万円 | 719,000円 | 34,700円 | 第Ⅲ区分 | 53.7万円 | 300.1万円 | −19.4万円 | −23.7万円 | +30.0万円 |
| 月33万円 | 272.8万円 | 939,000円 | 47,900円 | 第Ⅲ区分 | 53.7万円 | 326.0万円 | −62.4万円 | −40.8万円 | +12.8万円 |
※ 東京23区・40歳未満・配偶者(無収入)と大学生の子1人・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・私立大学(昼間)・自宅外通学/2026年(令和8年)分基準。支援額は授業料減免(上限70万円)と給付奨学金(月75,800円)の年額で、入学金は含まない
月18万円まで下げると所得割が非課税になり、第Ⅰ区分の年161.0万円が付きます。ただし、個人の手取りは184.7万円で、個人事業のままより約100万円少なくなります。 残りの113.0万円は会社の中にあり、生活費には使えません。支援のうち70万円は授業料の減免なので、現金として入ってくるのは給付奨学金の91.0万円です。
会社に残した利益を後から役員報酬や配当で引き出せば、その年の所得になり、翌年以降の区分に反映されます。「実質差額」の列は、会社に残る利益を退職金などで引き出す際の税負担を差し引いたうえでの値ですが、在学中の4年間ずっと報酬を抑えられる家計かどうかは別の問題です。役員報酬は事業年度の途中で自由に変えられないことも前提になります(役員報酬を期中に増やすと損金にならない)。
判定のタイミングと、法人化の前に確かめること
在学中の区分は毎年10月に見直されます。日本学生支援機構によれば、2026年10月分から2027年9月分の区分は、2025年1〜12月の所得と2026年度の住民税情報で判定します。法人化した年の所得が区分に反映されるのは翌年10月分からです。子が大学3年生のときに法人化すると、効くのは4年生の後半だけになります。
区分の見直しで収入基準・資産基準のどちらかを満たさなくなると、給付奨学金は1年間振り込まれません。資産基準は、生計維持者2人の現金・預貯金・有価証券の合計が5,000万円未満であることです。不動産は含みません。
同じ「所得で支給額が決まる制度」でも、判定に使う所得の定義は制度ごとに違います。児童扶養手当は社会保険料を一律8万円でしか引かないため、法人化で社会保険料が増えても判定には効きません(児童扶養手当は法人化で戻ることがある)。修学支援新制度は住民税の課税標準額を使うので、社会保険料の実額が効きます。保育料も住民税の所得割額で決まる点は同じです(保育料は法人化で年36万円下がる)。
大学生の子のアルバイト収入が増えた場合は、特定親族特別控除の段階に移ります(特定親族特別控除は子の年収159万円まで満額)。この記事の計算は、子の合計所得が58万円以下で特定扶養控除(住民税45万円)が満額使える前提です。
まとめ
- 修学支援新制度の区分は「住民税の課税標準額×6%−調整控除額」で決まる。目安年収の表は給与所得だけの世帯が前提で、個人事業主には当てはまらない
- 夫婦と大学生の子1人・経費100万円の世帯では、売上450万〜550万円で、判定ツールの最適報酬のままでも区分が1段上がる。支援を足すと年33万〜35万円のプラスに変わる
- 報酬を月18万円まで下げれば第Ⅰ区分(私立・自宅外で年161.0万円)に届くが、個人の手取りは約100万円減り、残りは会社の中に留まる
- 区分の見直しは毎年10月。法人化の効果が出るのは翌年10月分からで、子の学年によっては間に合わない
ここでの数字は、夫婦と子1人・東京23区という1つの条件で計算した概算です。国保料や社会保険料は住んでいる地域と家族構成で変わります。まず判定ツールで自分の売上と経費を入れ、最適報酬がいくらになるかを確かめてください。そのうえで、支援の区分が変わる帯にいるかどうかを見るのが順番です。
よくある質問
多子世帯でも、法人化で支援額は変わりますか?
扶養する子が3人以上の多子世帯は、授業料と入学金の減免が所得制限なしで上限まで受けられるため、法人化で減免額は変わりません。変わり得るのは給付奨学金の側で、第Ⅰ〜第Ⅲ区分か第Ⅳ区分かによって月額が異なります。
会社に残した利益は、支援の判定に含まれますか?
収入基準は生計維持者(通常は父母)の住民税の課税標準額で判定するため、会社の利益そのものは入りません。ただし資産基準は生計維持者本人の現金・預貯金・有価証券の合計が5,000万円未満であることを求めており、会社から引き出した時点で個人の資産や所得になります。
法人化した年から区分は変わりますか?
変わりません。在学中の区分は毎年10月に見直され、2026年10月分からは2025年1〜12月の所得と2026年度の住民税情報で判定されます。法人化した年の所得が判定に乗るのは、その翌年10月分からです。
目安年収の表で自分の区分を判断できますか?
文部科学省の目安年収は給与所得だけの世帯を前提にしており、資料にも事業所得の場合は目安年収が異なると注記されています。個人事業主は給与所得控除がないぶん、同じ年収でも支給額算定基準額が高く出るため、表より厳しい区分になりやすいと考えてください。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。