税金の基礎

役員退職金の年は、所得税の合計所得金額だけが膨らむ。住民税・国保は別

結論

退職所得は分離課税ですが、所得税の合計所得金額には含まれます。役員報酬月54万円・妻が無収入の社長が、法人化から10年で退職金2,000万円を受け取ると、所得税の合計所得金額は474.4万円から1,274.4万円に増え、基礎控除が104万円から62万円に、配偶者控除が38万円から0円になり、給与にかかる所得税が年8.2万円増えます。住民税の合計所得金額には退職所得が含まれないため、住民税の控除は変わりません。

  • 国税庁は、源泉徴収で確定申告が不要な退職所得でも、合計所得金額に含まれることに変わりはないとしている
  • 住民税の合計所得金額と国民健康保険料の計算のもとになる所得には、退職所得が含まれない(江戸川区・新宿区・中央区の案内)
  • 役員としての勤続年数は法人の設立から数える。法人化から5年以下の退職金は2分の1にならず、退職所得がそのまま合計所得金額に乗る

役員退職金は、法人化の出口として最も税負担の軽い方法の1つです。退職所得控除を引いて2分の1にした額に、ほかの所得と分けて税率をかけるため、同じ額を役員報酬で受け取るより税金は大きく下がります。ただし、分けて課税されるのは税額の計算だけです。所得税の合計所得金額には、退職所得がそのまま足されます。

所得税の合計所得金額には退職所得が入る

合計所得金額は、所得税のさまざまな控除や特例を使えるかどうかの判定に使う金額です。国税庁は、合計所得金額を、総所得金額(事業所得・給与所得などの合計)に退職所得金額と山林所得金額などを加えた額としています。

退職金は支払いの時点で源泉徴収され、多くの場合は確定申告をしなくても課税が終わります。それでも国税庁の質疑応答事例は、確定申告書の提出が不要となる場合でも、合計所得金額に退職所得金額が含まれることに変わりはないとしています。

一方、住民税は違います。江戸川区は、住民税の合計所得金額について、分離課税される所得も含むが退職所得は含まれないとしています。退職所得に対する住民税は、退職金の支払いの時点で他の所得と分けて計算され、そこで課税が終わるためです。国民健康保険料の計算のもとになる所得も同じで、新宿区は「退職所得は、総所得金額等には含みません」、中央区は保険料の計算に使用しない所得として退職所得(退職金)を挙げています。

判定の物差し退職所得を含むかこの物差しを使う主なもの
所得税の合計所得金額含む基礎控除の額、配偶者控除・配偶者特別控除、住宅ローン控除、ひとり親・寡婦控除
住民税の合計所得金額含まない住民税の基礎控除の額、住民税の配偶者控除、均等割の非課税判定
国民健康保険料の計算のもとになる所得含まない国民健康保険料の所得割

※ 所得税は国税庁の質疑応答事例、住民税は江戸川区、国民健康保険料は新宿区・中央区の案内による

退職金の額ごとに、所得税の控除がどう動くか

役員報酬月54万円(給与所得474.4万円)の社長で、妻が無収入の場合を計算しました。法人化してから10年で退職し、その年の報酬は12か月分受け取ったものとします。

退職金退職所得所得税の合計所得金額基礎控除(所得税)配偶者控除(所得税)給与にかかる所得税の増加
なし0円474.4万円104万円38万円—
1,000万円300万円774.4万円62万円38万円4.3万円
2,000万円800万円1,274.4万円62万円0円8.2万円
3,000万円1,300万円1,774.4万円62万円0円8.2万円
5,000万円2,300万円2,774.4万円0円0円19.5万円

※ 退職所得は(退職金−退職所得控除400万円)×1/2。所得税の増加は、給与所得の課税所得に対する所得税(復興特別所得税を含む)の差で、退職所得そのものにかかる所得税は含まない。基礎控除は令和8年分の額。東京23区・40〜64歳・計算エンジンで給与の課税所得を算出

令和8年分の所得税の基礎控除は、合計所得金額が489万円以下なら104万円ですが、489万円を超えると67万円、655万円を超えると62万円に下がり、2,350万円を超えると段階的に0円まで減ります。給与所得474.4万円の社長は、ふだんは104万円の帯にいます。 退職金1,000万円の年でも合計所得金額が774.4万円になり、基礎控除が42万円減ります。

配偶者控除は、本人の合計所得金額が900万円を超えると減り始め、1,000万円を超えると0円です。退職金2,000万円で合計所得金額が1,274.4万円になると、配偶者控除はなくなります。

増える所得税は数万円から20万円程度で、退職金そのものにかかる税と比べれば大きくありません。ただし、住民税の側では基礎控除も配偶者控除も変わらないため、所得税だけが動くという非対称が生まれます。

法人化から5年以下だと、2分の1がなくなる

退職所得の額は、役員としての勤続年数で大きく変わります。役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る退職金は特定役員退職手当等になり、退職所得控除後の額を2分の1にする計算が使えません(国税庁 No.2737)。

役員としての勤続年数は、法人の設立(役員就任)から数えます。個人事業主だった期間は入りません。法人化から4年で退職金1,000万円を受け取ると、退職所得は(1,000万円−160万円)=840万円で、2分の1にならずにそのまま合計所得金額に乗ります。

退職金1,000万円退職所得控除退職所得所得税の合計所得金額配偶者控除(所得税)
法人化から10年400万円300万円774.4万円38万円
法人化から4年160万円840万円1,314.4万円0円

※ 役員報酬月54万円(給与所得474.4万円)と合算。前提は上の表と同じ

退職金の受け取り方と勤続年数の関係は役員退職金で法人の利益を引き出すで、源泉徴収の計算は退職所得の受給に関する申告書で扱っています。

住宅ローン控除・ひとり親控除も、退職金の年に外れることがある

所得税の合計所得金額を物差しにする制度は、ほかにもあります。

  • 住宅ローン控除:その年分の合計所得金額が2,000万円以下でないと受けられません。国税庁の質疑応答事例は、この合計所得金額に退職所得金額が含まれるとしています。上の表の退職金5,000万円の年(2,774.4万円)は、その年だけ控除が0円になります。2,000万円以下の年は、翌年から再び控除を受けられます
  • ひとり親控除・寡婦控除:合計所得金額500万円以下が要件です。給与所得474.4万円の社長でも、退職金1,000万円の年は774.4万円になり、その年は対象外になります

住宅ローン控除の2,000万円の線と法人化の関係は住宅ローン控除と法人化、寡婦控除の要件は寡婦控除27万円で扱いました。

配偶者が役員を退任するときも同じ

配偶者を役員にしている会社では、配偶者が退任して退職金を受け取る年にも同じことが起きます。国税庁の質疑応答事例は、給与所得105万円・退職所得30万円の配偶者について、合計所得金額は135万円で配偶者特別控除の要件(133万円以下)を満たさないとしています。

配偶者の退職金がわずかでも、その年は社長の配偶者控除・配偶者特別控除が外れる可能性があります。夫婦で役員に入っている場合の報酬の分け方は夫婦の役員報酬の配分にまとめています。

国民健康保険料や住民税は退職所得を含まないため、退職金を受け取った翌年に国保の保険料が跳ね上がることはありません。判定ツールは退職金を受け取る年を扱っていないため、退職金を受け取る年は、この記事の表を所得税だけに足して考えてください。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 退職所得は分離課税だが、所得税の合計所得金額には含まれる。確定申告が不要でも同じ
  • 住民税の合計所得金額と国民健康保険料の計算のもとになる所得には、退職所得は含まれない
  • 役員報酬月54万円・妻が無収入の社長が退職金2,000万円を受け取ると、所得税の基礎控除が104万円→62万円、配偶者控除が38万円→0円になり、所得税が年8.2万円増える
  • 法人化から5年以下の退職金は2分の1にならず、退職所得がそのまま合計所得金額に乗る
  • 住宅ローン控除(2,000万円以下)やひとり親・寡婦控除(500万円以下)も、退職金の年だけ外れることがある

よくある質問

退職金は源泉徴収で課税が終わっているのに、なぜ合計所得金額に入るのですか。

所得税法上の合計所得金額は、総所得金額・退職所得金額・山林所得金額などの合計額と定められているためです。国税庁は、確定申告書の提出が不要な場合でも、合計所得金額に退職所得金額が含まれることに変わりはないとしています。

配偶者が役員を退任して退職金を受け取った年は、配偶者控除はどうなりますか。

配偶者の合計所得金額に退職所得金額が加わります。国税庁の質疑応答事例では、給与所得105万円と退職所得30万円の配偶者は合計所得金額が135万円となり、配偶者特別控除(133万円以下が要件)を受けられないとしています。

退職金を受け取ると、翌年の国民健康保険料は上がりますか。

国民健康保険料の計算に使う所得には退職所得は含まれません。新宿区や中央区は、退職所得を保険料の計算に使用しない所得としています。ただし、退職後に加入する保険や自治体によって扱いを確認する必要があります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。