設立の手続き
たばこ小売販売業の許可は法人成りで承継できる。28条と承継届の手順
結論
製造たばこの小売販売業者が自らを代表者とする法人を設立し、その法人に小売販売の営業を譲り渡した場合、法人は小売販売業者の地位を承継します(たばこ事業法28条、施行規則26条1号)。条件は、法人の定款に製造たばこの小売販売を業として行う旨の定めがあることです。新規許可の審査項目のうち営業所の位置(距離基準)と取扱予定高は承継では問われず、遅滞なく財務局長へ承継届を出せば足ります。
- 承継届は、日本たばこ産業(JT)の営業所を経由して、もとの許可をした財務局長へ出す(施行規則25条1項)。法人の登記事項証明書などを添付する
- 新規に許可を受けると登録免許税が1件1万5,000円。承継ならかからない。無許可の小売販売は30万円以下の罰金(49条3号)
- 東京23区・65歳以上・物品販売業(第1種5%)の試算では、損益分岐は2年目以降1,384万円、初年度1,483万円
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
個人で受けた許認可の多くは、法人成りで会社が取り直します。そのなかで、たばこの小売販売業の許可は法律が法人成りを名指しして承継を認めている珍しい例です。
この記事は、たばこ屋や売店、酒店・コンビニ型の店舗でたばこを売っている個人事業主を想定しています。承継の条件、新規許可との審査の違い、承継届の出し先を条文で確認し、最後に法人化の損益分岐を計算エンジンで出します。
28条は「自らを代表者とする法人の設立」を承継の場面にしている
製造たばこの小売販売を業として行うには、営業所ごとに財務大臣の許可が要ります(22条1項)。無許可で小売販売をすると、30万円以下の罰金の対象です(49条3号)。
この許可を引き継ぐ場面は、2つの条文に分かれています。
| 条文 | 承継の場面 |
|---|---|
| 27条1項 | 相続、合併、分割(事業の全部を承継した法人) |
| 28条 | 小売販売業者が自らを代表者とする法人(定款に製造たばこの小売販売を業として行う旨の定めがあるもの)を設立した場合、その他これに類する場合として財務省令で定める場合 |
28条は27条1項と3項(承継と届出)を準用しています。財務省令(施行規則26条)は、28条の場面を次のように具体化しています。
- 小売販売業者を代表者とする法人が、その小売販売業者から小売販売の営業を譲り受けた場合
- 小売販売業者である法人の代表者が、個人として、その法人から営業を譲り受けた場合
- 小売販売業者である法人の代表者と同居する三親等内の親族(配偶者を含む)が、その法人から営業を譲り受けた場合
- 小売販売業者と同居する三親等内の親族、またはその親族を代表者とする法人が、小売販売業者から営業を譲り受けた場合
- 人格のない社団の構成員などが営業を譲り受けた場合
- 小売販売業者である法人が組織変更をした場合(変更後の定款にたばこの小売販売の定めがあるもの)
法人成りは1号に当たります。2号は逆向きの「法人から個人へ」で、会社をたたんで個人に戻る場合も承継で済むことになります。
承継の条件は「代表者」と「定款の目的」
1号の場面で承継が成り立つには、次の2つを満たす必要があります。
- 法人の代表者が、許可を持つ小売販売業者本人であること(配偶者など同居の親族を代表者にするなら4号)
- 法人の定款に、製造たばこの小売販売を業として行う旨の定めがあること
定款の目的を書き忘れると、28条の要件を満たしません。設立時の定款に入れておけば費用はかかりませんが、設立後に追加すると定款変更と変更登記が要り、登録免許税が1件3万円かかります(定款の目的変更にかかる費用)。
新規許可との違いは、距離基準と予定高を問われないこと
新規の許可申請では、財務大臣は次のいずれかに当たると許可をしないことができます(23条)。
| 号 | 許可をしないことができる場合 | 承継で問われるか |
|---|---|---|
| 1号・2号 | この法律による罰金以上の刑・許可取消しから2年を経過しない | 問われる |
| 3号 | 営業所の位置が不適当(財務省令で定める場合) | 問われない |
| 4号 | 取扱いの予定高が財務省令の標準に達しない | 問われない |
| 5号・6号 | 破産して復権を得ない、法人の代表者が欠格など | 問われる |
27条1項ただし書は、承継しない場合を「23条各号(3号及び4号を除く)のいずれかに該当するとき」としています。3号は近くの販売店との距離などの基準、4号は取扱予定高の基準で、新規の許可ではここで不許可になることがあります。
個人で長く営んできた店が、新規の許可を取り直すとなると、周囲に後から別の販売店ができていた場合に距離基準で通らない可能性があります。**承継なら、この2つの審査を通らずに許可が会社へ移ります。**ここが、取り直しになる他の許認可との決定的な違いです。
新規許可の場合、登録免許税も1件1万5,000円かかります(登録免許税法別表第一66号)。承継ならこれもかかりません。
承継届の出し方
承継した法人は、遅滞なくその旨を財務大臣に届け出ます(28条が準用する27条3項)。施行規則25条1項は、届出の経路と添付書類を次のように定めています。
- 様式による承継届出書を、日本たばこ産業(JT)の営業所を経由して、もとの許可をした財務局長へ出す
- 承継した法人が23条各号に当たらないことの誓約書と所定の書類
- 法人の登記事項証明書その他、28条により地位を承継した旨を証明する書類
届出をしない、または虚偽の届出をすると、許可の取消し・営業停止の事由になります(31条4号)。取消しを受けると2年間は新規の許可も受けられなくなる(23条2号)ので、承継の日から間を置かずに出す必要があります。
商号や代表者の変更、営業所の廃止などは、承継とは別に30条の届出の対象です。営業所を移す場合は承継とは別に移転の許可が要ります(25条1項)。法人成りと同時に店舗を移すなら、移転の許可を先に確認しておく必要があります。
個人の在庫は、営業の譲渡に含めて会社へ移す
施行規則26条1号の要件は、法人が「小売販売に係る営業を譲り受けた」ことです。店頭のたばこの在庫や販売設備も、営業の譲渡として会社へ移すのが筋です。在庫を移すときの税務の扱いは法人成りの棚卸資産の引継ぎにまとめています。
個人事業税と損益分岐
たばこの小売は個人事業税の物品販売業(第1種事業・税率5%)です(地方税法72条の2第8項)。事業主控除290万円を超えた所得に課税され、法人化するとかからなくなります。代わりに役員報酬に社会保険料がかかります。
仕入れを含む経費を年2,000万円、社長を65歳以上と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −52.6万円 | −62.6万円 |
| 800万円 | 月54万円 | −39.1万円 | −49.1万円 |
| 1,000万円 | 月54万円 | −29.0万円 | −39.0万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −18.7万円 | −28.7万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +11.8万円 | +1.8万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +55.2万円 | +45.2万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 2000 --business type1 --age 65plus --note '物品販売業(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費2,000万円、東京都・東京23区、単身・65歳以上、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は物品販売業(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,384万円、初年度が1,483万円です。承継ではなく新規の許可を取り直した場合は、登録免許税1万5,000円が加わって初年度の分岐点は1,498万円になります(同じスクリプトに --fee 15000 を付けて算出)。
65歳以上の社長は、役員報酬を受けると老齢厚生年金が在職老齢年金の仕組みで減ることがあります。この表は年金の受給額の変化を含んでいないので、年金を受けている人は在職老齢年金と法人化もあわせて確認してください。自分の売上と経費で判定ツールに入れて確かめられます。計算の前提は計算方法に、設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。酒類の販売免許は扱いが違うので、酒類販売業免許の法人成りを参照してください。
まとめ
- たばこ事業法28条と施行規則26条1号により、小売販売業者が自らを代表者とする法人に営業を譲ると、法人が許可を承継する
- 条件は、代表者が本人(同居の三親等内の親族なら4号)であることと、定款に製造たばこの小売販売の目的があること
- 承継では、新規許可で問われる営業所の位置(距離基準)と取扱予定高の審査を通らずに済み、登録免許税1万5,000円もかからない
- 承継届はJTの営業所を経由して財務局長へ、遅滞なく。怠ると許可取消しの事由になる
- 東京23区・65歳以上の試算で、損益分岐は2年目以降1,384万円、初年度1,483万円
よくある質問
会社を設立したあと、新しく小売販売業の許可を申請しなければなりませんか。
小売販売業者が自らを代表者とする法人に営業を譲り渡した場合は、法人が地位を承継するので新規の許可申請は要りません(28条、施行規則26条1号)。承継した法人が遅滞なく承継の届出をします。
定款の目的に「たばこの販売」と書き忘れていました。
28条は、定款に製造たばこの小売販売を業として行う旨の定めがある法人に限って承継を認めています。目的を追加する定款変更と変更登記をしてから営業を譲り渡す順番にします。目的変更の登記には登録免許税が1件3万円かかります。
配偶者を代表者にした会社に営業を譲っても承継できますか。
施行規則26条4号は、小売販売業者と同居する三親等内の親族(配偶者を含む)を代表者とする法人が営業を譲り受けた場合も承継の場面に含めています。
出典
- e-Gov法令検索 たばこ事業法 第22条(製造たばこの小売販売業の許可)・第23条(許可の基準)・第25条(営業所の移転)・第26条(出張販売)・第27条(小売販売業の承継)・第28条・第30条(商号等の変更等の届出)・第31条(許可の取消し等)・第49条(罰則)
- e-Gov法令検索 たばこ事業法施行規則 第20条(営業所の位置が不適当な場合)・第25条(小売販売業者の承継の届出)・第26条(小売販売業者の地位を承継する場合)
- e-Gov法令検索 登録免許税法 別表第一 第66号(製造たばこの販売に係る登録又は許可)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2第8項(第一種事業:物品販売業)・第72条の49の17(個人事業税の税率)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。