インボイス・消費税

固定資産税の精算金は建物の譲渡対価。法人成りで消費税がかかる範囲

結論

固定資産税の精算金は、譲渡代金と別に受け取っても建物分は建物の譲渡対価に含まれ、売主が課税事業者なら消費税の課税売上になります(消費税法基本通達10-1-6)。土地分は非課税です。建物1,800万円を9月1日に引き渡す設例では、精算金で増える消費税は一般課税で7,657円ですが、建物本体を含めた納付税額は180.8万円です。

  • 精算金は買主の納税ではなく当事者の合意による支払い。売主は譲渡所得の収入金額に、買主は建物・土地の取得価額に入れ、租税公課として経費にはしない
  • 売主の個人が2割特例を使える令和8年分なら建物売却の消費税は36.2万円、簡易課税(第4種)なら72.3万円、一般課税なら180.8万円(設例)
  • 登記が1月1日をまたいで遅れ、翌年度の固定資産税が売主に課された場合に買主が払う相当額は、精算金と違って対価に当たらない(同通達の注)

精算金は「売主が先に払った固定資産税を、買主が日割りで返すお金」と説明されることが多く、税金の立替えのように見えます。しかし国税庁は、消費税でも所得税でも、これを売買代金の一部として扱っています。

個人名義の店舗ビルやアパートを、法人成りに合わせて自分の会社へ売る場面では、この扱いが売主・買主の両方に効きます。売主の個人が課税事業者なら建物分は課税売上になり、買主の法人は経費ではなく取得価額に入れます。

精算金は、税金ではなく売買代金の一部

固定資産税と都市計画税は、毎年1月1日(賦課期日)の所有者に、その年度の1年分が課されます。年の途中で売っても、新しい所有者がその年度の固定資産税の納税義務を負うことはありません。

そこで不動産の売買では、売主が納める1年分のうち、引渡し日から年末までの分を買主が負担する取り決めをよく結びます。国税庁の質疑応答事例は、この支払いを、売主が1年単位で納税義務を負う一方で買主が負担なく所有する期間がある状況を、当事者間で調整する金銭の授受だとしています。買主の納税ではないので、税目ごとの扱いは次のようにそろいます。

誰の何の税精算金の扱い根拠
売主の消費税建物分は建物の譲渡対価に含めて課税。土地分は非課税消費税法基本通達10-1-6、質疑応答事例(消費税)
売主の所得税譲渡所得の収入金額(譲渡価額)に算入質疑応答事例(譲渡所得)、タックスアンサー No.3214
買主の所得税・法人税購入代価の一部として取得価額に算入。払った年の租税公課にはしない質疑応答事例(所得税)、法人税法施行令54条1項1号
買主の消費税建物分は建物の課税仕入れの対価に含まれる消費税法基本通達10-1-6(売主側と表裏)

通達10-1-6は、精算金を「譲渡について収受する金額とは別に収受している場合であっても」譲渡の金額に含まれると書いています。契約書や領収書で売買代金と精算金の欄を分けても、結論は変わりません。

買主側の質疑応答事例は個人が賃貸アパートを買った事例です。精算金を取得価額に入れる理由は「買主の納税義務に基づく支払いではない」ことなので、法人が買う場合も同じ理屈で購入の代価に入ります。建物分は減価償却で少しずつ損金になり、土地分は償却されません。

建物分は課税、土地分は非課税。引渡し日で精算金はいくらか

土地の譲渡は消費税が非課税なので、精算金も土地分と建物分に分けて考えます。土地と建物を同じ相手に同時に売る場合は、それぞれの対価を合理的に区分する必要があります(基本通達10-1-5)。

建物の固定資産税・都市計画税が年25.2万円、土地が年33.6万円の店舗ビルを例に、引渡し日ごとの精算金を計算しました。

引渡し日買主負担の日数建物分の精算金土地分の精算金精算金の合計建物分に含まれる消費税(10/110)
3月1日306日211,265円281,687円492,952円19,205円
6月1日214日147,747円196,997円344,744円13,431円
9月1日122日84,230円112,306円196,536円7,657円
11月1日61日42,115円56,153円98,268円3,828円
12月1日31日21,402円28,536円49,938円1,945円

※ 建物の固定資産税・都市計画税 年25.2万円、土地 年33.6万円の架空の設例。精算金は譲渡日から年末までを日割り(365日)し、引渡日を買主負担の日とした。精算金に消費税を上乗せしない契約で、建物分の精算金を税込の対価として扱った。土地分は土地の譲渡対価として非課税。当サイトで計算(scripts/kotei-shisanzei-seisankin-shohizei.mjs)

日割りの起算日や引渡日をどちらの負担にするかは、法律ではなく契約で決まります。精算金に消費税を上乗せしない契約なら、建物分の精算金は税込の対価として扱い、110分の10が売上の消費税に含まれます。

精算金より大きいのは、建物本体の消費税

精算金そのものが動かす消費税は、上の表のとおり数千円から2万円弱です。法人成りで本当に大きいのは、建物の売却そのものが課税売上になることのほうです。事業の用に供している建物の売却は、事業に付随する資産の譲渡として課税対象です(基本通達5-1-7)。住宅の家賃が非課税でも、アパートの建物を売る対価は非課税になりません。

9月1日に建物1,800万円(税抜)・土地3,200万円で売った場合、売主の個人が納める消費税は申告方法で次のように変わります。

売主の申告方法精算金を含めた納付税額精算金を入れ忘れた場合差(申告漏れ)
免税事業者(インボイス未登録・基準期間1,000万円以下)0円0円0円
2割特例(令和8年分まで)361,531円360,000円1,531円
簡易課税(第4種・みなし仕入率60%)723,062円720,000円3,062円
一般課税(他の課税仕入れは変わらない前提)1,807,657円1,800,000円7,657円

※ 建物1,800万円(税抜)・土地3,200万円を同時に譲渡。建物分の精算金84,230円(税抜76,573円)を加えた課税標準は18,076,573円。土地の3,200万円と土地分の精算金112,306円は非課税。一般課税は建物売却で増える売上税額だけを示し、課税売上割合の変動は織り込んでいない。当サイトで計算(scripts/kotei-shisanzei-seisankin-shohizei.mjs)

同じ建物でも、納付税額は0円から180.8万円まで開きます。分かれ目は次の3点です。

  • 2割特例:免税事業者からインボイス登録して課税事業者になった人が対象で、納付税額は売上の消費税の20%です。適用期限は令和8年9月30日を含む課税期間までで、個人は令和8年分が最後です。令和8年中の売却なら使える余地があります。基準期間の課税売上高が1,000万円を超える年などは対象外です。終了の経緯は2割特例は令和8年で終了にまとめています
  • 簡易課税:自分が使っていた固定資産の売却は、家賃の第6種ではなく**第4種(みなし仕入率60%)**です(基本通達13-2-9)。ただし選択届出書は適用したい年の前年中に出しておく必要があり、建物を売る年に慌てて出しても間に合いません。事業区分の考え方は簡易課税のみなし仕入率で扱っています
  • 一般課税:建物の売上にかかる消費税がほぼそのまま納付税額に乗ります。同時に土地を売ると、非課税の土地代が課税売上割合の分母に入ります。割合が95%を割る仕組みは土地を売った年の消費税で計算しています

個人が別の物件で賃貸を続ける場合は、もう1つ注意があります。基準期間の課税売上高は課税資産の譲渡等の対価の合計なので(消費税法9条2項)、建物の売却代金も入ります。建物を売った年は2年後の基準期間になるので、設例の建物の売却代金だけで1,000万円を超え、2年後は課税事業者になります。

買う法人の側で取り戻せるかで、全体の負担が決まる

法人成りの売買は、売主も買主も実質的に同じ人です。売主の個人が納めた消費税を、買主の法人が仕入税額控除で取り戻せるなら、個人と法人を合わせた負担はほぼ相殺されます。取り戻せなければ、そのまま移転のコストになります。

買主の法人の状況建物(精算金を含む)の消費税
設立1期・2期の免税事業者控除できない。売主の納付分がそのままコスト
簡易課税実際の仕入れ税額ではなくみなし仕入率で計算するため、建物の消費税は納付税額に反映されない
一般課税(店舗・事務所の賃貸)控除できる。精算金の建物分も含めて、売主の個人から適格請求書等を受け取っておく
一般課税(住宅の賃貸)居住用賃貸建物の制限で控除できない

店舗ビルを買った法人がテナントのためにインボイス登録をして一般課税で申告すれば、建物の消費税を控除できます。ただし税抜1,000万円以上の建物は高額特定資産に当たり、3年間は免税事業者に戻れず簡易課税も選べなくなります(3年縛りの記事)。住宅のアパートは控除そのものが認められないのに3年縛りだけ残ることを、アパートを法人で買っても消費税は還付されないで計算しています。

買った翌年からは、1月1日の所有者である法人に固定資産税が課されます。こちらは法人自身の納税なので、払った期の損金です。取得価額に入れるのは、売主に課された年度分のうち法人が精算金として負担した分だけです。

登記が1月1日をまたぐと、扱いが逆になる

12月に引き渡したのに所有権移転登記が翌年にずれ込むと、翌年度の固定資産税は登記名義人である売主に課されます。本来は買主に課されるべき税なので、買主がその相当額を売主に払うことになります。

この支払いは、精算金と違って資産の譲渡等の対価に当たりません(基本通達10-1-6の注)。国税庁の質疑応答事例は、所有権移転後の固定資産税が登記の遅れで前所有者に課された場合に、固定資産税相当額であることを明記して金銭を授受すれば対価に該当しないとしています。名義借料など役務の対価として授受した場合は課税です。

買主が売主に払うもの消費税
売買した年度の固定資産税のうち、引渡し日から年末までの分(精算金)建物分は譲渡対価として課税
登記が遅れて売主に課された翌年度以降の固定資産税相当額(明記して授受)対価に当たらない
同じ金額を名義借料など役務の対価として授受課税

法人成りで年末に移す場合は、どちらの支払いなのかを契約書と請求書で書き分けておく必要があります。

法人化の差額と、建物を移す年の消費税を並べる

建物の売却にかかる消費税は、移す年に1回だけ出ていくお金です。法人化で毎年どれだけ手取りが変わるかと並べると、何年で取り戻せるかの目安になります。店舗ビルの大家を想定して、判定ツールと同じ計算エンジンで比べました。

家賃(税抜)・経費法人化の実質差額(3年目以降・年)個人が使える申告方法建物売却の消費税
960万円・300万円-29.1万円2割特例36.2万円
960万円・300万円-29.1万円一般課税180.8万円
2,400万円・700万円37.6万円簡易課税(届出済み)72.3万円
2,400万円・700万円37.6万円一般課税180.8万円

※ 東京23区・40〜64歳・独身・青色申告(e-Tax)・合同会社・インボイス登録済み・個人事業税5%(不動産貸付業)・最適な役員報酬で計算/2026年(令和8年)分基準。建物を法人へ売ると減価償却費などの経費も変わるが、ここでは同じ経費のまま比べた。消費税は表2の9月1日引渡しの設例(建物1,800万円+建物分の精算金)。買主の法人が一般課税で控除できる場合は、法人側で取り戻せる。当サイトで計算(scripts/kotei-shisanzei-seisankin-shohizei.mjs)

家賃960万円の設例は、そもそも法人化で手取りが年29.1万円減ります。家賃2,400万円なら年37.6万円増えますが、個人が一般課税で建物を売り、法人が控除できない形だと、消費税だけで差額の約5年分になります(概算)。移すかどうかは、法人化の判定とは別に、売主と買主の消費税の立場を並べて決める論点です。

建物の名義を変えると、消費税のほかに登録免許税と不動産取得税もかかります。評価額別の金額は法人成りで建物・土地を法人名義にする税で計算しています。法人化の差額は、一般論の数字ではなく、自分の家賃と経費で確かめてください。

まとめ

  • 固定資産税の精算金は、税金の立替えではなく売買代金の一部です。別欄で受け取っても、建物分は建物の譲渡対価として消費税の課税対象、土地分は非課税です
  • 売主は精算金を譲渡所得の収入金額に入れ、買主は建物・土地の取得価額に入れます。払った年の租税公課にはしません
  • 精算金で増える消費税は数千円単位ですが、建物本体の消費税は設例で2割特例36.2万円・簡易課税(第4種)72.3万円・一般課税180.8万円です
  • 買主の法人が免税事業者や簡易課税なら、売主の納めた消費税は取り戻せません。一般課税で控除する場合も、高額特定資産の3年縛りがかかります
  • 登記の遅れで翌年度の固定資産税が売主に課された場合の相当額は、明記して授受すれば対価に当たりません

よくある質問

精算金に消費税を上乗せして請求しないといけませんか

上乗せするかどうかは当事者の取り決めです。上乗せしない場合でも、建物分の精算金は税込の対価として扱われ、その110分の10が売上の消費税に含まれます。上乗せした場合は、精算金を税抜の対価として計算します。

売主の個人が免税事業者なら、精算金は何もしなくてよいですか

消費税の納税は生じませんが、精算金は土地分・建物分とも譲渡所得の収入金額に入ります(タックスアンサー No.3214)。譲渡所得の申告で譲渡価額に足し忘れないことが必要です。

自宅を売ったときの精算金にも消費税がかかりますか

個人事業者が生活の用に供している資産の譲渡は「事業として」に当たらず(消費税法基本通達5-1-1の注1)、消費税の対象外です。課税対象になるのは、賃貸用や事業用の建物を売る場合です。

法人が買った翌年からの固定資産税はどう扱いますか

翌年1月1日時点の所有者である法人に固定資産税が課されるので、法人が自分の納税義務として払い、損金に算入します。取得価額に入れるのは、売主に課された年度分のうち法人が負担した精算金だけです。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。