社会保険

葬祭費と埋葬料は法人化でどう変わる?20市区で2万〜7万円の差

結論

法人化すると、社長本人が亡くなったときの給付は国民健康保険の葬祭費から協会けんぽの埋葬料5万円に替わります。葬祭費は市区の条例で決まり、主要20市区では東京23区が7万円、15市が5万円、札幌市・福岡市・北九州市が3万円、熊本市が2万円です。法人化で23区は2万円減り、熊本市は3万円増えます。どちらも一度きりの給付で、法人化の損得を動かす額ではありません。

  • 葬祭費は国民健康保険法58条により市区町村の条例で額が決まる。埋葬料は健康保険法施行令35条で全国一律5万円
  • 扶養に入った家族が亡くなると社長に家族埋葬料5万円。扶養に入れず国保に残る家族には、市区の葬祭費がそのまま出る
  • 会社をたたむなどで協会けんぽの資格を失ってから3か月以内に亡くなると、埋葬料は協会けんぽから出て、国保の葬祭費は出ない

法人化の損得を試算するとき、亡くなったときの給付まで数える人はほとんどいません。実際、額は小さく、判断を左右するものではありません。

それでも調べる価値があるのは、誰が、どこに申請するのかが法人化で入れ替わるからです。国民健康保険の葬祭費は「葬儀を行った人」が市区役所へ、協会けんぽの埋葬料は「生計を維持されていた人」が協会けんぽへ申請します。額は同じ5万円でも、受け取る人の条件が違います。

葬祭費は市区の条例で決まる。主要20市区で2万〜7万円

国民健康保険の葬祭費は、国民健康保険法58条1項で「条例又は規約の定めるところにより」支給するとされています。額を決めているのは市区町村です。

当サイトが国民健康保険料の実データを持つ20市区について、各市区の公式ページで葬祭費の額を確認しました。協会けんぽの埋葬料と並べると次のとおりです。

市区国保の葬祭費協会けんぽの埋葬料法人化による増減
東京23区70,000円50,000円−20,000円
横浜市50,000円50,000円±0円
大阪市50,000円50,000円±0円
名古屋市50,000円50,000円±0円
神戸市50,000円50,000円±0円
京都市50,000円50,000円±0円
さいたま市50,000円50,000円±0円
川崎市50,000円50,000円±0円
相模原市50,000円50,000円±0円
千葉市50,000円50,000円±0円
仙台市50,000円50,000円±0円
新潟市50,000円50,000円±0円
静岡市50,000円50,000円±0円
浜松市50,000円50,000円±0円
堺市50,000円50,000円±0円
岡山市50,000円50,000円±0円
札幌市30,000円50,000円+20,000円
福岡市30,000円50,000円+20,000円
北九州市30,000円50,000円+20,000円
熊本市20,000円50,000円+30,000円

出典:各市区の公式ページ(2026年9月24日確認)。東京23区は千代田区・新宿区・港区・世田谷区・練馬区で7万円を確認。0〜74歳の国保加入者が亡くなった場合。スクリプト:scripts/sosaihi-maisouryo.mjs

20市区のうち15市区は5万円で、法人化しても額は変わりません。変わるのは東京23区(2万円減)と、札幌市・福岡市・北九州市・熊本市(2万〜3万円増)の5市区です。

国保の保険料は市区ごとに大きく違いますが、葬祭費の額はその順位とは連動していません。保険料が高い大阪市も5万円で、23区だけが上に外れています。

出産育児一時金は、どちらでも同じ50万円

国民健康保険法58条1項は、葬祭費と並べて出産育児一時金も条例で定めるとしています。ただし出産育児一時金は、名古屋市・仙台市のページでも協会けんぽと同じ1児50万円です(産科医療補償制度の対象にならない出産は48万8千円)。同じ条文に並ぶ2つの給付のうち、市区によって額がはっきり割れているのは葬祭費のほうです。

埋葬料は全国一律5万円。ただし受け取れる人が違う

協会けんぽの埋葬料は、健康保険法100条と健康保険法施行令35条で5万円と決まっています。都道府県支部による違いはありません。

額より大きな違いは、受け取れる人の条件です。

国保の葬祭費協会けんぽの埋葬料
受け取る人葬祭を行った人(喪主など)被保険者に生計を維持されていた人で、埋葬を行う人
そういう人がいないとき埋葬を行った人に、5万円の範囲内で実費(埋葬費)
申請先住所地の市区役所協会けんぽの都道府県支部
時効葬祭の翌日から2年2年

協会けんぽは、生計維持を「生活費の一部でも維持されている方であればよく、民法上の親族や遺族であることは問われません」と説明しています。同居の家族であれば、ほとんどの場合この条件に当てはまります。

一方、単身で身寄りのない社長が亡くなり、知人や遠い親族が葬儀を出した場合は「埋葬費」の扱いになります。この場合は5万円の定額ではなく、5万円を上限に実際にかかった埋葬の費用が支給されます。国保の葬祭費は葬祭を行った人に定額で出るので、この点は国保のほうが単純です。

家族が亡くなったとき:扶養に入れば家族埋葬料、入れなければ葬祭費のまま

個人事業主の世帯では、家族も全員が国民健康保険の被保険者です。誰が亡くなっても、葬祭を行った人に市区の葬祭費が出ます。

法人化すると、家族の立場が2つに分かれます。

亡くなった人個人事業主の世帯(全員が国保)法人化後(社長が協会けんぽ)
社長本人葬祭を行った人に葬祭費生計を維持されていた人で埋葬を行う人に埋葬料5万円
扶養に入った配偶者・子葬祭を行った人に葬祭費被保険者(社長)に家族埋葬料5万円
扶養に入れない配偶者葬祭を行った人に葬祭費国保に残るので葬祭費のまま(額は市区の条例どおり)

扶養に入った家族が亡くなると、健康保険法113条により被保険者である社長に家族埋葬料5万円が出ます。家族埋葬料は、誰が葬儀を出したかを問いません。

年収が130万円以上あるなどで扶養に入れない配偶者は、国民健康保険に残ります。この場合、配偶者が亡くなったときの給付は法人化の前後で変わりません。国保に残った配偶者の保険料が社長に請求され続ける仕組みは、法人化しても国保は残る。配偶者が扶養に入れないときの擬制世帯主で計算しています。

会社をたたんで3か月以内なら、協会けんぽから出る

健康保険法105条により、協会けんぽの資格を失ってから3か月以内に亡くなった場合も、最後に加入していた協会けんぽから埋葬料が出ます。会社を解散した、役員を退任して国保に戻った、という直後の期間が当てはまります。

このとき、国保の葬祭費は出ません。堺市は「他の健康保険から葬祭費に相当する給付が受けられるときは、国民健康保険(国保)から葬祭費は支給されません」とし、さいたま市・世田谷区も同じ扱いを示しています。川崎市は「国保と重複して受給できません」としています。

東京23区では、この3か月の間に亡くなると、受け取れる額は国保の7万円ではなく協会けんぽの5万円になります。法人を閉じてから個人事業に戻る人は、国保に入り直した直後の3か月は葬祭費ではなく埋葬料の側にいる、と覚えておけば足ります。法人を閉じる手順そのものは法人の解散・清算の費用で扱っています。

仕事中の死亡:一人社長なら健康保険から出る場合がある

健康保険は本来、業務外の病気・けが・死亡を対象にした制度です。協会けんぽも、埋葬料は「業務外の事由により亡くなった場合」に支給するとしています。業務中の死亡は労災保険の領分ですが、社長は原則として労災保険に入れません。

この隙間を埋めるのが健康保険法53条の2です。法人の役員としての業務に起因する死亡には原則として保険給付を行わないとしつつ、被保険者が5人未満の事業所の役員については例外を置いています。例外になる業務は、健康保険法施行規則52条の2で「当該法人における従業員(中略)が従事する業務と同一であると認められるもの」とされています。

つまり一人社長が、従業員でも行うような現場の作業中に亡くなった場合は、健康保険から埋葬料が出る余地があります。経営判断そのものに伴う業務は対象外です。どちらに当たるかは個別の事実で決まるため、ここでは断定しません。

個人事業主の国民健康保険には、業務上・業務外の区別がありません。仕事中の事故でも葬祭費は出ます。労災保険の特別加入で業務上の死亡に備える方法は、一人社長は労災に入れる?特別加入できないケースを参照してください。

判定ツールの差額に、この給付を足す必要はない

葬祭費と埋葬料の差は、20市区のうち最も大きい熊本市でも一度きりの3万円です。法人化の損得は毎年の税金と社会保険料の差で決まり、その差は年に数十万円単位で動きます。判定ツールの差額にこの給付を足しても、結論は変わりません。

死亡時の給付で法人化によって本当に大きく変わるのは、遺族年金のほうです。在職中の一人社長が亡くなると遺族厚生年金が加わり、年単位で受け取りが続きます。金額は遺族厚生年金は法人化で年65万円。加入1年でも25年分で計算されるで、世帯の形別に計算しています。会社から遺族に払う死亡退職金・弔慰金の非課税枠は死亡退職金・弔慰金の非課税枠にまとめました。

手続きの面で覚えておくことは3つです。申請先が市区役所から協会けんぽに変わること、受け取る人が「葬儀を出した人」から「生計を維持されていた人」に変わること、そして時効がどちらも2年であることです。法人化の損得そのものは、一般論ではなく自分の売上と経費で確かめてください。

まとめ

  • 国保の葬祭費は市区の条例で決まり、主要20市区では2万〜7万円。協会けんぽの埋葬料は全国一律5万円
  • 法人化で額が変わるのは5市区だけ。東京23区は2万円減、札幌市・福岡市・北九州市は2万円増、熊本市は3万円増
  • 扶養に入った家族には家族埋葬料5万円が社長に出る。扶養に入れず国保に残る家族は葬祭費のまま
  • 協会けんぽの資格を失ってから3か月以内の死亡は協会けんぽの埋葬料になり、国保の葬祭費とは重複しない
  • 一度きりの数万円の差で、法人化の判断は動かない。大きく変わるのは遺族年金の側

よくある質問

葬祭費や埋葬料の申請に期限はありますか?

どちらも2年です。国民健康保険の葬祭費は各市区が「葬祭を行った日の翌日から2年」としており、協会けんぽの埋葬料も2年以内の申請を求めています。過ぎると時効で受け取れません。

葬儀をしないで火葬だけにした場合も、葬祭費は出ますか?

多くの市区は火葬のみでも対象にしています。岡山市・相模原市・仙台市は火葬だけの場合も含むと明記しています。一方、熊本市は死亡の事実だけでは支給できず、葬儀・告別式・火葬・埋葬のいずれかを行ったことが必要としています。

国保の葬祭費と協会けんぽの埋葬料を両方もらえますか?

もらえません。川崎市は「国保と重複して受給できません」、堺市・さいたま市は他の健康保険から相当する給付が受けられるときは国保から支給しないとしています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。