設立の手続き
労働条件通知書に書く項目は?一人会社が初めて雇う前の6項目
結論
従業員を1人でも雇うときは、①契約期間、②有期契約の更新の基準、③就業の場所と業務(変更の範囲を含む)、④始業・終業の時刻や休日、⑤賃金の決定・計算・支払の方法と締切・支払日、⑥退職・解雇の6項目を、書面(本人が希望すればメール等)で明示する義務があります(労働基準法施行規則5条)。違反は30万円以下の罰金の対象です。社長などの役員は労働者ではないため不要です。
- 2024年4月から、就業場所・業務の「変更の範囲」、有期契約の更新上限、無期転換の申込み機会と転換後の条件の明示が加わった
- パート・有期の人には、さらに昇給・退職手当・賞与の有無と相談窓口の4項目を文書で明示する。違反は1人につき10万円以下の過料
- 明示した条件が事実と違えば、従業員は即時に契約を解除できる(労働基準法15条2項)
採用が決まったら、給与と勤務時間を口頭で伝えて働き始めてもらう。一人会社の最初の採用は、こうなりがちです。しかし労働基準法は、一部の労働条件については書面での明示を求めています。口頭だけでは足りません。
書くべき項目は施行規則で決まっていて、2024年4月に追加もありました。
書面で渡す義務があるのは6項目
労働基準法15条1項は、労働契約を結ぶときに労働条件を明示することを求め、そのうち省令で定める事項は省令で定める方法、つまり書面で明示するとしています。施行規則5条が、その範囲を次のように定めています。
| 区分 | 項目 | 明示の方法 |
|---|---|---|
| 必ず明示(書面) | ①労働契約の期間 | 書面 |
| 必ず明示(書面) | ②有期契約を更新する場合の基準(更新上限を含む) | 書面 |
| 必ず明示(書面) | ③就業の場所・従事する業務(変更の範囲を含む) | 書面 |
| 必ず明示(書面) | ④始業・終業の時刻、残業の有無、休憩、休日、休暇、交替制 | 書面 |
| 必ず明示(書面) | ⑤賃金の決定・計算・支払の方法、締切・支払の時期 | 書面 |
| 必ず明示(書面) | ⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む) | 書面 |
| 必ず明示(口頭可) | 昇給に関する事項 | 口頭でもよい |
| 定めがあれば明示 | 退職手当、賞与・臨時の賃金、最低賃金額、食費・作業用品の負担、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰・制裁、休職 | 口頭でもよい |
②は、更新する場合がある有期契約のときだけ必要です。下段の「定めがあれば明示」の項目は、会社がその制度を設けていなければ書かなくて構いません。
書面の代わりに、本人が希望した場合はFAXやメール等でも明示できます(施行規則5条4項)。ただし受け取った人が印刷して書面にできる方法に限られます。会社の都合で一方的にメールにすることはできません。
2024年4月に加わった「変更の範囲」と更新上限
2024年4月の施行規則の改正で、次の明示が加わりました。
- 就業場所・業務の変更の範囲:雇い入れ直後の場所・業務だけでなく、将来の配置転換で変わり得る範囲も書く。テレワークを命じる可能性があるなら、自宅などもここに含める
- 有期契約の更新上限:通算契約期間や更新回数に上限を設けるなら、その内容を書く
- 無期転換の申込み機会と転換後の労働条件:通算5年を超えて無期転換を申し込めるようになる契約の更新時に書く
一人会社では、事業所が1か所で業務も限られるため、変更の範囲は狭く書くことになりがちです。ただ、範囲を狭く書けば、その外への異動は本人の同意なしには命じにくくなります。事業を広げる予定があるなら、書く前に考えておく価値があります。
パート・有期の人には4項目を追加する
短時間で働く人や、契約期間を定めて雇う人には、パートタイム・有期雇用労働法6条により、さらに次の4項目を文書等で明示する義務があります。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 昇給の有無 | 有・無 |
| 退職手当の有無 | 有・無 |
| 賞与の有無 | 有・無 |
| 相談窓口 | 担当者の氏名・連絡先など |
違反した場合は、1人につき10万円以下の過料です(同法31条)。一人会社なら相談窓口は社長自身になることが多いですが、それでも書く必要があります。
一人会社が最初に雇うのは、週数日のアルバイトや期間を区切った契約であることが多く、この4項目の追加は実際によく当てはまります。
明示しないと何が起きるか
罰則は2段階あります。15条1項の明示義務に違反すると、労働基準法120条により30万円以下の罰金です。
実務上それより影響が大きいのは、明示した条件が事実と違う場合、従業員は即時に契約を解除できるという15条2項です。就業のために引っ越した人が14日以内に帰郷するなら、その旅費も会社が負担します(同条3項)。
書面がないと、言った・言わないの争いで会社側が立証しにくくなります。解雇予告や試用期間をめぐる線引きは試用期間中なら解雇予告は不要かで、就業規則との関係は就業規則は10人未満なら不要かで扱っています。
社長自身には不要。ただし「名ばかり役員」は別
社長や取締役など、会社と委任関係にある役員は労働基準法上の労働者ではないため、労働条件通知書は要りません。役員報酬は株主総会の決議や定款で決まり、最低賃金も適用されません。理由は役員報酬に最低賃金は適用されるかで説明しました。
ただし、役員の肩書きでも実態が従業員と同じなら、労働者として扱われることがあります。配偶者を役員にするか従業員にするかで迷っているなら、名ばかり役員の労働者性を先に確認してください。
書面を作る前に、人件費の総額を確かめる
労働条件通知書に書く賃金は、社会保険料の会社負担を含めた人件費の出発点になります。月給25万円の正社員なら、東京都・40歳未満で健康保険・厚生年金などの会社負担が月3万7,830円乗ります(当サイトの計算エンジンによる試算、雇用保険・労災保険を除く)。
雇い入れ全体の費用は一人社長が初めて従業員を雇う費用で計算しています。人件費が経費に乗ると、法人化の損益分岐も変わります。当サイトの判定ツールで、人件費を含めた経費で自分の数字を確かめてください。
まとめ
- 従業員を1人でも雇うなら、契約期間・更新の基準・就業場所と業務・労働時間と休日・賃金・退職の6項目を書面で明示する
- 2024年4月から、就業場所・業務の変更の範囲、更新上限、無期転換に関する事項の明示が加わった
- パート・有期の人には、昇給・退職手当・賞与の有無と相談窓口の4項目を追加する。違反は1人につき10万円以下の過料
- 明示義務の違反は30万円以下の罰金。明示した条件が事実と違えば、従業員は即時に契約を解除できる
- 社長などの役員は労働者ではないため不要。ただし実態が従業員なら労働者として扱われ得る
よくある質問
雇用契約書を交わしていれば、労働条件通知書は別に要りませんか?
法律が求めているのは決められた事項を書面で明示することで、書類の名称は問いません。雇用契約書に必要な項目がすべて書かれていれば、それで足ります。
家族を従業員として雇う場合も必要ですか?
同居の親族のみを使用する事業には労働基準法が適用されませんが、家族以外の従業員が1人でもいれば、家族の従業員にも適用されます。法人が配偶者を雇う場合の扱いは、実態によって変わるため個別に確認が必要です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。