設立の手続き
社長と会社の取引は利益相反。社宅・貸付に要る承認と議事録
結論
社長が会社から社宅を借りる、会社からお金を借りる、自分の不動産を会社に売るといった取引は、会社法356条1項2号の利益相反取引です。取締役会のない株式会社は株主総会、取締役会設置会社は取締役会の承認が要り、合同会社は他の社員の過半数の承認が要ります(595条)。社長が全株式を持つ一人会社では、最高裁が承認は要らないとしています(昭和45年8月20日判決)。家族が株主や社員にいる会社には、この判例は当てはまりません。
- 社長が会社に無利息・無担保で貸すのは、最高裁昭和38年12月6日判決で利益相反取引に当たらないとされた。利息を付けると、この判例の外になる
- 株主総会では、取引する社長本人も議決権を使える。取締役会では、特別の利害関係がある取締役は議決に加われない(369条2項)
- 承認を受けても、取引で会社に損害が出れば、社長には任務を怠ったとの推定が働く(423条3項)。合同会社の条文には、この推定に当たる規定がない
法人化した社長は、自分の会社と何度も契約を結びます。社宅を借りる、会社から一時的にお金を借りる、個人の車や不動産を会社に移す。どれも社長が「会社の代表者」と「契約の相手方」を兼ねる取引で、会社法はこれを利益相反取引として扱います。この記事では、どの取引が対象になり、誰が承認し、一人会社ではどこまで省けるのかを、条文と最高裁判例で確かめます。
社宅・貸付・不動産の売買は「直接取引」になる
会社法356条1項は、取締役が株主総会で重要な事実を開示し、承認を受けなければならない取引を3つ挙げています。1号は競業取引です。法人化した社長に関係するのは2号と3号です。
- 2号(直接取引):取締役が自己または第三者のために株式会社と取引をしようとするとき
- 3号(間接取引):株式会社が取締役の債務を保証することその他、取締役以外の者との間で会社と取締役の利益が相反する取引をしようとするとき
法人化の前後によく出てくる取引を当てはめると、次のようになります。
| 取引 | 該当する条文 | 関連する税の論点 |
|---|---|---|
| 会社が借りた住宅を社長に社宅として貸す | 356条1項2号 | 役員社宅の賃貸料相当額 |
| 社長の自宅や事務所を会社が借りる | 356条1項2号 | 自宅を法人へ貸す家賃 |
| 会社が社長にお金を貸す | 356条1項2号 | 役員貸付金の認定利息 |
| 社長が会社に利息付きでお金を貸す | 356条1項2号 | 役員借入金の返済と利息 |
| 社長個人の不動産を会社に売る | 356条1項2号 | 不動産を法人名義にする税 |
| 社長の住宅ローンを会社が保証する | 356条1項3号 | — |
1つだけ例外として扱われているのが、社長が会社に無利息・無担保でお金を貸す場合です。最高裁昭和38年12月6日判決は、取締役が会社に無利息・無担保で金銭を貸し付ける行為は、利益相反の規定(当時の商法265条、いまの会社法356条)にいう取引に当たらないとしました。会社に不利益がないからです。同じ貸付けでも利息を付ければ、会社が利息を払う側になるので、この判例の範囲から外れます。
承認の手続きがある理由は、民法108条にあります。代理人が自分自身と契約する「自己契約」は、原則として代理権のない者の行為とみなされます。社長が会社を代表して自分と契約するのはまさにこの形です。会社法356条2項は、承認を受けた2号・3号の取引には民法108条を適用しないと定めています。承認は、取引を有効にするための手続きでもあるわけです。
承認するのは、会社の形で3通りに分かれる
誰が承認するかは、会社の機関設計で変わります。
| 会社の形 | 承認する機関 | 決議・承認の要件 | 取引する本人の扱い |
|---|---|---|---|
| 取締役会のない株式会社 | 株主総会(356条1項) | 普通決議(309条1項)。定款に別段の定めがなければ、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の過半数 | 株主として議決権を使える |
| 取締役会設置会社 | 取締役会(365条1項) | 議決に加われる取締役の過半数が出席し、その過半数(369条1項) | 特別の利害関係があるので議決に加われない(369条2項)。取引後に遅滞なく取締役会へ報告(365条2項) |
| 合同会社 | 当該社員以外の社員(595条1項) | 過半数の承認。定款で別段の定めができる | 本人は承認する側に入らない |
一人で設立した株式会社は、多くが取締役会を置かない形です。この場合、承認するのは株主総会です。
株主総会では、取引する社長も議決権を使える
取締役会と株主総会では、取引する本人の扱いが逆になります。取締役会では、369条2項により利害関係のある取締役は議決に加われません。株主総会にはこれに当たる議決権の排除の規定がなく、社長が株主なら自分の取引に賛成票を投じられます。
その代わり、会社法831条1項3号は、特別の利害関係を持つ者が議決権を使ったことで著しく不当な決議がされたとき、株主が決議の取消しを訴えで求められるとしています。期限は決議の日から3か月以内です。社長が株式の70%、配偶者が30%を持つ会社なら、社長だけで承認の決議は通ります。ただし、時価から大きく離れた価格で社長に有利な取引を承認すると、配偶者がこの訴えを起こせる立場にあります。
「一人会社なら承認は要らない」は判例から来ている
一人会社の社長が「自分の会社との取引に承認は要らない」と聞くことがあります。この説には根拠があります。
最高裁昭和45年8月20日判決は、取締役が会社の全株式を持ち、会社の営業が実質上その取締役の個人経営にすぎないときは、会社との取引で実質的に利害が相反する関係は生じないので、承認は要らないとしました。さらに最高裁昭和49年9月26日判決は、取締役と会社の取引が株主全員の合意によってされた場合も、承認は要らないとしています。承認の規定が守ろうとしているのは株主の利益なので、株主が全員納得しているなら手続きは不要、という考え方です。
ただし、この2つの判例が前提にしている条件から外れる場面は、法人化した会社でも珍しくありません。
| 会社の状況 | 判例の条件 | 必要な手続き |
|---|---|---|
| 社長が全株式を持つ株式会社 | 昭和45年判決の条件に当たる | 判例上は承認が要らない |
| 配偶者・親族も株式を持つ株式会社 | 全株式の条件から外れる | 株主総会の承認。株主全員が合意していれば昭和49年判決の条件に当たる |
| 取締役会を置いた株式会社で、株主が社長以外にもいる | 全株式の条件から外れる | 取締役会の承認(社長は議決に加われない)と事後報告 |
| 社長1人が社員の合同会社 | 株式会社の判例で、合同会社を扱ったものではない | 595条の「当該社員以外の社員」がいない。定款で別段の定めを置ける |
| 配偶者も社員の合同会社 | — | 配偶者を含む社員の過半数の承認。業務を執行しない社員も数に入る |
社長1人の合同会社について、595条は承認する「他の社員」がいない場合の扱いを書いていません。595条1項ただし書は定款で別段の定めを置くことを認めているので、社員の決定で足りるといった承認の方法を定款に書いておく方法があります。合同会社の定款は、設立時に自分で決める項目が多い書類です。株式会社との違いは合同会社と株式会社の費用の違いで比べています。
承認を省けるかどうかは、取引をした時点の株主構成で決まります。 一人会社のつもりでいても、相続対策で家族に株式を渡した後、出資を受けた後は条件が変わります。
承認がなかった場合の取引の効力について、最高裁昭和43年12月25日大法廷判決は次のように分けています。
- 取締役と会社の間で直接成立する取引:会社はその取締役に対して無効を主張できる
- 取締役が会社を代表して自分のために第三者と結んだ取引(会社による債務引受など):第三者が承認のないことを知っていたときに限り、無効を主張できる
承認を受けても、社長の責任は残る
承認は取引を有効にしますが、取引の結果に対する社長の責任までは消しません。
会社法423条3項は、356条1項2号・3号の取引で会社に損害が生じたときは、取引をした取締役、会社として取引を決めた取締役、取締役会で承認の決議に賛成した取締役が任務を怠ったものと推定されるとしています。この推定は、承認の有無にかかわらず働きます。
さらに428条1項は、自己のために直接取引をした取締役の責任について、任務を怠ったことが自分の責めに帰すことができない事由によるものであっても責任を免れないとしています。社長が自分のために会社と結んだ契約で会社に損害が出たら、過失がなかったという反論は使えません。
| 株式会社 | 合同会社 | |
|---|---|---|
| 承認の機関 | 株主総会または取締役会 | 当該社員以外の社員の過半数 |
| 損害賠償責任の根拠 | 423条1項 | 596条(業務執行社員が任務を怠ったとき、連帯して賠償) |
| 利益相反取引で損害が出たときの任務懈怠の推定 | あり(423条3項) | 条文にない |
| 自己のための直接取引の無過失責任 | あり(428条1項) | 条文にない |
株主が社長1人のうちは、社長が社長に責任を問うことは考えにくいでしょう。この責任が意味を持つのは、株主が増えた後、事業を譲る段階です。過去の社宅の賃料や貸付の利率が会社に不利だった場合、新しい株主から見れば、それは会社の損害として説明を求める対象になります。取引時の条件と、その条件にした理由を書面に残しておく意味はここにあります。
一人会社でも残しておく書類
一人会社で判例上は承認が要らない場合でも、承認を受けたことを書面で示せるほうが扱いやすい場面があります。
1つは登記です。不動産登記令7条1項5号ハは、登記原因について第三者の許可・同意・承諾が要るときは、それを証する情報を申請に添付するよう求め、19条はその書面への記名押印と印鑑証明書の添付を求めています。法務省は令和3年度の司法書士試験で、取締役会のない株式会社の代表取締役が会社と利益相反取引をするときの会社法上の手続きと、その取引に基づく登記の添付情報を出題しています。社長の不動産を会社に移す登記では、承認の書類が論点になるということです。具体的に何を添付するかは、申請する法務局か司法書士に確認してください。
もう1つは、取引の条件の記録です。株主総会を開かずに済ませるなら、会社法319条のみなし決議が使えます。取締役か株主が提案し、株主全員が書面か電磁的記録で同意すれば、可決の決議があったものとみなされます。手順は一人会社の役員報酬のみなし決議で整理しています。利益相反取引の承認では、議題に「重要な事実」を書き込みます。
| 書類 | 書く内容 | 保存 |
|---|---|---|
| 提案書・同意書(319条1項) | 取引の相手方(社長本人)、目的物、価格・賃料・利率、期間など、356条1項の「重要な事実」 | 決議があったとみなされた日から10年間、本店に備え置く(319条2項) |
| 株主総会議事録(みなし決議の場合) | 決議があったとみなされた事項の内容、提案者の氏名、みなされた日、議事録を作成した取締役の氏名(施行規則72条4項1号) | 総会の日から10年間、本店に備え置く(318条2項) |
| 取締役会議事録(取締役会設置会社) | 議事の経過の要領と結果に加え、特別の利害関係を有する取締役の氏名(施行規則101条3項5号) | 取締役会の日から10年間(371条1項) |
| 合同会社の社員の承認 | 会社法に議事録の作成義務はない。承認した社員と日付、取引の条件を書面にする | — |
取締役会設置会社では、取締役会でもみなし決議ができますが、それには定款の定めが要ります(370条)。株主総会のみなし決議と違い、定款に書いていなければ使えません。
税務の面では、これらの書類は承認の記録である以上に、取引の条件を決めた日付と金額の記録になります。社宅なら社長から受け取る賃料が賃貸料相当額を満たしているか、貸付なら利率がいくらか、不動産の売買なら価格をどう決めたか。税務の扱いはその条件で決まるため、会社法の手続きの書類が、そのまま条件の根拠を示す資料になります。
社宅や役員貸付の条件が手取りにどう効くかは、まず役員報酬の水準によって変わります。判定ツールに自分の売上と経費を入れると、役員報酬を月5万〜100万円で総当たりして手取りが最大になる額を確かめられます。計算の前提は計算方法にまとめています。
まとめ
- 社長が会社から社宅を借りる、会社と金銭を貸し借りする、不動産を売買するのは、会社法356条1項2号の直接取引。会社が社長の債務を保証するのは3号の間接取引
- 承認するのは、取締役会のない株式会社なら株主総会、取締役会設置会社なら取締役会、合同会社なら当該社員以外の社員の過半数。株主総会では社長本人も議決権を使えるが、著しく不当な決議は取消しの対象になる
- 社長が全株式を持つ一人会社と、株主全員が合意した取引は、最高裁判例上、承認が要らない。家族が株主・社員にいる会社、社長1人の合同会社は、この判例の条件と別に考える
- 社長が無利息・無担保で会社に貸すのは、判例上、利益相反取引に当たらない。利息を付けると外れる
- 承認を受けても、会社に損害が出れば任務懈怠の推定(423条3項)と自己取引の無過失責任(428条1項)が残る。条件と日付を書面に残し、10年間保存する
よくある質問
役員報酬を決めるのも利益相反取引の承認になりますか
なりません。取締役の報酬は会社法361条で、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めるとされており、356条の利益相反取引とは別の規定です。報酬の決議と、社宅や貸付の承認は、同じ株主総会で決めても議題としては分けて記録します。
承認を受けずに会社と取引すると、その取引は無効になりますか
最高裁昭和43年12月25日大法廷判決は、承認のない取引のうち、取締役と会社の間で直接成立する取引について、会社はその取締役に無効を主張できるとしています。会社が取締役のために第三者と結んだ取引は、第三者が承認のないことを知っていたときに限り無効を主張できるとしています。
毎月の社宅家賃の支払いのたびに承認が要りますか
会社法356条が承認の対象とするのは「取引」で、賃貸借なら契約を結ぶときに重要な事実を開示して承認を受けます。賃料や期間など契約の条件を変えるときは、その変更が新たな取引に当たるかを確認し、必要なら改めて承認を受けます。
出典
- e-Gov法令検索 会社法(第309条・第318条・第319条・第356条・第365条・第369条・第370条・第371条・第423条・第428条・第595条・第596条・第831条)
- e-Gov法令検索 会社法施行規則(第72条・第101条)
- e-Gov法令検索 民法(第108条 自己契約及び双方代理等)
- e-Gov法令検索 不動産登記令(第7条・第19条)
- 裁判所 最高裁判所第一小法廷 昭和45年8月20日判決(民集24巻9号1305頁)
- 裁判所 最高裁判所第一小法廷 昭和49年9月26日判決(民集28巻6号1306頁)
- 裁判所 最高裁判所大法廷 昭和43年12月25日判決(民集22巻13号3511頁)
- 裁判所 最高裁判所第二小法廷 昭和38年12月6日判決(民集17巻12号1664頁)
- 法務省 令和3年度司法書士試験筆記試験(記述式問題)の出題の趣旨
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。