設立の手続き

PSEの事業届出は法人成りで承継できる。輸入・EC物販の切替手順

結論

電気用品安全法の届出事業者が事業の全部を会社へ譲り渡すと、会社が届出事業者の地位を承継します(4条1項)。会社は事業開始の届出(3条)を出し直す必要はなく、事実を証する書面を添えて遅滞なく承継を届け出ます(4条2項)。一部の届出区分だけを移す場合は承継に当たらず、会社が事業開始から30日以内に新たに届け出ます。

  • 承継届は様式第二の届出書に、事業の全部を譲り受けたことを示す様式第三の書面を添える(施行規則5条)。出さないと20万円以下の過料(60条1号)
  • 承継後に会社が付けるPSE表示には、記号とあわせて届出事業者である会社の名称を表示する(施行規則17条1項)。検査記録は検査の日から3年保存(施行規則11条3項)
  • 東京23区・40歳未満・経費1,800万円・物品販売業(第1種5%)の試算で、損益分岐は2年目以降1,266万円、初年度1,364万円

海外から電気製品を仕入れてネットで売る、あるいは自分で設計・製造する個人事業主は、電気用品安全法の事業届出をしているはずです。この届出は、事業の全部を会社へ譲り渡せば、会社が届出事業者の地位をそのまま引き継げます。

この記事では、承継の条件と書類、PSEマークに表示する名義の切替え、検査記録と適合性検査の証明書の扱い、販売を止めない手順を条文で確認します。最後に、輸入物販の個人事業主を想定した損益分岐を計算エンジンで出します。

届出が要るのは製造・輸入事業者で、販売だけなら要らない

電気用品安全法3条は、電気用品の製造または輸入の事業を行う者に、事業開始の日から30日以内の届出を求めています。届出事項は、氏名または名称・住所(法人は代表者の氏名)、電気用品の型式の区分などです。届出は事業を始めた後でよく、許可や登録のような事前審査はありません。届出をしないと30万円以下の罰金の対象です(58条1号)。

国内の卸やメーカーからPSEマーク付きの製品を仕入れて売るだけの事業者は、この届出の対象ではありません。ただし販売事業者にも制限があります。製造・輸入・販売の事業を行う者は、10条1項の表示(PSEマーク)が付されていない電気用品を販売し、または販売の目的で陳列してはなりません(27条1項)。違反は1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方です(57条3号)。

自分の届出が要るかどうかは、法人成りの前に一度確かめておく価値があります。輸入をしているのに届出をしていなかった場合、承継の前提になる「届出事業者の地位」がそもそもありません。

4条:事業の全部を譲り渡すと、届出事業者の地位が移る

4条1項は、届出事業者が届出に係る事業の全部を譲り渡したとき、事業の全部を譲り受けた者がその届出事業者の地位を承継すると定めています。個人事業主が自分で設立した会社へ輸入・製造の事業を丸ごと譲り渡す法人成りは、この「事業の全部の譲渡」に当たります。事前の認可は求められていません。

承継した会社は、遅滞なく、その事実を証する書面を添えて承継を届け出ます(4条2項)。施行規則5条によると、届出書は様式第二で、事業の全部を譲り受けて地位を承継した者は様式第三の書面を添えます。届出をしなかったり虚偽の届出をしたりすると、20万円以下の過料です(60条1号)。

届出先は原則として経済産業大臣ですが、施行令10条で経済産業局長に委任されている場合があります。輸入の事業に係る事務所・事業場・店舗・倉庫が1つの経済産業局の管轄区域内だけにある届出事業者は、その所在地を管轄する経済産業局長です(施行令10条2項)。製造なら工場・事業場の所在地で同じように決まります(同条1項)。

同じように「事業の全部の譲渡」で地位が移る仕組みは、電気工事業の登録やLPガス販売事業の登録にもあります。一方、化粧品製造販売業の許可や古物商許可には承継の規定がなく、会社が取り直します。業法ごとの違いは法人成りで許認可は引き継げるかにまとめています。

承継にならないケース:一部だけ移す

承継の要件は「届出に係る事業の全部」の譲渡です。たとえば複数の電気用品の区分で届け出ていて、一部の区分だけを会社に移し、残りを個人で続けると、移した部分は承継に当たりません。その場合、会社は新たに電気用品の製造・輸入の事業を始めた者として、事業開始の日から30日以内に3条の届出をします。

移し方根拠会社がすること個人側の手続き
事業の全部を譲渡(承継)4条1項・2項遅滞なく承継届(様式第二+様式第三)地位が会社へ移る
一部だけ移す・承継の手続きをとらない3条事業開始から30日以内に新規の届出事業をやめたら遅滞なく廃止届(6条、様式第七)

3条の届出は事後の届出なので、新規に出し直しても事業が止まるわけではありません。違いが出るのは、次に見る検査記録や適合性検査の証明書を、誰の義務として引き継ぐかです。

PSEマークに表示する名義は、承継後は会社になる

PSE表示の方式は施行規則17条1項で決まっています。

  • 特定電気用品(菱形のPSE):記号、届出事業者の氏名または名称、適合性検査の証明書の交付を受けた検査機関の氏名または名称
  • それ以外の電気用品(丸形のPSE):記号、届出事業者の氏名または名称

個人の届出事業者なら、表示する名義は個人の氏名です。承継後は会社が届出事業者になるので、**会社が製造・輸入して表示を付ける製品には、会社の名称を表示します。**届出事業者の名称の代わりに、経済産業大臣の承認を受けた略称か、届け出た登録商標を使うこともできます(17条2項)。個人で登録商標を届け出て表示に使っていた場合、商標権そのものの移転と、会社としての届出の要否もあわせて確認が必要です。

表示を付けられるのは届出事業者だけで、それ以外の者が表示や紛らわしい表示を付けると、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金です(10条3項、57条1号)。

個人の名義で表示した在庫

法人成りの時点で、個人の名義でPSE表示を付けた在庫が倉庫に残っているのが普通です。27条1項が販売の条件にしているのは「10条1項の表示が付されていること」で、法と施行規則には、承継の際に在庫の表示を付け直すことを求める規定は見当たりませんでした。在庫の扱いに迷う場合は、承継届を出す経済産業局で確認しておくと確実です。

検査記録と適合性検査の証明書も引き継ぐ

届出事業者は、製造・輸入した電気用品について検査を行い、検査記録を作成・保存します(8条2項)。記録には品名・型式の区分、検査の日・場所、実施者、数量、方法、結果を書き、検査の日から3年保存します(施行規則11条2項・3項)。電磁的な保存も認められています(同12条)。違反は30万円以下の罰金です(58条2号)。

特定電気用品なら、販売する時までに登録検査機関の適合性検査を受け、証明書の交付を受けて保存します(9条1項)。証明書には申請者の氏名または名称が記載されます(施行規則16条2号)。

承継で会社が届出事業者の地位を引き継ぐと、こうした記録・証明書の保存も会社の側で続けることになります。個人時代の記録を処分せず、会社の書類として引き渡しておくのが前提です。証明書の申請者名が個人のままになっている点について、検査機関で名義の手続きが要るかどうかは、法令の条文からは確認できませんでした。特定電気用品を扱う場合は、証明書を交付した検査機関に確認してください。

販売を止めない順番

輸入物販の法人成りで避けたいのは、ECサイトの販売を止める期間をつくることです。条文から組み立てると、順番は次のようになります。

  1. 会社を設立する(会社設立を自分でやる手順)
  2. 個人から会社へ、届出に係る事業の全部を譲り渡す契約を結ぶ。在庫・検査記録・証明書も対象に含める
  3. 会社が遅滞なく承継届を出す(4条2項)
  4. 会社名義での輸入・表示に切り替える。新しく輸入する製品から会社の名称でPSE表示を付ける
  5. ECサイトの販売者表示、仕入先・物流の契約名義を会社に替える

承継は譲渡の時点で効力が生じ、承継届は事後の届出です。個人の事業を先に廃止して会社の新規届出を待つ、という順番をとる必要はありません。

輸入の名義が会社に替わると、関税・輸入消費税の申告者も会社になります。輸入消費税の控除の要件は輸入消費税の控除と法人化で整理しています。

物品販売業の個人事業税と損益分岐

電気用品の輸入販売は個人事業税の物品販売業、自社で製造するなら製造業で、どちらも第1種事業(税率5%)です(地方税法72条の2第8項1号・5号)。事業主控除290万円を超えた所得に課税され、法人化するとかからなくなります。代わりに役員報酬に社会保険料がかかります。

仕入れ・送料・広告・プラットフォーム手数料などの経費を年1,800万円、社長を40歳未満と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。承継なら新規の許可手数料のような費用は生じないので、初年度に乗るのは会社の設立費用だけとしています。

事業所得(売上−経費)最適な役員報酬2年目以降初年度(設立費用込み)
600万円月42万円−37.6万円−47.6万円
800万円月54万円−24.1万円−34.1万円
1,000万円月54万円−14.7万円−24.7万円
1,200万円月54万円−6.6万円−16.6万円
1,500万円月54万円+23.9万円+13.9万円
2,000万円月90万円+67.3万円+57.3万円

※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 1800 --business type1 --age under40 --note '物品販売業(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費1,800万円、東京都・東京23区、単身・40歳未満、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は物品販売業(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算

損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,266万円、初年度が1,364万円です。事業所得1,200万円ではまだ年6.6万円の不利で、1,500万円で年23.9万円の有利に転じます。

輸入物販は売上に対して経費の比率が高く、年商が大きくても事業所得はそれほど大きくならないことがあります。年商ではなく、売上から経費を引いた事業所得で表を読んでください。この表はインボイス登録済みの前提で、消費税の免税は織り込んでいません。自分の売上と経費は判定ツールに入れて確かめられます。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 電気用品安全法の事業届出が要るのは製造・輸入事業者で、PSE表示付きの製品を仕入れて売るだけなら不要
  • 事業の全部を会社に譲り渡せば、会社が届出事業者の地位を承継する(4条1項)。事前の認可は要らず、遅滞なく承継届を出す
  • 一部の区分だけを移す場合は承継に当たらず、会社が事業開始から30日以内に新規の届出をする
  • 承継後に会社が付けるPSE表示は会社の名称で。検査記録(3年保存)と適合性検査の証明書も会社が保存を続ける
  • 東京23区・40歳未満・経費1,800万円の試算で、損益分岐は2年目以降1,266万円、初年度1,364万円

よくある質問

国内の卸から仕入れたPSEマーク付きの家電をネットで売るだけでも、事業届出は要りますか。

要りません。電気用品安全法3条の届出が必要なのは、電気用品の製造または輸入の事業を行う者です。ただし販売事業者も、PSE表示が付いていない電気用品を販売したり、販売の目的で陳列したりすることはできません(27条1項)。

承継の届出はいつまでに出せばよいですか。

電気用品安全法4条2項は「遅滞なく」と定めており、日数の期限は書かれていません。事業開始の届出(3条)が事業開始から30日以内と日数で決まっているのとは書き方が違います。届け出なかった場合は20万円以下の過料の対象です(60条1号)。

承継届はどこに出しますか。

原則は経済産業大臣ですが、輸入の事業に係る事務所・倉庫などが1つの経済産業局の管轄区域内だけにある届出事業者は、その所在地を管轄する経済産業局長に出します(施行令10条2項、施行規則3条1項・5条1項)。製造の場合は工場・事業場の所在地で同様に決まります(施行令10条1項)。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。