設立の手続き
介護タクシーの許可は法人成りで移せる?譲渡譲受認可と取り直しの違い
結論
道路運送法36条1項は、一般旅客自動車運送事業の譲渡・譲受は国土交通大臣の認可を受けなければ効力を生じないと定めています。個人で受けた介護タクシー(一般乗用)の許可は、事業を会社へ譲渡して認可を受ければ会社に移せます。認可が出るまで譲渡の効力はないため、それまでは個人の許可で運行を続けます。東京23区・40〜59歳・経費300万円の試算では損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度1,342万円です。
- 譲渡譲受の認可には許可基準(6条)が準用される。会社の事業計画・運行管理・資金が改めて審査される
- 会社で新規に許可を取り直すと登録免許税3万円(登録免許税法 別表第一125号)。個人の事業は30日前までに廃止届(38条1項)
- 個人の許可は事業者が亡くなると、相続人が60日以内に認可を受けないと引き継げない(37条1項)。会社の許可にはこの手続きがない
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
結論ブロックのとおり、介護タクシーの許可は事業ごと会社へ移す道があります。このクラスタで扱った警備業や測量業のように「承継の規定がなく取り直し」になる業法とも、整備工場の認証のように「譲渡すれば当然に移り、届出だけで足りる」業法とも違い、道路運送法は国の認可を効力の条件にしています。
この違いは段取りに直結します。届出型なら譲渡日を決めて後から届け出ればよいのに対し、認可型では認可が出る日まで譲渡が成立しません。法人成りの日をこちらで決められないということです。この記事では、介護タクシーが道路運送法のどこに当たるかを確かめたうえで、認可で移す場合と取り直す場合の違い、個人のままでは避けられない相続の手続き、最後に損益分岐を計算エンジンで出します。
介護タクシーは道路運送法の「一般乗用」に当たる
道路運送法は、他人の需要に応じて有償で自動車を使い旅客を運ぶ事業を「一般旅客自動車運送事業」とし、3つの種別に分けています(3条1号)。乗合バス、貸切バス、そして**1個の契約で乗車定員の少ない自動車を貸し切って旅客を運ぶ「一般乗用旅客自動車運送事業」**です(3条1号ハ)。
利用者や付き添いの家族が1台を貸し切って通院先へ向かう介護タクシーは、この一般乗用の形をとります。許可は種別ごとに受けるため(4条2項)、個人が持っているのは「一般乗用」の許可です。
許可なく一般旅客自動車運送事業を経営すると、3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、または併科です(96条1号)。このクラスタで扱った業法の中でも重い部類です。法人成りの段取りで「会社が許可なく運行している期間」を作らないことが、この業種では最優先になります。
譲渡は認可を受けて初めて効力を持つ
36条1項は、一般旅客自動車運送事業の譲渡と譲受は国土交通大臣の認可を受けなければ効力を生じない、と定めています。個人事業主が自分の会社へ事業を譲る法人成りも、条文上はこの譲渡に当たります。
認可の審査は新規許可とほぼ同じ物差し
36条3項は、許可基準を定めた6条を譲渡譲受の認可に準用しています。6条が求めるのは次の3つです。
| 6条の基準 | 法人成りで見られる点 |
|---|---|
| 1号 輸送の安全を確保するため適切な計画 | 会社として運行管理・車両管理をどう行うか |
| 2号 事業の遂行上適切な計画 | 会社の営業所・車庫・事業用自動車の計画 |
| 3号 自ら適確に遂行するに足る能力 | 会社の資金や体制 |
つまり、認可で移すといっても審査は「会社がこの事業をやれるか」を改めて見るものです。個人のときに許可が下りたからといって、会社でも同じ書類で通るとは限りません。設立したばかりで実績のない会社が審査を受けることになるので、資本金の額や車両・車庫の名義を、申請前に運輸支局と詰めておく必要があります。資本金の決め方の考え方は資本金はいくらにするかで扱っています。
認可までは個人の許可で走る
認可が出るまで譲渡は効力を生じないため、その間の運行は個人の許可に基づくものです。売上の帰属も個人の事業所得になります。会社を設立した日と事業を始めた日がずれるので、会社の設立初年度は売上のない期間を含むことがあります。
この期間に会社名義で運送契約を結ぶと、会社が許可なく経営したと見られるおそれがあります。認可前の契約・請求は個人名義で続け、利用者や提携先(ケアマネジャー・病院など)への名義変更の案内は、認可の見込みが立ってから出すのが安全です。継続中の契約を会社へ移す考え方は契約上の地位の移転を参照してください。
取り直す場合は登録免許税3万円と「30日前」の廃止届
認可で移さず、会社が新規に4条の許可を受け、個人の事業を廃止する方法もあります。この場合は2つの点が変わります。
1つ目は登録免許税です。登録免許税法 別表第一125号は、一般乗用旅客自動車運送事業の許可に1件3万円を課しています(個人が受ける一般乗用の許可のうち政令で定めるものは1万5,000円)。同じ125号が課税対象として挙げるのは4条1項の許可と15条1項の事業計画変更の認可で、36条の譲渡譲受の認可は入っていません。
2つ目は廃止の手続きです。38条1項は、事業を休止・廃止するときはその30日前までに届け出ることを求めています。事後の届出では足りないので、会社の許可が出る時期を見込んで、個人の廃止日を逆算して届け出ることになります。会社の許可が予定より遅れると、個人を廃止したのに会社がまだ走れない空白が生じます。
| 項目 | 譲渡譲受の認可(36条) | 会社で新規許可(4条) |
|---|---|---|
| 個人の許可 | 会社へ移る | 廃止する(30日前までに届出) |
| 審査の基準 | 6条を準用 | 6条・7条 |
| 登録免許税 | 125号の課税対象に挙がっていない | 1件3万円 |
| 空白期間のリスク | 認可まで個人で運行を続けられる | 廃止日と新規許可の日がずれると生じる |
どちらを選ぶかは、車両や営業所をそのまま使うか、事業計画を変えるかでも変わります。事業の中身を変えずに器だけ会社にするなら、認可で移すほうが空白を作りにくい構造です。
個人の許可は、事業者が亡くなると60日以内に認可が要る
法人成りの理由として見落とされやすいのが相続です。37条1項は、一般旅客自動車運送事業者が死亡し、相続人が事業を続けようとするときは、死亡後60日以内に国土交通大臣の認可を受けなければならないと定めています。
申請している間は、死亡の日から認可・不認可の通知を受ける日まで、許可は相続人に対してしたものとみなされます(37条2項)。ただし60日以内に申請しなければこの手当ては使えません。一人で運転も経営もしている介護タクシーでは、家族が葬儀と並行して事業継続を判断し、6条の基準を満たす計画を出すことになります。
会社が許可を持っていれば、社長が亡くなっても許可の主体である会社は存続するため、37条の相続の認可は問題になりません(会社の株式・持分の相続や役員の選び直しは別に必要です)。一人社長が亡くなったときの会社側の手続きは一人社長が死亡したら会社はどうなるかで扱っています。
この差は手取りの比較には表れません。単年の数字だけでなく、事業を誰がどう続けられるかという点も判断材料になります。
許可の費用を乗せた損益分岐
個人事業税は、地方税法72条の2で運送業が第1種事業に挙がっています。以下の試算は第1種の税率5%で計算しています。
前提は、東京23区・40〜59歳(介護保険料あり)・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社、経費は年300万円(燃料・車両費・保険など)とし、事業所得ごとに計算エンジンで比べました。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 個人の手取り | 法人化の手取り | 2年目以降の実質差額 | 初年度(認可で移す) | 初年度(新規許可) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 800万円 | 月45万円 | 529万円 | 530万円 | −19万円 | −29万円 | −32万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | 646万円 | 656万円 | −10万円 | −20万円 | −23万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | 765万円 | 780万円 | −4万円 | −14万円 | −17万円 |
| 1,400万円 | 月54万円 | 867万円 | 903万円 | +16万円 | +6万円 | +3万円 |
| 1,600万円 | 月54万円 | 970万円 | 1,026万円 | +36万円 | +26万円 | +23万円 |
※ 実質差額は、法人と個人の税理士報酬の差(年20万円)を差し引いた値。初年度はさらに合同会社の設立費用10万円を差し引き、「新規許可」は登録免許税3万円も差し引いている。認可の申請に係る実費は含まない。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,243万円です。初年度は認可で移す場合が1,342万円、新規に許可を取り直す場合が1,371万円で、登録免許税の3万円ぶん分岐点が上がります。
ただし、この表は通年で会社が事業をした場合の比較です。認可を待つ間は個人で売上が立つので、実際の初年度は個人と会社に所得が分かれます。認可の時期が決算期のどこに来るかで初年度の数字は動きます。
車両を会社へ移すときは、売るか貸すかで個人側の所得と会社の経費が変わります。その整理は法人成りでの資産の引継ぎ、社用車の経費の扱いは社用車の経費は法人と個人でどう違うかで扱っています。インボイスの登録番号は会社に引き継げない点も、病院や施設と取引がある場合は確認しておきます(登録番号の扱い)。
数字は前提で動きます。自分の売上と経費を判定ツールに入れて、どの役員報酬で差が出るかを確かめてください。
まとめ
- 介護タクシーは道路運送法の一般乗用旅客自動車運送事業に当たり、無許可経営は3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金(96条1号)
- 個人の許可は、事業を会社へ譲渡し36条の認可を受ければ会社に移せる。認可まで譲渡は効力を生じず、その間は個人で運行する
- 会社で新規に取り直すと登録免許税3万円がかかり、個人の廃止届は30日前まで(38条1項)。廃止日と新規許可の日がずれると空白が生じる
- 個人の許可は事業者の死亡時に相続人が60日以内に認可を受ける必要がある(37条1項)。会社が許可を持てばこの手続きはない
- 東京23区・40〜59歳・経費300万円の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度は認可で移す場合1,342万円・新規許可で1,371万円
よくある質問
認可の申請中に会社名義で介護タクシーを走らせてもよいですか。
36条1項により、譲渡は認可を受けるまで効力を生じません。認可前に会社が自らの事業として運送すると、許可のない経営として96条の罰則(3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、または併科)の対象になり得ます。認可までは個人の許可で運行するのが前提です。
譲渡譲受の認可を受けるとき、登録免許税はかかりますか。
登録免許税法 別表第一125号が課税対象に挙げるのは、道路運送法4条1項の許可と15条1項の事業計画変更の認可です。36条の譲渡譲受の認可は挙がっていません。新規に許可を取り直す場合は一般乗用で1件3万円です。
車両を個人名義のまま会社に貸して運行できますか。
許可を受けた事業の事業用自動車の扱いは事業計画の一部として審査されます。名義や使用権原をどう整えるかは、申請前に管轄の運輸支局に確認してください。車両を会社へ売るか貸すかの税務は、資産の引継ぎ方の問題として別に検討します。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。