設立の手続き
サウナ・銭湯・ミニシアターの営業許可は法人成りで承継できる?譲渡と届出
結論
公衆浴場(サウナ・銭湯・岩盤浴など)と興行場(ミニシアター・ライブハウスなど)は、営業を会社へ譲渡すれば会社が営業者の地位を承継します(公衆浴場法2条の2・興行場法2条の2、2023年12月13日施行)。事前の承認は要らず、承継後に遅滞なく、譲渡を証する書面を添えて届け出ます。新規許可を取り直す必要はありません。ただし温泉を使う施設の温泉利用許可は、事業譲渡では承継されません。
- 法人成りでも、会社の登記事項証明書だけでは譲渡の証明にならない。譲渡人・譲受人・施設・譲渡日を書いた譲渡契約書や覚書を添える(厚生労働省の疑義通知)
- 譲渡で承継した営業には、承継の日から6か月以内に少なくとも1回、保健所等の調査が入る(改正法附則)
- 東京23区・40〜59歳・経費1,800万円の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円。初年度は承継なら1,341万円、愛知県の手数料2万3,000円で取り直すと1,364万円
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
個人で経営するサウナや銭湯、ミニシアターやライブハウスを会社に移すとき、以前は個人の廃業届と会社の新規許可が必要でした。2023年12月13日からは、営業を会社に譲渡すれば、会社が営業者の地位をそのまま承継します。
この記事は、公衆浴場または興行場の許可を個人で受けている事業者を想定しています。承継の条文の構造、届出に添える書類、法人成り特有の注意点、温泉を使う施設の扱いを確認し、最後に損益分岐を計算エンジンで出します。
サウナ・岩盤浴も「公衆浴場」、ライブハウスも「興行場」
公衆浴場法の「公衆浴場」は、温湯・潮湯・温泉などを使って公衆を入浴させる施設です(1条1項)。業として経営するには都道府県知事(保健所設置市・特別区では市長・区長)の許可が要ります(2条1項)。
大田区の案内では、いわゆる銭湯が「普通公衆浴場」、それ以外が「その他の公衆浴場」です。サウナ、健康ランド、スポーツ施設の浴場、岩盤浴、砂湯は後者に入ります。
興行場法の「興行場」は、映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸または観せ物を公衆に見せ、または聞かせる施設です(1条1項)。ミニシアター、小劇場、ライブハウスが典型で、こちらも知事等の許可制です(2条1項)。
どちらも、許可なく営業すると6か月以下の拘禁刑または2万円以下の罰金の対象です(公衆浴場法8条、興行場法8条)。法人成りで営業者が変わったのに手続きをしないと、会社が無許可で営業している状態になりかねません。
2条の2:営業を譲渡すれば、会社が地位を承継する
令和5年法律第52号(生活衛生関係営業等の事業活動の継続に資する環境の整備を図るための旅館業法等の一部を改正する法律)は、公衆浴場法と興行場法に2条の2を加えました。2023年12月13日に施行されています。
公衆浴場法2条の2第1項は、浴場業を営む者が浴場業を譲渡したときは、譲り受けた者が営業者の地位を承継すると定めています。興行場法2条の2第1項も同じ文言です。個人事業主が自分の会社に営業を譲渡する法人成りも、この「譲渡」に当たります。
承継した会社は、遅滞なく、その事実を証する書面を添えて知事等に届け出ます(各法2条の2第2項)。新規の許可申請、個人側の廃止届はどちらも要りません(厚生労働省のチラシ)。
旅館業とは型が違う
同じ改正で、旅館業法にも事業譲渡の規定が入りました。ただし旅館業は、譲渡の効力が生じる前に知事等の承認を受ける必要があります。旅館・民泊の営業許可の承継では、承認の前に譲渡を実行しない段取りが要になります。
公衆浴場と興行場は、承継のあとで届け出る型です。飲食店の営業許可、クリーニング所、理容所・美容所も同じ届出型に入ります。
施行日前の譲渡には使えない
改正法の附則は、施行日より前に浴場業・興行場営業の譲渡があった場合、2条の2を適用しないとしています(公衆浴場法関係は附則7条1項、興行場法関係は附則6条1項)。2023年12月12日以前に会社へ営業を移していたなら、この承継の仕組みは使えません。
届出に添える書類と、法人成りの落とし穴
大田区の案内では、譲渡による承継届に添えるのは次の書類です。
- 浴場業の譲渡が行われたことを証する書類
- 届出者が法人なら、定款または寄附行為の写しと登記事項証明書
鹿児島県も、譲渡契約書等の写しなどを添えるよう案内しています。
登記事項証明書だけでは譲渡の証明にならない
法人成りで間違えやすいのがここです。厚生労働省は、自治体からの疑義に次の趣旨で答えています(2023年11月29日の通知、問9)。
法人の登記事項証明書に元の個人事業主が代表取締役として載っていても、許可を受けた営業を法人が譲り受けたかどうかは明らかにならない。このため、登記事項証明書だけでは足りず、営業の譲渡を証する書類が別に必要である。
譲渡を証する書類の例として、通知(問8)は両者による覚書などを挙げ、次の記載を求めています。
| 記載事項 | 法人成りでの書き方の例 |
|---|---|
| 譲渡人の氏名・住所 | 個人事業主本人 |
| 譲受人の名称・代表者名・所在地 | 設立した会社(代表者は本人) |
| 営業施設の名称・所在地 | 許可を受けた浴場・興行場 |
| 許可に係る事業を譲渡した旨 | 浴場業(興行場営業)を譲渡した |
| 譲渡の事実があった日 | 会社が営業を始める日 |
自分と自分の会社の間の契約でも、書面に残しておく必要があります。設備や備品を会社に売る対価の決め方は、法人成りの営業権と同じ論点です。
承継できないケース
鹿児島県は、事業の一部だけを譲渡する場合や、施設に同一性が認められないほどの大幅な変更がある場合は、新規の申請が必要になることがあるとしています。厚生労働省のチラシも同じ扱いです。
たとえば2つの浴場を1つの許可で営んでいて、片方だけを会社に移す場合です。法人成りに合わせて浴室を大きく改装する予定なら、承継と改装の順番を保健所と先に相談します。
銭湯のような普通公衆浴場では、もう1つ見ておく点があります。公衆浴場法は、設置の場所が配置の適正を欠くときは許可を与えないことができるとし(2条2項)、配置の基準を条例に委ねています(2条3項)。承継なら新規許可の審査を受け直さないので、この配置の審査をもう一度受ける場面が生じません。
承継後6か月以内に保健所の調査が入る
改正法の附則は、知事等が当分の間、譲渡で地位を承継した者の業務の状況を、承継の日から6か月を経過するまでに少なくとも1回調査すると定めています。
厚生労働省は、この6か月の起算日は届出日ではなく譲渡した日だとしています(疑義通知・問2)。法人成りは緊急性がないので調査を省けないか、という自治体の問いには、営業者が変わることに変わりはなく、速やかな調査が必要だと答えています(同・問4)。
厚生労働省のチラシは、個人が許可を受けたとき(変更届を出したときを含む)に提出した図面などの控えを、譲受人である会社が適切に管理するよう求めています。衛生管理の一義的な責任は、承継した会社が負います。調査の前に、図面の控えが手元にあるかを確かめておきます。
許可の条件も引き継がれる
承継の前後で、許可の内容は原則として変わりません。知事等が許可に付けた条件(公衆浴場法2条4項)も、原則として承継されます(厚生労働省のチラシ)。大田区は、届け出た事項に変更があれば10日以内に変更届を出すよう案内しています。
建物や消防の手続きは別です。疑義通知(旅館業法・公衆浴場法関係の問1)は、構造設備に変更がなければ検査済証や消防法令適合通知書の提出を省略できるとしています。一方、建築基準法・消防法上の確認の要否は、建築・消防の担当部署に照会するよう求めています。
温泉を使う施設は、温泉利用許可だけ取り直しになる
温泉を浴用に供している施設は、公衆浴場の許可とは別に、温泉法15条1項の温泉利用許可を受けています。
温泉法が利用許可の承継を認めているのは、法人の合併・分割(16条、知事の承認が必要)と相続(17条)だけです。事業の譲渡で地位が移る規定はありません。個人から会社への法人成りでは、公衆浴場の許可は届出で承継できても、温泉利用許可は会社が新たに受け直すことになります。温泉を使う施設は、両方の手続きの日程を合わせる必要があります。温泉利用許可の取り直しの手続きと費用は、温泉利用許可の法人成りで整理しています。
浴場業・興行業の個人事業税と損益分岐
個人事業税の区分は、浴場の種類で条文が分かれます。
| 業態 | 区分 | 標準税率 |
|---|---|---|
| 銭湯(知事が入浴料金を定める公衆浴場) | 第3種・公衆浴場業(地方税法72条の2第10項20号) | 5% |
| サウナ・岩盤浴・健康ランドなど | 第1種・公衆浴場業(同条8項27号、施行令13条の2) | 5% |
| ミニシアター・劇場など | 第1種・演劇興行業(同条8項28号) | 5% |
どの業態でも税率は5%です(72条の49の17)。事業主控除290万円を超えた所得にかかり、法人化するとかからなくなります。代わりに役員報酬に社会保険料がかかります。個人事業税の業種の線引きもあわせて確認してください。
燃料費・水道光熱費・家賃・人件費などの経費を年1,800万円、社長を40〜64歳と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −34.0万円 | −44.0万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −18.9万円 | −28.9万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −10.0万円 | −20.0万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −4.3万円 | −14.3万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +26.1万円 | +16.1万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +65.8万円 | +55.8万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 1800 --business type1 --age 40to64 --note '公衆浴場業(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費1,800万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は公衆浴場業(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,243万円です。初年度は、承継なら1,341万円です。愛知県の公衆浴場業許可申請手数料2万3,000円を払って新規許可を取り直した場合は、1,364万円になります(同じスクリプトに --fee 23000 を付けて算出)。
手数料の差は初年度だけで、損益分岐を23万円動かすにとどまります。承継の実益は手数料よりも、営業を止めずに済むことと、配置基準などの新規審査を受け直さずに済むことにあります。銭湯や興行場でも税率は同じ5%なので、表はそのまま読めます。
自分の売上と経費を判定ツールに入れると、この表と同じ条件で確かめられます。計算の前提は計算方法に、登記の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。ほかの業種の許認可がどう移るかは、法人成りの許認可の引き継ぎで一覧できます。
まとめ
- 公衆浴場(サウナ・銭湯・岩盤浴)と興行場(ミニシアター・ライブハウス)は、2023年12月13日以降、営業を会社に譲渡すれば会社が地位を承継する(各法2条の2)
- 事前の承認は要らず、承継後に遅滞なく届け出る。法人成りでも登記事項証明書だけでは足りず、譲渡契約書や覚書を添える
- 事業の一部の譲渡や、同一性を失うほどの改装は承継の対象外になり得る。承継後6か月以内に保健所の調査が入る
- 温泉利用許可は事業譲渡では承継されず、会社が受け直す
- 東京23区・40〜59歳・経費1,800万円の試算で、損益分岐は2年目以降1,243万円、初年度は承継なら1,341万円
よくある質問
2023年12月より前に個人から会社へ営業を移していた場合も、承継の届出で済みますか。
済みません。改正法の附則は、施行日(2023年12月13日)より前に浴場業・興行場営業の譲渡があった場合には、承継の規定を適用しないとしています。その時点で会社が営業していたなら、会社名義の許可を受けているかを保健所に確認してください。
サウナの中で飲食物を出している場合、飲食店営業の許可も移りますか。
飲食店営業の許可は食品衛生法の許可で、公衆浴場の許可とは別です。食品衛生法にも同じ時期に事業譲渡による承継の仕組みが入っており、こちらも別に承継の手続きをします。
承継の届出に手数料はかかりますか。
手数料を取るかどうかは自治体の条例で決まります。厚生労働省は、事業譲渡に伴う申請の手数料について、各自治体が判断して対処するよう通知しています。管轄の保健所で確認してください。
出典
- e-Gov法令検索 公衆浴場法 第1条(定義)・第2条(営業の許可・配置の基準)・第2条の2(営業者の地位の承継)・第8条(罰則)、令和5年法律第52号附則第7条(経過措置・承継後の調査)
- e-Gov法令検索 興行場法 第1条(定義)・第2条(営業の許可)・第2条の2(営業者の地位の承継)・第8条(罰則)、令和5年法律第52号附則第6条(経過措置・承継後の調査)
- 厚生労働省 生活衛生関係営業等の事業活動の継続に資する環境の整備を図るための旅館業法等の一部改正について
- 厚生労働省 旅館業法改正の経緯について(令和5年12月13日施行)
- 厚生労働省 事業譲渡に関する手続が整備されます(生活衛生関係営業等の営業者向けチラシ)
- 厚生労働省 旅館業法等における事業譲渡に係る規定の運用上の疑義について(令和5年11月29日 健生衛発1129第3号)
- 大田区 公衆浴場の手続き(その他の公衆浴場の範囲・変更届・承継届)
- 鹿児島県 公衆浴場の事業譲渡による地位の承継
- 愛知県 公衆浴場営業の許可(公衆浴場業許可申請手数料)
- e-Gov法令検索 温泉法 第15条(温泉の利用の許可)・第16条(法人の合併及び分割)・第17条(相続)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2第8項・第10項(第一種事業・第三種事業)・第72条の49の17(個人事業税の税率)
- e-Gov法令検索 地方税法施行令 第13条の2(第三種事業から除く公衆浴場業)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。