設立の手続き
指定給水装置工事事業者は法人成りで取り直し。排水設備の指定も新規
結論
水道法には指定給水装置工事事業者の指定を承継する規定がなく、東京都水道局は個人から法人への組織化について承継はできず「廃止」→「新規」の手続きをとるよう案内しています。会社は新規指定(東京都の手数料9,400円、指定まで申請から2〜3か月程度)を受け直し、個人の指定は廃止の日から30日以内に廃止届を出します。下水道の排水設備指定工事店(東京都指定排水設備工事事業者)も、会社として新規指定(手数料10,300円)を受けます。
- 東京都の給水装置の指定では、会社の登記の「目的」に「管工事業」「給排水設備工事業」「水道工事業」など給水装置の事業が明確に分かる文言が要る。「建設業」「土木工事業」だけでは足りない
- 会社の指定を先に受け、指定日以降に個人の指定を廃止すれば工事できない期間を作らずに済む。下水道は指定日より前に工事できない
- 東京23区・経費800万円・40〜59歳・請負業(第1種5%)の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度は両方を取り直すと1,361万円
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
水道の給水管や下水の排水設備の工事は、水道事業者や下水道管理者の「指定」がなければ施工できません。この指定は、個人事業主が会社を作っても会社へは移りません。個人の指定を廃止し、会社で新規に指定を受け直すのが基本の形です。
この記事は、東京23区で給排水の設備工事を請け負う個人事業主を想定しています。水道法の条文と東京都水道局・下水道局の資料をもとに、取り直しになる理由、会社の登記で気をつける点、工事できない期間を作らない順番を確認し、最後に損益分岐を計算エンジンで出します。
給水の指定と排水の指定は、別の制度
同じ「水回りの工事」でも、根拠と指定する側が違います。
| 項目 | 指定給水装置工事事業者 | 排水設備指定工事店(東京都指定排水設備工事事業者) |
|---|---|---|
| 根拠 | 水道法16条の2・25条の2以下 | 東京都下水道条例7条以下 |
| 指定する者 | 水道事業者(東京都なら水道局長) | 下水道管理者(23区なら下水道局長) |
| 置く技術者 | 給水装置工事主任技術者(国家資格の免状) | 下水道局に登録した排水設備工事責任技術者 |
| 有効期間 | 5年ごとに更新(水道法25条の3の2) | 指定の日から4年を経過する日の属する年度の末日まで |
| 東京都の新規手数料 | 9,400円 | 10,300円(非課税) |
| 法人成りの扱い | 承継不可。廃止→新規 | 承継の規定なし。会社で新規指定 |
給水装置の指定は、水道法が全国共通の枠組みを定め、各水道事業者がその給水区域について指定します(16条の2第1項)。指定を受けていない者が施工した給水装置は、水道事業者が給水契約の申込みを拒んだり給水を止めたりできる、という形で効いてきます(同条3項)。
排水設備の指定は、下水道を管理する自治体の条例で定められています。東京都の場合、23区内の排水設備の新設等の工事は、下水道局長の指定を受けた者でなければ施工できません(東京都下水道条例7条)。
給水装置:東京都水道局は「承継できない。廃止→新規」と明記
水道法には、指定給水装置工事事業者の地位を承継する規定がありません。届出の規定(25条の7)は、事業所の名称・所在地などの変更と、事業の廃止・休止・再開を届け出るものです。
東京都水道局の届出案内は、さらに具体的です。個人から法人への組織化は、相続・営業譲渡・合併と並んで承継できない例に挙げられ、「廃止」→「新規」の手続きをとるよう書かれています。一方、有限会社から株式会社への組織変更は同一法人とみなされ、名称変更の手続きで済みます。個人と会社は別の人格なので、名称変更の扱いにはなりません。
会社で新規指定を受けるための条件
指定の基準は水道法25条の3第1項に3つあります。
- 事業所ごとに、給水装置工事主任技術者として選任されることとなる者を置くこと
- 省令で定める機械器具(管の切断用・加工用・接合用の器具と水圧テストポンプ)を持つこと(施行規則20条)
- 破産して復権を得ない者、水道法違反で刑に処せられて2年を経過しない者などに当たらないこと。法人は役員も対象
主任技術者の免状は個人に交付される資格なので、社長本人が持っていれば会社でもそのまま選任できます。東京都の申請書の記入例でも、代表取締役が主任技術者を兼ねています。水道法上は指定を受けた日から2週間以内に選任すればよい(施行規則21条1項)のですが、東京都では指定の申請と一緒に選任届を出す運用です。
登記の「目的」に「管工事業」などが必要
法人成りで一番つまずきやすいのはここです。東京都水道局は、登記事項証明書の「目的」欄に**「管工事業」「給排水設備工事業」「水道工事業」**など、給水装置の事業を行うことが明確に分かる項目を求めています。「建設業」「土木工事業」だけでは足りません。
目的は定款で決め、設立の登記に載ります。設立後に足すと、定款変更と変更登記の手間と費用が別にかかります。定款を作る段階で文言を入れておくのが手堅い方法です。設立の流れと目的の決め方は、会社設立を自分でやる手順にまとめています。
排水設備:会社で新規指定を受け、個人は廃業届
東京都下水道局の指定事業者規程には、指定を承継する規定がありません。届出は、名称・所在地・代表者などの変更(変更のあった日から30日以内、規程6条1項)と、廃業(6条4項)の2種類です。指定は「法人又は個人」の事業者ごとに受けるもので、個人の指定を会社へ名義変更する手続きは用意されていません。会社は第1号様式で新規指定を申請し、個人は第6号様式で廃業を届け出ることになります。
会社の申請で求められる書類
東京都下水道局の新規指定の案内では、要件は次の3つです。
- 都の区域内に事業所があること
- 下水道局に登録した責任技術者を事業所ごとに1名以上選任すること
- 代表者が欠格事由(破産して復権を得ない、指定を取り消されて2年を経過しない、など)に当たらないこと
法人の申請には、発行から3か月以内の商業登記の履歴事項全部証明書が要ります。設立の登記が終わるまで申請書類はそろいません。
もう1つ、選任する責任技術者全員について雇用関係を証明する書類の写しが求められ、代表者や役員を選任する場合も対象です。個人事業主が自分を選任するときは確定申告書で確認されるので不要でしたが、会社では次のいずれか1点が要ります。
- 住民税・特別徴収税額の決定通知(特別徴収義務者用)
- 健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書
- 事業所別被保険者台帳の写し
- 雇用保険被保険者資格取得確認通知書
設立直後の一人会社で手元にありそうなのは、社会保険の資格取得届を出したあとに届く標準報酬決定通知書です。どれも用意できない場合は下水道局へ問い合わせるよう案内されています。社会保険の手続きが遅れると、排水設備の指定の申請も遅れるという関係になります。
工事できない期間を作らない順番
給水装置も排水設備も、会社として工事できるのは指定を受けた日からです。東京都下水道局は、工事を行えるのは指定日以降だと明記しています。一方で、個人の指定は個人が廃止・廃業するまで有効です。この2つを組み合わせると、順番は次のようになります。
- 定款の目的に「管工事業」「給排水設備工事業」などを入れて、会社の設立登記をする
- 社会保険の資格取得届を出し、排水設備の申請に使う雇用関係の書類をそろえる
- 会社で給水装置と排水設備の新規指定を申請する。この間、工事は個人の指定で続ける
- 会社の指定日が来たら、新しい工事は会社で受ける
- 個人の指定を廃止する。給水装置は廃止の日から30日以内に廃止届を出し、事業者証を返納する(施行規則35条)
逆に、先に個人の指定を廃止してから会社の申請を始めると、その間は給水・排水の工事を施工できません。東京都水道局の指定は申請から2〜3か月程度かかり、指定は毎月下旬です。東京都下水道局の指定日は月1〜2回設定されています。
さらにその前に、設立の登記が完了しないと登記事項証明書が取れません。東京法務局本局の商業・法人登記は、申請から完了まで中央値で約1か月かかっています(会社設立の登記は何日で終わるか)。設立から会社の指定までの数か月は、個人の指定で工事を続ける前提で計画を立てることになります。この期間、個人と会社のどちらで契約しどちらで売上を立てるかは、法人成りで取引先との契約が移らない話と同じ整理が要ります。
給水区域ごとに取り直す
給水装置の指定は水道事業者ごとです。東京都水道局の指定が及ぶのは、23区と、多摩地区のうち武蔵野市・昭島市・羽村市・檜原村を除く区域です(島しょも除く)。近隣県の市町村の水道でも指定を受けている事業者は、その数だけ会社で新規指定を受け直すことになります。手数料や期間は水道事業者ごとに違います。
建設業許可を持っている場合
管工事業の建設業許可は、事前の認可を受ければ会社へ移せます(建設業法17条の2)。ただし、これは建設業法上の許可の話で、水道法・下水道条例の指定には効きません。許可を移しても、指定は会社で新規に受け直します。会社で許可を持つと社会保険の加入も要件になる点は、建設業許可と社会保険で整理しています。業法ごとの引き継ぎの可否は法人成りで許認可は引き継げるかに、同じく取り直しになる工事業の例は浄化槽工事業の法人成りにあります。
請負業の個人事業税と損益分岐
給排水の設備工事は、個人事業税の請負業(第1種事業・税率5%)に当たります(地方税法72条の2第8項14号、72条の49の17)。事業主控除290万円を超えた所得に課税され、法人化するとかからなくなります。代わりに、役員報酬に社会保険料がかかります。
材料費・外注費・車両費などの経費を年800万円、社長を40〜59歳と置き、給水装置(9,400円)と排水設備(10,300円)の両方を東京都で取り直す想定で計算しました。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −34.0万円 | −46.0万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −18.9万円 | −30.9万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −10.0万円 | −21.9万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −4.3万円 | −16.3万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +26.1万円 | +14.2万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +65.8万円 | +53.8万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 800 --business type1 --age 40to64 --fee 19700 --note '請負業(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費800万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は請負業(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円と許認可の取り直し費用19,700円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,243万円、初年度は1,361万円です。取り直しの手数料を含めない場合の初年度は1,341万円なので、2つの指定の手数料は合計1万9,700円でも、損益分岐を20万円ほど押し上げる計算になります(同じスクリプトから --fee を外して算出)。
年齢区分を変えると、2年目以降の損益分岐は40歳未満で1,266万円、65歳以上で1,384万円です(--age を under40 / 65plus に変えて算出)。この表には、上で見た指定待ちの期間に売上が落ちる影響は入っていません。自分の売上と経費は判定ツールに入れて確かめられます。計算の前提は計算方法にまとめています。
まとめ
- 指定給水装置工事事業者は、東京都水道局の案内で「個人から法人への組織化」は承継できず、廃止→新規になる。下水道の排水設備指定工事店も承継の規定がなく、会社で新規指定を受ける
- 東京都の給水装置の指定では、登記の目的に「管工事業」「給排水設備工事業」など給水装置の事業が分かる文言が要る。「建設業」だけでは足りない
- 排水設備の申請には履歴事項全部証明書と、社長を含む責任技術者の雇用関係を証明する書類が要る
- 会社の指定を先に受けてから個人の指定を廃止すれば、工事できない期間を作らずに済む。給水装置の廃止届は廃止の日から30日以内
- 東京23区・40〜59歳の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、2つの指定を取り直す初年度は1,361万円
よくある質問
給水装置工事主任技術者の免状は、会社で使えますか。
使えます。免状は個人に交付される資格なので、法人成りしても失われません。会社の新規指定の申請で、事業所ごとに選任されることとなる主任技術者として社長本人を記載できます。東京都水道局の申請書の記入例でも、代表取締役が主任技術者を兼ねています。
給水区域が複数の水道事業者にまたがる場合はどうなりますか。
指定は水道事業者ごとに、その給水区域について行われます(水道法16条の2第1項)。個人で複数の水道事業者の指定を受けていれば、会社もそれぞれの水道事業者で新規指定を受け直します。東京都水道局の指定の範囲からは、武蔵野市・昭島市・羽村市・檜原村と島しょが除かれています。
会社を設立した直後でも、排水設備の指定は申請できますか。
申請自体はできますが、東京都下水道局は選任する責任技術者全員の雇用関係を証明する書類を求め、社長を選任する場合も対象です。住民税の特別徴収税額の決定通知、健康保険・厚生年金保険の標準報酬決定通知書などのいずれか1点の写しで、用意できない場合は問い合わせるよう案内されています。
出典
- e-Gov法令検索 水道法 第16条の2(給水装置工事)・第25条の2(指定の申請)・第25条の3(指定の基準)・第25条の3の2(指定の更新)・第25条の4(給水装置工事主任技術者)・第25条の7(変更の届出等)・第25条の11(指定の取消し)
- e-Gov法令検索 水道法施行規則 第20条(機械器具)・第21条(給水装置工事主任技術者の選任)・第34条(変更の届出)・第35条(廃止等の届出)
- 東京都水道局 東京都指定給水装置工事事業者 新規申請のご案内(手数料9,400円・指定まで2〜3か月・有効期限5年・登記の目的)
- 東京都水道局 東京都指定給水装置工事事業者 各種届出等のご案内(承継不可・廃止休止の届出30日以内)
- 東京都下水道局 「東京都指定排水設備工事事業者」新規指定申請のご案内(手数料10,300円・要件・必要書類)
- 東京都下水道局 指定事業者に関する各種申請・届出(指定日以降に工事可能)
- 東京都下水道局 排水設備要綱 第6章 指定事業者及び責任技術者のしくみ(有効期限・変更届30日以内)
- 東京都下水道局 東京都指定排水設備工事事業者規程(第4条 更新・第6条 変更及び廃業の届出)
- e-Gov法令検索 建設業法 第17条の2(譲渡及び譲受け並びに合併及び分割)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2第8項第14号(第一種事業:請負業)・第72条の49の17(個人事業税の税率)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。