設立の手続き

バーチャルオフィスで法人登記はできる?使えない業種と口座・社保の注意点

結論

登記はできます。ただし建設業の営業所、労働者派遣の事業所(おおむね20㎡以上)、宅建業の事務所など、許認可で実体を求められる業種では住所だけでは足りません。住所を借りるだけなら月660円で年7,920円、手取りの減少は約0.5万円です。事務所を月10万円で新たに借りると、事業所得1,500万円の法人化の差額は年23.9万円の有利から49.9万円の不利へ逆転します。

  • 登記の住所を変えても、協会けんぽの料率は実際に人が働く適用事業所の所在地で決まる。登記だけ料率の安い県に置いても下がるとは限らない
  • 合同会社の代表社員の住所は登記される。本店をバーチャルオフィスにしても、社長の自宅住所が登記簿から消えるわけではない
  • みずほ銀行は、バーチャルオフィスの利用を理由に口座開設を断られることは一般的にないとしつつ、事業実態を確認すると説明している

個人事業主が法人化するとき、本店の住所は最初に決めることの1つです。自宅を登記に使いたくない、事務所を借りるほどではない。そこで候補に挙がるのがバーチャルオフィスです。

登記そのものは問題になりません。問題になるのは登記の後に住所を見られる場面です。許認可、銀行、年金事務所、自治体は、それぞれ別の目で住所の実体を確認します。

登記はできる。確認するのは同じ商号だけ

本店の所在地に、物理的なオフィスの有無を求める定めはありません。法人登記にかかるのは、合同会社なら登録免許税の下限6万円です(手順は会社設立を自分でやる手順)。

住所について法律で制限があるのは、同じ所在場所に同じ商号で登記できないという点です(商業登記法27条)。入居者が多い住所では、希望する商号が既に登記されていないかを確認します。

もう1つ、運営会社の側にも義務があります。顧客に住所を貸して郵便物を受け取り引き渡す事業者は、犯罪収益移転防止法の特定事業者です(2条2項44号)。契約のときに本人確認の書類を求められるのはこのためです。確認が緩い事業者は、後述する銀行の審査で不利に働く可能性があります。

住所だけでは足りない業種がある

許認可が必要な業種では、登記の住所とは別に、営業の実体がある場所を求められることがあります。

業種確認される内容バーチャルオフィスの住所だけの場合
建設業営業所は請負契約の見積り・入札・契約締結などを実際に行う事務所。単に登記上の本店であるだけでは足りない足りない
労働者派遣事業事業に使える面積がおおむね20㎡以上で、位置・設備が適切であること足りない
宅地建物取引業継続的に使用でき、社会通念上事務所として認識される程度の形態を備えた施設満たさないと考えられる
古物商営業所の実態(賃貸借・管理規約・保管・管理者の勤務など)窓口に確認

出典:国土交通省中国地方整備局の手引き、福井労働局の資料、国土交通省の解釈・運用の考え方。古物商は法人成りと古物商の許可を参照

個人事業のときに自宅で許可を取っていた場合は、法人で許可を取り直す際に改めて確認されます。許認可のある業種は、住所の契約より先に窓口へ相談してください。 契約してから使えないと分かると、本店移転の登記で管轄内3万円、管轄外6万円が追加でかかります(本店移転の費用)。

社長の自宅住所は、それでも登記簿に載る

バーチャルオフィスを選ぶ理由の1つが、自宅住所を公開したくないことです。ただし本店をどこにしても、代表者の住所は別に登記されます。

  • 合同会社:代表社員の住所は登記され、誰でも見られます。令和6年10月に始まった代表取締役等住所非表示措置は使えません
  • 株式会社:要件を満たせば、代表取締役の住所の一部を非表示にできます。市区町村までは表示されます

この違いは社長の住所を登記簿で隠す制度で扱っています。住所を隠す目的なら、本店だけでなく会社の形も一緒に考える必要があります。 合同会社と株式会社で設立費用がどれだけ違うかは合同会社と株式会社の費用の比較で確認できます。

ネット販売なら、特定商取引法の表示の問題もあります(特商法の表示と自宅住所)。

法人口座:断られる理由は住所より事業実態

みずほ銀行は自社サイトで、バーチャルオフィスの利用を理由に口座開設を断られることは一般的にないとしたうえで、次の点を確認すると説明しています。

  • 事業内容と、その事業がバーチャルオフィスで実現できるか(店舗や事務所が不要なIT・Web関連やコンサルティングは例示されている)
  • 取引目的・事業内容・実質的支配者(犯罪収益移転防止法の確認事項)
  • 契約書・発注書・Webサイトなど、事業の実態を示す資料
  • 過去に問題が起きた住所でないか、連絡がつく体制か、郵便物が確実に届くか

審査基準は銀行ごとに異なります。法人成りの場合は、個人事業時代の請求書や確定申告書が事業実態の資料になります。ゼロからの起業より説明しやすい立場です。審査全般は法人口座が作れない理由にまとめています。

協会けんぽの料率は、登記の住所では決まらない

一人社長の健康保険料率は都道府県で違います。そこで「登記を料率の安い県に置けばよいのでは」と考えたくなりますが、料率を決めるのは実際に人が働く適用事業所の所在地です。

日本年金機構は、登記上の所在地と実際の所在地が違う場合に賃貸借契約書の写しなどの添付を求めています。自宅で働きながらバーチャルオフィスの住所だけを別の県に置いても、料率が下がるとは限りません。

差額そのものも大きくありません。役員報酬月54万円で東京都から新潟県へ本当に移った場合でも、労使合計で年4万704円です(本店を料率の安い県へ移す試算)。

均等割は、実際に事業をしている場所で考える

法人住民税の均等割は、事務所や事業所のある自治体に納めます。地方税の「事務所又は事業所」は、人的・物的設備があり、継続して事業が行われる場所かを実態で見ます。

このため次の形は注意が必要です。

形考え方
住所も仕事場も同じ自治体均等割は1か所
登記はA市のバーチャルオフィス、仕事は自宅のあるB市実態によってはB市が事務所等に当たる。申告先を整理する必要がある
A市のオフィスに常駐し、B市の自宅でも継続的に業務2か所分の均等割になることがある

詳しくは法人の事務所が2自治体にあるときを参照してください。

固定費は、法人化の判定を動かす

最後に金額です。個人事業のときは自宅で仕事をしていて、法人化を機に事務所費が増える場合の差額を出します。

事業所得月660円(年7,920円)月3万円(年36万円)月10万円(年120万円)
1,000万円−15.2万円−37.3万円−90.2万円
1,500万円+23.3万円+1.7万円−49.9万円
2,000万円+66.8万円+45.2万円−6.4万円

※ 個人のまま(事務所費なし)と比べた法人の実質差額。事務所費は法人の経費とし、最適報酬で計算。事業所得は事務所費の前。税理士報酬の差20万円を含む。東京23区・40歳未満・単身・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。スクリプト:scripts/houjinka-bw-tables.mjs office

事務所費は経費になりますが、それでも手取りは事務所費の約6割分減ります。月10万円なら事業所得1,500万円で手取りが年73.7万円減ります。

一方で住所だけなら、年7,920円で手取りの減少は約0.5万円です。分岐点の議論にはほとんど影響しません。実体の要らない業種で事務所を借りると、法人化の判定そのものが逆転します。 反対に、許認可や来客で実体が必要な業種なら、その費用を最初から判定に入れてください。判定ツールでは経費の欄に事務所費を加えると確かめられます。

選び方

状況候補
来客・在庫なし、許認可なし、賃貸で事業利用が不可または自宅を出したくないバーチャルオフィス
来客や打ち合わせが時々ある会議室を使えるレンタルオフィス
許認可で営業所の実体が要る実際に業務を行う事務所(自宅兼用の可否は窓口で確認)
持ち家で規約の制限がなく、住所の公開を気にしない自宅。月額0円で、家賃の扱いは自宅を法人へ貸す家賃を参照

まとめ

  • 法人登記は可能。法律上の制限は同じ所在場所での同じ商号だけ
  • 建設業、労働者派遣、宅建業は住所だけでは足りない。許認可のある業種は契約前に窓口へ
  • 合同会社の代表社員の住所は登記される。本店を変えても自宅住所は消えない
  • 銀行は住所より事業実態を見る。法人成りなら個人時代の請求書などが資料になる
  • 協会けんぽの料率と均等割は、登記ではなく実態で考える
  • 月660円なら手取りの減少は約0.5万円。月10万円なら所得1,500万円の差額は+23.9万円から−49.9万円に逆転する

よくある質問

賃貸の自宅を本店にして登記できますか?

登記の申請そのものは可能ですが、賃貸借契約で事業利用が禁じられていることがあります。分譲マンションでも管理規約で制限されることがあるため、契約と規約を先に確認してください。登記した住所は誰でも登記事項証明書で見られます。

他の会社と同じ住所でも登記できますか?

できます。商業登記法27条が禁じているのは、同じ所在場所に同じ商号で登記することです。入居者が多いバーチャルオフィスでは、商号が重ならないか登記の前に確認します。

事業を始めてからバーチャルオフィスへ移すことはできますか?

できます。本店移転の登記が必要で、登録免許税は管轄内の移転で3万円、管轄外の移転で6万円です。社会保険や税務署への届出も伴います。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。