社会保険

離婚の年金分割は厚生年金だけ。法人化した10年で年17万円分が動く

結論

離婚時の年金分割で分けられるのは、婚姻期間中の厚生年金の記録(標準報酬月額・標準賞与額)だけで、老齢基礎年金には影響しません。国民年金だけの個人事業主の期間には分ける記録がありません。法人化して役員報酬月54万円の社長が10年厚生年金に入ると、報酬比例部分は年約34.9万円積み上がり、2分の1を分割すると年約17.4万円が配偶者の年金に移ります。配偶者が第3号被保険者だった期間は、合意なしで2分の1を請求できます。

  • 合意分割は当事者の合意か裁判手続で按分割合を決める(上限は2分の1)。3号分割は平成20年4月以後の第3号期間について、第3号だった側の請求だけで2分の1を分割する
  • 請求期限は、令和8年4月1日以後の離婚なら離婚の翌日から5年以内。それより前の離婚は2年以内のまま
  • 厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円なので、役員報酬が月65万円を超えても分割される額は年約21.4万円(10年)で止まる

離婚時の年金分割は、会社員の夫婦の話として語られがちです。個人事業主の夫婦には、そもそも分ける記録がありません。法人化して社長が厚生年金に入った瞬間から、婚姻期間中の記録が積み上がり始め、分割の対象が生まれます。

分けられるのは厚生年金の記録だけ

日本年金機構は、離婚時の年金分割について、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を当事者の間で分割する制度だとしています。そして、年金分割の効果は厚生年金の報酬比例部分に限られ、国民年金の老齢基礎年金等には影響しないとしています。

期間夫婦の加入年金分割の対象
個人事業主のとき夫婦とも国民年金(第1号)なし
法人化後(配偶者が被扶養者)社長は厚生年金、配偶者は第3号社長の厚生年金記録(3号分割・合意分割)
法人化後(配偶者も役員として加入)夫婦とも厚生年金2人の厚生年金記録(合意分割)

個人事業主の期間に払った国民年金保険料は、それぞれの老齢基礎年金になるだけで、分け直す仕組みはありません。国民年金基金や付加年金も同じです。年金分割を考えるうえで法人化は「対象がゼロから生まれる」転換点になります。

3号分割と合意分割

年金分割には2つの方法があります。

方法対象の期間分ける割合相手の合意
3号分割平成20年4月1日以後の婚姻期間中で、配偶者が第3号被保険者だった期間相手方の厚生年金記録の2分の1不要(第3号だった側の請求だけでよい)
合意分割婚姻期間全体按分割合(分割を受ける側の持ち分が2分の1以下の範囲)必要(まとまらなければ裁判所が定める)

※ 日本年金機構・厚生年金保険法78条の3

法人化後に配偶者を健康保険の被扶養者・国民年金の第3号被保険者にしている社長なら、その期間は3号分割の対象です。配偶者は社長の合意を得なくても、離婚後に年金事務所へ請求すれば、その期間の社長の厚生年金記録の2分の1を自分の記録にできます。

合意分割の按分割合は、厚生年金保険法78条の3で、分割を受ける側の持ち分が2分の1以下になる範囲で定めることになっています。2分の1を超えて分けることはできません。

役員報酬別に、分割される年金額を計算する

厚生年金の報酬比例部分は、平均標準報酬額×5.481÷1000×加入月数で計算します(平成15年4月以後の期間)。法人化してから離婚までの期間に、社長の記録として積み上がる報酬比例部分と、その2分の1を分割した場合に配偶者へ移る額を計算しました。

役員報酬厚生年金の標準報酬月額報酬比例部分(1年加入あたり)10年で積み上がる額(年金額)2分の1を分割すると配偶者へ(10年)同(20年)
月20万円20万円13,154円131,544円65,772円131,544円
月30万円30万円19,732円197,316円98,658円197,316円
月42万円41万円26,967円269,665円134,833円269,665円
月54万円53万円34,859円348,592円174,296円348,592円
月70万円65万円(上限)42,752円427,518円213,759円427,518円
月90万円65万円(上限)42,752円427,518円213,759円427,518円

※ 賞与なし。給付乗率5.481/1000で、再評価率や物価・賃金による改定を含まない概算。年金額は65歳以降に受け取る年額

計算エンジンが手取り最大とする役員報酬は、売上−経費1,000万〜1,500万円の帯で月54万円です。この報酬で法人化から10年後に離婚すると、社長の老齢厚生年金のうち年約17.4万円が配偶者に移ります。65歳から20年受け取るとすれば、総額で約350万円の移動です。

厚生年金の標準報酬月額は65万円が上限なので、報酬をそれ以上に上げても分割される額は増えません。役員報酬と年金額の関係そのものは法人化で厚生年金はいくら増えるかで計算しています。

配偶者も役員なら、合意分割で差の半分まで

配偶者も役員として報酬を受け、厚生年金に入っていた期間は、3号分割の対象になりません。その期間は合意分割で、婚姻期間中の2人の記録の合計を按分割合に従って分け直します。按分割合の下限は、分割を受ける側のもともとの持ち分です。上限は2分の1です。

社長が役員報酬月54万円(厚生年金の標準報酬月額53万円)、配偶者が役員として報酬を受けていた場合を、10年分で計算しました。

配偶者の役員報酬配偶者の標準報酬月額按分割合の範囲2分の1で分けた場合に配偶者へ移る年金(年額・10年分)
なし(第3号)—3号分割で2分の1174,296円
月10万円9.8万円15.6%超〜50%142,068円
月20万円20万円27.4%超〜50%108,524円

※ 按分割合の下限は「配偶者の記録÷2人の記録の合計」。再評価率を含めない概算で、報酬比例部分は5.481/1000で計算

配偶者にも報酬を払って厚生年金に入れている夫婦ほど、離婚時に移る額は小さくなります。夫婦の役員報酬の配分は、税と社会保険料だけでなく、こうした将来の年金の帰属にも関わります。夫婦で報酬を分けた場合の手取りは夫婦の役員報酬の配分で計算しています。

請求期限は令和8年4月から5年に

年金分割の請求には期限があります。日本年金機構によると、令和8年4月に民法の財産分与請求権の除斥期間が2年から5年に変わったことを踏まえ、令和7年年金制度改正法により、年金分割の請求期限も2年から5年に変更されました。

離婚等をした日請求期限
令和8年4月1日以後離婚等をした日の翌日から5年以内
令和8年4月1日より前離婚等をした日の翌日から2年以内(従前どおり)

合意分割で按分割合を決めるために、年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」を出すと、分割の対象になる期間やそれぞれの標準報酬の情報(情報通知書)を受け取れます。この請求は離婚の前でも後でもできます。

会社の財産は年金分割とは別

一人社長の離婚では、年金分割より大きな論点が別にあります。会社の株式(持分)、会社に残した利益、役員退職金の原資、配偶者が役員として受け取ってきた報酬などです。これらは年金分割の対象ではなく、民法上の財産分与として話し合うことになります。

配偶者を役員にしている場合は、離婚後の役員の地位や報酬の扱いも決める必要があります。役員の退任と登記は役員変更の登記と任期、会社の株式の評価の考え方は法人化した会社の株式の相続税評価で扱いました。

法人化による年金の上乗せは、離婚すれば一部が配偶者に移る性質のものです。判定ツールは単年の手取りを比べるもので、将来の年金額や分割の影響は含めていません。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 年金分割の対象は婚姻期間中の厚生年金の記録(報酬比例部分)だけ。国民年金だけの個人事業主の期間には分ける記録がない
  • 配偶者が第3号被保険者だった平成20年4月以後の期間は、3号分割で相手の合意なしに2分の1を分割できる。それ以外は合意分割(上限2分の1)
  • 役員報酬月54万円で法人化から10年なら、社長の報酬比例部分は年約34.9万円で、2分の1分割で年約17.4万円が配偶者に移る
  • 標準報酬月額の上限65万円を超える報酬では、分割される額は増えない
  • 請求期限は令和8年4月1日以後の離婚なら5年以内。会社の株式や利益は年金分割ではなく財産分与の対象

よくある質問

個人事業主のときに払った国民年金や国民年金基金も分割されますか。

されません。日本年金機構は、年金分割の効果は厚生年金の報酬比例部分に限られ、国民年金の老齢基礎年金等には影響しないとしています。国民年金基金や小規模企業共済も、年金分割の対象ではありません。

会社に残っている利益や役員退職金の積立は、年金分割で分けられますか。

年金分割で分けるのは厚生年金の記録だけです。会社の財産や株式、退職金の扱いは、民法上の財産分与として別に話し合うことになります。

配偶者も役員として厚生年金に入っていた場合はどうなりますか。

3号分割は第3号被保険者だった期間だけが対象なので、配偶者自身が厚生年金に入っていた期間には使えません。その期間は合意分割で、婚姻期間中の2人の厚生年金記録の合計を、按分割合(2分の1以下)で分け直すことになります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。