税金の基礎
耐用年数の短縮は個人でも使える?白色は不可、法人化で変わる点
結論
耐用年数の短縮の承認は法人(法人税法施行令57条)と個人(所得税法施行令130条)の両方にありますが、個人は青色申告者に限られます。600万円・法定10年の機械を2年後に残り4年へ短縮すると年の償却費は60万→120万円になり、税負担は前倒し4年で年22万〜29万円軽くなる一方、その後4年で同額近く重くなります。8年合計の差はほぼ0〜7万円で、効果の中心は時期のずれです。
- 個人の短縮承認は「青色申告書を提出する居住者」だけ。白色申告のままでは申請できず、法人は青色・白色の限定がない
- 「著しく短い」は法定耐用年数よりおおむね10%以上短いこと(法基通7-3-18・所基通49-13)。承認を受けた日の属する事業年度(年分)から適用
- 承認後は未償却残高を未経過使用可能期間で償却する(法令57条9項)。総額は変わらず、法人化で差が出るのは任意償却と税率の段差だけ
このテーマの全体像 法人の経費と個人事業の経費の違い
法定耐用年数は資産の種類ごとに一律で決まっています。実際の使い方では、それより早く使えなくなる資産もあります。その差を個別に認めてもらう手続が耐用年数の短縮です。
法人化を考えている人が気にするのは「法人でないと使えない制度なのか」という点でしょう。条文を読むと、答えは「個人でも使える。ただし青色申告者だけ」です。そのうえで、承認を受けた後の動き方は法人と個人で違います。
法人も個人も使えるが、個人は青色申告者だけ
制度の根拠は2つの政令です。法人は法人税法施行令57条、個人は所得税法施行令130条です。条文の構成は、承認事由の6号まで含めてほぼ同じです。
違いは1項の主語です。
| 項目 | 法人(法令57条) | 個人(所令130条) |
|---|---|---|
| 対象者 | 内国法人 | 青色申告書を提出する居住者 |
| 承認する人 | 納税地の所轄国税局長 | 納税地の所轄国税局長 |
| 申請書の提出先 | 所轄税務署長を経由 | 所轄税務署長を経由 |
| 適用の開始 | 承認を受けた日の属する事業年度以後 | 承認を受けた日の属する年分以後 |
白色申告の個人事業主は、そもそも申請の対象外です。法人には青色・白色の限定がありません。
したがって「耐用年数の短縮を使いたいから法人化する」という理由は、青色申告の個人事業主には当てはまりません。白色申告の人なら、法人化の前に青色申告へ切り替える選択肢があります。青色申告の承認申請の期限は、青色申告承認申請の期限で扱っています。
承認される事由は6つ、基準は「おおむね10%以上短い」
法令57条1項・所令130条1項は、使用可能期間が法定耐用年数に比べて著しく短い事由を6つ挙げています。
- 材質や製作方法が、同じ種類・構造の通常の資産と著しく異なる
- 資産のある地盤が隆起・沈下した
- 陳腐化した
- 使用場所の状況で著しく腐食した
- 通常の修理・手入れをしなかったため著しく損耗した
- その他財務省令で定める事由
「著しく短い」の線引きは通達にあります。法人税基本通達7-3-18と所得税基本通達49-13は、どちらも使用可能期間が法定耐用年数より「おおむね10%以上」短い年数となった場合と定めています。
使用可能期間の数え方も決まっています。機械・装置以外の資産では、取得後の経過年数と、事由に該当した後の見積年数の合計です(法基通7-3-20、1年未満の端数は切り捨て)。見積年数は、通常の維持補修をして通常の条件で使った場合に、更新・廃棄が見込まれる時期までの年数です。
判定の単位も決まっています。原則は減価償却資産の種類ごと・耐用年数の異なるものごとです(法基通7-3-19、所基通49-14)。建物や構築物などは個々の資産ごとに判定できます。
申請書と添付書類
国税庁の手続案内(C1-39、法人向け)によると、提出時期の定めはありません。ただし適用は承認を受けた日の属する事業年度からです。申請しただけでは当期に使えません。
添付書類として挙がっているのは次の5つです。
- 承認を受けようとする使用可能期間・未経過使用可能期間の算定の明細書
- 取得価額が分かる資料(請求書など)
- 個々の資産の内容と使用可能期間が分かる資料(見積書・仕様書など)
- 資産の状況が分かる資料(写真・カタログ・設計図など)
- リース物件なら、借り手の用途が分かる書類(リース契約書の写しなど)
e-Taxでも提出できます。書面なら申請書と添付書類を1部、税務署へ持参か送付します。
国税局長は審査のうえ、申請どおり認めるか、期間を定めて承認するか、却下します(3項)。承認後に特別な事由が生じれば、取消しや期間の伸長もあります(4項)。審査にかかる標準的な期間は、手続案内には書かれていません。
承認後は未償却残高を残りの期間で償却する
承認を受けると、承認された未経過使用可能期間を法定耐用年数とみなして償却します。法令57条9項により、定額法の計算の基礎となる取得価額からは、承認前までの償却累計額が除かれます。つまり未償却残高を残りの期間で割り直す形です。
当サイトでは次の設例で計算しました。
- 機械600万円、法定耐用年数10年、定額法(償却率0.100)。年60万円
- 2年使った時点(未償却残高480万円)で陳腐化し、残り4年と見積もった
- 使用可能期間は2年+4年=6年。法定10年より40%短く、10%基準を超える
- 未経過使用可能期間4年で承認。定額法の償却率0.250で年120万円
| 年 | 承認なし | 承認あり |
|---|---|---|
| 1〜2年目 | 60万円/年 | 60万円/年 |
| 3〜6年目 | 60万円/年 | 120万円/年 |
| 7〜10年目 | 60万円/年 | 0円 |
| 合計 | 600万円 | 600万円 |
償却率は耐用年数省令の別表第八の値です。償却費の総額は、承認の有無にかかわらず600万円です。変わるのは、どの年に経費になるかだけです。
なお法人が機械を取得した場合、償却方法の届出がなければ定率法が法定の方法です(法人の償却方法の届出)。この設例は比較をそろえるため、個人・法人とも定額法で計算しています。
前倒しで軽くなる額と、後で重くなる額
上の設例の償却費の差(3〜6年目は年60万円多い、7〜10年目は年60万円少ない)を、当サイトの計算エンジンにかけました。償却費以外の売上・経費は毎年同じと置いています。
| 売上・経費(償却費以外) | 形態 | 3〜6年目の負担減 | 7〜10年目の負担増 | 8年間の合計 |
|---|---|---|---|---|
| 売上1200万・経費200万 | 個人(青色) | 25.6万円/年 | 23.8万円/年 | 7.0万円 |
| 売上1200万・経費200万 | 法人(報酬月54万円で固定) | 22.3万円/年 | 22.3万円/年 | 0.0万円 |
| 売上1800万・経費300万 | 個人(青色) | 29.2万円/年 | 29.2万円/年 | 0.0万円 |
| 売上1800万・経費300万 | 法人(報酬月54万円で固定) | 23.1万円/年 | 23.1万円/年 | 0.0万円 |
| 売上2500万・経費500万 | 個人(青色) | 29.2万円/年 | 29.2万円/年 | 0.0万円 |
| 売上2500万・経費500万 | 法人(報酬月90万円で固定) | 23.1万円/年 | 23.1万円/年 | 0.1万円 |
※ 前提:東京23区・協会けんぽ東京・40歳未満・単身・青色申告(e-Tax 65万円控除)・インボイス登録あり・合同会社。法人の役員報酬は償却費を含めない経費で求めた最適額で固定し、償却費の増減は法人の利益で受ける。負担は税・社会保険料の合計(個人=所得税・住民税・個人事業税・国保、法人=法人税等)。scripts/taiyo-nensu-tanshuku.mjs で再計算できます。
読み取れることは2つです。
1つ目は、8年間の合計はほぼ0円だということです。前倒し期間に軽くなった分を、償却が尽きた後の期間でほぼ同額払い戻します。例外は個人の売上1,200万円の行で、7万円の差が出ました。償却費を年120万円にした年と0円の年で、所得税などの税率・料率の段差をまたぐ幅が対称にならないためです。
2つ目は、同じ年60万円の償却費の差でも、個人のほうが1年あたりの動きが大きいことです。個人は所得税・住民税・個人事業税・国保の料率が重なって効きます。法人は役員報酬を固定すると、法人税等の税率だけで動きます。
法人化で差が出るのは「任意償却」と組み合わせたとき
承認を受けた後の扱いには、法人と個人で1つ違いがあります。
法人は、確定した決算で損金経理した金額のうち、償却限度額までが損金になります(法人税法31条)。短縮の承認で上がるのは償却限度額です。利益の少ない年には、限度額いっぱいまで費用計上しない選択も残ります。
個人事業主は、所令130条の承認を受けると、短縮後の耐用年数で計算した償却費を各年の必要経費に算入します。赤字の年に止める選択はありません。この違いは減価償却の法人と個人の違いで詳しく比べています。
短縮で年120万円まで経費にできるようになっても、その年が赤字なら、個人は損失が膨らむ形で償却が進みます。法人なら、限度額未満で計上して利益の出る年に回す余地があります(ただし使わなかった限度額は翌期に上乗せされません)。
中古資産を買って簡便法で耐用年数を短くする方法は、短縮の承認とは別の制度です。こちらは中古車の耐用年数で扱っています。
確認できなかったこと
次の点は一次情報で確認できなかったため、本文では結論を書いていません。
- 個人事業主のときに受けた短縮の承認が、法人成りで資産を法人へ移した後も引き継がれるか。条文上、承認は「その有する減価償却資産」について申請者に出るもので、引継ぎを定めた規定は見つけられませんでした
- 申請から承認までの標準的な審査期間
- 個人向けの短縮申請の手続案内ページ(法人向けC1-39と同じ添付書類か)
自分の資産で使えるか、法人化の前後どちらで申請するかは、売上と経費の見通しで結論が変わります。償却費の差が手取りにどう効くかは、判定ツールで自分の条件に置き換えて確かめてください。
まとめ
- 耐用年数の短縮は法人(法令57条)・個人(所令130条)の両方にあるが、個人は青色申告者だけ
- 承認の基準は法定耐用年数よりおおむね10%以上短いこと。承認日の属する事業年度(年分)から適用される
- 承認後は未償却残高を未経過使用可能期間で償却する。600万円・10年の機械を2年後に残り4年とすると、年60万円が年120万円になる
- 8年合計の税負担差はほぼ0〜7万円。効果の中心は時期のずれで、所得の段差をまたぐときだけ総額が動く
- 法人は短縮後も限度額未満で償却できる。個人は短縮後の償却費を毎年必要経費に入れる
よくある質問
白色申告の個人事業主は耐用年数の短縮を申請できますか?
所得税法施行令130条1項の対象は「青色申告書を提出する居住者」なので、白色申告のままでは対象外です。法人税法施行令57条には青色・白色の限定がありません。
耐用年数の短縮は申請した年から使えますか?
承認を受けた日の属する事業年度(個人は年分)以後の償却から適用されます。申請日ではなく承認日が基準なので、決算期の直前に出すと当期に間に合わない可能性があります。
耐用年数を短縮すると税金は安くなりますか?
償却費の総額は取得価額の範囲で変わらないため、多くは早く経費にする分だけ後の年の償却費が減る時期のずれです。所得の段差をまたぐ場合にだけ、総額でも差が出ます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。