設立の手続き

整備工場の法人成りで認証は引き継げる。届出は譲渡から30日以内

結論

道路運送車両法83条は、自動車特定整備事業を譲渡したとき譲受人が譲渡人の地位を承継すると定めています。個人の整備工場を会社へ事業譲渡する法人成りなら認証を取り直す必要はなく、会社が譲渡の日から30日以内に地方運輸局長へ届け出ます(82条2項の準用)。認証の申請には手数料も登録免許税もかからないため、東京23区・経費1,500万円の試算では損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度1,342万円で、設立費用以外に上乗せはありません。

  • 認証を受けずに特定整備事業を経営すると50万円以下の罰金(109条11号)。承継の届出を怠ると30万円以下の罰金(110条)
  • 認証基準は事業場ごとに特定整備に従事する従業員2人以上、分解整備なら1級か2級の整備士1人以上(施行規則57条)。法人成りの後も同じ基準を保つ
  • 優良自動車整備事業者の認定には登録免許税3万〜9万円がかかる。中古車販売の古物商許可は承継できず、会社で取り直す

結論ブロックのとおり、整備工場の認証は会社に引き継げます。同じ「法人成りで取り直す業種」に並べられがちですが、警備業や探偵業と違い、道路運送車両法には事業譲渡による承継の条文があるからです。

その代わりに注意が要るのは、承継の届出の期限、承継の対象に読めない指定・認定、そして同じ工場で営む中古車販売の古物商許可です。この記事では条文でこの3つを確かめ、取り直しの費用がほぼゼロになる業種で損益分岐がどこにあるかを計算エンジンで出します。

認証は事業譲渡で会社へ移る。必要なのは30日以内の届出

自動車の特定整備(法改正前は「分解整備」)を事業として行うには、事業の種類と事業場ごとに地方運輸局長の認証を受けます(道路運送車両法78条1項)。いわゆる認証工場です。

この認証について、道路運送車両法は承継の条文を2つ置いています。

条文場面効果手続き
82条1項相続・合併・分割相続人・合併後の法人などが地位を承継事由の日から30日以内に届出(82条2項)
83条1項事業の譲渡譲受人が譲渡人の地位を承継同じく30日以内に届出(83条2項で準用)

個人事業主が会社を作り、整備事業を会社に移す法人成りは、個人から会社への事業の譲渡です。83条1項の文言どおりなら、会社は譲渡の日に個人の自動車特定整備事業者としての地位を引き継ぎ、あらかじめ認可を受ける必要もありません。この点で、事前の認可を要する建設業許可(建設業法17条の2)とも、承継の規定がない古物商許可とも違います。業法ごとの違いは法人成りで許認可は引き継げるかにまとめています。

届出を怠った場合は30万円以下の罰金の対象です(110条)。承継自体は届出の前に生じていますが、届出の期限は事業譲渡の日から30日と短いので、会社設立と譲渡契約の日付を決めた段階で書類をそろえておきます。

先に個人の廃止届を出すと、認証は消える

注意したいのは、個人事業の「廃止」として届け出てしまう取り違えです。事業を廃止した特定整備事業者は30日以内に廃止の届出をし(81条2項)、廃止の届出があった時点で認証は効力を失います(84条)。

税務署へは個人事業の廃業届を出しますが、これは国税の手続きです。運輸支局に出すのは廃止届ではなく譲渡による承継の届出だ、という区別を崩さないようにします。廃止届を出して認証が失効した後に会社が特定整備を行うと、認証を受けずに事業を経営したことになり、50万円以下の罰金の対象です(109条11号)。

法人になっても、認証基準は事業場ごとに保ち続ける

承継されるのは地位であって、基準の審査が免除されるわけではありません。認証の基準は施行規則57条にあり、法人成りの後も同じ水準を維持する必要があります。

基準内容(施行規則57条)
作業場分解整備なら別表第四の規模の屋内作業場、電子制御装置整備なら点検整備作業場
機械別表第五の作業機械等。一部は国土交通大臣の技術基準に適合
人数特定整備に従事する従業員が2人以上(6号)
資格分解整備なら1級か2級の整備士が1人以上、かつ1〜3級の整備士が従業員数の4分の1以上(7号イ)

法人成りで起きやすいのは人数の要件です。個人のときに家族が専従者として作業に入っていた工場で、法人化を機に家族を役員にして作業から外すと、2人以上の要件を割り込むおそれがあります。設備・従業員が基準に合わなくなると、地方運輸局長は改善を命じることができ(92条)、命令に違反すれば事業停止や認証の取消しの対象になります(93条)。

法人では役員も欠格事由の審査対象になる

認証の基準には人的な欠格事由もあります(80条1項2号)。1年以上の拘禁刑の執行を終えてから2年を経過しない者や、認証を取り消されてから2年を経過しない者です。法人の場合は、役員のうち1人でも該当すると認証を受けられません(同号ニ)。

承継の場面でも、法人の役員が後から欠格事由に当たれば取消しの対象になります(93条3号)。配偶者や親族を役員に入れるときは、その人も審査の対象に乗ることを前提に決めます。役員の氏名に変更があれば30日以内に変更の届出が要ります(81条1項2号)。

指定工場と優良認定は、承継の条文の外にある

認証工場の上に、さらに2つの制度があります。法人成りで見落としやすいのはこちらです。

制度根拠法人成りでの条文上の扱い
指定自動車整備事業(民間車検場)94条の2準用規定(94条の9)は変更届・廃止届・標識だけを準用し、82条・83条の承継を準用していない
優良自動車整備事業者の認定94条承継の条文なし。認定に登録免許税がかかる

指定は「認証を受けた事業場」について自動車特定整備事業者の申請で行うもので、自動車検査員の選任(94条の4)も指定を受けた事業者が行います。条文上、事業譲渡で指定が当然に移ると読める規定はありません。民間車検を行っている工場は、法人成りの日程を決める前に、指定の扱いと検査員の選任届の段取りを運輸支局へ確認しておくのが確実です。車検の空白は売上に直結するからです。

優良認定を取り直す場合は、登録免許税法別表第一で認定1件につき次の税額がかかります。

優良認定の区分(登録免許税法 別表第一)登録免許税
定期点検に付随する整備事業の全部9万円
同じく一部6万円
それ以外3万円

一方、78条の認証そのものについては、道路運送車両法の手数料の条文(102条)にも登録免許税法の別表にも項目がありません。認証工場の法人成りの実費は、優良認定を取り直すかどうかで0円か3万〜9万円かが分かれます。

同じ工場でも、中古車販売の古物商許可は取り直し

整備工場で中古車の販売や下取りもしているなら、古物営業法の許可を個人で持っているはずです。古物営業法には承継の規定がなく、法人は新規に許可を受け、個人は許可証を返納します。新規申請の手数料は1万9,000円です。

つまり整備工場の法人成りでは、認証は届出で移り、古物商は取り直すという、性格の違う手続きが同時に走ります。古物商の許可が下りるまでの間に会社名義で中古車を仕入れることはできないため、整備部門は譲渡の日から会社で動かし、販売部門の切替えは許可の日に合わせる、といった時間差の設計が要ります。

工場の機械や在庫部品を会社へ移す対価には消費税がかかり、個人側の譲渡所得・事業所得にもなります。機械を売るか貸すかの比較は法人成りで資産を引き継ぐ方法、整備士など従業員の雇用の移し方は法人成りで従業員を引き継ぐで扱っています。

経費1,500万円の試算では、損益分岐は1,243万円

自動車整備業は個人事業税の第1種事業のうち修理業に当たり、税率は5%です(地方税法72条の2第8項)。部品代や外注費で経費が大きくなりやすい業種なので、売上2,800万円・経費1,500万円を想定して、事業所得ごとの手取りを計算エンジンで比べました。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)判定
800万円528.9万円530.0万円月45万円−18.9万円ほぼ互角
1,000万円645.8万円655.8万円月45万円−10.0万円ほぼ互角
1,200万円764.7万円780.3万円月54万円−4.3万円ほぼ互角
1,500万円918.6万円964.7万円月54万円+26.1万円法人化が有利
1,800万円1072.5万円1138.0万円月90万円+45.5万円法人化が有利
2,100万円1223.7万円1321.1万円月95万円+77.4万円法人化が有利

※ 経費1,500万円・東京23区(特別区統一保険料率)・40〜59歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・個人事業税5%/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額

損益分岐(実質差額がプラスに転じる事業所得)は、2年目以降で1,243万円、設立費用を含む初年度で1,342万円です。認証の取り直しがない分、初年度の上乗せは設立費用だけで済みます。優良認定を取り直す場合の初年度の損益分岐は次のとおりです。

法人成りで追加する実費初年度の損益分岐
なし(認証の承継のみ)1,342万円
優良認定3万円1,371万円
優良認定6万円1,400万円
優良認定9万円1,430万円

※ 上の表と同じ条件。設立費用10万円を含む。初年度の実質差額が追加の実費を上回る事業所得

実費の差は最大でも初年度の損益分岐を90万円ほど動かすだけです。2年目以降は取り直しの実費が消え、どの場合も1,243万円に戻ります。配偶者が無収入なら損益分岐は865万円まで下がるなど、手続きよりも家族構成や役員報酬の組み方のほうが結果を大きく動かします。計算の前提は計算方法にまとめています。

なお、ここで比べているのは単年の手取りです。法人では社長も厚生年金に入るため、保険料が増える一方で将来の年金が増えます。その価値は法人化で年金はいくら増えるかで確かめられます。

まとめ

  • 整備工場の認証は、事業譲渡による法人成りなら会社が地位を承継する(道路運送車両法83条)。届出は譲渡の日から30日以内
  • 個人の廃止届を運輸支局に出すと認証は効力を失う(84条)。出すのは承継の届出
  • 認証基準(従業員2人以上・整備士の資格)は法人成りの後も保つ。法人では役員全員が欠格事由の審査対象
  • 指定工場は承継の条文が準用されておらず、優良認定は取り直すと登録免許税3万〜9万円。中古車販売の古物商許可は取り直し
  • 東京23区・経費1,500万円の試算で損益分岐は2年目以降1,243万円・初年度1,342万円

一般論の数字ではなく、自分の工場の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

整備工場の法人成りで、個人の認証を廃止してから会社で新規に申請し直す必要はありますか。

事業譲渡の形をとるなら、道路運送車両法83条により会社が個人の地位を承継するため、新規の申請は前提になっていません。逆に個人の廃止届を先に出すと、その時点で認証は効力を失います(84条)。順番を誤らないよう、着手前に管轄の運輸支局へ確認してください。

社長一人だけの整備工場でも、法人で認証を維持できますか。

認証基準は事業場ごとに特定整備に従事する従業員2人以上を求めています(施行規則57条6号)。法人成りで人数が変わるわけではありませんが、法人化を機に家族や従業員の働き方を変えると、基準を満たさなくなるおそれがあります。

工場の建物を個人名義のまま会社に貸してもよいですか。

税務上は個人の不動産所得として貸すことができます。ただし83条の承継は事業の譲渡が前提で、設備をどこまで会社に移せば事業譲渡として扱われるかは条文に書かれていません。建物を個人に残す場合は、届出の受理に影響しないかを運輸支局に事前に確認するのが確実です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。