役員報酬
役員退職金の分割支給、損金は決議の年か支払の年か。利益1,200万円で81万円の差
結論
役員退職金の損金算入は、株主総会の決議等で額が具体的に確定した事業年度に全額計上するのが原則で、支払った事業年度にその支払額を損金経理する方法も認められます(法人税基本通達9-2-28)。2,000万円を4年で500万円ずつ払う場合、退職金を引く前の利益が毎年1,200万円なら、支払年度ごとに損金にしたほうが4年間の法人税等は81.2万円少なくなります。受け取る側の退職所得は、分割でも決議の年に全額が計上されます。
- 決議の年に全額を損金にすると1年目に大きな赤字が出て、翌年以後は欠損金の繰越しで取り戻す形になる
- 利益が毎年600万円程度なら、どちらでも4年間の合計はほぼ同じ。差が出るのは年800万円の軽減税率の枠をまたぐとき
- 分掌変更に伴う退職金では、未払金に計上した額は原則として退職給与に含まれない(同通達9-2-32の注)
一人社長が退任するとき、退職金を一度に払うだけの現預金が会社にないことがあります。そこで分割払いにする場合、いつ損金にするかを選べます。選び方で法人税等の合計が変わり、受け取る側の課税時期は変わりません。
損金にする年度は2通り認められている
法人税基本通達9-2-28は、退職した役員への退職給与の損金算入時期を次のように定めています。
| 方法 | 損金にする事業年度 | 分割払いのときの処理 |
|---|---|---|
| 原則 | 株主総会の決議等で額が具体的に確定した年度 | 確定した年度に全額を損金。未払いの分は未払金に計上 |
| ただし書 | 実際に支払った年度(その年度に損金経理した場合) | 支払ったつど、その額を損金に計上 |
原則の方法では、決議した年度に2,000万円全額が損金になります。会社の利益が2,000万円に満たなければ、その年度は赤字です。赤字は青色申告なら欠損金として10年間繰り越せ、翌年度以後の所得と相殺します。
ただし書の方法では、500万円ずつ4年間に分かれて損金になります。
どちらでも、退職金の額の上限は同じ
分割でも一括でも、役員退職金は「不相当に高額な部分」が損金不算入になる点は変わりません(法人税法34条2項)。額の算定の考え方は役員退職金の功績倍率で整理しています。
利益の水準で、有利な方法が変わる
退職金2,000万円を4年で500万円ずつ払う場合を、退職金を引く前の利益が毎年1,200万円の会社で計算しました。
| 年度 | A:決議年度に全額損金 課税所得 | A:法人税等 | B:支払年度ごとに損金 課税所得 | B:法人税等 |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 0.0万円 | 7.0万円 | 700.0万円 | 161.6万円 |
| 2年目 | 400.0万円 | 92.4万円 | 700.0万円 | 161.6万円 |
| 3年目 | 1,200.0万円 | 314.1万円 | 700.0万円 | 161.6万円 |
| 4年目 | 1,200.0万円 | 314.1万円 | 700.0万円 | 161.6万円 |
| 4年間の合計 | — | 727.6万円 | — | 646.4万円 |
Aは1年目に800万円の欠損金が出て、2年目の所得で使い切ります。3年目以後は所得1,200万円で、800万円を超える部分に高い税率がかかります。Bは毎年700万円で、ずっと軽減税率の範囲に収まります。4年間の差は81.2万円です。
同じ比較を、退職金を引く前の利益の水準別に行いました。
| 退職金を引く前の毎年の利益 | A:4年間の法人税等 | B:4年間の法人税等 | B−A |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 28.0万円 | 28.0万円 | +0.0万円 |
| 600万円 | 113.4万円 | 113.4万円 | −0.1万円 |
| 800万円 | 291.2万円 | 284.2万円 | −7.0万円 |
| 1,000万円 | 507.8万円 | 461.0万円 | −46.9万円 |
| 1,200万円 | 727.6万円 | 646.4万円 | −81.2万円 |
| 1,500万円 | 1,083.6万円 | 987.7万円 | −95.9万円 |
※ 退職金2,000万円を4年で500万円ずつ支払。東京23区。法人税・地方法人税・法人住民税(均等割7万円を含む)・法人事業税・特別法人事業税。欠損金は青色申告・中小法人として所得の全額まで控除。事業税の損金算入の翌期ずれは考慮しない。当サイトで計算(scripts/yakuin-taishokukin-bunkatsu.mjs)
利益が毎年600万円以下なら、どちらでもほぼ同じです。どの年度も所得が800万円以下に収まり、税率が一定だからです。差が出るのは、どちらかの方法で所得が800万円を超える年度が生じるときです。中小法人の法人税の軽減税率が年800万円までに限られている仕組みについては法人税の軽減税率はいつまでかで扱っています。
原則の方法が有利になる場面
表では常にBが有利か同じですが、Aが有利になる場面もあります。
- 1年目の法人税等を先に減らしたい:Aは1年目の納税がほぼ均等割だけで済み、資金繰りが楽になる
- 退任後に会社をたたむ予定:Bでは、会社をたたんだ後に払う分割金を損金にする年度がない
- 将来の利益が大きく減る見込み:Bで毎年500万円を損金にしても、利益がなければ欠損金が残るだけになる
逆にAでは、欠損金が10年の繰越期限内に使い切れない場合、その分は無駄になります。繰越期限の仕組みは欠損金の繰越し 法人10年・個人3年を見てください。
受け取る側は、決議の年に全額が退職所得になる
分割払いにしても、受け取る側の課税の時期は分かれません。国税庁のタックスアンサー No.2728 によると、役員の退職手当等の収入すべき時期は、株主総会などの決議で支給額が具体的に定められた日です。
2,000万円を4年で受け取る場合でも、決議のあった年に2,000万円全額が退職所得として計上されます。退職所得控除と2分の1課税はそのまま使えます。勤続5年以下の役員には2分の1課税がない点など、退職所得の計算は退職所得の受給に関する申告書で整理しています。
年金形式にすると、別の制度になる
分割を年金の形にすると扱いが変わります。法人税基本通達9-2-29は、退職年金は支給すべき時の損金であり、総額を未払金に計上しても損金にできないとしています。受け取る側でも退職所得ではなくなります。「分割払いの退職金」と「退職年金」は別物です。決議の書面で、確定した総額を分割で払うことを明記しておきます。
分掌変更の退職金では、未払金は原則として認められない
社長が会長や非常勤役員に退き、会社に残る場合の退職金(分掌変更に伴う退職金)には、別の注意点があります。
法人税基本通達9-2-32は、常勤から非常勤になった、給与がおおむね50%以上減ったなど、実質的に退職したのと同様の事情がある場合に、退職給与として扱うことを認めています。そのうえで注書きで、法人が未払金等に計上した場合のその額は、原則として退職給与に含まれないとしています。
分掌変更の退職金を分割にして未払金を計上すると、その部分は退職給与と認められず、役員給与(損金不算入)とされるおそれがあります。分掌変更で分割払いを考えるなら、その扱いを事前に専門家と詰めておく価値があります。退職金の資金をどう用意するかは役員退職金の引き出し方で比べています。
まとめ
- 役員退職金の損金は、決議の年度に全額を計上するのが原則。支払った年度ごとの損金経理も認められる
- 2,000万円を4年で払う例では、利益が毎年1,200万円なら支払年度ごとに損金にしたほうが81.2万円少ない
- 利益が毎年600万円以下なら差はほぼない。差が出るのは所得が800万円をまたぐ年度があるとき
- 受け取る側の退職所得は、分割でも決議の年に全額が計上される
- 分掌変更に伴う退職金で未払金を計上した分は、原則として退職給与に含まれない
退職金まで含めた法人化の損得は、毎年の役員報酬の設計から始まります。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。
よくある質問
役員退職金を年金のように毎年払う形にすると、扱いは変わりますか
退職年金として支給する場合は、支給すべき時の損金になり、年金の総額を未払金に計上しても損金にはできません(法人税基本通達9-2-29)。受け取る側も退職所得ではなく雑所得(公的年金等)として扱われ、退職所得控除や2分の1課税は使えなくなります。
分割にすると、受け取る側の退職所得も年ごとに分かれますか
分かれません。役員の退職手当等の収入すべき時期は、株主総会などの決議で支給額が具体的に定められた日です。分割で受け取っても、決議の年に全額が退職所得として計上されます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。