設立の手続き
創業融資は個人事業主と法人どちらで借りるか。公庫の違い
結論
日本政策金融公庫は、創業融資の申込みについて個人と法人で大きな違いはなく、どちらが有利ということもないとしています。制度上の差が出るのは、経営者保証を外せる「経営者保証免除特例制度」の対象が法人に限られる点と、個人で借りた融資は法人成りしても自動では法人に移らない点です。どちらで借りても経費になるのは利息だけで、元本の返済は税引後の手取りから出ていきます。
- 新規開業・スタートアップ支援資金は融資限度額7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(据置5年以内)。対象は新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方
- 無担保・税務申告2期未満の基準利率は年3.85〜5.45%(令和8年10月1日現在)。経営者保証免除特例制度は上乗せ利率なしだが、利用できるのは法人だけ
- 利息40万円を払うと、売上1,200万・経費200万の個人事業主の手取りは24.2万円減る。税の軽減で実質負担は約6割に縮むが、元本返済には効かない
創業融資を個人で借りるか法人で借りるかは、審査の通りやすさより、借りた後に何が残るかで差が出ます。公庫自身は申込みの段階での有利不利を否定しています。差が出るのは、経営者保証の扱いと、将来の法人成りで債務をどうするかという2点です。そのうえで、借入の返済が手取りにどう響くかは、個人でも法人でも同じ原則で動きます。
公庫の創業融資の中身(令和8年10月時点)
日本政策金融公庫 国民生活事業の創業向けの中心になる制度は「新規開業・スタートアップ支援資金」です。公庫の制度ページで確認できる条件は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 利用できる方 | 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方 |
| 資金の使いみち | 新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金・運転資金 |
| 融資限度額 | 7,200万円 |
| 返済期間 | 設備資金20年以内、運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内) |
| 利率 | 基準利率。女性・35歳未満・55歳以上の方などは特別利率 |
| 担保・保証人 | 希望を聞きながら相談 |
利用できる方には「適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると認められる方」という限定が付いています。創業計画書を出して、事業計画の中身を確認される前提です。
利率は「区分」と「幅」で示されている
公庫は個々の融資の金利を一律には公表していません。示されているのは利率の区分ごとの幅です。無担保で、税務申告を2期終えていない方の利率は次のとおりです(令和8年10月1日現在)。
| 利率区分 | 年利 |
|---|---|
| 基準利率 | 3.85〜5.45% |
| 特別利率A | 3.45〜5.05% |
| 特別利率B | 3.20〜4.80% |
| 特別利率C | 2.95〜4.55% |
同じ区分の中でどの金利になるかは、使いみち・返済期間・担保の有無などで決まります。実際に何%で借りられるかは、申込み前に確定しません。 利率は金融情勢で変わり、借入時の固定金利は表と異なる場合があると公庫も注記しています。
これとは別に「創業支援貸付利率特例制度」があり、新たに事業を始める方または事業開始後に税務申告を2期終えていない方は、各制度の利率から0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)が差し引かれます。
自己資金の要件は制度の条件に書かれていない
新規開業・スタートアップ支援資金の概要には、自己資金の額を条件とする記載がありません。ただし、自己資金が見られないわけではありません。公庫のよくあるご質問では、自己資金を「重要な要素のひとつ」としたうえで、それ以上に創業計画全体が重要だと説明しています。公庫の新規開業実態調査では、創業資金総額に占める自己資金の割合は平均で2割程度だったとも紹介しています。
申込みの段階では、個人と法人に大きな差はない
公庫のよくあるご質問は、個人での創業と法人での創業で融資申込みに違いはあるか、という問いに対して、大きな違いは特になく、どちらが有利ということもないと答えています。手続き上の違いとして挙げているのは、法人なら履歴事項全部証明書(登記簿謄本)が必要になる程度です。
手続きで押さえておきたい違いは2つです。
- 窓口の支店。 個人は創業予定地を管轄する支店、法人は登記上の本店所在地を管轄する支店
- 資本金は借りられない。 公庫は事業資金を融資する機関なので、資本金の払い込みに充てる資金は対象外です。法人で借りる場合、融資の対象は設立登記を済ませた後の法人になります
つまり法人で借りるなら、資本金を自分で用意して設立登記を終えてから申し込む順番になります。設立にかかる費用と日数は、融資実行より先に出ていきます。
差が出るのは経営者保証。免除特例は法人だけ
制度上もっとも大きな違いは、経営者保証です。公庫の「経営者保証免除特例制度」は、経営者の保証を不要とする融資の制度で、利用できるのは法人に限られています。 上乗せ利率はなく、各融資制度に定める利率がそのまま適用されます。
創業期の法人が使える要件は、新たに事業を始める方または税務申告を2期終えていない方で、法人と代表者の一体性の解消が一定程度図られていることを公庫が確認できることです。公庫はこの一体性の解消を、事業上の必要が認められない法人から経営者への貸付金等がないこと、と説明しています。
個人事業主にはこの制度がありません。個人事業主の借入は、事業の借金がそのまま本人の借金です。「会社の債務」と「経営者の保証」を分ける構造がそもそも成立しないためです。
なお、公庫のよくあるご質問では、創業期の方は原則として無担保・無保証人で各種融資制度を利用できるとしています。ここでいう保証人は第三者の保証人の話で、法人の借入で代表者が保証するかどうかは、上の免除特例を使うかどうかで分かれます。法人化と有限責任・経営者保証の関係全般は「法人化すれば有限責任」は本当かで整理しています。
個人で借りてから法人成りすると、債務は自動で移らない
「まず個人で創業融資を受け、軌道に乗ったら法人成りする」という順番を考える人は多いはずです。この場合に押さえておきたいのは、個人名義の融資は法人成りしても法人の債務にならないことです。
法人に移すには債務引受の契約が必要で、個人の返済義務までなくすには債権者である公庫の同意が要ります。法人に引き継がず個人が債務者のまま返済を続けると、その利息は法人の経費になりません。手続きの詳細は法人成りの借入金は自動的に法人へ移らないで扱っています。
もう1つは、法人成り後に追加で借りる場面です。新規開業・スタートアップ支援資金の対象は「事業開始後おおむね7年以内」、創業支援貸付利率特例制度の対象は「事業開始後税務申告を2期終えていない方」と定められています。個人事業として始めた事業を法人成りした場合に、事業開始の時点や申告の期数を個人時代から通算するのかどうかは、公庫の公開資料では確認できませんでした。法人成り後の借入を予定しているなら、この扱いを申込み前に支店で確認しておく必要があります。
整理すると、2つの順番の違いは次のとおりです。
| 個人で借りて後で法人成り | 法人を設立してから借りる | |
|---|---|---|
| 申込みの時期 | 開業届を出せばすぐ相談できる | 資本金を用意し、設立登記を済ませた後 |
| 経営者保証免除特例 | 使えない(個人事業主は対象外) | 要件を満たせば使える |
| 法人成り時の債務 | 個人に残る。移すには債務引受が必要 | 最初から法人の債務 |
| 利息の経費計上 | 個人の事業所得の経費。法人成り後、個人に残した分は法人の経費にならない | 法人の損金 |
経費になるのは利息だけ。元本は手取りから返す
どちらで借りても共通する資金繰りの原則があります。借入金の元本の返済は経費になりません。 経費になるのは利息だけです。借りたお金は収入ではなく、返すお金も費用ではないためです。
例えば1,000万円を10年で元金均等返済すると、元本だけで年100万円が出ていきます。この100万円は、税金と社会保険料を払った後の手取りから返すお金です。融資で買った設備は減価償却で経費になりますが、償却のペースと元本返済のペースは一致しません。
利息40万円で手取りはいくら減るか
利息が経費になると、その分だけ税金と社会保険料が軽くなります。当サイトの計算エンジンで、経費が40万円増えた場合の手取りの変化を出しました。利息40万円は、1,000万円を年4%で借りた初年度におおむね相当する額として置いた仮定です(実際の金利は上の表の幅の中で個別に決まります)。
| 条件 | 個人事業主の手取り減少 | 法人化した場合の手取り減少 |
|---|---|---|
| 売上800万・経費200万 | 22.9万円 | 26.5万円 |
| 売上1,200万・経費200万 | 24.2万円 | 25.2万円 |
前提:東京23区・単身・40歳未満・青色申告(e-Tax)・インボイス登録あり・合同会社。法人は役員報酬を最適額で探索した結果(売上800万は月42万円、利息ありは月39万円。売上1,200万は利息の有無とも月54万円)。2026年(令和8年)分基準の概算です。
個人事業主の場合、利息40万円を払っても手取りの減少は22.9万〜24.2万円で、実質負担は約6割で済みます。利息が経費になることで所得税・住民税・個人事業税・国民健康保険料が下がるためです。ただし、この効果は元本返済には一切働きません。毎月の返済額のうち大半を占める元本は、税の軽減なしで手取りから出ていきます。
法人化した場合も手取りの減り方は大きくは変わりません。法人で借りた方が利息の税効果が大きい、という差は、この条件ではほとんど出ていません。借入を個人でするか法人でするかを、利息の節税効果で選ぶ理由は薄いということです。
法人成りした直後の資金の動きは法人成り1年目の資金繰りで扱っています。返済が始まる時期と、設立後の税金・社会保険料の支払いが重なると手元資金が細ります。据置期間をどう設定するかは、この重なりを見て決めることになります。
結局どちらで借りるかは、法人化の判断が先
ここまでを整理すると、判断の順番は次のようになります。
- そもそも法人化した方が手取りが増える売上・所得か。 これが決まらないと、法人で借りる意味がありません
- 法人化が近いなら、個人で借りて後から債務引受をするより、先に法人を設立して法人で借りる方が手続きは一度で済みます。経営者保証免除特例の対象にもなります
- 法人化がまだ先なら、個人で借りて事業を始める選択肢も残ります。その場合は、法人成り時の債務の扱いと、追加融資の対象かどうかを公庫に確認しておきます
1つ目は一般論では決まりません。売上・経費・家族構成・インボイス登録の有無で結論が変わります。自分の売上と経費で、法人化の損益分岐を確かめてから融資の名義を考えてください。
まとめ
- 公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は融資限度額7,200万円、返済期間は設備20年・運転10年以内(据置5年以内)。無担保・申告2期未満の基準利率は年3.85〜5.45%(令和8年10月1日現在)
- 公庫は、創業融資の申込みで個人と法人に大きな違いはないとしている。法人で借りる場合は設立登記後の申込みになり、資本金は借りられない
- 経営者保証免除特例制度は法人だけが対象。個人事業主の借入はそのまま本人の借金になる
- 個人で借りた融資は法人成りしても自動では移らない。法人成り後の追加融資で創業期として扱われるかは、事前に支店で確認が必要
- 経費になるのは利息だけ。利息40万円の実質負担は個人で約6割に縮むが、元本返済は手取りから出ていく
よくある質問
法人の資本金にするお金を日本政策金融公庫から借りられますか?
借りられません。公庫は、国民生活事業は事業資金を融資する機関であり、資本金の払い込みに使う資金は対象外としています。法人を設立して創業する場合は、設立登記後の法人が融資の対象になります。
創業融資を申し込む支店は個人と法人で違いますか?
違います。公庫の案内では、個人の申込みは創業予定地を管轄する支店、法人の申込みは法人登記上の本店所在地を管轄する支店が窓口です。申込み前の相談は近くの支店でも受け付けています。
創業融資に自己資金の要件はありますか?
新規開業・スタートアップ支援資金の概要には、自己資金の額を条件とする記載はありません。ただし公庫のよくあるご質問では、自己資金は重要な要素のひとつとし、公庫の調査では創業資金総額に占める自己資金の割合が平均で2割程度だったと紹介しています。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。