社会保険

社会保険料が払えないとき、法人に免除はない。猶予と延滞金の実額

法人の健康保険・厚生年金保険には、所得が下がったことを理由とする免除がありません。使えるのは換価の猶予と納付の猶予だけです。令和8年の延滞金の割合と、役員報酬別の実額を計算しました。

法人の健康保険・厚生年金保険には、所得が下がったことを理由とする保険料の免除がありません。日本年金機構が免除として案内しているのは、産前産後休業期間と育児休業期間の2つだけです。

個人事業主のときに使えた国民年金保険料の申請免除は、法人の役員になると対象から外れます。代わりに用意されているのは換価の猶予と納付の猶予で、どちらも支払いの時期を動かす制度であって、保険料そのものは消えません。

一方で、延滞金の額そのものは保険料の本体に比べると小さく収まります。役員報酬 月54万円の会社が1か月分(15万414円)を1年放置したときの延滞金は11,200円です。滞納で重いのは延滞金ではありません。

個人には免除があり、法人にはない

売上1,200万円・経費300万円の事業を、個人のまま続けた場合と法人化した場合で、1年間の社会保険料を並べます。

個人事業主のまま法人(役員報酬 月54万円)
年金の保険料(年)215,040円(国民年金)
医療の保険料(年)905,009円(国民健康保険)
健康保険・厚生年金保険(年)1,804,968円
合計(年)1,120,049円1,804,968円
所得が下がったときの免除国民年金に4段階の免除あり産前産後・育児休業以外にない
そのうち免除で消せる額(年)215,040円0円
免除で消せる割合19.2%0.0%

※ 売上1,200万円・経費300万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人側は健康保険・厚生年金保険の労使合計(会社が年金事務所へ納める額) ※ 国民健康保険料の減免は自治体の条例によるため、この表では消せる額に入れていない(自治体ごとの違いは国民健康保険料の減免と軽減は別物で扱っています)

保険料の総額は法人のほうが1.61倍、金額にして年68万4,919円多くなります。それだけなら、法人化のデメリットとしてよく挙がる話の範囲です。

この表で見てほしいのは最後の2行です。個人のときは合計の19.2%が申請で消せるのに、法人になるとその手段が0になります。 収入が落ちたときに効くのは総額の大きさではなく、減らせる部分がどれだけ残っているかです。

国民年金保険料の免除は、第1号被保険者の制度です。承認基準は前年所得が計算式の範囲内であることで、全額免除なら「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」。単身なら67万円、扶養親族が1人いれば102万円です。さらに失業・倒産・事業の廃止があれば、前年所得にかかわらず免除・納付猶予を受けられる特例があります。廃業して収入がなくなった年に効く設計になっています。

法人の役員として厚生年金保険に加入すると第2号被保険者になり、この制度の外に出ます。免除の中身は国民年金の免除と追納で扱っています。法人側で唯一残る免除である育児休業期間の扱いは、一人社長の育児休業と保険料免除を参照してください。

延滞金は令和8年に上がった。ただし本体より小さい

延滞金の割合は2段階です。納付期限の翌日から3か月を経過する日までが割合A、その翌日以降が割合Bで、日本年金機構の別表では次のように動いています。

期間延滞税特例基準割合割合A割合B
令和6年1月1日〜令和6年12月31日1.4%2.4%8.7%
令和7年1月1日〜令和7年12月31日1.4%2.4%8.7%
令和8年1月1日〜令和8年12月31日1.8%2.8%9.1%

割合Aは「年7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低いほう、割合Bは「年14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低いほうです。延滞税特例基準割合は銀行の短期貸出約定平均金利をもとに財務大臣が告示する割合に1%を加えたものなので、市中金利が上がれば延滞金も上がります。令和8年の引上げはこの連動によるものです。

では実額はどうなるか。令和8年4月分の保険料(納付期限は令和8年6月1日)を、そのまま遅れて納付した場合で計算します。

役員報酬(月額)標準報酬月額(健保)標準報酬月額(厚年)1か月分の保険料3か月後に納付6か月後に納付1年後に納付
月20.0万円200,000円200,000円56,760円300円1,600円4,100円
月30.0万円300,000円300,000円85,140円500円2,500円6,300円
月40.0万円410,000円410,000円116,358円800円3,400円8,600円
月54.0万円 ←最適報酬530,000円530,000円150,414円1,000円4,400円11,200円
月60.0万円590,000円590,000円167,442円1,100円4,900円12,500円
月80.0万円790,000円650,000円198,582円1,300円5,800円14,800円

※ 東京・40歳未満・健康保険と厚生年金保険の労使合計。延滞金の割合は令和8年の 割合A 2.8%・割合B 9.1%

標準報酬月額の列を健康保険と厚生年金保険で分けているのは、上限が別だからです。健康保険は50等級で上限139万円、厚生年金保険は32等級で上限65万円です。月80万円の行で健康保険が79万円、厚生年金保険が65万円と食い違うのはこのためで、報酬をここから上げても厚生年金保険料は増えません(厚生年金の上限)。

月54万円の行で、1年遅らせたときの延滞金は11,200円です。保険料本体15万414円に対して7.4%にすぎません。令和7年の割合なら10,600円だったので、引上げによる増加は600円です。

滞納するかどうかを延滞金の重さで判断すると、判断を誤ります。 日本年金機構が案内しているとおり、督促状の指定期限までに納付がないときに起きるのは延滞金の発生だけでなく、財産の差押えです。売掛金を差し押さえられれば取引先に滞納が知られますし、預金を押さえられれば翌月の仕入れが止まります。金額として現れないこちらのほうが、事業には重く効きます。

なお延滞金の計算は、健康保険・厚生年金保険・子ども・子育て拠出金をまとめて対象にしています。この表の保険料も労使合計、つまり会社が年金事務所へ実際に納める額です。従業員負担分と会社負担分の分解は一人社長の社会保険料で扱っています。

3か月を境に、1日あたりが3.25倍になる

割合Aと割合Bの比は 9.1÷2.8=3.25 です。同じ滞納でも、3か月を過ぎた翌日から傾きが変わります。

納付が遅れた日数割合2.8%の日数割合9.1%の日数延滞金その先1日あたり
30日30日0日300円11.5円
60日60日0日600円11.5円
92日92日0日1,000円37.4円
93日92日1日1,000円37.4円
120日92日28日2,100円37.4円
182日92日90日4,400円37.4円
365日92日273日11,200円37.4円
730日92日638日24,900円37.4円

※ 役員報酬 月54万円・令和8年4月分の保険料15万414円(1,000円未満切捨て後15万円)で計算

令和8年4月分なら、割合Aで数えるのは納付期限の翌日6月2日から9月1日までの92日です。9月2日以降は1日あたり11.5円から37.4円に変わります。

計算式そのものは日本年金機構が公開しています。保険料額の1,000円未満を切り捨て、割合Aの期間と割合Bの期間に分けて日割りし、合計の100円未満を切り捨てます。日数は納付期限の翌日から納付の日の前日までです。93日の行で延滞金が1,000円のまま動いていないのは、100円未満を切り捨てるためです。

延滞金がかかるのは、督促状の指定する期日までに納付がなく、その期日より後の日に納付されたときです。ただし計算の起算日は納付期限の翌日なので、督促状の期日を1日過ぎただけでも、納付期限の翌日までさかのぼって日数が数えられます。

換価の猶予は「納期限から6か月以内」を過ぎると申請できない

猶予制度は2つあり、要件も申請先も期限も違います。まず換価の猶予から見ます。

  • 要件:保険料等を一時に納付することにより事業の継続または生活の維持を困難にするおそれがあり、かつ納付に対する誠実な意思があると認められること
  • 申請期限:納付が困難となった保険料等の納期限から6か月以内
  • 猶予期間:1年の範囲内。やむを得ない理由があれば延長でき、当初とあわせて最長2年
  • 効果:差押財産の換価(売却)が猶予され、事業の継続を困難にする財産は差押えも猶予または解除される場合がある。猶予期間中の延滞金の一部が免除される
  • 決定:年金事務所長が許可または不許可を通知する

この6か月という期限は換価の猶予のものです。後述する納付の猶予の申請時期は「猶予該当の事実の発生後、速やかに」で、納期限からの月数では決まりません。2つを混同しないでください。

つまずきやすいのは、申請対象となる月以外の保険料等を滞納していると原則として認められない点です。「まとめて相談しよう」と何か月分もためてから窓口に行くと、その時点で要件を満たさなくなります。

書類は申請書に加えて財産収支状況書が要りますが、猶予を受けようとする金額が100万円を超える場合は、財産収支状況書に代えて財産目録と収支の明細書が必要になり、さらに担保の提供に関する書類が加わります。担保が不要になるのは、猶予を受ける金額が100万円以下の場合、猶予期間が3か月以内の場合、担保として提供できる財産がない場合などです。役員報酬 月54万円の会社なら1か月分が15万414円なので、6か月分で90万2,484円、7か月分で105万2,898円です。7か月目でこの100万円の線をまたぎ、必要な書類が財産目録と収支の明細書に変わって担保も要ります。 申請が遅れるほど手続きが重くなる設計です。

許可された後も、分割納付計画のとおりに納付しない場合や、猶予を受けている保険料以外に新たに納付すべき保険料を滞納した場合は、猶予が取り消されることがあります。

納付の猶予は事由が5つ。「著しい損失」は前年利益の2分の1超

もう1つの納付の猶予は、災害や病気など特定の事由に当てはまるときの制度です。日本年金機構のパンフレットは5つを挙げています。

  1. 財産について災害を受け、または盗難にあったこと
  2. 事業主またはその生計を一にする親族が病気にかかり、または負傷したこと(個人事業主とその親族に限る)
  3. 事業を廃止し、または休止したこと
  4. 事業について著しい損失を受けたこと
  5. 各種届出が遅延したことにより、過去の月分に係る社会保険料が発生したこと

4の**「著しい損失」は、申請前の1年間において、その前年の利益の額の2分の1を超える損失(赤字)を生じた場合**と定義されています。感覚的な「業績が悪い」ではなく、前年の利益との比較で決まる数字の基準です。

2の病気・負傷が個人事業主とその親族に限られている点に注意してください。法人の代表者が入院しても、この事由には当たりません。法人が使えるのは主に1・3・4・5です。

申請先も違います。換価の猶予は年金事務所長ですが、納付の猶予は管轄の年金事務所を経由して地方厚生(支)局長へ申請し、許可・不許可も地方厚生(支)局長から通知されます。申請の時期は「猶予該当の事実の発生後、速やかに」で、5の届出遅延を理由とする場合だけは、さかのぼって発生した保険料の納期限までに提出する必要があります。効果の面では、猶予期間中の延滞金が全部または一部免除される点が換価の猶予より広くなっています。

ここでもう一度確認しておきます。国民年金にも「納付猶予制度」という名前の制度がありますが、あれは20歳以上50歳未満の第1号被保険者について前年所得で判定するもので、法人が申請する納付の猶予とは別の制度です。名前が同じでも中身は共通していません。

固定費をいくらに設定したかが、猶予を使うかどうかを決める

猶予制度は、払えなくなった後の話です。その前に決まっているのが、毎月いくらの保険料を背負うかという設計です。

役員報酬手取り合計役員個人の手取り法人に残る額社会保険料(労使計)
月10万円572.4万円102.8万円469.6万円33.4万円
月20万円581.5万円196.3万円385.2万円68.1万円
月30万円590.1万円289.1万円301.0万円102.2万円
月40万円593.5万円378.8万円214.7万円139.6万円
月50万円598.2万円468.6万円129.6万円170.3万円
月54万円 ←最適600.9万円504.8万円96.2万円180.5万円
月60万円592.3万円547.8万円44.5万円200.9万円
月70万円564.0万円625.4万円-61.3万円228.6万円
月80万円518.6万円704.8万円-186.1万円238.3万円
月90万円472.8万円784.4万円-311.6万円249.2万円
月100万円422.5万円860.2万円-437.6万円261.3万円

※ 売上1,200万円・経費300万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人に残る額は、退職金・配当で引き出す際のコスト20%を控除した後の金額

手取り合計が最大になるのは月54万円で、そのとき社会保険料は年180.5万円です。ここから月40万円へ下げると、社会保険料は年139.6万円へ40.9万円下がるのに、手取り合計は7.4万円しか減りません。

手取りの最大点と、毎月の現金支出の少なさは別の話です。年7.4万円の手取りを手放すと、年40.9万円の現金支出が消えます。売上が安定していれば手取り最大の月54万円を選ぶ理由がありますが、入金が読めない事業では、この40.9万円が資金繰りの余裕そのものになります。どちらを取るかは事業の性質しだいで、一律の正解はありません。

役員報酬は事業年度の開始から3か月以内でなければ原則として変更できません(役員報酬の期中変更)。一度決めた額は1年動かせない固定費になります。売上が落ちてから下げようとしても間に合わないので、決める段階で下振れを織り込んでおくことになります。

この表は売上1,200万円・経費300万円という一例です。最適報酬も社会保険料も条件で動くので、判定ツールに自分の売上と経費を入れて確かめてください。計算の前提は計算の考え方にまとめています。

まとめ

  • 法人の健康保険・厚生年金保険に、所得が下がったことによる免除はありません。免除は産前産後休業と育児休業の期間だけです
  • 個人事業主のときは社会保険料の19.2%(国民年金の年21万5,040円)が申請免除の対象でしたが、法人になると0になります
  • 延滞金の割合は令和8年に割合A 2.4%→2.8%、割合B 8.7%→9.1%へ上がりました。それでも月54万円の報酬で1か月分を1年放置して11,200円です。重いのは延滞金ではなく差押えです
  • 換価の猶予は納期限から6か月以内の申請、1年以内(延長で最長2年)の分割納付、延滞金の一部免除。納付の猶予は5つの事由に当たる場合で、地方厚生(支)局長が決定します
  • どちらも保険料そのものは消えません。効くのは、そもそも背負う固定費をいくらに設定したかです

よくある質問

納付期限を1日過ぎたら、すぐに延滞金がかかりますか?

日本年金機構は、督促状の指定する期日までに納付がなく、その期日より後の日に納付されたときに延滞金がかかると説明しています。ただし計算の起算日は納付期限の翌日なので、督促状の期日を過ぎた場合はさかのぼって日数が数えられます。

換価の猶予はいつまでに申請しますか?

納付が困難となった保険料等の納期限から6か月以内です。これは換価の猶予の期限で、納付の猶予は猶予該当の事実が発生した後、速やかに申請します。

猶予が認められると保険料は減りますか?

減りません。換価の猶予は猶予期間中の各月に分割して納付する制度で、免除されるのは猶予期間中の延滞金の一部です。納付の猶予でも免除されるのは延滞金の全部または一部で、保険料そのものは残ります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。