社会保険
休眠会社の社会保険は全喪届で抜ける。国保・国民年金の初年度は前年報酬で高い
結論
事業を休止した会社は、日本年金機構へ適用事業所全喪届を事実発生から5日以内に出し、社長は国保と国民年金第1号に移ります。国保は前年所得で決まるため、月54万円の報酬から休眠した東京23区・単身では1年目の負担が73.9万円、所得0円になる2年目以降は23.5万円です(概算)。
- 全喪届が必要な場合として、日本年金機構は解散だけでなく「事業を休止(休業)した場合」を挙げている。期限は事実発生から5日以内
- 国保は前年の所得で決まる。休眠前の報酬が月20万円なら1年目40.6万円、月54万円なら73.9万円(東京23区・単身・40歳未満)
- 被扶養者だった配偶者も国保・国民年金に入るため、2年目以降の負担は単身23.5万円に対し配偶者ありで47.0万円になる
このテーマの全体像 一人社長の社会保険料はいくらか
結論ブロックの数字のうち、見落とされやすいのは1年目の高さです。報酬を止めて休眠したのに、国保の通知は前年の役員報酬を基に届きます。
この記事では、休眠に入るときの社会保険の手続き(全喪届)と、抜けた先で払う国保・国民年金を、休眠前の報酬額別に計算します。報酬を0円にして事業を続ける場合の話は役員報酬0円なら社会保険はかからないで扱っており、ここでは事業そのものを止める場合に絞ります。
事業を止めたら、出すのは資格喪失届ではなく全喪届
日本年金機構は、事業主が「適用事業所全喪届」を出す場合として次を挙げています。
- 事業を廃止(解散)した場合
- 事業を休止(休業)した場合
- 合併により事業所が存続しなくなる場合
- 一括適用により単独の適用事業所でなくなった場合
- 任意適用事業所が脱退を認可された場合
期限は事実発生から5日以内です。解散まで進まなくても、休業すれば提出事由に当たります。
なぜ休業で事業所の適用が外れるのか。厚生年金保険法6条は、法人の事業所の適用要件を「常時従業員を使用するもの」と書いています。法人は人数に関係なく強制適用ですが、それは従業員(報酬を受ける役員を含む)を使用していることが前提です。事業を止めて誰も使用していなければ、この前提が崩れます。
報酬だけを0円にして事業を続ける場合とは、ここが違います。そちらは役員個人の資格喪失届で、事業所としての適用は残ります。
添付書類は「解散していない」前提で選ぶ
全喪届の添付書類は、原則として次のいずれかです。
| 原則の添付書類 | 交付先 |
|---|---|
| 解散登記の記入がある法人登記簿謄本のコピー | 法務局 |
| 雇用保険適用事業所廃止届(事業主控)のコピー | 公共職業安定所 |
休眠は解散登記をしないので、1つ目は使えません。一人社長の会社は雇用保険の適用事業所でないことが多く、2つ目もないのが普通です。その場合は次のいずれかで代えられます。
- 給与支払事務所等の廃止届のコピー
- 法人税・消費税異動届のコピー
- 法人等の事務所等閉鎖届のコピー
- 休業等の確認ができる情報誌、新聞等のコピー
- 事業廃止等を議決した取締役会議事録のコピー
- その他、適用事業所に該当しなくなったことを確認できる書類
休眠の実務では、税務署へ出す**異動届(休業)**の控えを使うのが組み立てやすい形です。税務署・都道府県・市区町村への休業の届出と、均等割が止まるかどうかは休眠会社の均等割で扱っています。
報酬を払い続けて社保に残る、は通りにくい
「休眠中も月5万円だけ報酬を払えば、厚生年金と健康保険に残れるのでは」という発想があります。配偶者を被扶養者のままにできるので、家族がいると魅力的に見えます。
しかし被保険者の判定は、令和8年3月18日の厚生労働省通知が示すとおり、経営への参画を内容とする経常的な労務の提供と、その対価として経常的に支払われる報酬の2つで行われます。事業を休止している状態は、1つ目の「経常的な労務の提供」と両立しにくいものです。
参考までに、月5万円で残った場合の保険料(労使合計と子ども・子育て拠出金)は東京で年26.7万円です。後で見るとおり、配偶者ありの家庭では国保・国民年金へ移るより安く見えます。ただしこれは事業を続けていることが前提の数字で、休眠の比較対象にはできません。
国保は前年所得で来る。休眠1年目が一番重い
社長は全喪で厚生年金・健康保険の資格を失い、国民年金第1号と国民健康保険に移ります。国民年金は所得に関係なく定額です。一方、国保は前年の所得で保険料が決まります。
つまり休眠に入った年度の国保は、前年に受け取っていた役員報酬(給与所得)で計算されます。報酬が0円になったことが国保に反映されるのは翌年度からです。
| 休眠前の役員報酬(月) | 休眠1年目の国保 | 国民年金 | 1年目の合計 | 2年目以降の合計 |
|---|---|---|---|---|
| 0円(前年から無報酬) | 2.0万円 | 21.5万円 | 23.5万円 | 23.5万円 |
| 20万円 | 19.1万円 | 21.5万円 | 40.6万円 | 23.5万円 |
| 30万円 | 28.0万円 | 21.5万円 | 49.5万円 | 23.5万円 |
| 54万円 | 52.3万円 | 21.5万円 | 73.9万円 | 23.5万円 |
※ 東京23区(特別区統一保険料率)・40歳未満・単身・介護分なし/2026年(令和8年)分基準
※ 国保は前年の給与所得(役員報酬のみ)で算定した年額。2年目以降は所得0円として均等割に7割軽減を適用(端数処理は自治体ごとに異なるため概算)
※ scripts/kyumin-gaisha-zensou.mjs で計算エンジンから生成
月54万円は、当サイトの判定ツールが事業所得800万〜1,500万円の帯でよく出す最適報酬です。そこから休眠すると、1年目は2年目以降の3倍以上を払うことになります。売上が止まった年に、手元資金から73.9万円が出ていく計算です。
上の表は1年分に換算した値で、年度の途中で休眠に入った場合の実額は自治体の算定によります。所得が急減した年の減免を自治体が設けている場合があり、法定の7割・5割・2割軽減とは別の制度です(国民健康保険料の減免と軽減は別物)。
配偶者がいると、2年目以降も倍になる
健康保険では保険料なしで入れていた配偶者も、全喪で被扶養者でなくなります。配偶者は国民年金の第3号から第1号に変わり、国保にも加入します。
| 休眠前の役員報酬(月) | 東京23区 1年目 | 東京23区 2年目以降 | 大阪市 1年目 | 大阪市 2年目以降 |
|---|---|---|---|---|
| 0円(前年から無報酬) | 47.0万円 | 47.0万円 | 47.2万円 | 47.2万円 |
| 20万円 | 68.8万円 | 47.0万円 | 72.1万円 | 47.2万円 |
| 30万円 | 77.7万円 | 47.0万円 | 82.9万円 | 47.2万円 |
| 54万円 | 102.1万円 | 47.0万円 | 112.5万円 | 47.2万円 |
※ 40歳未満・配偶者あり(無収入・休眠前は被扶養者)・介護分なし/2026年(令和8年)分基準 ※ 国保・国民年金は本人と配偶者の2人分。国民年金は2人で年43.0万円
2年目以降の負担のうち、国民年金が43.0万円とほぼ全部を占めます。所得0円なら国保は7割軽減で年4万円台に収まりますが、国民年金は定額です。所得がない年は申請免除の対象になり得ますが、免除期間は将来の老齢基礎年金が減ります(国民年金の免除と追納)。
大阪市は単身の1年目でも86.2万円(月54万円から休眠)と、東京23区より12.3万円高くなります。所得0円になる2年目以降は差が0.2万円まで縮みます。
届出は会社と本人で3か所に分かれる
| 誰が | どこへ | 何を | 期限 |
|---|---|---|---|
| 会社 | 年金事務所 | 適用事業所全喪届(被保険者の資格喪失届も併せて) | 事実発生から5日以内 |
| 社長・配偶者 | 市区町村 | 国民年金の種別変更(第1号へ) | 14日以内 |
| 社長(世帯主) | 市区町村 | 国民健康保険の加入 | — |
国民年金の14日は国民年金法施行規則6条の2の定めです。国保の加入は資格を喪失した日にさかのぼる扱いなので、届出が遅れても保険料は遡って発生します。
休眠を続ける限りは、国民年金と国保(2年目以降は単身で年23.5万円)に、均等割と税理士報酬などの法人の固定費が上乗せされます。法人を維持し続ける費用と一度で畳む費用の比較は会社の解散・清算にかかる費用を、株式会社を12年放置した場合は休眠会社は12年でみなし解散を見てください。
まとめ
- 事業を休止したら、会社は日本年金機構へ適用事業所全喪届を事実発生から5日以内に出す。報酬0円で事業を続ける場合の資格喪失届とは別の手続き
- 休眠は解散登記をしないので、添付書類は税務署への異動届(休業)の控えなどで代える
- 国保は前年所得で決まる。月54万円の報酬から休眠すると、東京23区・単身で1年目73.9万円、2年目以降23.5万円
- 配偶者ありなら被扶養者でなくなり、2年目以降も年47.0万円。大部分は2人分の国民年金
- 休眠中に報酬だけ払って社保に残る形は、経常的な労務の提供という要件と両立しにくい
休眠に入る時期と、その前年の報酬額で1年目の負担は大きく変わります。法人を持ち続ける価値があるかは、自分の売上と経費で確かめてください。
よくある質問
休眠中も役員報酬を少し払えば、社会保険に残れますか?
被保険者になるには、経営への参画を内容とする経常的な労務の提供と、その対価として経常的に支払われる報酬の両方が必要です。事業を休止して労務の実態がない状態で報酬だけを払っても、要件を満たすとは限りません。日本年金機構は事業を休止した場合を全喪届の提出事由に挙げています。
全喪届にはどんな書類を添付しますか?
原則は解散登記の記入がある登記簿謄本のコピーか、雇用保険適用事業所廃止届(事業主控)のコピーです。休業の場合などで用意できなければ、法人税・消費税異動届や給与支払事務所等の廃止届のコピー、事業休止を議決した取締役会議事録のコピーなどで代えられます。
国民年金の種別変更はいつまでに届け出ますか?
国民年金法施行規則は、第1号被保険者への種別変更の届出を14日以内に市町村長へ提出すると定めています。被扶養者だった配偶者も第3号から第1号へ変わるため、同じく届出が必要です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。