設立の手続き

全省庁統一資格の等級は法人成りで下がる?営業年数と自己資本

結論

個人の時と同じ人が代表者なら、法人成りしても営業年数は個人の創業日から通算でき、売上も法人の最初の決算までは個人の確定申告の額を使えます。下がり得るのは自己資本額で、法人成りの再申請では登記の資本金の額しか計上できません。物品の販売・役務の提供等では資本金1,000万円未満だと9点が6点になり、年間平均販売高1.2億円・営業年数12年の例ではC等級(57点)がD等級(54点)に落ちます。

  • 年間平均販売高が1億円未満なら、自己資本額1億円未満である限り最高でも54点でD等級。法人成りの前後で等級は変わらない(物品の販売・役務の提供等)
  • 個人の確定申告に貸借対照表がないと流動比率は0計上で4点。法人の第1期が6か月なら、その決算後の申請では6か月分の売上がそのまま平均実績高になる
  • 資本金を1,000万円にすれば自己資本の点は保てるが、新設法人の消費税の免税を失う。売上1.2億円・インボイス未登録の例で初年度の実質差額は332万円縮む

全省庁統一資格の等級は、年間平均販売高・自己資本額・流動比率・営業年数の点数の合計で決まります。法人成りで「営業年数がゼロに戻る」と心配されがちですが、申請書記入要項を読むと、営業年数と売上は個人から引き継ぐ道が用意されています。引き継げないのは自己資本額です。

この記事では、調達ポータルに掲載されている令和07・08・09年度の公示と申請書記入要項(令和7年11月版)の原文から、法人成りしたときの各項目の扱いを確認し、点数がどこで動くかを計算しました。

等級は4項目の点数の合計で決まる

全省庁統一資格は、各省庁の物品の製造・販売、役務の提供等の入札に参加するための資格です。1か所に申請すれば、各省庁の全調達機関で有効になります。令和07・08・09年度の資格は令和10年3月31日まで有効で、受付は令和10年3月10日まで随時申請で行われています。

等級の点数表は、公示の別記4に定められています。小規模事業者に関係する段階は次のとおりです(最高点は100点)。

項目段階物品の製造物品の販売・役務の提供等
年間平均(生産・販売)高1億円以上2.5億円未満25点30点
年間平均(生産・販売)高5,000万円以上1億円未満20点25点
年間平均(生産・販売)高2,500万円以上5,000万円未満15点20点
年間平均(生産・販売)高2,500万円未満10点15点
自己資本額の合計1億円以上10億円未満8点12点
自己資本額の合計1,000万円以上1億円未満6点9点
自己資本額の合計100万円以上1,000万円未満4点6点
自己資本額の合計100万円未満2点3点
流動比率140%以上10点10点
流動比率120%以上140%未満8点8点
流動比率100%以上120%未満6点6点
流動比率100%未満4点4点
営業年数20年以上5点10点
営業年数10年以上20年未満4点8点
営業年数10年未満3点6点

出典:競争参加者の資格に関する公示(令和07・08・09年度)別記4。物品の製造には、このほか設備の額(最高15点)が加わります。表は scripts/zenshocho-tokyu-houjinnari.mjs が公示の本文を解析して出したものです。

物品の販売・役務の提供等の等級は、別記5で次のように区切られています。

等級点数参加できる予定価格の範囲
A90点以上3,000万円以上
B80点以上90点未満1,500万円以上3,000万円未満
C55点以上80点未満300万円以上1,500万円未満
D55点未満300万円未満

公示は、実際の調達では他の等級の参加を認める弾力的な運用をする場合があるとも書いています。それでも、案件ごとの等級の指定が入口になることは変わりません。

年商1億円未満なら、どう転んでもD等級

この表から先に分かることがあります。自己資本額が1億円未満の事業者が、流動比率と営業年数で満点を取った場合の最高点は次のとおりです。

年間平均販売高販売高の点自己資本1,000万円以上・流動比率140%以上・営業年数20年以上の合計等級
1億円以上2.5億円未満30点59点C
5,000万円以上1億円未満25点54点D
2,500万円以上5,000万円未満20点49点D
2,500万円未満15点44点D

物品の販売・役務の提供等で年間平均販売高が1億円に届かないと、ほかの項目をすべて満点にしても55点に届きません。年商1億円未満の事業者は、個人でも法人でもD等級で、法人成りによって等級が変わることはありません。 法人成りの影響を気にする必要があるのは、年商1億円を超えてC等級の境目にいる事業者です。

営業年数と売上は、代表者が同じなら個人から引き継げる

法人成りした後の申請の扱いは、申請書記入要項の「合併・分社等における申請について」にまとまっています。申請事由の1つに「個人事業主が法人化する場合(個人→法人)」があり、条件として「個人と法人成りした代表者が同一人物であること」が明記されています。

公示自体も、有資格者に個人から法人への変更等があった場合は申請を改めて行うよう定めています。記入要項はこれを、業者コードを引き継ぐ更新申請として扱い、商号・名称の変更届では対応しないとしています。各項目の記入方法は次のとおりです。

項目個人→法人(代表者が同じ)の記入方法
営業年数個人の創業年月日から申請日までの満年数(休業期間は差し引く)
年間平均販売高個人の確定申告書(損益計算書)の売上金額。法人化した後に決算があれば、法人の決算書のみで申請する
自己資本額【資本金】【自己資本額の合計】とも、登記事項証明書に記載のある資本金の額
流動比率個人の確定申告に貸借対照表が添付されていれば計上できる。ない場合は0計上

営業年数について、記入要項は「個人から法人成りされた場合」の欄を設け、創業者が個人事業主として創業し、その後法人化した場合を指すとしています。ただし、個人の時と法人成りした時の代表者が同一人物で、現在まで同一人物であることが条件です。個人の時と代表者が違う場合は、法人設立からの営業年数になります。 配偶者や後継者を代表者にして法人成りすると、営業年数の通算も、個人の売上での申請も使えません。

下がり得るのは自己資本額。資本金しか数えない

個人のまま申請するときの自己資本額は、青色申告決算書の貸借対照表から「事業主借+元入金+青色申告特別控除前の所得金額-事業主貸」で求めます。その年の所得がまるごと入るので、所得の大きい個人事業主は自己資本額が1,000万円を超えやすくなります。

ところが法人成りの再申請では、自己資本額に登記の資本金の額を記入します。個人時代に積み上がった元入金や所得は数えません。物品の販売・役務の提供等で、個人の自己資本額が1,500万円(9点)だった人が法人成りしたときの点数は次のとおりです。

年間平均販売高個人のまま法人成り・資本金50万円法人成り・資本金300万円(999万円まで同じ)法人成り・資本金1,000万円
2,000万円42点・D36点・D39点・D42点・D
4,000万円47点・D41点・D44点・D47点・D
8,000万円52点・D46点・D49点・D52点・D
1.2億円57点・C51点・D54点・D57点・C
3億円62点・C56点・C59点・C62点・C

前提:営業年数12年(個人期間を通算)、流動比率150%(個人の貸借対照表を添付)、個人の自己資本額1,500万円。計算:scripts/zenshocho-tokyu-houjinnari.mjs。

資本金100万円以上1,000万円未満はすべて6点なので、300万円でも999万円でも点数は同じです。年間平均販売高1.2億円の例では、資本金1,000万円未満で法人成りすると3点下がって54点になり、C等級からD等級に落ちます。予定価格300万円以上の案件に、原則として参加できなくなる差です。

逆に、白色申告の個人事業主は自己資本額が0計上(3点)です。法人成りで資本金を100万円以上にすれば6点に上がるので、この項目は法人成りで改善します。

崩れやすい3つの条件

資本金1,000万円で法人成りし、自己資本の点を保ったとしても、ほかの条件が1つ崩れると点数は下がります。年間平均販売高1.2億円・営業年数12年の例で比べると次のとおりです。

ケース販売高自己資本額流動比率営業年数合計等級
基準(代表者が同じ・貸借対照表あり・個人の売上で申請)30点9点10点8点57点C
個人の時と代表者が違う(営業年数は法人設立から0年)30点9点10点6点55点C
個人の貸借対照表がない(流動資産・流動負債とも0計上)30点9点4点8点51点D
第1期(6か月)の決算後に申請(6か月分の売上をそのまま使う)25点9点10点8点52点D

注:第1期のケースは、第1期の純資産合計を資本金と同額(利益0)と置いています。

個人の貸借対照表がないと流動比率は最低点

流動比率は、個人の確定申告に貸借対照表が添付されていれば計上できます。ない場合は流動資産・流動負債とも0計上で、100%未満の4点になります。青色申告でも貸借対照表を付けていなければ、流動比率140%以上の10点に比べて6点を失います。

第1期の決算を挟むと、短い期間の売上がそのまま平均になる

記入要項は、個人の売上で申請できるのは法人化した後に決算がないときまでで、決算があれば法人の決算書のみで申請するとしています。そして、直前年度分の決算だけがあり、その決算期間が12か月以下なら、その売上高をそのまま前2か年の平均実績高に記入します(新設会社が1回決算を行った場合の例として示されています)。年換算はしません。

決算月の決め方によっては、法人の第1期が数か月で終わります。6か月の第1期の決算後に申請すると、年商1.2億円でも平均実績高は6,000万円の扱いになり、販売高の点が30点から25点に下がります。第1期と第2期の合計が13か月以上になれば、合計額を延べ月数で割って12か月分に直す計算に変わります。法人成りの再申請は、法人の最初の決算より前に済ませるほうが個人の売上を使えます。第1期の長さは決算月の決め方で扱っています。

なお、法人の決算が出た後は、自己資本額は貸借対照表の純資産合計になります。利益を残せば点数は上がり、記入要項はこうした決算後の等級の変動も更新申請で受け付けるとしています。

資本金1,000万円の代償は、新設法人の消費税の免税

自己資本の点を個人時代と同じ9点に保つには、資本金を1,000万円以上にする必要があります。ここで税金の境目とぶつかります。

基準期間がない事業年度の開始日の資本金が1,000万円以上の法人は、新設法人の納税義務の免除の特例から外れ、設立1期目から消費税の課税事業者になります(消費税法12条の2)。境目は「超」ではなく「以上」なので、1,000万円ちょうども課税です。法人住民税の均等割は資本金等1,000万円「以下」が最低区分なので、1,000万円ちょうどなら年7万円のままです。

判定ツールの計算エンジンで、売上1億2,000万円・経費1億円の事業者が法人成りした場合を比べました。

資本金1期目に免除される消費税法人住民税の均等割初年度の実質差額
1,000万円未満600万円7万円372.7万円
1,000万円ちょうど0万円7万円40.8万円

前提:売上・経費は税抜、経費の6割が課税仕入(判定ツールの既定値)、インボイス未登録、東京23区、40〜64歳、単身、株式会社、最適役員報酬(月90万円)。実質差額は個人のままとの手取りの差から、設立費用と税理士報酬の差を引いたもの。2期目の免税は特定期間の売上・給与で別に判定されるため、この表は1期目だけを比べています。

インボイス未登録なら、資本金を1,000万円にすることで初年度の実質差額が332万円縮みます。C等級を守って得られる入札の利益がこれを上回るかが判断の軸になります。インボイス登録済みなら設立1期目から課税事業者なので、この代償はありません。資本金の境目のほかの論点は法人化の資本金は1,000万円未満か、免税の要件そのものは新設法人の消費税免税の条件で扱っています。

法人成りの段取りで確認すること

入札に参加している個人事業主が法人成りするときは、次の順に確認すると点数の取りこぼしを防げます。

  1. 法人の代表者を個人の時と同じ人にする(営業年数と売上の引継ぎの条件)
  2. 個人の最終年分の確定申告に、青色申告決算書の貸借対照表を付けておく(流動比率の計上)
  3. 資本金を決める前に、等級の境目の点数を計算する(1,000万円未満なら自己資本は6点)
  4. 法人の最初の決算より前に再申請する(個人の売上を使える期間)

申請には、法人の納税証明書(その2・その3の3)の写しも添付します。証明書の種類と取り方は法人の納税証明書の種類、業法ごとの許認可の引継ぎは法人成りで許認可は引き継げるかで整理しています。

点数の計算と、法人成りで手取りがいくら変わるかは別の問題です。判定ツールで自分の売上と経費を入れ、資本金と消費税の扱いを含めた差額を確かめてください。等級の境目にいて資本金の額を迷う場合は、入札の見込み額と税負担の両方を専門家に確認する価値があります。

まとめ

  • 全省庁統一資格の等級は、年間平均販売高・自己資本額・流動比率・営業年数の点数で決まり、物品の販売・役務の提供等では55点未満がD等級
  • 年間平均販売高1億円未満なら、自己資本1億円未満である限り最高54点でD等級。法人成りの前後で等級は変わらない
  • 個人の時と代表者が同じなら、営業年数は個人の創業日から通算でき、売上も法人の最初の決算までは個人の確定申告の額を使える
  • 法人成りの再申請では自己資本額は登記の資本金の額だけになり、1,000万円未満なら6点。年商1.2億円・営業年数12年の例でC等級(57点)がD等級(54点)に落ちる
  • 資本金を1,000万円にすると点数は保てるが、新設法人の消費税の免税を失う。インボイス未登録・売上1.2億円の例で初年度の実質差額は332万円縮む

よくある質問

個人で取った全省庁統一資格は、法人成りした後もそのまま使えますか?

そのままでは使えません。公示は、有資格者に個人から法人への変更等があった場合は申請を改めて行うよう定めています。申請書記入要項では、個人と法人成りした代表者が同じ場合に限り、業者コードを引き継ぐ更新申請として扱い、商号や名称の変更届では対応しないとしています。

配偶者を代表者にして法人成りした場合、個人の営業年数は通算できますか?

できません。申請書記入要項は、個人の時の代表者と現在の代表者が違う場合は法人設立からの営業年数になるとしています。売上を個人の確定申告の額で申請できる扱いも、代表者が同一人物であることが条件です。

白色申告の個人事業主でも、法人成りで自己資本額の点は下がりますか?

下がりません。個人の自己資本額は青色申告決算書の貸借対照表から求め、白色申告は0計上(物品の販売・役務の提供等で3点)です。法人成りすると登記の資本金の額を計上するので、資本金が100万円以上なら6点に上がります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。