税金の基礎
防衛特別所得税は令和9年1月開始。1%でも天引き額は変わらない
令和9年1月1日以後に生ずる所得から防衛特別所得税1%が始まります。復興特別所得税が2.1%から1.1%へ下がるため合計2.1%は据え置きで、源泉徴収額も年末調整も変わりません。一人社長と個人事業主で何が動くかを計算しました。
令和9年1月1日以後に生ずる所得から、防衛特別所得税が始まります。税率は所得税額の1%です。ただし同時に復興特別所得税が2.1%から1.1%へ下がるため、上乗せの合計は2.1%のまま動きません。
つまり、毎月の給与から引かれる金額も、外注先に払う報酬から差し引く金額も、令和8年12月と令和9年1月で1円も変わりません。この記事では、それでも一人社長と個人事業主の手元で何が変わるのかと、上乗せ2.1%が金額としていくらなのかを計算します。
令和9年1月1日以後の所得から。合計2.1%は据え置き
令和8年度税制改正で決まった内容は、国税庁の「防衛特別所得税及び復興特別所得税の源泉徴収のあらまし」に整理されています。要点は3つです。
| 項目 | 改正前 | 改正後(令和9年1月1日以後の所得) |
|---|---|---|
| 防衛特別所得税 | なし | 所得税額の1% |
| 復興特別所得税の税率 | 2.1% | 1.1% |
| 復興特別所得税の課税期間 | 令和19年12月31日まで | 令和29年12月31日まで |
| 上乗せの合計 | 2.1% | 2.1% |
合計税率が変わらないので、源泉徴収税額の計算方法にも変更が生じません。 所得税率に102.1%を掛けた合計税率を使う点は、これまでと同じです。所得税率10%なら合計税率10.21%、20%なら20.42%になります。
「令和9年1月1日以後に生ずる所得」は支給日で判定する
境目は暦年ではなく、支払いのタイミングです。国税庁のQ&Aは、給与等について次のように整理しています。
- 契約や慣習、株主総会の決議などで支給日が定められている給与等は、その支給日
- 支給日が定められていないものは、支給を受けた日
- 役員に対する賞与のうち、利益に関する指標の数値が確定して支給金額が定まるものは、その決議等があった日
- 給与規程の改訂をさかのぼって実施した差額分は、支給日が定められていればその支給日、なければ改訂の効力が生じた日
一人社長の会社で気になるのは、12月分の役員報酬を翌年1月に支払う場合です。この場合に見るのは対象月ではなく支給日なので、令和9年1月に払うなら令和9年分の税額表を使います。もっとも合計税率が同じなので、税額そのものは変わりません。
なお、令和9年分の源泉徴収税額表は令和8年8月頃に国税庁ホームページへ掲載される予定とされています。各年分の給与等については、必ずその年分の税額表を使います。
一人社長の会社で、変わるもの・変わらないもの
役員報酬を自分に払っている会社は、源泉徴収義務者です。所得税の源泉徴収義務者が、そのまま防衛特別所得税と復興特別所得税の源泉徴収義務者になります。実務で触れる場面を一覧にすると、次のようになります。
| 場面 | 令和9年1月以後の扱い |
|---|---|
| 毎月の給与からの源泉徴収 | 令和9年分以後の源泉徴収税額表に当てはめる。表は3税の合計額 |
| 納付 | 所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税の合計額を1枚の納付書で納める |
| 納付書の様式 | 「源泉所得税及び復興特別所得税」と印字された手元のものをそのまま使える |
| 年末調整 | 年調所得税額×102.1%(100円未満切捨て)。求め方は令和8年分と同じ |
| 令和8年分の年末調整超過額の控除 | 納付書の「年末調整による超過税額」欄にそのまま記載する |
| 退職所得の速算表 | 令和8年分と令和9年分で変更なし |
| 源泉徴収票の「源泉徴収税額」欄 | 3税の合計額を記載する |
| 還付請求 | 3税を分けず、合計額で請求する |
納付書を刷り直す必要がない点は、実務上いちばん効きます。国税庁は「納期等の区分」なども補正せず、そのままの様式で使うよう案内しています。源泉所得税の納期の特例を使って年2回にまとめている会社も、扱いは同じです。
年末調整も計算式が変わりません。年調所得税額に102.1%を掛けて100円未満を切り捨てる、という手順は令和8年分と令和9年分で共通です。一人社長の年末調整で押さえた流れをそのまま使えます。
ここまでは源泉徴収と年末調整の話です。確定申告書での記載方法について、国税庁は令和8年5月時点で源泉徴収関係のQ&Aまでを公表しています。申告の場面の様式や記載欄は本記事の作成時点で確認できないため、この記事では書きません。
個人事業主が受け取る報酬も10.21%のまま
原稿料やデザイン料、講演料を受け取る側にとっても、差し引かれる金額は変わりません。所得税率10%に対応する合計税率は10.21%で、これは改正前の「所得税+復興特別所得税2.1%」と同じ数字です。
国税庁の計算例をそのまま挙げると、次のようになります。
- 講演料222,222円(所得税率10%)→ 222,222円×10.21%=22,688円
- 原稿料1,333,333円(同一人に1回で100万円超の部分は20%)→ (1,000,000円×10.21%)+(333,333円×20.42%)=170,166円
端数は3税の合計額で計算し、1円未満を切り捨てます。税目ごとに割り振ってから端数処理をするわけではありません。
手取り額を先に決めて支払う契約なら、グロスアップ計算も従来どおりです。税引手取額100,000円なら、100,000円÷(100−10.21)%=111,370円が支払金額になり、納付すべき税額は111,370円×10.21%=11,370円です。
海外の取引先から支払いを受ける場合は、扱いが分かれます。租税条約の規定で限度税率が適用される場合や所得税が免除される場合、防衛特別所得税と復興特別所得税は課されません。 外国居住者等所得相互免除法の適用で税率が軽減される場合や非課税とされる場合も同じです。ただし国内法の税率のほうが条約の限度税率より低くて国内法を適用するときは、3税を併せて源泉徴収します。
上乗せ2.1%はいくらか。法人化すると桁が変わる
ここからは金額です。まず、当サイトの計算エンジンで出した事業所得別の比較を土台にします。
| 事業所得 | 個人のまま | 法人化(最適報酬) | 最適な役員報酬 | 実質差額(年) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 303.1万円 | 274.5万円 | 月28万円 | −48.6万円 | 個人のまま有利 |
| 600万円 | 427.3万円 | 409.7万円 | 月42万円 | −37.6万円 | 個人のまま有利 |
| 800万円 | 540.7万円 | 536.6万円 | 月54万円 | −24.1万円 | 個人のまま有利 |
| 1,000万円 | 657.1万円 | 662.4万円 | 月54万円 | −14.7万円 | ほぼ互角 |
| 1,200万円 | 774.2万円 | 787.6万円 | 月54万円 | −6.6万円 | ほぼ互角 |
| 1,500万円 | 928.2万円 | 972.0万円 | 月54万円 | +23.9万円 | 法人化が有利 |
| 1,800万円 | 1082.1万円 | 1149.1万円 | 月90万円 | +47.0万円 | 法人化が有利 |
| 2,100万円 | 1232.0万円 | 1332.6万円 | 月95万円 | +80.6万円 | 法人化が有利 |
| 2,500万円 | 1395.0万円 | 1551.1万円 | 月100万円 | +136.1万円 | 法人化が有利 |
| 3,000万円 | 1599.6万円 | 1816.8万円 | 月100万円 | +197.2万円 | 法人化が有利 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額
この各行について、所得税の本体額(速算表で計算した額)と、そこに乗る上乗せ2.1%分を出しました。法人化の側は、最適報酬を取ったときに役員報酬へかかる所得税です。
| 事業所得 | 個人のまま:所得税 | うち上乗せ2.1% | 法人化:役員報酬の所得税 | うち上乗せ2.1% |
|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 85,900円 | 1,804円 | 37,750円 | 793円 |
| 600万円 | 347,900円 | 7,306円 | 92,650円 | 1,946円 |
| 800万円 | 715,500円 | 15,026円 | 182,600円 | 3,835円 |
| 1,000万円 | 1,102,570円 | 23,154円 | 182,600円 | 3,835円 |
| 1,200万円 | 1,616,820円 | 33,953円 | 182,600円 | 3,835円 |
| 1,500万円 | 2,606,820円 | 54,743円 | 182,600円 | 3,835円 |
| 1,800万円 | 3,596,820円 | 75,533円 | 970,320円 | 20,377円 |
| 2,100万円 | 4,625,600円 | 97,138円 | 1,101,190円 | 23,125円 |
| 2,500万円 | 6,345,600円 | 133,258円 | 1,232,290円 | 25,878円 |
| 3,000万円 | 8,473,600円 | 177,946円 | 1,232,290円 | 25,878円 |
※ 前提は上の表と同じ/所得税の本体額は速算表で計算した額(税額控除なし)/上乗せ2.1%は端数処理前の額
読み取れることが2つあります。
1つ目は、事業所得が800万円から1,500万円へ増えても、法人化した側の上乗せ額は3,835円で1円も動かないことです。個人のままなら15,026円から54,743円へ3.6倍になります。差が出るのは、この帯では最適な役員報酬が月54万円で止まり、増えた利益が会社に残るためです。役員報酬が動かなければ、そこにかかる所得税も上乗せ額も動きません。
2つ目は、法人化で上乗せ額が桁で減ることです。事業所得1,500万円なら54,743円が3,835円になります。給与所得控除が効き、残りが会社側の利益に移るためです。ただしこれは「防衛のための負担が消える」という話ではありません。会社側には別の税目が用意されています。
自分の売上と経費で同じ比較をしたい場合は、判定ツールに条件を入れて確かめてください。計算の前提は計算方法にまとめています。
効くのは税率ではなく期間。10年の延長分
改正で本当に負担が増えるのは、税率ではなく課税期間です。復興特別所得税の課税期間は、令和19年12月31日までから令和29年12月31日まで10年間延長されました。
改正前なら、令和20年分以降に復興特別所得税はかかりませんでした。改正後は税率1.1%で10年分続きます。所得が同じ水準で推移すると仮定して、その10年分を計算すると次のようになります。
| 事業所得 | 個人のまま | 法人化(最適報酬) | 差 |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 9,449円 | 4,153円 | 5,297円 |
| 600万円 | 38,269円 | 10,192円 | 28,078円 |
| 800万円 | 78,705円 | 20,086円 | 58,619円 |
| 1,000万円 | 121,283円 | 20,086円 | 101,197円 |
| 1,200万円 | 177,850円 | 20,086円 | 157,764円 |
| 1,500万円 | 286,750円 | 20,086円 | 266,664円 |
| 1,800万円 | 395,650円 | 106,735円 | 288,915円 |
| 2,100万円 | 508,816円 | 121,131円 | 387,685円 |
| 2,500万円 | 698,016円 | 135,552円 | 562,464円 |
| 3,000万円 | 932,096円 | 135,552円 | 796,544円 |
※ 所得税の本体額×1.1%×10年。所得水準が令和20年から令和29年まで同じだと仮定した場合の概算
事業所得1,500万円なら、延長された10年分は個人のままで286,750円です。これは単年の手取り比較表にはまったく現れません。当サイトの判定ツールも単年の手取りで結論を出すため、この種の「期間の長さ」は数字に写らない領域です。法人化のデメリットで扱っている、単年で判定しきれない要素と同じ扱いになります。
金額の大きさは、10年で数万円から数十万円という水準です。法人化の判定を動かすほどではありません。それでも「合計税率が変わらないから影響はない」という説明が、期間の延長を落としていることは押さえておく価値があります。
防衛特別法人税と混同しない
名前が似ている税がもう1つあります。防衛特別所得税と防衛特別法人税は、別の税です。 混同すると開始時期も税率も取り違えます。
| 防衛特別所得税 | 防衛特別法人税 | |
|---|---|---|
| 課される相手 | 個人 | 法人 |
| 税率 | 所得税額の1% | 基準法人税額の4% |
| 開始 | 令和9年1月1日以後に生ずる所得 | 令和8年4月1日以後に開始する事業年度 |
| 課税標準 | 源泉徴収すべき所得税の額(控除なし) | 基準法人税額から年500万円を控除した額 |
法人側には年500万円の基礎控除があるため、一人会社では税額が0円になる場合が多くなります。実際、上の表の前提(経費200万円・東京23区・40歳未満・独身)では、事業所得3,000万円でも会社の法人税額は293.8万円で、控除額の500万円に届きません。税額0円でも申告書の提出は必要です。この点は防衛特別法人税は一人会社も申告で詳しく扱っています。
整理すると、一人会社にとっての「防衛のための負担」は次の形になります。個人側の1%相当は法人化で桁が下がり、法人側の4%は基礎控除で0円になりやすい。金額としては小さい一方で、法人側には申告という事務が新しく増えます。 手取りに現れないコストは、法人税の実効税率を見るだけでは把握できません。
役員報酬の水準そのものを見直す場合は、役員報酬の源泉徴収はいくらからも併せて確認してください。令和8年分の税額表では、源泉徴収税額が0円でいられる境目が動いています。
まとめ
- 令和9年1月1日以後に生ずる所得から防衛特別所得税1%が始まり、復興特別所得税は2.1%から1.1%へ下がる。上乗せの合計2.1%は据え置き
- 源泉徴収税額の計算方法、年末調整の102.1%、退職所得の速算表、納付書の様式は変わらない。手元の納付書をそのまま使える
- 上乗せ2.1%の額は、事業所得800万〜1,500万円の帯で法人化すると3,835円で横ばいになる。最適な役員報酬が月54万円で止まるため
- 実質的な負担増は税率ではなく期間。復興特別所得税の課税期間が令和29年12月31日まで10年延び、事業所得1,500万円なら個人のままで10年分286,750円
- 防衛特別法人税は別の税で、基準法人税額の4%・令和8年4月1日以後開始事業年度・年500万円の基礎控除つき
一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。
よくある質問
令和9年1月から手取りは減りますか?
源泉徴収の場面では、合計税率が2.1%のまま変わらないため、徴収される金額は改正前後で同じです。防衛特別所得税1%は、復興特別所得税が2.1%から1.1%へ下がった分に置き換わる形で入ります。
納付書は新しいものに変えないといけませんか?
「源泉所得税及び復興特別所得税」と印字された手元の所得税徴収高計算書を、そのままの様式で使って差し支えないと国税庁が案内しています。納期等の区分の補正も不要とされています。
防衛特別所得税と防衛特別法人税は同じ税ですか?
別の税です。防衛特別所得税は所得税額に対する1%で令和9年1月1日以後の所得から、防衛特別法人税は基準法人税額に対する4%で令和8年4月1日以後に開始する事業年度からです。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。