設立の手続き
合同会社の社員を法人にするなら職務執行者を選任。登記と報酬の扱い
結論
法人が合同会社の業務執行社員になるときは、その法人が職務執行者(社員の職務を実際に行う個人)を選び、氏名と住所を他の社員に通知します(会社法598条)。登記されるのは代表社員が法人の場合の職務執行者の氏名・住所です(914条8号)。設立の登録免許税は個人が社員の場合と同じ6万円、職務執行者の交代は1万円です。法人税では、社員である法人そのものが役員に含まれます(法人税基本通達9-2-2)。
- 設立登記には、社員の法人の登記事項証明書(会社法人等番号の記載で省略可)、職務執行者の選任に関する書面、就任承諾書を付ける
- 職務執行者にも善管注意義務・競業禁止・第三者への損害賠償責任が準用される(会社法598条2項)。個人の責任は消えない
- 本人が亡くなっても社員の法人は退社しないので、合同会社は解散せず、職務執行者の変更登記1万円で続けられる
すでに会社(A社)を持っている人が2社目を合同会社(B社)で作るとき、出資者を自分個人ではなくA社にする形があります。この場合、B社の社員は法人で、実際に業務を回す個人は「職務執行者」という立場になります。
条文と法務局の記載例を確かめると、手続きの負担は個人が社員の場合とほとんど変わりません。差が出るのは、報酬を誰が払うかと、本人が亡くなったときです。
会社法598条:法人社員は職務執行者を選んで通知する
合同会社では、社員は原則として業務を執行します(会社法590条1項)。法人は自分で手を動かせないため、598条1項が特則を置いています。
- 法人が業務を執行する社員なら、その法人は職務を行うべき者(職務執行者)を選任する
- 選任した人の氏名と住所を、他の社員に通知する
株式会社の取締役は法人がなれません(331条1項1号)。合同会社は社員に法人を認め、その職務を個人に担わせる仕組みです。
個人の責任は消えない
598条2項は、業務執行社員の義務と責任の規定(593条〜597条)を職務執行者に準用します。
| 条文 | 職務執行者に及ぶ内容 |
|---|---|
| 593条 | 善管注意義務・忠実義務、職務執行状況の報告 |
| 594条 | 競業の禁止(他の社員全員の承認がない限り) |
| 595条 | 利益相反取引の制限(他の社員の過半数の承認) |
| 596条 | 任務を怠ったときの会社への損害賠償 |
| 597条 | 悪意・重過失による第三者への損害賠償 |
出資者を法人にしても、職務執行者として動く個人は、597条の準用で第三者への責任を直接負うことがあります。「法人を挟めば個人の責任が切れる」という期待は、条文上は成り立ちません。
登記されるのは「代表社員が法人」の場合だけ
合同会社の設立登記事項は会社法914条にあります。職務執行者が出てくるのは8号だけです。
- 6号:業務を執行する社員の氏名または名称
- 7号:代表社員の氏名または名称と住所
- 8号:代表社員が法人であるときは、職務執行者の氏名と住所
代表権のない業務執行社員が法人の場合、登記されるのはその法人の名称です。職務執行者の氏名は登記に出ません。選任と通知(598条)は代表社員でなくても必要です。
法務局の申請書記載例では、登記すべき事項を「資格 代表社員/氏名 ○○商事株式会社/職務執行者 住所・氏名」の順に書きます。B社の申請人欄も「代表社員 ○○商事株式会社 職務執行者 ○○○○」となります。
設立の添付書面と登録免許税
商業登記法94条(118条で合同会社に準用)と法務局の記載例では、個人が社員の場合の書面に次が加わります。
| 書面 | 代表社員が法人 | 業務執行社員(代表権なし)が法人 |
|---|---|---|
| 社員である法人の登記事項証明書 | 必要 | 必要 |
| 職務執行者の選任に関する書面 | 必要 | 不要 |
| 職務執行者の就任承諾書 | 必要 | 不要 |
登記事項証明書は、申請書に会社法人等番号を書けば添付を省略できます(商業登記法19条の3、商業登記規則36条の3)。同じ登記所の管轄に本店がある法人なら、条文上もともと不要です。
選任に関する書面は、A社の業務執行の決定機関で選んだことが分かる書面です。記載例では、A社の取締役会議事録で職務執行者を選任しています。B社の印鑑届書は職務執行者が出します。職務執行者がA社の代表者でない場合は、A社の代表者の保証書が要ります(法務省の案内)。
登録免許税は社員が個人でも法人でも同じです。当サイトで、出来事ごとの登記を並べました。
| 出来事 | 個人が唯一の社員 | 法人(A社)が唯一の社員 |
|---|---|---|
| 設立 | 60,000円(設立1件) | 60,000円(設立1件)。添付書面に職務執行者の選任書面・就任承諾書などが加わる |
| 社長(代表者)を交代する | 10,000円(旧社長が持分を新社長へ譲渡し、社員の退社・加入を登記。持分の移転が伴う) | 10,000円(職務執行者の変更1件。B社の社員・持分は動かない) |
| 本人が亡くなる(定款に承継の定めなし) | 社員が欠けて解散。解散30,000円+清算人9,000円+結了2,000円=41,000円 | 社員(A社)は退社しない。A社が新しい職務執行者を選び、変更登記10,000円 |
| 本人が亡くなる(定款に608条の承継の定めあり) | 相続人が社員になる。社員に関する変更登記10,000円 | 同上 |
※ 資本金100万円(1億円以下)の合同会社。登録免許税法 別表第一24号の(一)ハ・カ・レ、(三)イ・ハ。司法書士報酬・証明書の手数料・裁判所の手続費用は含めない。スクリプト:node scripts/godo-kaisha-shokumu-shikkousha.mjs touki
職務執行者の交代は、区分カ「社員に関する事項の変更(会社の代表に関する事項の変更を含む)」に入ります。資本金1億円以下なら1件1万円で、期限は変更から2週間です(会社法915条1項)。添付書面は、就任なら選任書面と就任承諾書(社員である法人の登記事項証明書も。会社法人等番号の記載で省略可)、退任なら退任を証する書面です(商業登記法97条)。代表者の住所が変わったときの登記は代表者の住所変更登記と同じ区分です。
本人が亡くなっても、法人社員なら合同会社は残る
表で差が大きいのは死亡の行です。合同会社の社員は死亡で退社し(607条1項3号)、社員が1人ならそのまま解散します(641条4号)。この流れと、定款で相続人に承継させる方法(608条)は合同会社の社員が死亡したらで詳しく扱っています。
社員がA社なら、本人が亡くなってもB社の社員は退社しません。A社が新しい職務執行者を選び、変更登記をすれば続きます。A社の株式は相続人に相続されます。相続人が株主総会で新しい取締役を選び、その取締役会などで職務執行者を選ぶ順番です。
ただし、A社自体が「社員1人の合同会社」だと話が変わります。本人の死亡でA社が解散すると、607条1項6号の「解散」でA社はB社から退社します。B社の社員がA社だけなら、B社も社員が欠けて解散します。607条2項は、5号〜7号(破産・解散・後見開始)を退社事由から外す定めを定款に置けるとしています。連鎖を防ぎたいなら、A社とB社の両方の定款を確認する必要があります。
職務執行者の報酬を誰が払うかは、法律に書いていない
会社法は、職務執行者の報酬を誰が払うかを定めていません。593条4項は民法648条を準用しており、598条2項でこれが職務執行者にも及びます。民法648条1項は、受任者は特約がなければ報酬を請求できないとします。報酬は定款や契約で決めることになります。
払い方は大きく2つです。
| 払い方 | B社の法人税 | 社会保険の判断の入口 |
|---|---|---|
| ① B社が職務執行者個人へ払う | 個人が税法上の役員に当たれば役員給与のルール(法人税法34条)、当たらなければ通常の給与 | B社から労務の対償として報酬を受けているか |
| ② B社がA社へ払い、A社が個人へ払う | 社員であるA社は税法上の役員(法基通9-2-2)。A社への支払いをどう扱うかを個別に確認 | B社から個人への報酬はない。A社で判断 |
法人税:社員である法人は「役員」
法人税法上の役員には、取締役などのほか「使用人以外の者で法人の経営に従事しているもの」が入ります(法人税法施行令7条1号)。国税庁のタックスアンサーNo.5200は、合同会社の業務執行社員をその例に挙げています。
さらに法人税基本通達9-2-2は、役員に持分会社の社員である法人が含まれると明記しています。②でB社がA社へ払う金額は、役員に対する支払いとして検討の対象になります。
一方、職務執行者個人が役員に当たるかを名指しした通達やタックスアンサーは、確認した範囲では見当たりませんでした。施行令7条1号は肩書きではなく「経営に従事しているか」で判定します。①で毎月同額を払う設計にしておけば、役員と判断された場合でも定期同額給与の形になります。
消費税:A社が受け取ると「事業として」の取引になる
個人が雇用契約などに基づいて受け取る給与は、消費税の事業に当たりません(消費税法基本通達1-1-1)。一方、法人の役務の提供は、すべて「事業として」に当たります(同5-1-1の注2)。
②のようにA社が対価を受け取ると、A社側で消費税の課税対象かの検討が必要です。①なら個人への給与として、この論点は生じません。A社とB社の課税・免税の状況で結論が変わるため、ここは税理士に確認する価値があります。
社会保険:年金機構の基準は「当該法人から」の報酬
日本年金機構の疑義照会回答は、法人の代表者の資格を次の基準で判断するとしています。法人の経営に参画する経常的な労務の提供があり、その報酬が業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるか、です(昭和24年7月28日保発第74号も引用)。
職務執行者を名指しした疑義照会回答は、公開分には見当たりませんでした。基準を当てはめると、①ではB社での被保険者資格が論点になります。本人がA社からも役員報酬を受けていれば、2社の報酬を合算して保険料を按分する仕組みです。具体例は副業法人と二以上事業所勤務で計算しています。②ではB社から本人への報酬がないため、加入はA社だけで判断します。
2社目は利益0でも年7万円かかる
法人社員の形を選んでも、B社は独立した法人です。B社に残る利益には法人税等がかかり、赤字でも均等割が出ます。当サイトの計算エンジンで、B社の税引前利益ごとの税額を出しました。
| B社の税引前利益 | 法人税+地方法人税 | 法人住民税(法人税割+均等割) | 事業税+特別法人事業税 | 合計 | 利益に対する割合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0.0万円 | 0.0万円 | 7.0万円 | 0.0万円 | 7.0万円 | — |
| 50.0万円 | 7.9万円 | 7.5万円 | 2.3万円 | 17.6万円 | 35.3% |
| 100.0万円 | 15.8万円 | 8.0万円 | 4.6万円 | 28.3万円 | 28.3% |
| 300.0万円 | 47.3万円 | 10.0万円 | 13.7万円 | 71.1万円 | 23.7% |
| 500.0万円 | 78.6万円 | 12.0万円 | 24.6万円 | 115.2万円 | 23.0% |
| 800.0万円 | 124.9万円 | 14.9万円 | 44.9万円 | 184.8万円 | 23.1% |
※ 東京23区(均等割7万円)、資本金1,000万円以下・従業者50人以下、中小法人の軽減税率適用。税引前利益は役員給与などを差し引いた後/2026年(令和8年)分基準。スクリプト:node scripts/godo-kaisha-shokumu-shikkousha.mjs zeigaku
利益50万円では税額の割合が**35.3%**まで上がります。7万円の均等割が利益の小ささに対して重いためです。均等割は自治体で少し違い、横浜市は74,500円、名古屋市・福岡市は71,000円です。自治体ごとの額は法人住民税の均等割は自治体で違うにまとめています。
①でB社から職務執行者へ報酬を払えば、B社の利益は減り、その分は本人の給与所得と社会保険料に移ります。どちらに置くと手取りが多いかは、1社の場合の役員報酬の最適化と同じ計算です。判定ツールで、自分の売上と経費から最適な役員報酬と法人に残る利益を確かめてください。
まとめ
- 法人が合同会社の業務執行社員になるときは、職務執行者を選任し、他の社員に通知する(会社法598条1項)。義務と責任の規定も準用される
- 職務執行者の氏名・住所が登記されるのは、代表社員が法人の場合だけ(914条8号)
- 設立の登録免許税は個人社員と同じ6万円。職務執行者の交代は1万円(別表第一24号(一)カ)
- 社員である法人は法人税法上の役員に含まれる(法基通9-2-2)。報酬を個人へ払うかA社へ払うかで、消費税と社会保険の判断の入口が変わる
- 本人が亡くなってもA社は退社しないため、B社は解散しない。A社が社員1人の合同会社なら連鎖解散に注意
よくある質問
職務執行者は、社員である法人の代表取締役でなければなりませんか?
条文上の限定はありません。法務省の案内では、職務執行者が社員である法人の代表者でない場合、印鑑届書に代表者の保証書を付けるとされており、代表者以外の人が職務執行者になる場面が想定されています。
業務執行社員だが代表社員ではない法人にも職務執行者は必要ですか?
必要です。会社法598条は業務を執行する社員が法人であれば職務執行者の選任と通知を求めています。ただし登記されるのは代表社員が法人の場合の職務執行者だけで、代表権のない法人社員は名称が登記され、設立時は登記事項証明書の添付が求められます。
職務執行者を交代するときの登録免許税はいくらですか?
社員に関する事項の変更として、資本金1億円以下の会社なら1件1万円です(登録免許税法別表第一24号(一)カ)。変更から2週間以内に本店所在地で登記します(会社法915条1項)。
出典
- e-Gov法令検索 会社法(第576条・第593条〜第599条・第607条・第608条・第641条・第914条・第915条)
- e-Gov法令検索 商業登記法(第19条の3・第94条・第97条・第118条)
- e-Gov法令検索 商業登記規則(第36条の3)
- e-Gov法令検索 登録免許税法(別表第一 第24号)
- e-Gov法令検索 民法(第648条)
- e-Gov法令検索 法人税法施行令(第7条)
- 法務局 合同会社設立登記申請書(代表社員が法人の場合の記載例を含む)
- 法務省 合同会社の設立手続について
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第2節第1款 役員の範囲(9-2-1・9-2-2)
- 国税庁 タックスアンサー No.5200 役員の範囲
- 国税庁 消費税法基本通達 第1章第1節(1-1-1 個人事業者と給与所得者の区分)
- 国税庁 消費税法基本通達 第5章第1節(5-1-1 事業としての意義)
- 日本年金機構 疑義照会回答(厚生年金保険 適用)
- 日本年金機構 適用事業所と被保険者
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。