役員報酬
社長の個人事業に自社から業務委託料。役員給与とされると年111万円
結論
社長の個人事業に自社が払う業務委託料でも、仕事が会社の事業目的の範囲なら役員の業務執行の対価とみられ、出来高払いなら定期同額給与に当たらず損金になりません(昭和55年12月24日裁決)。売上1,200万円・経費200万円の会社が役員報酬月20万円+業務委託料年408万円で払っていた場合、否認されると法人税等92.7万円と仕入税額控除40.8万円が増え、差引で年111.4万円の追加負担になります。
- 法人税法34条4項は役員給与に経済的な利益を含める。社長は34条6項で使用人兼務役員になれず、使用人分として切り出すこともできない
- 同じ年648万円を役員報酬月54万円だけで払うより、月20万円+業務委託料408万円にすると社会保険料は年113.8万円減る。外注費と認められた場合の計算
- 給与等を対価とする役務の提供は課税仕入れではない(消費税法2条1項12号)。毎月定額で払い法人税の損金が残っても、消費税の控除は消える
法人化した後も、社長個人の屋号で個人事業を残している人がいます。そこへ自分の会社から「業務委託料」を払えば、役員報酬を低く抑えたまま社長にお金を移せます。社会保険料は役員報酬だけで決まるので、払い方を変えるだけで年100万円を超える差が出ます。
問題は、その業務委託料が税務上役員給与とみなされるかどうかです。
業務委託料でも、役員給与に含まれ得る
法人税法34条1項は、役員に支給する給与のうち、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれにも当たらないものを損金に算入しないと定めています。同条4項は、この「給与」に債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むとしています。
名目が給与かどうかは関係ありません。法人税基本通達9-2-9は、経済的な利益を「実質的にその役員等に対して給与を支給したと同様の経済的効果をもたらすもの」と定義し、資産の贈与、低額譲渡、高価買入れなど12の類型を例示しています。業務委託料そのものは例示にありません。それでも、社長に払うお金が実質的に役員としての仕事の対価なら、契約の名前にかかわらず役員給与として扱われます。
社長には、もう一つの逃げ道もありません。34条6項は、使用人兼務役員から「社長、理事長その他政令で定めるもの」を除いています。従業員として働いた分と言って、給与の一部を役員給与の外に出すことはできません。
裁決が見たのは「事業目的」と「払い方」
国税不服審判所の公表裁決(昭和55年12月24日、裁決事例集No.21-116頁)は、この論点をそのまま扱っています。ゴルフ会員権の売買を事業とする法人が、役員に「管理職給」名目で払った金員を、役員個人に別に委任した業務(会員権の販売代理権の獲得など)の対価だと主張した事案です。
審判所は次の理由で、この金員を役員賞与としました。
| 審判所が挙げた理由 | 業務委託料の扱いに置き換えると |
|---|---|
| 別途委任したことを証する証拠がない | 契約書や発注の記録がなければ、別の業務の対価だと説明できない |
| その業務に携わっていない使用人にも同じ支給をしていた | 業務の対価ではなく、地位に応じた支給とみられる |
| 業務が法人の事業目的に含まれ、役員の業務執行の範囲にある | 会社の本業と同じ仕事を社長個人に外注しても、役員の職務とみられる |
| 売上金額を基に計算し、定期・定額でなかった | 定期同額給与に当たらず、損金にならない(当時は役員賞与として損金不算入) |
※ 国税不服審判所「公表裁決事例要旨 法人税法関係 賞与支払の事実」から整理
3つ目の理由が、社長の個人事業への業務委託でいちばん効きます。たとえばWeb制作の会社が、社長の個人事業にWeb制作を外注する形です。会社の定款に書いた事業そのものを社長が行えば、それは取締役として会社の業務を執行しているのと区別がつきません。
4つ目は払い方の問題です。出来高や売上に連動して毎月の額が変わる業務委託料は、役員給与とされたとき定期同額給与に当たりません。定期同額給与の要件は役員報酬を期中に増やすと損金にならないで詳しく扱っています。
外注費として通れば、社会保険料が年113.8万円減る
なぜこの払い方が選ばれるのかを、数字で確かめます。売上1,200万円・経費200万円の会社で、計算エンジンが最適とする役員報酬は月54万円(年648万円)です。社長に渡す年648万円を固定したまま、役員報酬と業務委託料に分けてみました。
| 払い方 | 社会保険料(労使計) | 所得税・住民税 | 個人事業税 | 会社の法人税等 | 手取り(会社に残る分を含む) |
|---|---|---|---|---|---|
| 役員報酬 月54万円のみ | 182.8万円 | 53.0万円 | 0.0万円 | 62.4万円 | 662.4万円 |
| 役員報酬 月10万円+業務委託料 年528万円 | 33.8万円 | 88.4万円 | 11.9万円 | 78.5万円 | 736.1万円 |
| 役員報酬 月20万円+業務委託料 年408万円 | 69.0万円 | 81.3万円 | 5.9万円 | 74.7万円 | 720.7万円 |
| 役員報酬 月30万円+業務委託料 年288万円 | 103.5万円 | 59.4万円 | 0.0万円 | 71.0万円 | 720.4万円 |
※ 会社の売上1,200万円・経費200万円(税抜)、東京23区・40歳未満・独身。社長に渡す額は年648万円(計算エンジンの最適報酬 月54万円×12)で固定し、役員報酬と業務委託料に分けた
※ 業務委託料が外注費として認められた場合の計算。社長の個人事業は経費0円・青色申告特別控除65万円・個人事業税5%の業種。消費税は会社の控除と社長の納付が相殺される前提
※ 社会保険料は健保・厚年の労使合計に子ども・子育て拠出金を含む。手取りは社長個人の手取り+会社の税引後利益(引出しコスト控除後)。計算は scripts/shacho-kojin-gyomu-itaku.mjs
役員報酬を月20万円に下げると、社会保険料は182.8万円から69.0万円へ、年113.8万円減ります。所得税・住民税と個人事業税は増えますが、手取りは年58.3万円増える計算です。
ただし減った社会保険料のうち厚生年金の分は、将来の老齢厚生年金の減少と引き換えです。また健康保険法3条5項は、報酬を「いかなる名称であるかを問わず」労働の対償として受けるすべてのものと定めています。業務委託料という名前を付けたことで社会保険の報酬から外れるとは限りません。社会保険の側でどう判断されるかは、本記事では計算に入れていません。
役員給与とされた場合の追加負担は年111.4万円
税務調査で業務委託料が役員給与とされると、負担は1か所ではなく複数の税目に同時に出ます。出来高払いで定期同額給与に当たらず、全額が損金不算入になった場合の1年分です。
| 役員報酬+業務委託料 | 会社の法人税等の増加 | 否認される仕入税額控除 | 社長の所得税・住民税の増減 | 個人事業税の減少 | 差引の追加負担 |
|---|---|---|---|---|---|
| 月10万円+年528万円 | 122.3万円 | 52.8万円 | −18.1万円 | 11.9万円 | 145.2万円 |
| 月20万円+年408万円 | 92.7万円 | 40.8万円 | −16.3万円 | 5.9万円 | 111.4万円 |
| 月30万円+年288万円 | 64.6万円 | 28.8万円 | +1.5万円 | 0.0万円 | 94.9万円 |
※ 前提は上の表と同じ。社長側は業務委託料を給与所得に合算し直し、個人事業税はかからない扱いで計算した
※ 加算税・延滞税、社会保険の扱い、社長が個人で納めた消費税の扱いは含めない。法人税の判定と所得税の所得区分は別の規定で決まるため、社長側の扱いは個別に確認が必要
月20万円+年408万円の形なら、追加負担は年111.4万円です。外注費として得ていた手取りの増加(58.3万円)の倍近くになり、しかもこれは1年分です。
社長の所得税・住民税が減る行があるのは、業務委託料を給与所得に組み替えると、青色申告特別控除65万円より大きい給与所得控除が使えるためです。それでも会社側の負担増がはるかに大きく、差し引きでは負担が増えます。
毎月定額でも、消費税と源泉徴収は残る
裁決の4つ目の理由を裏返すと、業務委託料を毎月同じ額で払っていれば、役員給与とされても定期同額給与の要件を満たす余地があります。役員報酬月20万円と業務委託料月34万円を毎月同額で払っていれば、合計は毎月54万円で変わらないからです。その場合、上の表の「会社の法人税等の増加」は小さくなり得ます。
それでも消えない負担が2つあります。
- 仕入税額控除:消費税法2条1項12号は、課税仕入れから「所得税法第二十八条第一項に規定する給与等を対価とする役務の提供」を除いています。役員給与とされた支払いは課税仕入れにならず、年408万円なら40.8万円の控除が否認されます。消費税は法人税と違い、定期同額かどうかで扱いが変わりません
- 源泉徴収:外注費なら、源泉徴収は所得税法204条1項に列挙された報酬・料金(原稿料、デザイン料、弁護士・税理士の報酬など)に当たる場合だけです(国税庁 No.2792)。給与とされれば給与として源泉徴収し直すことになり、納めていなかった分には不納付加算税と延滞税がかかり得ます。外注費と給与の源泉徴収の違いは外注費と給与の判定で計算しました
社長の個人事業がインボイス登録をしていない場合は、外注費として認められても会社は適格請求書を受け取れません。令和8年10月1日から令和10年9月30日までは、経過措置で仕入税額相当額の70%しか控除できません(インボイス8割控除の終了)。
外注費として説明するときに問われる事実
裁決の理由と消費税の取扱いから読み取れる、問われる事実は次のとおりです。当てはまるかどうかの判断は個別の事実によります。
- 業務が会社の事業目的の外にあるか:会社の定款の目的と同じ仕事なら、役員の業務執行とみられやすい
- 別の業務として委託した証拠があるか:契約書、発注書、成果物の記録。社長と会社の取引は会社法356条1項2号の直接取引にあたり、家族が株主にいる会社などでは承認の記録も要る(社長と会社の利益相反取引)
- 個人事業として独立しているか:他の取引先がある、自分の設備・費用で行っている、価格が第三者に頼む場合と同水準である。消費税法基本通達1-1-1は、事業者かどうかを他人の代替を容れるか、指揮監督を受けるか、材料や用具を供与されているかなどで総合判断するとしている
- 払い方が業務の対価として説明できるか:成果物ごとの請求か、地位に応じた定額の支給か
社長個人の名前で受けた講演や執筆の報酬が誰の所得かは、また別の論点です。こちらは社長宛ての講演料・原稿料は誰の所得かで扱いました。会社と個人事業に取引先自体を分けて併用する形はマイクロ法人は意味ないのかにまとめています。
業務委託料を挟まずに役員報酬だけで払う場合、手取りが最大になる報酬額は売上と経費で変わります。自分の条件では判定ツールで確かめてください。計算の前提は計算方法にまとめています。
まとめ
- 法人税法34条4項は役員給与に経済的な利益を含める。社長は使用人兼務役員になれず、業務委託料でも実質が役員の職務の対価なら役員給与になる
- 昭和55年12月24日の裁決は、業務が法人の事業目的に含まれることと、売上を基にした定期・定額でない支給を理由に、業務委託名目の金員を役員賞与とした
- 年648万円を役員報酬月20万円+業務委託料408万円で払うと、外注費として通れば社会保険料は年113.8万円減り、手取りは58.3万円増える
- 役員給与とされれば、法人税等92.7万円・仕入税額控除40.8万円の増加などで差引年111.4万円の追加負担(加算税・延滞税は別)
- 毎月定額にしても、消費税の仕入税額控除の否認と源泉徴収のやり直しは残る
よくある質問
社長の個人事業が会社とまったく別の業種なら、業務委託料は外注費になりますか。
裁決は、業務が会社の事業目的に含まれることを役員の業務執行の範囲とみる理由に挙げています。別の業種であることは外注費と説明する材料になりますが、それだけで決まるわけではありません。契約書、業務の実態、価格の決め方、個人事業に他の取引先があるかなど、事実全体で判断されます。
業務委託料を毎月同じ額にしておけば、否認されても損金になりますか。
役員報酬と合わせた毎月の支給額が事業年度を通じて同額なら、定期同額給与の要件を満たす余地があります。ただし役員給与とされれば消費税の課税仕入れには当たらず、仕入税額控除は認められません。源泉徴収も給与として計算し直すことになります。
社長の個人事業がインボイス登録していないと、会社はどうなりますか。
外注費として認められる場合でも、適格請求書がないので原則として仕入税額控除ができません。経過措置で、令和8年10月1日から令和10年9月30日までの課税仕入れは仕入税額相当額の70%を控除できます。
出典
- e-Gov法令検索 法人税法(第34条)
- 国税庁 タックスアンサー No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
- 国税庁 法人税基本通達 第9章第2節第2款 経済的な利益の供与(9-2-9〜9-2-11)
- 国税不服審判所 公表裁決事例要旨 賞与支払の事実(昭和55年12月24日裁決・裁決事例集No.21-116頁)
- e-Gov法令検索 消費税法(第2条第1項第12号)
- 国税庁 消費税法基本通達 第11章第1節 課税仕入れの範囲(11-1-2)
- 国税庁 インボイス制度に関するQ&A 問113(免税事業者等からの仕入れに係る経過措置)
- 国税庁 タックスアンサー No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは
- e-Gov法令検索 健康保険法(第3条第5項)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。