設立の手続き
法人化すると外注先への報酬から源泉徴収が始まる。デザイン料・原稿料の10.21%
結論
国税庁No.2502は、給与について源泉徴収義務を負う個人以外の個人が払う弁護士報酬などは源泉徴収しなくてよいとしています。人を雇っていない個人事業主は、外注のデザイン料や原稿料を全額払えば済みます。法人化すると、個人に払うデザイン料・原稿料・講演料・士業の報酬から10.21%(100万円超の部分は20.42%)を差し引き、翌月10日までに納める義務が生じます。
- デザイナーに月10万円(税抜で区分)を払うと、毎月10,210円を預かり年122,520円を納める。原稿料・デザイン料は納期の特例の対象外で、毎月の納付になる
- 納期の特例で年2回にまとめられるのは、給与・退職金と税理士・弁護士・司法書士などの報酬だけ(国税庁No.2505)
- 支払先が法人なら、デザイン料や原稿料でも源泉徴収はしない。対象は個人に払う報酬
このテーマの全体像 個人事業主の法人化の目安と損益分岐点
法人化の手続きでは、社長の役員報酬から源泉徴収をする話がよく出てきます。見落とされやすいのはもう一方、外注先に払う報酬です。個人事業主のときは全額を振り込めば済んでいた支払から、法人になると所得税を差し引いて国に納める義務が生じます。
受け取る側の源泉徴収が法人化で消える話は法人成りで源泉徴収10.21%が消えるで扱いました。この記事は払う側です。
給与を払っていない個人は、報酬の源泉徴収をしなくてよい
国税庁No.2502は、会社や個人が税理士・弁護士・司法書士などに報酬を払うときは、支払のつど所得税を差し引くと説明したうえで、次の例外を置いています。
給与所得について源泉徴収義務を有する個人以外の個人が支払う弁護士報酬などの報酬・料金については、源泉徴収をする必要はありません。
人を雇っておらず、家族にも専従者給与を払っていない個人事業主は、この「給与所得について源泉徴収義務を有する個人以外の個人」に当たります。デザイナーへの外注費も、税理士の顧問料も、請求額をそのまま払えば済みます。
法人にはこの例外がありません。社長1人の会社でも、個人に対して源泉徴収の対象になる報酬を払えば、その支払から差し引いて納めます。
| 支払う側 | 個人に払う報酬・料金の源泉徴収 |
|---|---|
| 給与を払っていない個人事業主 | 不要 |
| 従業員や専従者に給与を払っている個人事業主 | 必要 |
| 法人(一人会社を含む) | 必要 |
どの支払が対象になるか
源泉徴収の対象は、所得税法204条に列挙された報酬・料金です。国税庁No.2792は代表例として次を挙げています。
- 原稿料や講演料など(原稿・さし絵・作曲・デザインの報酬は条文に、これらに類するものは政令に列挙)
- 弁護士、公認会計士、司法書士など特定の資格を持つ人の報酬・料金(税理士・社会保険労務士も含む)
- モデルや外交員などの報酬・料金
- 芸能・テレビ出演等の報酬・料金
一人会社でよく出てくるのは、デザイン料、原稿料、講演料、それに税理士・社労士の顧問料です。支払先が法人なら、デザイン料や原稿料でも源泉徴収はしません(No.2792)。同じデザイナーでも、相手が個人か法人化しているかで扱いが変わります。
預かる額と、納める回数
税額は、1回の支払額が100万円以下なら10.21%、100万円を超える部分は20.42%です(No.2795)。
| 支払の内容 | 1回の源泉徴収 | 年間の源泉徴収 | 納付の回数(納期の特例あり) |
|---|---|---|---|
| 税理士の顧問料(月3万円) | 3,063円 | 36,756円 | 年2回 |
| デザイナーへの外注(月10万円) | 10,210円 | 122,520円 | 年12回(特例の対象外) |
| ライターへの原稿料(月5万円) | 5,105円 | 61,260円 | 年12回(特例の対象外) |
| 講演料(1回120万円) | 142,940円 | 142,940円 | 年1回(特例の対象外) |
※ いずれも請求書で報酬額と消費税額が区分されていて、税抜の額を源泉徴収の対象にした場合。区分されていなければ税込の額が対象(月10万円の外注なら1回11,231円)
※ 講演料は(120万円−100万円)×20.42%+102,100円。1円未満切捨て
※ 計算は scripts/houjinka-gensen-gimusha.mjs による
源泉徴収した税は、会社の負担ではありません。外注先に払うはずの額の一部を、外注先の所得税の前払いとして国に納めるものです。会社のお金は増えも減りもしませんが、計算・預かり・納付の手間と、遅れたときの加算税が会社に乗ります。請求書の税抜・税込の書き方で預かる額が変わる点は報酬の源泉徴収は税込か税抜かで計算しています。
納期の特例が効かない支払がある
源泉徴収した税は、原則として支払った月の翌月10日までに納めます。給与の支給人員が常時10人未満なら、納期の特例で年2回(7月10日と翌年1月20日)にまとめられます(一人会社の源泉所得税は年2回にできる)。
ところが国税庁No.2505によると、特例の対象は給与・退職金と、税理士・弁護士・司法書士などの一定の報酬から源泉徴収した税に限られます。No.2795も、原稿料や講演料の源泉徴収は納期の特例の対象にならないと明記しています。
社長の役員報酬と税理士の顧問料だけなら年2回で済みますが、デザイナーやライターへの外注が毎月あると、その分だけは毎月10日に納付が必要です。特例の承認を受けたから全部年2回、と思い込むと、外注分の納付が毎月遅れることになります。遅れたときの加算税は源泉所得税の納付遅れ、不納付加算税は5%と10%のどちらかで整理しています。
年が明けたら、支払調書と合計表
個人に報酬を払った会社は、翌年1月末までに報酬・料金等の支払調書を作り、一定の金額を超える分は税務署へ提出します。役員報酬の源泉徴収票とあわせて出す法定調書の範囲は一人会社の法定調書で扱っています。外注先が海外に住んでいる場合は税率と対象が変わります(海外在住の外注先に源泉徴収は要る?)。
法人化の判定にどう効くか
源泉徴収は外注先の所得税の前払いなので、当サイトの判定ツールが比べる手取りには影響しません。効くのは事務の量です。
外注をよく使う人ほど、法人化すると毎月の計算と納付が増えます。会計ソフトで支払と同時に源泉徴収額を計上するか、税理士に任せるかを、法人化の前に決めておく必要があります。法人化の損得そのものは個人事業主の法人化の目安と判定ツールで、自分の売上と経費を入れて確かめてください。
まとめ
- 給与を払っていない個人事業主は、個人に払う報酬・料金から源泉徴収しなくてよい(国税庁No.2502)。法人にはこの例外がない
- 対象は所得税法204条の報酬・料金。デザイン料・原稿料・講演料・士業の報酬など。支払先が法人なら源泉徴収しない
- 税額は100万円以下10.21%、超える部分20.42%。デザイナーに月10万円なら毎月10,210円、年122,520円
- 納期の特例で年2回にできるのは給与・退職金と士業の報酬だけ。原稿料・デザイン料の源泉徴収は毎月翌月10日に納める
- 手取りは変わらないが、事務と加算税のリスクが会社に乗る。外注が多い人は法人化前に処理の方法を決めておく
よくある質問
人を雇っている個人事業主も、報酬の源泉徴収は不要ですか。
不要なのは、給与について源泉徴収義務を負っていない個人だけです。従業員や青色事業専従者に給与を払っている個人事業主は源泉徴収義務者なので、個人に払うデザイン料や税理士報酬からも源泉徴収します。
法人化した後、プログラマーへの開発委託料も源泉徴収しますか。
源泉徴収の対象は所得税法204条に列挙された報酬・料金に限られます。列挙されていない業務の委託料は対象外ですが、デザインや原稿の要素を含む契約では境目が問題になります。国税庁の「源泉徴収のあらまし」で業務ごとに確認してください。
源泉徴収を忘れて全額払ってしまったら、どうなりますか。
源泉徴収と納付の義務は支払った会社にあります。納付が遅れると不納付加算税と延滞税がかかり、会社が外注先から預かるはずだった額を後から回収することになります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。