設立の手続き
就業規則は10人未満なら不要?それでも一人会社が作っておく3つの場面
結論
労働基準法89条により、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務になるのは、常時10人以上の労働者を使用する場合です。人数にはパートや有期契約の人も含めますが、労働者ではない社長や役員は数えません。従業員が数人の会社には作成義務はありませんが、作っておけば、周知した合理的な労働条件がそのまま労働契約の内容になり(労働契約法7条)、懲戒や賞与の支給日を定める根拠になります。
- 作成義務のある会社が作成・届出をしないと、労働基準法120条で30万円以下の罰金の対象。10人未満の会社にはこの義務がない
- 減給の制裁は1回が平均賃金1日分の半額まで、総額が1回の賃金支払額の10分の1まで。月給25万円なら1回4,076円08銭、月2万5,000円が上限
- 就業規則で賞与の支給予定日を定めておくと、その日が到来した賞与は通知と損金経理を条件に、支払が翌期でも今期の損金にできる区分に入る
就業規則は「従業員が10人を超えたら作るもの」と覚えている人が多いはずです。法律上の作成義務についてはその理解で合っています。ただし、人数の数え方には注意が要りますし、10人未満でも就業規則があるかどうかで結果が変わる場面があります。
その1つは、労務ではなく法人税です。
作成・届出が義務になるのは「常時10人以上の労働者」
労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に、就業規則を作成して行政官庁(労働基準監督署)に届け出るよう義務づけています。内容を変えたときも届出が必要です。違反すると同法120条により30万円以下の罰金の対象です。
人数の数え方は次のとおりです。
| 数え方の論点 | 扱い |
|---|---|
| パート・アルバイト・有期契約 | 含める(北海道労働局は短時間労働者・有期契約労働者も含むと明示) |
| 社長・代表権や業務執行権のある役員 | 含めない(労働基準法の労働者ではない) |
| 代表権も業務執行権もない取締役で、部長などとして賃金を受ける人 | 労働者に当たる場合は含める |
社長1人と従業員9人の会社は、労働者が9人なので作成義務はありません。社長1人と従業員10人なら義務があります。役員として登記している人が実態として労働者に当たるかどうかは、名ばかり役員は労働者かで整理しています。
作るときは、労働者の過半数で組織する労働組合、なければ労働者の過半数を代表する者の意見を聴き、届出にはその意見書を添付します(同法90条)。作った就業規則は、掲示・備付け・書面交付などの方法で労働者に周知します(同法106条)。
就業規則に必ず書く事項(絶対的必要記載事項)は、始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇、賃金の決定・計算・支払の方法と締切・支払の時期、昇給、退職(解雇の事由を含む)です。退職手当、賞与、制裁などは、定めをする場合に書く事項です。
10人未満の会社でも就業規則が効く3つの場面
10人未満の会社には作成義務がありません。それでも、作っておくと効く場面が3つあります。
1. 決算賞与の損金算入時期
従業員に賞与を払うとき、その賞与がどの事業年度の損金になるかは、国税庁 No.5350 の3区分で決まります。区分1は「労働協約または就業規則で定められた支給予定日が到来している賞与」で、支給額を通知し、損金経理していれば、支給予定日と通知日のいずれか遅い日の属する事業年度の損金になります。
つまり、就業規則(賞与規程)で支給予定日を決めておけば、その日が決算日までに来ている賞与は、実際の支払が翌期にずれても今期の損金にできる区分に入ります。就業規則がない会社では区分1に当たる余地がなく、決算間際の賞与は区分2の3要件(全員への通知・翌期1か月以内の支払・損金経理)を満たすかどうかで判定することになります。
逆に、就業規則に「支給日に在職する者に支給する」と書いている場合は、その通知は区分2の「通知」に当たらないという通達もあります。決算賞与の要件と通知の書き方は決算賞与を未払計上して今期の損金にする3要件で詳しく扱っています。賞与規程の一文が、法人税の損金算入時期を動かします。
2. 減給などの懲戒
従業員の遅刻や規律違反に対して減給などの懲戒をするには、あらかじめその種類と程度を定めておく必要があります。就業規則に制裁の定めをする場合は、その種類と程度を記載します(労働基準法89条9号)。
減給の額には上限があります(同法91条)。1回の額は平均賃金の1日分の半額まで、総額は1回の賃金支払期の賃金総額の10分の1までです。
| 月給 | 平均賃金(1日) | 1回の減給の上限 | 1か月の減給総額の上限 |
|---|---|---|---|
| 20万円 | 6,521円73銭 | 3,260円86銭 | 2万円 |
| 25万円 | 8,152円17銭 | 4,076円08銭 | 2万5,000円 |
| 30万円 | 9,782円60銭 | 4,891円30銭 | 3万円 |
※ 平均賃金は月末締め・直前3か月(暦日92日)・毎月同額の月給として計算した当サイトの試算。銭未満切捨て
平均賃金の計算方法は解雇予告手当はいくらかで説明しています。就業規則がなくても個別の労働契約で定めることはできますが、従業員が複数いると、人ごとに書面を揃えるより就業規則1本のほうが管理しやすくなります。
3. 労働条件の統一と、不利益変更の歯止め
労働契約法7条は、合理的な労働条件が定められた就業規則を労働者に周知していれば、労働契約の内容はその就業規則の労働条件によるとしています。休職、服務規律、在宅勤務の手当などを1か所に書いておけば、採用のたびに個別の契約書へ書き込む必要がなくなります。
一方で、就業規則は会社を縛る側にも働きます。就業規則で定める基準に達しない労働契約は、その部分が無効になり、就業規則の基準に置き換わります(労働契約法12条)。いったん作った就業規則を労働者に不利に変えるには、労働者の合意か、変更の合理性と周知が必要です(同法9条・10条)。
一人会社が最初に作る就業規則は、気前のよい条件を書くと後から下げにくいということです。賞与や退職金を「支給する」と書くか「支給することがある」と書くかで、会社の義務の重さが変わります。
何人目で作るかの目安
義務の線は10人ですが、作るかどうかの判断は人数だけでは決まりません。整理すると次のようになります。
| 状況 | 就業規則 |
|---|---|
| 社長1人・従業員なし | 不要(対象となる労働者がいない) |
| 従業員1〜9人、賞与なし、懲戒も想定しない | 義務なし。雇用契約書と労働条件通知書で足りる |
| 従業員1〜9人、賞与を払う・決算賞与を使いたい | 義務なし。賞与規程の支給予定日が損金算入時期に効く |
| 従業員1〜9人、懲戒や休職のルールを決めたい | 義務なし。懲戒の種類と程度を全員に共通のルールとして定められる |
| 労働者が常時10人以上 | 作成・意見聴取・届出・周知が義務 |
従業員を雇う段階では、就業規則のほかにも、法定三帳簿(法定三帳簿は一人会社に必要か)、雇入時の健康診断(雇入時の健康診断は一人会社でも必要か)など、社長1人のときには不要だった義務がまとめて始まります。
当サイトの判定ツールは従業員のいない前提で計算しています。人を雇う段階に来ているなら、人件費と付随する事務のコストを経費に入れたうえで、法人化の効果を確かめてください。
まとめ
- 就業規則の作成・届出義務は、常時10人以上の労働者を使用する場合。パート・有期契約は数え、社長や役員は数えない。違反は30万円以下の罰金の対象
- 10人未満の会社には作成義務はないが、周知した合理的な就業規則は労働契約の内容になる(労働契約法7条)
- 就業規則で賞与の支給予定日を定めておくと、その日が到来した賞与は、支払が翌期でも通知と損金経理を条件に今期の損金になる区分に入る
- 減給の制裁は1回が平均賃金1日分の半額、総額が賃金支払額の10分の1まで。月給25万円なら1回4,076円08銭、月2万5,000円
- 就業規則は会社も縛る。基準を下回る個別契約は無効になり、不利益変更には合意か合理性と周知が要る
よくある質問
10人未満でも、就業規則を作ったら労働基準監督署に届け出る必要がありますか?
届出の義務は常時10人以上の労働者を使用する使用者に課されたもので、10人未満の会社には届出義務はありません。ただし、作った就業規則を労働者に周知していなければ、労働契約法7条によって労働契約の内容になる効果は生じません。
社長と役員2人、従業員8人の会社は10人以上になりますか?
社長や代表権・業務執行権を持つ役員は労働基準法の労働者ではないため数えません。この例では労働者は8人で、作成義務はありません。ただし代表権も業務執行権もない取締役が部長などとして賃金を受けている場合は、その人が労働者に当たることがあります。
就業規則を作ったあと、従業員に不利な内容へ変えることはできますか?
労働契約法9条により、労働者と合意せずに就業規則を変更して労働条件を不利益に変えることは原則としてできません。例外は、変更後の就業規則を周知し、変更の内容が合理的である場合に限られます(同法10条)。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。